赤いロボット自動車

今回はロボット・カーのお話、「赤いロボット自動車」(亀山竜樹・文、花野原芳明・絵、偕成社 名作アニメート絵話13)である。原作はアイザック・アシモフ(Isaac Asimov)による“Sally(Fantastic、1953)”。この原作をもとにした別の絵本「ロボット自動車サリイ」(小尾芙佐・文、横内 襄・絵、岩崎書店 SF絵童話)もあるが、いずれも絶版となっている。

また、“Sally”はアシモフの「サリーはわが恋人」(稲葉 明雄・訳、ハヤカワSF文庫)という大人向けのSF短編集に収録されている。オリジナルは1941年に発表したアシモフの出世作「夜来たる」(Nightfall)という20の短編SF小説なのだが、邦訳では「夜来たる」(美濃透・訳)と「サリーわが恋人」の2分冊形式で刊行された。こちらも現在は絶版のようだ。

本作は近未来のクルマのお話。主人公はフォーカーズという運転手。ロボ・カーという最新の自動車は知能を持ち、人が運転しなくても自律して走る。ある日、フォーカーズのご主人様ハリッジさんが、このロボ・カーを買ってくる。自分の仕事がなくなったと思ったフォーカーズだったが、ハリッジさんは彼にロボ・カーの世話を任せる。

何年か後、病気で亡くなる前にハリッジさんは彼に財産と遺言を残す。この財産で古くなったロボ・カーを買い集め、修理して一緒に暮らすようにと。車の大好きなフォーカーズさんは、遺言に従って51台のロボ・カーを集め、大事に保管をしていた。その中の1台が、かわいい少女、赤い自動車サリーだ。

「赤いロボット自動車」その1

ある日、ゲルを親分とする悪党一味が、最新のロボ・カーの外側に、中古のロボ・カーのエンジンを組み替えて、新品のように売りさばこうと(まるで最近の偽装食品のようだ)、フォーカーズの車たちを狙う。さあ、フォーカーズとサリーらロボ・カーたちはどうなるのであろうか…。

Issac Asimov
Issac Asimov

原作者のアイザック・アシモフは、1920年に(ソ連になる前の)旧ロシアに生まれたが、3歳のときにアメリカに移住し、のちに帰化する。彼はコロンビア大学で化学博士号を取得した後、ボストン大学医学部で教鞭をとっていた生化学者であったが、非常に多くの著作を残した作家であり、そのテーマは、科学、言語、歴史、聖書等々非常に多岐にわたる。特にSFおよび一般向け科学解説書、また推理小説作家としてよく知られている。その中でもロボットをテーマにするものが得意である[1]。その業績の一つとして、彼の作品である「われはロボット(I,Robot)」の中で有名な「ロボット工学三原則」[2]というものを打ち立てている。

1.ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
2.ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
3.ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

映画「アイロボット」

この本に登場するロボット・カーはまさにこの三原則を忠実に守っている。最後にロボ・カーたちは、第一条に反して悪党一味をこらしめるのであるが、これは第二条に基づいた行動である。前出の「われはロボット」は、ウィル・スミスの主演する「アイロボット」(”I, Robot”、Alex Proyas・監督、20世紀FOX、2004)として映画化されているが、こちらは、この三原則に従わないロボットたちの反乱を描いた非常に怖い話である。

不気味の谷
不気味の谷

映画「アイロボット」に登場する人型ロボットたちの、「ニヤリ」とする表情は不気味だ。ロボット工学者、森政弘博士は、人間のロボットに対する感情的反応について、ロボットがその外観や動作においてより人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的、共感的になっていくが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わると予想した。人間の外観や動作と見分けがつかなくなると再びより強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるようになると考えた。これを「不気味の谷現象」という[3]。「アイロボット」の擬人性に対する感情は、この谷に落ち込んだことによるが、「赤いロボット自動車」のロボ・カーたちは、知能レベルは高いにも関わらず、そのクルマそのものの外観から嫌悪感はほとんど生じない。むしろ共感性を感じる対象だ。

映画「ナイトライダー」

ちなみに、まさにロボット・カーの実写版ともいえるアメリカのTV映画「ナイトライダー」(Knight Rider)に登場するロボ・カー「ナイト2000」の存在も付記しておこう。私も断片的にしか見ていないので、今度じっくりと観てみることにしよう。

チャペックの戯曲「ロボット(RUR)」
チャペックの戯曲「ロボット(RUR)」

「ロボット」という言葉は、1920年、劇作家カレル・チャペックがチェコ語の強制労働「ロボータ」と、スロバキア語の労働者「ロボトニーク」を合わせて作られたことは有名。ロボットの定義は、専門家や研究者によって考え方はいろいろあると思うが、特許庁が『平成18年度 特許出願技術動向調査の結果について-Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系技術」「半導体洗浄技術」』の中で次のように定義をしている[4]。

1.マニュピュレーション機能を有する機械
2.移動機能を持ち、自ら外部情報を取得し、自己の行動を決定する機能を有する機械
3.コミュニケーション機能を持ち、 自ら外部情報を取得して自己の行動を決定し行動する機能を有する機械

1.は産業用ロボットを意味する。2~3によれば①移動、②コミュニケーション、③自律(自分で決めた規則に従う)できる機械ということになる。ロボットというと、鉄腕アトムやホンダASIMOのような人間型機械を連想してしまいがちであるが、この定義に従えば、最新技術を搭載した自動車もまさに「ロボット」なのである。

①まぎれもなく車は移動する道具です。②人対人のようなコミュニケーションはまだ無理だが、ナビの音声ガイダンス(道案内)のように低レベルのコミュニケーション能力は既に備わっているし[5]、前回紹介した日産「PIVO2」の「ロボティクス・エージェント」のように、顔の表情でドライバーの精神状態を把握しドライバーがハッピーになるような会話をしてくれるといった高度なコミュニケーション能力も現実のものになってきた。③究極の姿は完全自動運転。センサや制御アルゴリズム技術の発展により、ある程度複雑な状況下においても周りの環境を認識し、ルールに従って、自ら走行状態やルートを決められるところまで進歩してきている。この話については次回紹介する。東京モーターショーで展示された最新鋭のクルマたちは、既にロボット自動車の初期段階のレベルに達しているのである。

1953年にこの作品は書かれているのであるが、半世紀以上も前に、今日の自動車のロボット化が予言されていたことはさすがアシモフである。まだまだ、赤い自動車サリーたちの足元にも及ばないが、今後の技術進展によって、ますますこの本の中のロボット・カーは現実のものとなっていくだろう。

現実の進歩のスピードが速い現代。子どもたちに空想の世界を楽しませる絵本づくりは難しい時代になったのかもしれない。子どもたちに夢を与える作家には現実を遥かに超える想像力が求められる。

[1]アイザック・アジモフ、Wikipadia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%83%A2%E3%83%95
[2]「われはロボット」、小尾芙佐訳、昭和58年、早川書房、p5
[3]不気味な谷現象、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%B0%97%E5%91%B3%E3%81%AE%E8%B0%B7%E7%8F%BE%E8%B1%A1
[4]平成18年度 特許出願技術動向調査の結果について-Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系技術」「半導体洗浄技術」、経済産業省、
http://www.meti.go.jp/press/20070419005/20070419005.html
[5]カーナビゲーションシステムの音声インターフェース現状と将来展望、岩崎他、三菱電機技報、2004年9月号、p51、
http://www.mitsubishielectric.co.jp/giho/0409/0409114.pdf

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