F1のチャンピオン

2007年F1日本グランプリ(GP)がいよいよ最終日となった。今回は30年ぶりの富士スピードウェイ開催ということで、関東エリアの方も近くなり今まで以上に盛り上がっているのではないだろうか(あいにくの雨模様であるが)。トヨタも力はいっているだろうしね。それにちなんで今回はF1レーサーの伝記を紹介する。タイトルは「F1のチャンピオン」(高齋 正・著、伊藤悌夫・絵、岩崎書店、「愛と勇気のノンフィクション」シリーズ18巻)、伝説のレーサー、グラハム・ヒル(Graham Hill、1929-1975、本書ではグレアム・ヒルと表記)の生涯を綴った作品である。

小学生中学年向きとなっているが、中身はなかなか濃い。小学生に「F1レーサー」かとも思うが、初版が1991年。80年代後半からのF1ブーム、中島悟や鈴木亜久里の活躍、90年代前半のル・マンでの日本メーカーの躍進の時期と重なり、将来の国際的日本人レーサー誕生を期待して書かれたものだと思う。私自身もグラハム・ヒルのことは知らなかったので良い勉強となった。

ヒルの何が伝説なのかを紹介する前にレースのおさらい。以前「Cars」の中でも紹介したが、レースにはその車の形態から大きく2つのタイプがある。一つは車輪がむきだし(オープンホイール)のクルマによるレース、もう一つは自動車らしい形をしたクルマ(プロトタイプカー)によるレースである。前者の代表は1950年イギリスで始まったフォーミュラーカーによるレースで、現在日本で行われているF1を頂点に、以下F3000、F3、FJの下部カテゴリーがある。最高峰F1は、世界各地の17箇所(07年現在)で原則1国1グランプリ開催で転戦されるシリーズ戦。特にモナコGPは、その華やかな開催地と唯一の市街地レース、走行技術も難を極めるということでF1の中のF1、世界三大レースの一つとなっている。

F1のレギュラードライバーズ数は現在22名。F1ドライバーになるためのスーパーライセンス発給の経緯には不透明さは残るものの、非常に狭き門である。

もう一つの代表がアメリカで発達したインディアナポリス500マイルレース、通称インディ500。1911年に始められた歴史も伝統もあるレース。前出のF1が曲がりくねったコースをいかに速く走るかという、ドライビングテクニックに重点を置いているのに対し、インディはNASCARと同様、カーブにバンク(傾斜)のあるオーバル(楕円)型のコースをいかに速く走るかという、単純明快、スピード重視のいかにもアメリカ人が好きなスタイル。

後者の代表はフランス、ル・マンで開催されるル・マン24時間耐久レース。1922年に始められたこちらも歴史と伝統のあるレース。1台に2、3人のドライバーが乗るので、優勝者は毎年2、3人生まれることになる。このレースが舞台であるスティーヴ・マックィーン主演の映画「栄光のル・マン」(原題“Le Mans”、リー・H・カツィン・監督、1971年)はあまりにも有名。確かフォードのドライバーという設定だったと思う。

Graham Hill
Graham Hill

以上の代表的レース、F1モナコGP、インディ500、ル・マン24時間レース、いわゆる世界三大レース全てを制した世界唯一のレーサーがグレアム・ヒルなのである。F1は年間ドライバーズチャンピオンを2度、特にモナコGPレースには滅法強く史上2位の5度チャンピオンに輝き(1位はアイルトン・セナの6度)、「モナコ・マイスター」の異名を持つ。

彼の主な戦歴を列挙すると、
・F1ドライバーズチャンピオン:1962年、1967年
 うちモナコGP優勝:1963年、1964年、1965年、1968年、1969年
 (モナコGPを制した年は、なぜか年間ドライバーズチャンピオンを逃している)
・インディ500優勝:1966年
・ル・マン優勝:1972年

1965 monaco GP, his third victory at monaco
1965 monaco GP

本書を参考に、グラハム・ヒルの生涯の概要を紹介する。グラハム・ヒルは、1929年英国のハンプステッドに生まれる。地元のヘンドン工業専門学校を卒業後、スミス工業に就職、見習い工と修行する傍ら、スミス工業の工業大学で機械工学を学んだ苦労人である。その後海軍に徴兵される。

