ProPILOTのHMI技術
出典:http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1010705.html

先月エクストレイル君の車検だった。もう13万km超え。ここのところ仕事が忙しかったので車検切れギリギリの納車になってしまった。いつも仕事中、会社に近い販社にお願いしているので、会社~ディーラー間移動のための代車を借りている。今回はなんと新型セレナ、しかもプロパイロット仕様だった。

日産は「自動運転技術」と宣伝しているものの、ナイトライダーのようにAI(人工知能)パイロットが勝手に運転してくれるものではないし、あくまでドライバーをサポートすることを目的としたADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転システム)と呼ばれるものだ。まあ、車速条件はあるものの、ざっくり言って全車速域ACC+レーンキープアシスト(「日本のロボット・カーたち」参照)、スバルのアイサイトやホンダセンシングと性能自体は大差ない[1]。先進安全技術というか、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の自動運転定義に従ってレベル2の自動運転技術(「進化と退化」参照)というかの違いだけだろう。「自動運転」といえばインパクトは大きいが、運転作業から解放されるといった誤解を受けるリスクもある。「自動」車なんだけどね。


モービルアイは後付可能

技術的な差はセンシングだ。日産はイスラエルのモービルアイ社(※)製単眼カメラのみで実現する。スバルは複眼のステレオカメラ(日立オートモーティブシステムズ)、ホンダは単眼カメラ(日本電産エレシス)+ミリ波レーダー(富士通テン)のフュージョン型[1][2][3][4][5]。前方の歩行者や障害物の存在や距離を検出するには、反射波を利用するミリ波やレーザーのレーダーが優位だろう(金網でも止まるのか?)。確かに人間のドライバーはコウモリではないし、単なる視覚情報だけで物体の存在を知覚しながら運転はできているのだが(もちろん後方や側方の情報も逐次入手しながら)、両眼の視差で距離感を測っている。やってみればわかると思うが、片目をつぶっての運転はしずらい。モービルアイカメラは高度な画像処理技術で物体知覚と距離を「推定」しているとはいえ、認識精度の面では不利な部分もあるはずだ。日産があえて単眼カメラを選択したのは、シンプルでコストメリットも大きい点を優先したのだろう。

プロパイロットの単眼カメラ
アイサイトのステレオカメラ
プロパイロットの単眼カメラ(上)とアイサイトのステレオカメラ(下)
出典(上):https://www.webcartop.jp/2016/09/50895
出典(下):https://www.subaru.jp/legacy/outback_xadvance/safety/eyesight.html


(※)mobileye:英語発音ではモ(ー)バイルアイに近いのだけど、日本市場での販売代理店公式サイトではモービルアイと表記しているのでそれに倣う。

ということで、プロパイはまだ完全自動運転への進化の過渡期、使用条件は高速道路や自動車専用道路の同一車線内となっているし(前車にくっついて車線変更するなんてこともない)、もちろん手放し運転もNG[1]。ところが一般道でもシステムはそれなりに作動する。ポケモンGoと一緒でダメって言われても、システム完全オフにでもしない限りユーザーは使っちゃう。ちなみに[6]によれば、一般道では「アイサイト」相当の性能だそうです(以上ではないとのこと)。

日産新型セレナ・プロパイロット仕様
チョイ乗りした日産新型セレナ・プロパイロット仕様[2]

さて、朝一でエクストレイルを預けた後、夕方遅くに車検完了の連絡を受け、このセレナに乗って引き取りに行った。会社からディーラーまでは3-4kmくらいだろうか。退社ピークも過ぎ、渋滞のほとんどない比較的幅の広い直線路が続く道で、この新機能を恐る恐る使ってみた。発進は無理なようなので、前車追従しているときにプロパイのスイッチON、自動運転モードをセットする。アクセルから足を放すと、最初は自動で動いているのかな?と半信半疑でいると、前車が加速するのと同時にセレナもぐぐーっと加速。おおーっ、先行車見つけて追従しとるがな。前車が停止するとセレナも減速、ただ最終停止の減速タイミングに我慢できず、フットブレーキを使った。感覚的には、前方車両と自分の間の目の前にもう一台、別なクルマがいる感じ。こいつが本当に前方や周囲を認識しているのか否かがわからない不安感。ナイトライダーのような人馬一体感は当然ながら得られない。(あくまで性能が保証されていない夜間・一般道での感想です。誤解なきよう。)


