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自動車とノーベル賞   

Albert Arnold Gore Jr.

今年のノーベル平和賞に、元米国副大統領アル・ゴア氏の受賞が決定した。受賞理由は「人為的な気候変動に関する知識を蓄積・普及させるとともに、こうした変動に対処するのに必要な対策の土台づくりに尽力した」ことによるらしい[1]。一般人には彼の著作及び映画「不都合な真実」による地球環境に対する問題提起といえばわかりやすいだろう。私はいずれも見ていないので正確には論評できないが、彼が野党民主党の政治家であることを差し引いたとしても、この地球環境の危機的状況を一般人にまで広く認知・浸透させたという点では評価できると思うし(中国などをみてもその認知度合いはまだまだなのだが)、少なくとも米国にはあほブッシュ(私の娘はブッシュ大王と呼んでいる)だけではなかった、ちゃんと環境問題を考えている政治家もいるのだと世界に知らしめた意味でも評価できるのではないだろうか。

Gerhard Ertl
Gerhard Ertl

また、これに先立っての化学賞は、ドイツのマックス・プランク財団フリッツ・ハーバー研究所のゲルハルト・エルトゥル名誉教授に授与された。受賞理由は「固体表面の化学反応の研究を進め、その研究成果は半導体産業の発展に寄与するとともに、オゾン層破壊の解明にも道を開いている」としている。もう少し具体的にいえば、彼の研究は燃料電池や車の排ガス浄化装置に使われる白金触媒の開発にも応用されている[2]。

排ガス浄化装置や燃料電池は現在及び将来の自動車の重要基盤技術。有害物質やCO2排出など自動車の環境に及ぼす影響は大なので、この二人の受賞は、クルマにとっても非常に意味のあることなのである。

さて、地球温暖化の要因の一つとされるCO2の排出であるが、総排出量のうち運輸部門が21%で、その9割が自動車によるものだそうだ。ということは、総排出量の約2割弱が自動車からということになる。自動車恐るべしである[3]。

よく話題にのぼる京都議定書というのは、気候変動枠組条約に基づき、1997年12月11日に京都市の国立京都国際会館で開かれた地球温暖化防止京都会議(第3回気候変動枠組条約締約国会議、通称COP3)での議決した議定書のことである。そこでCO2他気候変動に影響を与える対象ガス(対象はCO2だけでない)を、1990年を基準として2008年~2012年の5年間の各国削減目標を決めた。ちなみに日本は-6%、米国-7%、EU-8%である。しかし、米国は京都議定書から、唯一先進諸国で離脱しており、自己経済優先、環境問題軽視と非難され続けている[4]。

特に、米国は反対理由の一つとして、「二酸化炭素排出量につき削減目標を設けることは、経済に悪影響を与える。」といっているのだが本当にそうなのか。日本企業の多くは環境対応に力を入れているし、最近では環境技術が逆にビジネスチャンスとなりつつある。もともと米国はマスキー法の制定や、世界一厳しい排気規制であるカルフォルニア州のZEV(無公害車、Zero-Emission Vehicle)規制など、環境問題に対して積極的に牽引してきた歴史がある。しかし残念なことに、これら規制を真っ先にクリアするのは日欧の企業、肝心の米国企業は対応に遅れ競争力低下に陥ってきた。しかも米国は連邦国家、このような厳しい規制は一部の地域のみのことが多く、大半の州では未だにガソリンがぶ飲み状態である。

ブッシュ大統領

今回の受賞を契機に、彼らが早く目を覚ましてくれることを期待したい。一度目を覚ますと行動が早いのも米国の良さ。共和党でも民主党でもいいから、早くあの間抜け面大王ブッシュに引導を渡してもらいたい。

次に、排ガス浄化装置と触媒の話。少し学生の頃に戻って理科の授業を思い出そう。「触媒」とは、特定の化学反応の反応速度を変化させる物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう[5]。例えば、水素と酸素を混合し、点火すると水が合成されるのはご存知のとおり。しかし、この混合気体に白金(プラチナ)板を入れておくと水(水蒸気)が生成されるというファラデーの実験がある[6]。これは、白金が水合成の反応を促進させた触媒としての役割を果たした一例である。

三元触媒
三元触媒

一般的なガソリンエンジン車の排気システムは、エンジンから排出された排気ガスが触媒コンバータを通過し、マフラー、排気管を経て外気に排出される。この触媒コンバータは、主なガソリンエンジンの有害物質である3種類の物質、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)を同時に浄化することから一般に「三元触媒」といわれている。触媒成分として白金、ロジウム、パラジウム等を付着したモノリス構造(蜂の巣状の一体構造、これにより反応面積を増大させている)となっている[7][8]。

有害物質を含んだ排気ガスが、この触媒を通過することによって、
1.窒素酸化物の還元: 2NOx → xO2 + N2
2.一酸化炭素の酸化: 2CO + O2 → 2CO2
3.炭化水素の酸化: 4CxHy + (4x+y) O2 → 4xCO2 + 2yH2O
の酸化還元反応が起こることで、前出の3有害物質が浄化される[9]。しかし、ここで温室効果の要因として排出を抑えたいCO2が生成されるのが別な問題となる。

最後に将来有力な自動車動力源、燃料電池と触媒の話。燃料電池は、例えばメタノール(CH3OH)といった適切な燃料と酸素(O2)を反応させて、その化学エネルギーを電気エネルギーに変換し電池として利用するもの[10]。一般的には「水の電気分解の逆の原理」といわれるが、詳細は別の機会に整理したいと思う。