ヒルが始めて運転をしたのが24歳ということなので、現在のF1ドライバーの常識からいえば、かなり遅咲きのドライバーである。たまたまサーキットでレーシングカーに乗せるという広告が目に入り、それが縁でレーシングカーの魅力にとりつかれる。

その後、スミス工業をやめてレーシングスクールで整備士として働きながらレースにも出場していた。その後ロータス社のコリン・チャンプマンと知り合い、彼の会社で昼は市販車の製作、夜はレーシングカーの整備士として働き、1957年よりロータスのレーシングドライバーとなる。F1GPに出場したのは翌1958年のモナコGPが最初である。

「F1のチャンピオン」その1
モナコGPのようす(「F1のチャンピオン」より)

1960年にロータスからBRMに移籍。1962年に初めてオランダGPに優勝。その年はジム・クラークと年間チャンピオンを争い、最終戦の南アフリカGPで優勝を果たし、初のF1ドライバースチャンピオンに輝く。

「F1のチャンピオン」その2
インディのようす(「F1のチャンピオン」より)

その当時、GPドライバーがインディに挑戦するという流れがあった。理由はF1とインディの車体構造の違いである。F1は50年代後半から従来のフロントエンジン(エンジンの前置き)/リアドライブ(後輪駆動)から、レースに有利なミッドシップエンジン(エンジンを駆動輪に近い車体中心部に置く)に方式が変わってきた。一方、アメリカでは60年代になってもフロントエンジン/リアドライブ方式でレースをしていた。当然インディでミッドシップを走らせれば有利だとGPドライバー(ヨーロッパ勢)は考える。ヒルも1966年初出場ながら、インディを初制覇する。

しかし、速い車に乗れば、誰もが速く走れるという訳でもないようである。私は当然レーサーでないのでレース中のドライバーの心理はわからないが、本書の表現によれば、F1とインディにはその性格上、目に見えない心理的な壁があるようだ。加減速を繰り返すF1と違って、インディはトップギアで高速で走り続ける。そのスピード感の違いは、見えない壁(恐怖心とでもいうのだろうか)となって現れる。ヒルのインディ初優勝も、この壁を乗り越えた結果である。

「F1のチャンピオン」その3
ルマン24時間レースのようす(「F1のチャンピオン」より)

その後、古巣ロータスに復帰。ライバルでチームメートでもあったジム・クラークが事故で亡くなった1968年に2度目のF1世界チャンピオンになった以降、彼のF1での成績はフェードアウトしていく。F1ドライバーとして年齢の限界を感じていたヒルはル・マンに活路を見出す。24時間耐久というレースは、若さや反射神経よりも経験がものをいう。ヒルは58年から66年までルマンに連続9回出場していた。それまでフェラーリに乗っての2位が最高位であったが、67年以降はGPに専念していた。そして1972年にフランス・マートラチームのドライバーとして初優勝を果たす。三大レース制覇の瞬間である。

そして1975年、ヒル46歳の年、既に彼自身のレーシングチームを持ち、彼が見出した若手ドライバー、トニー・ブライズの素晴らしい走りを見ながら彼は引退を決意する。彼の地元英国GP、シルバーストーン・サーキットでの走行を最後に彼の18年に亘る職業ドライバーの幕は閉じられたのである。

1975年のシーズン終了後、翌年の準備を始めたヒルのチームは11月29日、南フランスのポールリカール・サーキットでのテストを終えて自家用機でイギリスに向かった。ヒルの操縦する自家用機は、悪天候のため目的地の5km手前で墜落する。レーサー人生が終わったのと同時に彼の人生にも幕が閉じられた。彼の将来を賭けたトニー・ブライズらと共に。まさにレースのために生きてきた彼らしい最期であった。

Damon Hill
Damon Hill

彼の遺児、デイモン・ヒルはあの80年代後半からのF1ブーム最中、1992年にF1デビュー。1996年に世界チャンピオンとなった。親子2代でF1世界チャンピオンになったのはヒル親子のみである。もうそろそろ発表のあるノーベル賞を親子で受賞したのが過去6組もいることを考えれば、それ以上の偉業だ。ただし、「モナコ・マイスター」と異名をとった父親とは異なり、モナコGPでは一度も勝っていない。現在はBRDC(ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブ)会長。

さて、今日は家族と一緒にTVで日本GPの本戦でも見ようかな。

[参考・引用]
[1]フォーミュラ1、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%A91
[2]グラハム・ヒル、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%8F%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%AB
[3]デイモン・ヒル、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%AB

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