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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

日本のロボット・カーたち  

ASV3実験車(Honda)

ロボット・カーを考える際のキーワードにITS(Intelligent Transport System)という言葉がある。「高度道路交通システム」と訳されるが、情報通信技術を利用してより安全で快適な自動車環境を実現するシステムという考えだ。これに関わる研究開発は世界各国で実施されているが、その中でも具体的な車やインフラを作って、本当に実現可能なのか、役立つのかを実証する実験を行っている代表的な国内の2つのプロジェクトASVとAHSを紹介する。ちょっと長くなるがご勘弁を。

ASVは“Advanced Safety Vehicle”の略で先進安全自動車と訳す。自動車にとって、「安全」は最も重要な性能の一つである。前回、運転行動というのは認知・判断・操作の作業であると述べた。誤解を恐れずに言えば、普段のドライバーは運転行為を多少いい加減さをもって実行している。人間は完璧ではないので、見落としもあれば、判断ミスもある(頻繁にあっては困るのだが)。運転中ヒヤリ・はっとする状況はその典型で、その不確実な状況下でもうまく修正・回避し、また学習できるのが人間のすごいところでもある。うまく対処できなかった結果が事故ということになる。

この人間の不確実性を先進技術で補って、より安全に快適に運転でき、事故を減らすための自動車を実現しようという試みがこのASVプロジェクトである。1991年度以来15年以上、メーカ、ユーザ団体、学識経験者、行政(国土交通省、警察庁、経済産業省、総務省)からなる「ASV推進検討会」を設け、産・学・官が協力してASV計画を推進している。

ASV-3実験風景(日産)
ASV-3実験風景(日産)

これまで、3期までの計画が実施され、自車が周囲環境を認識する、あるいは道路インフラとの連携による自動車単独での走行技術が開発されてきた。現在は第4期目で、さらに他車との連携によって安全な走行を実現するといったフェーズになっている。(冒頭写真はホンダの2輪と4輪第3期ASV実験車)

このプロジェクトで開発された搭載技術は、いくつか市販化もされている。オートクルーズコントロール、レーンキーピング、プリクラッシュセーフティ、ナイトビジョン、バックモニター、パーキングアシスト、ステアリング制御などなど[1][2][3]ちょっと車に詳しい人だったら聞いたことのある技術名称の数々(素朴な疑問だが、安全自動車なのに何ゆえ飲酒運転防止装置が開発アイテムに入っていないのだろう?)。このようなITS、すなわちロボットカー技術の市場導入は、日本が世界でも最も進んでいるといわれている。その中で2つほど事例を紹介しよう。

ACC

ACC(Adaptive Cruise Control)、訳して車間維持システム。センサーで前方車両をセンシングして追尾、車間を一定に維持するシステムだ。この技術の歴史は古いが、ブレーキ操作まで自動に制御する最新型がASV計画で盛り込まれたもの。システムのイメージは、先行車がいない場合には一定速度、例えば時速100km巡航で制御、先行車を検知したら減速して、車間を一定に保つ。先行車がいなくなれば、加速制御を行う。最新のもの、例えば2004年のトヨタクラウンマジェスタに搭載された「レーダークルーズコントロール」は時速30km以下でも使用できる。先行車が停止すると自動的に停止することもできる。渋滞時を考えればわかるが、低速ではどうしても車間距離が短いので、アクセル・ブレーキを頻繁に使うことになる。フロントに搭載されたセンサー(前記システムはレーザーレーダー搭載)の近距離検出の精度向上や、スムーズな加減速制御技術によってこれらは実現された。日本のように渋滞が頻繁な状況では非常にありがたいシステムだ[4][5]。

LKA

走行車線を長時間維持し続けるのは結構疲れるものだ。LKA(Lane Keep Assist)、訳して車線維持支援システムは、車線(レーン)上の車の位置を監視し、車線内の安定走行を支援するシステムだ。2001年に日産が「レーンキープサポート」で初めて実用化し、現在はホンダ、トヨタも追従している。シーマのシステムはルームミラー上部に設けたCCDカメラにより車線を検出し、車速、ステアリング舵角から車線のほぼ中央を走行させるために必要な力を算出し、その一部を補助的にステアリングに加える。本システム作動中、車両が車線から逸脱するおそれがあると判断すると、警告音とともにインジケーターを点滅し、運転者に知らせる[6]。居眠り時に車線逸脱する際にも有効だ。

いずれのシステムも最終的にはドライバーに操作権が委ねられているが、特定の条件下では車が勝手に制御をしている。LKAなどはその気になれば手放し運転だってできる。特許庁の定義「移動機能を持ち、自ら外部情報を取得し、自己の行動を決定する機能を有する機械」[7]に従えば、これらの車は「ロボット」だ。私はどちらの試乗経験もないので、ご利益はなんともいえないが、半自動化運転は既に現実のものとなり、我々と一緒に併走している事実は理解しておきたい。ただ大事なのは、ドライバーとロボカー、ロボカーとそうでない車とのコミュニケーションがうまく取れるかということだろう。