日産のシリコンバレー公道試験走行:研究開発のレベルでは、一般道交差点での右左折や、ハイウェイでの車線変更は普通にできているようにみえる。ここ横須賀の狭い谷戸のエリアを自由自在に走るのは無理だろうけど。

夜間のチョイ乗りということもあるが、その2週間ほど前に日産販社でプロパイ仕様のセレナによる試乗中の追突事故のニュースがあったし[7]、代車を借りる際、事故や安全上に関する誓約書にもサインしていたからかなり慎重に運転をした。ゆっくり走っていたので、後続車が煽るように接近してきた。これはこれで危険な訳で、ADASも含め機械が運転操作に介入している際は、周りにそれとわかるように示す必要があると思う。プロパイの事故はACC作動中のロストなのか、通常の自動ブレーキ(エマージェンシーブレーキ)が効かなかったのかはよくわからないそうだが、自動ブレーキは追突ギリギリで強い減速Gをかける緊急回避装置なので公道でそれを試したのなら論外だし、日産マニュアルでは、今回のケースである夜間・降雨時の試乗、一般道でのプロパイ使用を禁じていたということだから(私の体験走行は自己責任内です)、いずれにせよ営業マンがお客さんにブレーキ踏むのを我慢させていたというのはあり得ないこと。当然ながら試乗していたドライバーに最終事故責任が課せられるので、営業マンとともに書類送検になったらしい[7][8]。


NVIDIAのAIアルゴリズムが運転を学習する過程:最初は初心者以下のAIパイロットが、3000マイルの運転経験を経て、人間、あるいはそれ以上に上達している。これが人類に革命をもたらすかもしれない機械学習の一例だ。

カナリア・タクシー」でも紹介したが、日産のプロパイロットのように現在のADASにおけるセンシング技術はモービルアイ社の寡占状態だ。これは安い単眼カメラを使い、独自の画像処理アルゴリズムにより距離検出を可能にしたからだという(どうやっているかは知らん)。とは言っても、先の説明のように複雑な道路環境や夜間、悪天候時では性能の限界はあるだろう。そこで、もっと賢い完全自動運転を実現するためには、やはりというかAI技術が不可欠になりそうなのだ。ディープラーニング(深層学習)を活用したAI半導体技術で急成長している米国のNVIDIA社が、モービルアイに代わる自動運転技術サプライヤーの最右翼とも言われている。実際にアウディやテスラがこっちに乗り換え始めている[9]。単眼であれ複眼であれ、カメラ画像の認識精度を上げるには高度な画像処理技術が欠かせない。その基幹技術が東芝も手放したくない半導体である。日本最大手のトヨタ系自動車部品サプライヤー・デンソーは、その東芝と自動運転分野で協業関係を強化するというし[10]、やっぱりというかモービルアイはつい最近、インテルに巨額買収された(モービルアイの方がおいしいのかも)[11]。PCが「インテル入ってる」と言われたように、自動運転車は「モービルアイ入っている」とか「NVIDIA入ってる」と言われる日が来るのだろうか?インテルは残っているけど、かつての巨人IBMをはじめとするPCメーカーの今を考えると、完成車メーカーの近未来って、どうなっているんだろうね。

それにしても残念に思うのは、スバルがアイサイト(自動ブレーキ)のヒットで自動運転の扉を開いたにも関わらず、その基盤技術であるステレオカメラ認識技術を日本の頭脳集団・日立とともに新たな自動運転向け半導体分野でのグローバルスタンダードに発展できなかったこと。結局、時流を作り出しているのはイスラエル、米国などの海外勢、しかもベンチャーだ。日立は半導体から撤退しようとしているし、東芝は死にかけている。大阪万博のような単発的なイベントにカネ出す余裕があるのなら、新しい産業の芽に投資すべきだと思うんだが・・・。日本電産エレシス、デンソーには日本の底チカラを見せてもらいたいけど、どこかにホンダやNEC、トヨタに守られているという甘さもあるんだろうな。

燃料ゲージの仕組み
燃料ゲージの仕組み
出典:http://www.marine-j.com/shop/141004.html

ところで車検の方だが、前に調子が悪いと書いた燃料計の表示異常。恐らく燃料タンク内のセンダーユニットの故障だろうとのこと。これくらい距離を走るとよく出るらしい。特定するには分解して部品交換するしかないようだが、それでも2万ほどかかる。もしインジケーターの方が故障していると、メーターのアッシー交換なので十数万くらいかかるみたい。とりあえず運転に支障はないし、車検にも影響がないので修理しないことにした(車検代だけで泣きそうになるのだから)。

