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横須賀ブロークンアロー(上)  

横須賀ブロークンアロー

ちょっと前に、横須賀在住の作家・山田深夜さんの記事[1]に目が留まった。『横須賀ブロークンアロー』(双葉文庫)という横須賀を舞台にしたミステリー小説が文庫本化されたというものだった。主人公は公安の警察官。冒険・ミステリー小説がけっこう好きな私は地元ヨコスカが舞台なのと、ちょうどその頃、小栗旬、西島秀俊のダブル主演で、彼らの約7分間に及ぶノーカットアクションシーンが話題になるなど、ダメダメなフジテレビにしては久しぶりに面白いなと思って録画して見ていた『CRISIS公安機動捜査隊特捜班』(制作は関テレなんだけどね)が、やはり公安捜査官をテーマにしたドラマだったこと、そして強面の安倍官邸の背後には公安警察出身者が見え隠れするなんて話を聞くと[2][3]、世は公安“ブーム”かとノーテンキにこの文庫本を購入したのだ。上下2巻、1,400頁を超える超大作なんだが、先月ぎっくり腰で数日会社を休んだときに一気に読み終えてしまった。

山田深夜
山田深夜
出典:https://yokosuka.keizai.biz/photoflash/368/

山田深夜さん、バイク乗りにはよく知られているのかもしれないが、私はかなり前に同氏の『横須賀Dブルース』(寿郎社)という横須賀人の喜怒哀楽をまとめた短編集を読んで知っていた。ブルースハーピストとして活動されている一面もあってちょっと気になる存在だった。もちろん面識はない。ピート・ハミルの『ニューヨーク・スケッチブック』じゃないけれど、ここ横須賀も日本中から、そして外国から、訳ありな人たちが流れ着く溜まり場なので、キャンバスに描く名もなき人々には事欠かない。山田氏も福島県須賀川市ご出身、私とひとつ違いの同世代。見た目はとても堅気に見えないのだけど、横須賀の京急車両工場でサラリーマンとして20年勤務された後、退社して市内を拠点に執筆業に専念されているちょっと風変わりな“流れ者”だ[4][5]。本作でもそんな人たちを地元では“横須賀奴(やっこ)“と呼ぶとある。


汐入のMOAI&CAPIでのライブや。この店1回行ったことあるな。

「曲がっているんだか真っ直ぐなんだか、さっぱりわからない。エドッコでもハマッコでもなく、もっと捻くれた泥臭い連中。地元ではそんな奴らのことを横須賀奴と言う。どうやら強力な磁力で、日本中から似たようなへそ曲がりを引き寄せているらしい。」

「流れ者を迎える古くからの住民も、とても癖が強い。皮肉屋で口汚く、我が強い。協調よりも強調を好み、勇ましいが浅ましい。愚かしいほどデリカシーがなく、恣意的で示威的。総じて、変人。ただ深く交わると、不思議な芯があり、真があるのだ。いったん信じるととことん応じ、地獄までも付き合ってくれる。そしてそんな気立ての強い奴らを、地元では横須賀奴と呼ぶ。」
(本書より、一部省略)

30年近く住んでいる私もこの呼び名は初耳だったが、大学を卒業後、上京して横須賀の事業所に配属された際、現場の東北出身の先輩から言われたことがある。希望した部署だったのだが、

「吹き溜まり部署へようこそ。ここはよ、会社の中でも扱いにくい連中が集まるところなのよ。」

って歓待されたのか、皮肉られたのかはよくわからなかったけれど、確かにエンジニアもテクニシャンも事務方スタッフも、一くせも二くせもある社員が多かった。この先輩も含めて。ただ、技術や技能に関しては社内でも業界でも一目置かれるプロフェッショナルが多かったのも事実だ。その彼、今でも横須賀に住む(国内外飛び回ってるけど)、何かと頼りになる“横須賀奴”かな。

