カナリア・タクシー たかせ・たかしくん

今日はタクシーのお話。現実離れした巨大なクルマの話題から一転して日常に戻ってみたい。でも、後述するようにタクシーはクルマの未来の話にも大きく関わる。拙ブログは自動車の絵本をテーマに日々蒐集・調査活動に勤しんでいるが、「紙芝居」というコンテンツも実は重要である。読み聞かせの王道ツールだからね。もちろん紙芝居も絵本の括りで捉えているのだけど、これが結構すてきな素材が見つかるのだ。本日紹介する『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』(渡辺泰子・文、高橋 透・絵、童心社)もその一冊(ん?紙芝居ってどう数えるんだ?)。初版が1967年なので絵や内容が時代を感じさせるのだけど、いいでしょ、高橋 透さんの描く日産セドリック2代目、130型デラックスのカナリア色のタクシーが。これ、数ある高橋作品の中でも色使い、デッサンともに出色の出来だと思うんだよね。スコッチ飲みながら鑑賞できるよ、俺。

主人公はタクシーの運転手、たかせ・たかしさん。裏書きの脚本に従って「タクシ・タクシじゃないぜ」と幼児の掴みはOK。紙芝居は児童向けの交通安全教材として用いられることが多いが、これも「かみしばい交通安全シリーズ第7巻」とある(ということは本作以外に別の6種類のクルマ紙芝居があるということか!)。奥付にも警視庁交通部安全教育係、中西道子・指導と記載されている。とにかく自動車運転時にありがちな危険シーンのオンパレードだ。

カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その1
おばあさんは危ない(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

信号が青に変わって通過しようとしたその瞬間、赤とも知らずに横断歩道を渡り始めるおばあさんに気づいて急ブレーキ。
「おばあさん、危ないじゃないですか。信号は赤なんですよ。」
(年寄りの人には、よく注意していないと・・・危ない、危ない・・・)

信号のない横断歩道の脇でおしゃべりをしている子どもたち。渡るのか、渡らないのか。やっぱり渡らないらしいな、と思っていると、彼らが歩道を渡り始めてまた急ブレーキ。
「きみたち、渡るときはね、ハタを高くあげて、渡りますよーって、合図をしてくれなくっちゃ。それで、運転手がわかったって顔したら渡るんだ。いいかい。」

カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その2
渡るのか、渡らないのか(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

そういえば昔は通学路の横断歩道には黄色い旗が置いてあった。それにしてもずいぶん上から目線の運転手さんである。急ブレーキが多いのは、かもしれない運転じゃなく、だろう運転をしているからなんだよ。傍で立っている場合も含めて信号のない横断歩道で人を見かけたら、一旦停止が原則だ。でもJAFの調査によれば、渡ろうと意志表示をしている歩行者がいても止まらない車が9割なんだって[1]。自分も含めて交通マナーには気を付けようね。

次は横断禁止の場所で無理に横断するサラリーマン。これにはたかせさんも、対向車のトラック運転手もカンカンだ。運転者の立場で言えば、この行動は絶対に止めてもらいたいね。歩行者の立場で言うと、ちょうどよい場所に横断歩道がないというケースが結構あるのだけどね。

Uターン禁止エリアで対向車側にタクシーを待つ親子連れを気にしていると、前方から急に飛び出してきた自転車が。急ブレーキで驚いた少年は転倒した。
「だ、大丈夫かい?坊や。」
と慌ててタクシーを降りるたかせさん。幸い怪我はないようなので、少年に飛び出しをしないよう注意をしてそのままスルーしているけど、本当は病院に連れて行った方がいいと思うんだ。頭を打っていると、その場は大丈夫でも時間の経過とともに容態が悪化することもあるようだからね。

カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その4
スピード違反車はジャガーEタイプ(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

そしてお母さんと女の子の親子をピックアップしたたかせさん。行先は羽田空港。「羽田の飛行場」って表現が昭和感満載だね。急いでいるようなので高速を使って目的地まで行くことに。高速に入るまでに、一般道路60キロで白バイに捕まっちまう真っ赤なオープンスポーツカー(ジャガーEタイプ)や乱暴運転の大型ダンプとトレーラーの交通事故など、名脇役の登場シーンは抜かりがない。それにしても大型車両どおしの正面衝突とは読者の幼児にとっては刺激が強い。でも今なら歩道で歩いていても車が突っ込んでくるかもしれない危険性も教えないとダメなのだろう。教えたところでどうすりゃいいんだってところがあるけどね。

カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その5
高橋透氏の挿絵が秀逸(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

予定どおり安全に母娘を羽田空港に届けられたが、高速道路の場面がスピード感あって秀逸。交通安全かみしばいって、まるで主に職業ドライバーの教育に使う危険予知トレーニングシートみたいだ。免許更新時の講習は、つまらん講義に変えて紙芝居にしてはどうだろう?

