優勝ロボカー「Boss」

クルマを運転していて、眠くなったり疲れたりしたときに、スイッチ一つで自動運転してくれたらなあ、とドライバーなら誰でも一度は思ったことがあるはず。自動運転の技術って、現在どれくらいの潜在能力があるのだろうか。そのレベルを垣間見ることができるイベントが、先日アメリカで行われた。DARPA(The Defense Advanced Research Projects Agency、米防衛高等研究計画局)の主催するロボットカーレース“DARPA Urban Challenge(DUC)”がそれである。そう米国国防総省(ペンタゴン)傘下の研究機関のプロジェクトなので、目的はずばり無人兵器開発への応用である。米国議会は約6年前に、「2015年までに軍事用地上車両の3分の1を無人化するべし」とのゴールを国防総省に課した。これは1人の軍人を育てるためのコストが年々上昇しているため、米政府として可能な限り戦地での死傷者を減らしたいという考えに基づいている。国防総省はこのゴールを達成するためには、迅速に米国内外の英知を結集する必要があると判断し、このロボットカーレースを開催したのだそうだ[1]。

戦争の科学

レース開催の背景には賛否両論があろうが、戦争が技術を発展させるというのはある意味正しい。戦争が無くても現代に至るまでの多くの科学技術上の発見・発明はなされたであろうが、火薬、飛行機、ロケット、核エネルギーの利用など戦争がその実現の加速を早めたこと、科学技術の発展と倫理との葛藤に悩んだ多くの科学技術者が存在したことは歴史的事実である。この辺の話については「戦争の科学」(アーネスト・ヴォルクマン・著、主婦の友社)に非常にわかりやすく書かれているので参考いただきたい。

レースのコース
ロボットカーレースのコース[1]

さて、DUCはコンピューター制御の無人ロボットカーにより、設定されたコースをできるだけ早く自律走破するというもので、今回は第3回目。これまでの2回は砂漠のコースを走るレースであったが、今回は非常にハードルが高い市街地戦。市街地といっても、カリフォルニア州ヴィクタービル市のジョージ空軍基地跡に実際の市街地を模した約60マイルのコースを安全かつ交通規則を守りつつ6時間以内に走破することが課題。11月3日に終了したレースは、参加した35チームの中で予選を勝ち抜いた11チームのうち3台が時間内にゴール、計6台が完走を果たした[2][3]。

今回はカーネギーメロン大(CMU)+GM合同チームTartan Racingの車両「Boss」(冒頭の写真)が優勝、優勝賞金200万ドルを獲得した。2位は前回優勝チームStanford Racing(スタンフォード大)の「Junior」、3位がVictor Tangoチーム(バージニア工科大)の「Odin」。その他、完走したのはペンシルヴァニア大学、MIT、コーネル大学チームとそうそうたる知の巨人軍団である[1]。

決勝進出の11チームのスポンサーを調べてみると、自動車もしくは車両製造会社では、フォルクスワーゲン、フォード、デルファイ、キャタピラー、GMといったところだ。日本勢ではTOYOTA Priusなどベース車両での貢献はあるものの、表立った参加企業はないようだ[4]。

Grand Challenge
Grand Challenge

2004年に開催された砂漠の中を無人ロボット車が駆け抜けるレース「Grand Challenge(グランド・チャレンジ)」では、予想に反して完走車は1台もなかった。賞金が倍の200万ドルになった2005年のレースでは、見事に5台が完走し、初出場だったスタンフォード大学が優勝した。にんじん効果は絶大だった。今回はさらにハードルが上がって市街地想定走行。想定といっても、プロのレーサーが運転するフォードTaurusが37台、各ロボットカーにはプロのレーサーが運転する追跡車が1台ずつ付くので、最大計59台の車が混走する中での自動運転レースである[1]。その難しさの中で6台が完走したということは、この3年で驚異的な技術の進歩である。