最近のクルマは故障すれば修理というよりは基本部品交換だ。自動車のアフターマーケットは修理では商売が成り立たない、今や点検サービスと部品で儲けるビジネスだ。省資源でサステイナブルを求める時代に本当にそれでよいかという疑問もある。さらに、その部品もディーラーやモータースで手に負えないくらいどんどんブラックボックス化が進んでいる。自動運転システムのようにね。この部品のブラックボックス化は、タカタのエアバッグ事故で、完成車メーカーがトラブルの原因を特定できず、サプライヤーに委ねるしかないといった大きな問題を露呈した。クルマの自動化が進めば、その制御アルゴリズムは複雑だし、AI技術の導入で、なぜそのような判断をAIが下したのかを開発者ですらわからなくなる、つまりエンジニアがソフトウェアをデバッグできなくなるリスクも懸念されている[12]。だから自動運転やAIはダメだというつもりはないが、なんとなくブームとして市場に広がる前に、社会全体で今からちきんとした基本知識の啓蒙とかメリットだけでないリスクの議論とかが必要なんだと思う。第2の原発にならないようにね。

P.S. GW真っ只中、ADAS搭載車でドライビングをされている方、くれぐれもシステムを過信されぬよう、楽しい休暇をお過ごし下さい。

[参考・引用]
[1]プロパイロットとアイサイトの違いは?ホンダセンシングも比較!
http://sinsya1.net/propilot-eyesight-hondasensing/
[2]日産、今夏発売の新型「セレナ」に搭載する自動運転技術「ProPILOT(プロパイロット)」説明会、小林隆、CarWatch、2016年7月13日、
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1009745.html
[3] 【新型 セレナ 発表】「プロパイロット」の測拒能力は、ミリ波レーダーやステレオカメラを超えたか、会田肇、レスポンス、2016年8月25日、
https://response.jp/article/2016/08/25/280610.html
[4]スズキのステレオカメラは「アイサイト」と0.2ポイント差、違いは“熟成度”、朴尚洙、MONOist、2015年8月17日、
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1508/17/news013.html
[5]開設後3カ月の真新しいテストコースで、ホンダセンシングの実力を試す、桃田健史、MONOist、2016年7月28日、
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1607/28/news013.html
[6]新型セレナの「自動運転」試乗! 話題のプロパイロットは一般道で使えるのか!?、間違ってもイイ!! ファミリーカー選び♪、2016年9月4日、
http://familycar.work/?p=2636
[7]自動ブレーキ作動せず衝突 全国初の事故 試乗客に「踏むの我慢」と指示、千葉日報、2017年4月14日、
https://this.kiji.is/225556003395552760?c=78234666754819573
[8]自動ブレーキの体験を公道で行ったなら大問題です、国沢光宏、自動車評論家 国沢光宏、2017年4月15日、
http://kunisawa.net/car/car_latest-information/%e8%87%aa%e5%8b%95%e3%83%96%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%82%ad%e3%81%ae%e4%bd%93%e9%a8%93%e3%82%92%e5%85%ac%e9%81%93%e3%81%a7%e8%a1%8c%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%aa%e3%82%89%e5%a4%a7%e5%95%8f%e9%a1%8c%e3%81%a7/
[9]モービルアイは失速か?エヌビディアと比較すると技術力は周回遅れ、おばかさんよね マーケティング戦略の思考記録、
http://obakasanyo.net/mobileye-vs-nvidia/
[10]トヨタ系のDENSOと東芝が自動運転分野で連携強化へ!、Avanti Yasunori、clicccar、2017年5月1日、
https://clicccar.com/2017/05/01/468585/
[11]インテル、モービルアイを150億ドルで買収へ-自動運転分野を強化、Bloomberg、2017年3月13日、
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-13/OMR5JA6K50XS01
[12]人工知能は信用できるのか、AIのブラックボックスを開きそのロジックを解明する、Emerging Technology Reviewシリコンバレーからの先端技術分析レポート、2016年12月2日、
http://ventureclef.com/blog2/?p=3283
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事