空飛ぶ自動車

スカイカーM400

今回は本当に空を飛ぶ車のお話。「みつやくんのマークX」「空とぶ自動車スキマー作戦」「チキチキバンバン」に登場する空飛ぶクルマは子供たちが空想するあったらいいな車の定番。絵本だけでない映画にもたびたび登場してきた。前出の『チキチキバンバン』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン、『ハリーポッター』のフライングカーなどのファンタジー映画や、『ブレードランナー』『フィフス・エレメント』などSF映画の未来社会に必ず登場する飛行する車は空想上の乗り物だと思っていた。しかし、世界中にいるはいるは、本当に空飛ぶ自動車を作ってしまった人、あるいは作ろうと思っている人たちが。

Taylor Aerocar-N4994P

Taylor Aerocar-N4994P[2]

まずは本当に作ってしまった人たち編。古くは1940年代に遡る。1974年製作の『007黄金銃を持つ男』で、敵の車がガレージに入ると巨大な翼を短い時間でドッキングさせて高飛びするというシーンがある[1]。実はこれ「エアロカー」という商品名で実際に存在したもので、自動車モードでは主翼とテイルブームを分解して牽引し、5~10分で飛行機形態へと転換できる。2人乗りで、時速200kmくらいのスピードで飛ぶことが出来たそうな。設計者は元米国海軍パイロットのMoulton Taylor氏。1949年に1号機を試作している。残念ながら、全然売れず、1970年にアメリカの道路交通法が改正されたとき、車としての安全性能を満たさないという理由で公道を走れなくなってしまった[2][3]。



これは結構有名であるが米国の航空機会社モラー・インターナショナル社が開発した「スカイカーM400」。イギリスの垂直離着陸ジェット戦闘機「ハリアー」と同様、垂直に離着陸するVTOL(Vertical Take Off and Landing)方式を採用。ただしジェット推進ではなくプロペラによる推進飛行。4人乗りでロータリー・エンジン(おお!“マークX”と同じではないか)8基を備え、1回の給油で1500キロほどの距離を時速560キロあまりのスピードで飛行できるそうだ(実際のデモでは2、3m程度空中に浮かんだだけ)[4][9]。この車、高級百貨店「ニーマン・マーカス」で、350万ドルの価格でオンライン販売された。その後売れ残った車がオークションサイトeBayで競売にかけられ300万ドルで落札されて話題になった。ただし、今現在発売はされていない。販売されても許認可が下りて飛ばせる保証もない[5]。

M200Xとモラー博士

M200Xとモラー博士[6]

モラー社は、カリフォルニア大デイビス校航空学・機械工学部教授のポール・モラー博士が自身の発明で得た巨万の富で起こした会社だ。'70年にXM-4を誕生させる。エンジン出力を高めた'80年代モデルM200Xは'89年実験成功。そして最新実用車(?)M400の誕生である。ちなみにM200Xは円盤型で“スキマー”にそっくり![6]。[6]のインタビュー記事を読むと、ほんと根っからの夢追い人なんだよなあ。

MVと三橋会長
MVと三橋会長

我が日本にも本当に作ってしまった人たちがいる。その名も「ミラクルビークル(MV)」。開発したのは岐阜県のエンジニアリング系企業の集まりである岐阜県工業会。モラー氏のようなマッドサイエンティスト系ではなく、団体名からして地味で堅実な人たちである。同会は、このMVの可能性と実現の見通しを研究することを目的として、平成9年10月に「MV調査開発特別研究会」を発足、機体の設計から評価、試作・実験などを行ってきた。岐阜県は戦前から続く航空機産業の一大集積地であり、技術的な下地は十分にある地域。MVのスペックは1人乗り、全幅6m、全長は4.45mで、離陸重量は450kg。もちろんそのままでは大きすぎて一般道路を走ることはできないが、地上走行時は翼を付け根付近で上側に折り曲げ、車幅を2mとすることで一般道路の走行に対応する。駆動系統はエンジンではなく直流モーターを採用し、電源は燃料電池とリチウムイオンバッテリのハイブリッド構成、連続して2~3時間の飛行が可能とのこと。速度は、巡航時が時速200km、また、地上での走行時は時速50kmとなる[7][8]。