さて、タイトルにある“ブロークンアロー(Broken Arrow、折れた矢)”だが、この作品の肝となるコードネーム、アメリカ軍の符丁だ。核兵器の紛失事故のことを指す。実はこの事故、公になっているだけで1980年までに少なくとも32件も発生しているのだとか[6]。日本に関わる“ブロークンアロー”も起きている。ベトナム戦争中の1965年2月、任務を終えて横須賀基地への帰路、九州沖の公海上、喜界島南東約150キロを航行中の空母タイコンデロガにて、水素爆弾1発を装着したダグラス・スカイホークA-4Eがエレベーターから海中に転落する事故が発生した。水爆と機体は水深約5,000メートルの深海へ没し、回収は断念された、と公式には発表されている[7][8][9]。しかし、実はこの水爆が自衛隊と共同で密かに回収され、ここ横須賀に保管されていた(いる)という国家機密がストーリーの軸となっている。たまたま、この機密の端に触れてしまった私鉄の下請け会社に勤める外様の“横須賀奴”・江井(えねい)と、生まれも育ちも”横須賀奴”の公安捜査官・石渡、そして彼らを取り巻く奇妙な仲間と、この機密保持に携わる特殊機関とのスリリングな攻防戦が続く。ヨコスカといえば誰もが知るアノ人物も登場する。

1メガトン級の水爆が眠っているとされる海域
1メガトン級の水爆が眠っているとされる海域。
参考:1965 Philippine Sea A-4 incident、Wikipedia

非核三原則なんて時の権力者の方便、自宅から見えるベースのどこかには間違いなく核兵器は存在すると思っているが、この事故のことは知らなかったし、日米で核兵器を共同管理しているというプロットはちょっと想定外。でも可能性としてはアリかもしれない。民間も所有する高度なサルベージ技術もあるのだから、深海底といえども核弾頭をそのままにしておくとは思えない。核についてではないが、マスコミやレフトサイドの人が知ればきっと大騒ぎとなる日米共同作戦のヤバい噂話は、ここ軍都に四半世紀以上も住んでいれば多少なりとも耳に入ってくるしね。安倍首相の大叔父、佐藤栄作元首相が非核三原則を表明したのが、このタイコンデロガ事故が発生してから約3年後となる1967年12月[10]。同じ頃に日本政府が核兵器の保有について極秘裏に検討を進めていたというスクープも、以前NHK特集で放映していた[11]。そしてこの三原則が「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」だということはよくご存じだと思うが、

「『ある』という前提だから、『使わず』は入れなかったんだよ。」(本書より)

という謎の老”横須賀奴”・雑加(さいか)の言葉に、現在の北朝鮮問題を考えるとちょっと背筋が寒くなった。

観音崎、謎の遺構
海上自衛隊・観音崎警備所管区内にある謎の遺構(現在も立ち入り禁止区域)
出典:http://www.geocities.jp/kamosuzu/nanafusigi.html

“横須賀奴”だけでなく、地元について知らなかった情報がいくつもあった。たとえば、横須賀は「海軍カレー」で街おこしをするくらい海軍というイメージが強かったが、かつては『陸軍の上町、海軍の下町』と言われたほど、中心街ですら旧帝国陸軍と海軍とで島が分かれていたようだ(893じゃあるまいし)。京急横須賀中央駅付近から坂の上は陸軍、坂の下はドブ板商店街やベースも含めた界隈が海軍のテリトリーだったという。現在、坂の上にある「うわまち病院」が戦前の旧「横須賀陸軍病院」、坂の下にある「横須賀共済病院」が旧「横須賀海軍共済組合病院」だったことを知れば納得。また観音崎公園内にある灯台が「観音」表記なのは昔から不思議に思っていたけど、これも当時の陸軍と海軍確執の名残りらしい。「地図」を管理する陸軍陸地測量部は、岬の表記に「崎」を使用した。一方、「海図」を管理する海軍水路部では「埼」を使用したからだ。海軍の流れを汲む海上保安庁は今でも「埼」を使用しているそうだ。