自動運転というのは、機械が人間のドライバーの代行をしなければならないので、人間が運転中に行う作業を機械にも同様に行わせなければばらない。特に自動車の運転というものは、電車のように軌道上を走るのではなく、混走する多くの他車と協調し、刻一刻と変化する周囲の状況を見極めながら自分で走行ルートを決める作業である。すなわち、非常に複雑な①認知、②判断、③操作機能を備えた機械が必要となる。

認知・判断・操作

①は環境認識のカメラやセンサなどのセンシング技術がカギ。センシングは精度が良いに越したことはなのだが、誤検出なしに100%の精度で検出できる技術など100年たっても不可能かもしれない。カメラやセンサの数が多けりゃいいっていう話でもない。処理能力の点からも限度がある。人間の目や耳の感覚器だって数は限られているし、あいまいな部分はあるのだから、課題はその情報を元にした②の機能、すなわち頭脳の処理能力であろう。

ドライバーは周囲の情報を読み取りながら、時々刻々と「走る、曲がる、止まる」の戦略を立てていく。それも常に正確な詳細な情報を捉えているわけではない。能力的に全周囲の情報を一度に掴めないし、周囲の情報全てに目配せしていては、瞬時の変化に対応できないので、まずは大まかに情報を捉え、その中で重要そうな情報を取捨選択している。例えば動きのあるものを検出すれば、対象物は何か(クルマ?歩行者?自転車?)を特定し、衝突する可能性を予測し、直進か減速か回避かの判断をする、といった予測・判断を高速で走りながら瞬時に行っている。(運転行動って本当にすごいですね。)

情報を先読みして、歩行者が飛び出しそうとか、後続車が自車を追い越しそうとか、併走車が急に割り込みそうといったファジーな予測判断、すなわち危険予知ができるところが人間の脳のすごいところで、機械はなかなかまねできない。しかし、多少あいまいであってもセンサから入力された情報をもとにして、どれだけ人間に近い予測ができるか、複雑な判断処理ができるか、その処理を効率的に実行できる判断アルゴリズム(命令手順)の開発が自動運転のブレークスルーのキーになるのだと思う。

③はその判断基準に基づいて「走る、曲がる、止まる」の機能に伝達する。すばやい応答性と2tもの高速移動物体を正確に制御する強力なパワーを考えるとアクチュエータの技術など電動化要素は欠かせないであろう。これは人間よりも機械の方が優れている点である。

優勝チームのロボットカー「Boss」の平均速度は14マイル/h(約23km/h)だそうだ[3]。まだまだよちよち歩きであるが、ロボットカーの頭はどんどん賢くなって、今後指数関数的に速度は上がっていくのであろう。次回はどのような設定で行われるのだろうか。また、どのような進歩を遂げるのであろうか。できれば、いかつい軍事車両でなく、かわいい“Sally”の実現に向けて平和的に応用してもらいたいものだ。

ロボットカーレースとは目的が異なるが、わが日本でも自動運転化の取り組みは行われている。限定的ではあるが、商品化もされている。この話は長くなるので続きは次回紹介する。

[参考・引用]
[1]Urban Challenge現地レポート、米国の無人ロボット車レース-優勝はカーネギー・メロン大学 ~完全自律制御車はここまできた!、
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/11/08/733.html
[2]アメリカで無人自動車レース目的はロボット兵器、日刊勝ち組スポーツ、
http://www.kachispo.com/k/1140/
[3]無人ロボットカー走る…DARPAアーバンチャレンジ、
http://autos.goo.ne.jp/news/newcar/article_101531.html
[4]DARPA Urban Challenge、
http://www.darpa.mil/grandchallenge/index.asp
[5]2004 AHSシンポジウム「トヨタの安全に対する考え方」、井上秀雄、
http://www.ahsra.or.jp/jpn/c04j/2004/10_pd_inoue/inoue.htm

戦争の科学―古代投石器からハイテク・軍事革命にいたる兵器と戦争の歴史戦争の科学―古代投石器からハイテク・軍事革命にいたる兵器と戦争の歴史
(2003/08/09)
アーネスト・ヴォルクマン茂木 健

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