電気を効率的に取り出すには、いかに水素を酸化して水素イオンと電子を取り出す反応を促進するかが重要なかぎとなる。白金は燃料電池の電極触媒として一般に使われ、白金の表面に水素分子を吸着して、吸着点で分子から原子状態に解離させ、低い温度でも反応が起きやすくなる触媒効果があるそうだ[11]。なんだか難しくなってきたが、「燃料電池の電極触媒」(荒又明子・著、北海道大学図書刊行会)といった専門書も出ているくらいなので、詳しくはそちらに譲ろう。

エルトゥル名誉教授の功績は、これら一連の触媒反応を理論的に説明したということなのだろうが、素人には難しすぎてわかりません。

とにかく自動車用触媒は白金などの希少貴金属が多いので、安定的供給のリスクは大きい。今後は、触媒材料をできるだけ使わない装置、安定的供給が可能な別の触媒材料の発見などが課題となりそうだ。

[参考・引用]
[1]ゴア氏とIPCC受賞=温暖化取り組み評価-気候変動の脅威訴え・ノーベル平和賞、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071012-00000128-jij-int、時事通信、2007年10月12日
[2]<ノーベル化学賞>独エルトゥル氏に、毎日新聞、2007年10月10日
[3]自動車の排出ガスとCO2の関係、国土交通省四国地方整備局徳島河川国道事務所HP、道路資料館、
http://www.toku-mlit.go.jp/road/c/ondanka/kankei.htm
[4]京都議定書、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E8%AD%B0%E5%AE%9A%E6%9B%B8
[5]触媒、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%A6%E5%AA%92
[6]触媒作用を実感できる白金の実験開発とその授業、高校化学、
http://www.toray.co.jp/tsf/rika/pdf/rik_062.pdf
[7]排気装置、ボッシュ自動車ハンドブック、p444-446、山海堂
[8]こってり解説!自動車用語、三元触媒、
http://www.fiberbit.net/user/kazun/backnumber/vol40.html
[9]三元触媒、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%85%83%E8%A7%A6%E5%AA%92
[10]燃料電池、ボッシュ自動車ハンドブック、p580、山海堂
[11]Tech-On!、旬な材料、燃料電池触媒とは、
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20051028/110208/

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Posted on 2007/10/15 Mon. 16:58 [edit]

category: cars/車のお勉強

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コメント

ノーベル賞級の発明

 先月の、「プレス技術」を読みましたが、日立金属の高性能冷間工具鋼、SLD-MAGICのトライボロジー特性は凄いですね。微量の油をぬったセミドライ状態で、摩擦させるとまるで先端技術のDLCのような自己潤滑性(摩擦係数が下がる)が出るなんて。耐摩耗性も高いのでコーティング費用分コストパフォーマンスが良く、耐荷重能も2500MPaぐらいに高強度でいろんな転動・摩擦・摺動部品にも使えそうだ。まさにノーベル賞級の発明ですね。

URL | 大和鉄工所員 #-
2013/02/17 08:29 | edit

Re: ノーベル賞級の発明

コメントありがとうございます。トライボロジーは摺動部の多い自動車部品には欠かせない技術。勉強不足で日立金属のSLD-MAGICのことは全く知りませんでしたが、自動車の車体材料に良く用いられるハイテン鋼(高張力鋼板)の板材を切断したり曲げたりする成型金型に用いられているそうですね。これで金型の寿命がかなり延びるとのこと。切れ味の良い斬鉄剣の刃材といったところでしょうか。自己潤滑性能があるのであれば、ピストンやCVTの素材にも使えないのだろうかと思いました。

URL | papayoyo #-
2013/02/18 21:26 | edit

巨大新素材と理論(日立金属の場合)

 色々部品があるが金属や鉄鋼材料同士が油を介して摩擦し合うのが、いまも昔も機械の実態。こういった技術をトライボロジーというのだが、そのなかでも境界潤滑技術というのが理論は確立せず摩擦損失の主な元凶であるにもかかわらず、研究者も少なく、理論がないため色々な材料同士を実験的に摩擦させるだけ。しかも実機試験とラボ実験の乖離などもあり、無用の長物扱いをされかねない中途半端な技術分野ともみられていた。
 材料技術が無いとティアワンの資格がないというが、その材料技術とはという問いを抱いて、玉ねぎの皮むきのようなことを何層にもわたり中心部分にはトライボロジーという、無気力な技術者がいるというのが実態だ。
 この形勢一変する、島根大学客員教授の久保田博士らが
提出した炭素結晶の競合モデルというのはこの事態を一変させるもので、「半世紀に渡りトライボロジストが見続けていた夢」とまで評されている。今後の活躍が大いに期待される。

URL | 産業鉄鋼新聞 #-
2017/01/02 19:54 | edit

Re: 巨大新素材と理論(日立金属の場合)

産業鉄鋼新聞様、コメントありがとうございます。
当方、勉強不足でCCSCモデル(炭素結晶の競合モデル)のことは殆ど知識がないのですが、トライポロジーの革新的技術はエンジンやトランスミッションのフリクション低減、いや摺動部品から構成されるあらゆる機械部品・製品の効率に大きく寄与しますので、今後の研究進展が期待されますね。

URL | papayoyo #-
2017/01/03 15:18 | edit

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2017/03/20 17:07 | edit

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