ホンダVFR800P
ホンダ・VFR800P
出典:https://www.youtube.com/watch?v=RyJXJthebIU
BMWF800GS
ロンドン耐テロ部隊で使われるBMW・F800GS
出典:http://motomoto.hatenablog.com/entry/2016/08/04/124035
カワサキZ750RS
”Z2”ことカワサキ・Z750RS。70年代のバイクはスタイリッシュ。
出典:http://bike-lineage.jpn.org/kawasaki/z800/z2.html
モンキー・50周年スペシャル
モンキー・50周年スペシャル[12]

バイク乗りとしても有名な山田深夜さんなので、本作の小道具には2輪が多く登場する。主人公の石渡は、元々白バイ乗務員ながら、その才能を認めた公安部のある策略により、彼は公安の「ツイホ」(追尾補助)要員としてスカウトされる。それ以降、類まれな諜報能力から内調(内閣調査室)にも出向し、世間をあっと言わせた外交問題も含め、国家の裏稼業に関わることになる。私はバイク乗りではないので全然詳しくないのだけど、冒頭のホンダ・VFR800Pに始まり、謎の組織との手に汗握るバイクチェイスで登場したBMW・F800GS、江井の足となる『ゼッツー(Z2)』ことカワサキ・Z750RSやホンダのZ50、通称『モンキー』(最終モデル「モンキー50周年スペシャル」が今月21日から500台限定で発売されるらしい[12])などなど、バイク好きにもたまらない小説なのだろう。

ほぼ全編、そのバイクで主人公たちが縦横無尽に走り回る横須賀が舞台だから、よく知っている土地も登場してさらにリアル感が増す。「ルネントマッパオ」の追浜界隈も、重要な拠点として度々登場する。山田深夜さんのホームページには、場面ごとの舞台が地図入りで紹介されているので、山田ファンの方、この作品で横須賀に興味を持たれた方は、聖地巡礼に使ってはいかがだろうか。

横須賀ブロークンアロー(下)に続く…



[参考・引用]
[1]横須賀ブロークンアロー・上下巻 水爆水没事故ヒントに 小説家・山田深夜さんが出版/神奈川、毎日新聞、2017年5月30日、
https://mainichi.jp/articles/20170530/ddl/k14/040/122000c
[2]前川・前事務次官に激怒して、安倍官邸が使った「秘密警察」、週刊現代、2017年6月7日、
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51891
[3]安倍官邸が天皇“お気持ち表明”に報復人事! 宮内庁に子飼いの公安警察人脈を送り込み天皇を監視、封じ込め、LITERA、2016年9月28日、
http://lite-ra.com/2016/09/post-2589.html
[4]山田深夜、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E6%B7%B1%E5%A4%9C
[5]山田深夜と朝まで横須賀、ライダーズネットワーク、2005年7月21日、
http://www.writers-net.com/item/28
[6]暗号名「ブロークン・アロー」 ~隠された核兵器事故~/NHK・BS歴史館、@動画、2013年9月7日、
http://www.at-douga.com/?p=8875
[7]ブロークンアロー、航空軍事用語辞典++、
http://mmsdf.sakura.ne.jp/public/glossary/pukiwiki.php?%A5%D6%A5%ED%A1%BC%A5%AF%A5%F3%A5%A2%A5%ED%A1%BC
[8]タイコンデロガ (空母)、Wkipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AD%E3%82%AC_%28%E7%A9%BA%E6%AF%8D%29
[9]平成元年(核兵器の日本持ち込み問題)、横須賀市ホームページ、2017年1月17日更新、
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0150/kithitai/08/h01.html
[10]非核三原則、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E6%A0%B8%E4%B8%89%E5%8E%9F%E5%89%87
[11]NHKスペシャル スクープドキュメント 核を求めた日本、NHK平和アーカーブス、2010年10月3日放送、
http://www.nhk.or.jp/peace/library/program/20101003_01.html
[12]原付レジャーモデル「モンキー・50周年スペシャル」を限定発売、ホンダホームページ、2017年6月22日、
http://www.honda.co.jp/news/2017/2170622-monkey.html

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Posted on 2017/07/17 Mon. 13:38 [edit]

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