この研究プロジェクトでは1/3スケールモデルの実証機を試作、2002年4月に公開飛行を行うも失敗、8月に再トライで飛行に成功した[9]。その後はどうなったのか。このプロジェクトの現状と今後の計画について同会に問い合わせたところ、ご丁寧な回答をいただいた(同会会長の三橋さん、どうもありがとうございました)。プロジェクト自身は平成14年の公開実験をもって終了している。平成15年から17年はMVの成果を活用して防災観測機(消防庁の技術研究費)及び奴凧型飛行ロボットの開発(NEDO/愛知万博ロボット開発プロジェクト研究費)を行い、成果を得て実用化の段階にあるそうだ(いずれも電気駆動自律飛行無人機)。MV関連では、動力源の電池性能向上が必須であり、今後はNEDOのリチウム電池および燃料電池の開発成果(2010年以降)を見て次の試作に進むことになるらしい。人を乗せられる実機の開発となればかなりのお金が必要だし、まだまだ高い技術的ハードルがありそうだ。

上記はいずれも自動車というよりパーソナル飛行機という形状であるが、その開発にかける熱き想いはみな共通だ。さて、これらは本当に人を乗せて離陸する日がくるのだろうか?

Gridlock Commuterその2
Gridlock Commuter

次は開発構想編。これは調べてみるといろいろある。順不同で上げていくと、
(1)NASAの「グリッドロック・コミューター」(Gridlock Commuter):1-2人乗り。胴体につけられたプロペラで、高さ76mまでの浮揚力と空中での推進力を発生させる。また、地上では翼が折れ曲がり、電気モーターにより時速40kmで走ることができる[10][11]。

Transition Personal Air Vehicle
Transition Personal Air Vehicle

(2)MIT(マサチューセッツ工科大学)の「Transition Personal Air Vehicle」。折りたたみ可能な翼のついたSUVを100~500マイル(約160~800キロメートル)の飛行が可能となるように設計されている。「エアロカー」の現代版ともいえる。このSUVは、乗員2人と荷物、それにプレミアム無鉛ガソリンを入れたタンク1つを運ぶことができる[1][2]。

Flying Car
Flying Car

(3)ボーイング社の「Flying Car」。航空機会社大手のボーイング社も「空飛ぶ乗用車」の開発に興味を持っているようだ。模型写真を見ると、二重反転式のヘリコプターだ。これは“マークX”のコンセプトそのものではないか! [13][14]。

JAXAフライングカー
JAXAフライングカー

(4)日本の独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)による「フライングカー」。これが一番クルマって形をしてる。「ブレードランナー」や「フィフス・エレメント」に出てくる空飛ぶ車に一番近いイメージ。乗員は2名で他に1名分の積載を可能としており、全体重量は2,000kg以下。推力は、車体の前部に搭載した8台のファンと後部に搭載した16台のファンで発生するVTOL機の一種である[15]。

さて、空飛ぶ車が実用化される可能性はあり得るのか?私はかなりの夢物語と考える。ロボット・カーの中でも紹介したが、2次元の路上を走る車たちをぶつからないように制御することは非常に難しい。ましてや空中は3次元の世界である。速度も格段に速い。当然パーソナルな自動車であるので、非常にたくさんの車がいたるところを飛ぶことになる。飛行機の航空管制のように、基地局が無数の機体をコントロールするのは非現実的で、自分で周囲環境と協調しながら飛行コースを制御することになる。自動車の高速道路に相当するような都市間の巡航には、渡り鳥のように群飛行を行うという解はあるかもしれない。群飛行については、レイノルズのボイドモデル(※)を応用すれば実現可能になるかも。しかし、これとて相当にハードルは高い。頻繁に離陸したり着陸したりする都市近郊ではどう制御すればよいのだろう。信号機は使えないし。

ランドスピーダー
ランドスピーダー(映画「スターウォーズ」より)

そう考えると、「スターウォーズ」でルークが故郷の星タトウィーンで愛用していたランドスピーダー(もっと古い人にはスーパージェッターの流星号)のように数十センチ程度の空中を浮遊するエアカーのような姿が現実的な気がする。例えば[16]のような磁気浮上自動車の方が近未来的には実現可能性があるのかもしれない。エアカーについては[17]のような面白いサイトもあるので覗いてみてはいかがだろう。