さて次はAHS(Advanced Cruise-Assist Highway Systems)。これは訳して「走行支援道路システム」。ASVがVehicle(車両)を主体としていたのに対し、こちらはHighway(道路インフラ)が主体となる。ITSの世界を実現するには、自動車単独でも、道路インフラだけでも困難であり、路車協調によって両者の長所を活かし、短所を補い合えば広い範囲で安全走行の支援が可能になる という考えをもとに、国土交通省の委託を受けて1996年に設立された技術研究組合「走行支援道路システム開発機構(通称、AHS研究組合)」を中心に活動を行っている[8]。ASVも道路インフラを利用しているので、最終的にはこれらのプロジェクトは1つに収斂されるのであろう。国内自動車、電機メーカが十数社ほど参加した組合であるが、道路インフラという割には建設会社は入っていないんだよなあ。

AHS実証実験(スマートクルーズ21)
AHS実証実験(スマートクルーズ21)

このプロジェクト、一般ユーザが参加できる社会実験を2005年9月から行っている(組合に問い合わせたところ、現在も実施中とのこと)。例えば、首都高速道路4号新宿線(上り)参宮橋カーブ区間では、次のような走行支援技術アイテムを体験してもらい、感想のデータ収集を行っている。カーブの先の渋滞や停止・低速車両を道路のセンサーがリアルタイムに検知、カーブ手前のドライバーにカーナビ(メディアVICS対応)の図形や音で知らせるというもの。この情報を収集できる条件は、
1.運転される車両に3メディア対応のナビゲーションシステム(※)が装備されていること。
2.参宮橋のサービスは前方障害物(ここでは渋滞末尾の車両位置)があること。
3.運転される車両がこの参宮橋のカーブに進入する際、車速が40km/h以上の速度であること
などだそうだ[9]。ブラインドカーブの先は目では認識できないので、先読みさせるために事前情報を与える技術だ。このような技術によって、我々は予知能力を授けられる。

前回と今回の話、いずれも究極の姿は自動運転に繋がりそうであるが、前回のDARPAプロジェクトはスポンサーが国防省らしく、いきなりの無人運転技術の開発。とにかく国家安全保障上無人車両をできるだけ早く実現することが目的のコンテスト方式。片やASVやAHSはあくまで主体がドライバーによる自動運転技術の開発。現実的な技術ロードマップを軸に、実現可能なものから各社プレゼンする方式。参加メーカにとっては、認証権や査察権を持つ役所がスポンサーなので、まあお付き合いといったスタンスだろう。競争原理も働くだろうが、モータショーと同じでどれも似たようなコンセプト。T社さんが出しているので、我々も遅れない程度にといったところか。

ITS社会
ITS社会の将来図?(2005愛知万博でデモ走行した天然ガスバス、専用道では自動運転・隊列走行ができる)

個人的な意見だが、技術進展やブレークスルーのスピードは恐らく前者の方が圧倒的に早いのではないだろうか。餌で釣るということもあるが、コンテスト方式の方が、技術者のモチベーションが全く違う。自動運転は「路車協調制御で…」なんて言っている内に、DARPAのレースから、完全自律型のクルマができちゃうかも。

最近ではあちこちで開催され、テレビでもお馴染みとなったロボコン(ロボットコンテスト)。私の記憶が正しければ、そもそも米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)が、学生の創造力開発のために行っていた授業をNHKが取り上げ、そこから広がっていったのではなかったか。とすれば、このロボット・カーレースも今後広がりを見せるかもしれない。より民生利用を目的として。つくばにあるJARI(財団法人自動車研究所)なんか広い施設があるので、ここを舞台に市街地戦をやってみるのも面白いと思うのだが。

本題のクルマエホンから話題がそれてしまった。次回はまた絵本の話に戻ろう。

(※)道路上のアンテナ(ビーコン)からの情報を受信できる機能を持ったカーナビのこと。運転中、ビーコンからの情報を受信すると、カーナビ画面に渋滞や所要時間などの情報が自動で割り込み表示される。

[参考・引用]
[1]特集ITS 実用化がすすむASV技術の数々、御堀 直嗣、JAMAGAZINE、2004年9月号、
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/200409/03.html
[2]ASV(先進安全自動車)、車両・交通システムの先進テクノロジー、自動車総合安全情報、
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/index.html
[3]省庁でのITSの取り組み、警察庁ほか、自動車技術 特集ITS-セカンドステージへ-、p8-16、Vol.60、No.2、2006
[4]自動車ITS革命!、神尾寿、ダイヤモンド社
[5]特集 車両安全技術の進展 進化した車両安全技術の今、清水和夫、JAMAGAZINE、2006年11月号、
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/200611/05.html
[6]日産自動車、世界初のレーンキープサポートシステムを新型シーマに搭載、NISSAN PRESS RELEASE、2000年12月28日、
http://www.nissan-global.com/GCC/Japan/NEWS/20001228_0.html
[7]平成18年度 特許出願技術動向調査の結果について-Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系技術」「半導体洗浄技術」、経済産業省、
http://www.meti.go.jp/press/20070419005/20070419005.html
[8]技術研究組合 走行支援道路システム開発機構、
http://www.ahsra.or.jp/
[9]SMARTWAY 2007、
http://www.smartway2007.jp/ja/af_index.html
[10]未来の自動車、みんなののりもの、
http://www.transport-pf.or.jp/riku/11_mirai.html



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Posted on 2007/11/18 Sun. 08:13 [edit]

category: cars/車のお勉強

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