それにしても、”マークX”といい”スキマー”といい、酷似した現実の技術が後追いしている。つくづく児童文学者らのイマジネーションのすごさを感じた。

(※)鳥の群は、驚くほど統制の取れた振る舞いをするが、しかし一羽一羽の行動はあくまで分散的で、近くの鳥の行動にしか反応していない。個々の鳥たちの行動に、近くの鳥の行動に反応する簡単な規則を与えてやれば、鳥の群全体が自然なふるまいを引き起こすのではないか。コンピュータ・グラフィックスの研究者、クレイグ・レイノルズは考えた結果、次の3つの規則を作ってみた。
  1.近くの鳥たちが、数多くいる方へ向かって飛ぼうとする。
  2.近くの鳥たちと、飛ぶ速さと方向を合わせようとする。
  3.近くの鳥や物体に近づきすぎたら、ぶつからないように離れる。
この3つの規則に従うコンピュータ上のシミュレーション・モデルを「ボイド(Boid)」(鳥もどき)と名付けた。このボイドは予想以上の”自然”な動きを見せ、障害物もうまく回避した[18]。このような理論を応用した群行動生成アルゴリズムを使い無人航空機編隊の自律飛行に、米アテア(Atair)・エアロスペース社は成功している[19]。


[参考・引用]
[1]映画鑑賞記、007シリーズ、
http://www.bekkoame.ne.jp/~k-kara/ht/movie/007s.htm
[2]Taylor Aerocar-N4994P、AirventureMuseum、
http://www.airventuremuseum.org/collection/aircraft/Taylor%20Aerocar.asp
[3]航空機_民間アイコン、
http://www.warbirds.jp/kiyochan/airpreza17.html
[4]空飛ぶ車が処女飛行、WIRED VISION、1999年6月 7日、
http://wiredvision.jp/archives/199906/1999060704.html
[5]米モラー社、空飛ぶ車の予約販売を開始、WIRED VISION、2005年10月4日、
http://wiredvision.jp/archives/200510/2005100401.html
[6]空飛ぶ車スカイカーを作ったモラー博士に会う:Nieman-Marcus selling Skycar、Long Tail World、
http://longtailworld.blogspot.com/2005/12/nieman-marcus-selling-skycar.html
[7]【レポート】空飛ぶ自動車「ミラクルビークル」(1) 空も飛べて道路も走れる工夫の数々、マイコミジャーナル、2003年5月30日、
http://journal.mycom.co.jp/news/2003/05/30/23.html
[8]近い将来、空飛ぶ自動車は実現可能か?、東京工科大学橋本研究室、
http://www.teu.ac.jp/kougi/hasimoto/HowToLearn/BS2003/TNG3/TNG3-Hatano.htm
[9]空飛ぶ自動車ミラクルビークル 飛行実証機公開飛行、県政ニュース、岐阜県インターネット放送局、
http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/gib/3_news/0204/3460.htm
[10]NASAが空飛ぶクルマを開発中…かなり本気、Response、2004年11月11日、
http://response.jp/issue/2004/1111/article65489_1.html
[11]飛ばない車はただの車だ2、CAR THESIS anyone knows未来・現在の自動車と、それらをとりまく環境・社会、
http://carthesis.blog3.fc2.com/blog-entry-11.html
[12]MITの学生が「空飛ぶ自動車」開発に挑戦へ、CNET Japan、2006年2月17日、
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20096707,00.htm
[13]Boeing technical experts check the feasibility of Personal Air Vehicles、Boeing Flontiers、
http://www.boeing.com/news/frontiers/archive/2004/july/ts_sf14.html
[14]BOEING FLYING CAR MODEL、Roadable Times、
http://www.roadabletimes.com/roadables-integ_boeingmodl.html
[15]クラスターファンVTOL技術による「空飛ぶクルマ」の概念研究、未来型航空機技術の研究、JAXAホームページ、
http://www.apg.jaxa.jp/res/uiat/b01_05.html
[16]磁気浮上自動車、株式会社 エクォス・リサーチホームページ、
http://www.equos.co.jp/info/contents/gaiyou5_1.html
[17]エアカー伝説、
http://www.geocities.jp/donboolacoo/aircar/Aircar1.html
[19]人工生命1、
http://www.geocities.jp/heartland_ayame_4533/complex/fish.html
[18]無人航空機:群れ行動アルゴリズムによる編隊飛行に成功、WIRED VISION、2005年4月1日、
http://wiredvision.jp/archives/200504/2005040101.html
スポンサーサイト
[ 2007/11/30 21:45 ] cars/車のお勉強 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://ehonkuruma.blog59.fc2.com/tb.php/94-b5e7dd8e