ところで、先日の通勤時、FMヨコハマ朝の顔(声)となった光邦さんの「ちょうどいいラジオ」を聴いていると、京都のタクシー会社である都タクシーが、乗務員から客に話しかけない「サイレンス車両」を試験運転しているというニュースが話題になっていた[2]。これを受けて番組では「タクシー内での会話いる?いらない?」のリスナー意見をTwitterで募集していた。カナリア・タクシーのたかせさんは、車内のみならず、車外にも積極的にコミュニケーションを取っていたけど、投稿された意見は賛否両論。車内では話しかけないで欲しいという賛成の意見から、運転手さんに話を聞いてもらいたい時もあるとコミュニケーションの重要性を語る意見もあった。もちろん都タクシーの実験も客から話しかけられた場合、ちゃんと会話はしますとのこと。その中で興味深かったのは、実際のタクシー運転者からの「私は話しかけません。なぜならお客様の安全を守るため、運転に集中したいからです。」という投稿だった。この人、本当のプロドライバーだなあと感心した。

カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その3
タクシー内での会話いる?いらない?(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

運転を生業にしているタクシーの運転手さんは、紙芝居のように人一倍、交通安全には気を付けなくてはならないし、お客様の人命が最優先事項の常に緊張を強いられる職業である。携帯電話のながら運転が禁止されているように、運転中は様々な情報(特に視覚情報)を認知・判断しながら操作しなければならないので、運転操作に無関係な会話は注意力を低下させかねない余計な外乱となる。もちろんサービス業なので、お客様との良好なコミュニケーションも大事なのだが、乗客の方も運転手さんに心理的負担をかけないように気遣う必要があるだろう。

さて、冒頭にタクシー=クルマの未来と紹介したが、ひょっとすると数年後にはタクシー内での会話がなくなるどころか、運転手そのものがいなくなるかもしれないのだ。やはりここで登場するのは自動運転の技術である。このブログでも自動運転については何度も話題にしてきたが、これまで話題になっていたのは、必要な時にドライバーの意志で操作に介入できるよう運転席にドライバーが乗車している、あくまで機械は人間の運転“支援”に徹する自動運転カーである。しかし自動運転といわれて真先に想像するのは、行先を伝えればその目的地まで連れて行ってくれるクルマのイメージだろう。それってタクシーと同じことではないか。自動運転でタクシーを実現しようとすると、運転手は乗っていない、つまり無人タクシーということになる(乗客は乗っているんだけどね)。僕が幼少の頃、切符を売るバスの車掌さんが機械に置き換わって「ワンマンバス」という言葉が生まれたが、紙の乗車券すらも不要となり、バスの営業運転を運転手一人で裁くのが当たり前となった今では死語である。いずれ「無人タクシー」とか「無人バス」といった言葉がブームになるかもしれないが、それらもいずれ消え去る運命かもしれない。

Google無人運転カー
Google無人運転カー[3]

無人運転(ドライバーレス)カーとして初めて世間の度胆を抜いたのは、Googleのそれだろう。なにせハンドルやブレーキペダルがないので、乗客にはいっさい事故責任は負いませんと宣言しているようなものだ。その背景にあるのは自動運転先進国アメリカの運輸省が、人工知能(AI)を法律上の「運転手」とみなす見解を示したからだ[3]。これによって、がぜん無人運転カーが注目されるようになった。完全自動運転を目指して各社が技術開発にしのぎを削るのは、いわゆるプライベートカーの量販効果を狙うための付加価値というよりは、ヤマト運輸のAmazon当日配達からの撤退に象徴されるように[4]、タクシーやバス、物流など既存の輸送サービスにおいてネックとなっているドライバーの人件費や労働負担などの部分が、無人化によって莫大な経済メリットを生む新しいビジネスチャンスと捉えているからだろう。



そこで無人タクシーや無人バスの事業化を想定した実証実験が各地で次々と試みられている。プライベートカーと違って公共交通であれば、移動範囲や経路もある程度限定できるので、技術的ハードルも小さいのかもしれない。特に熱心なのがシンガポール。新しモノ好きなシンガポールは世界随一の実験未来都市だ。昨年の8月、世界初となる自動運転タクシー試験サービスの運用を手掛けたのは、MITから独立分離した米国のベンチャー企業nuTonomy社。シンガポール陸上交通庁と提携し、なんと来年2018年には完全実用化を目指すのだという。利用されるクルマはルノーのEV、ZOEと三菱自のEV、iMiEV。実証実験ではnuTonomyのエンジニアが1名乗車するそうだが、来年からはお客さんだけで乗ることになる?(マジか)[5]。配車アプリによるライドシェアリングで有名な米国Uber社も、昨年末サンフランシスコで自動運転タクシーの実験を開始したが、カリフォルニア州交通当局との見解の食い違いで実験を中止している[6]。まだまだ社会のコンセンサスを得るのは難しそう。



我が日本ではどうか。横浜ベイスターズのオーナー会社でありネットサービスの運用を手掛けるDeNAが、一般向けのロボットベンチャー企業ZMP社と2015年5月、合併会社「ロボットタクシー」社を立ち上げ、2020年の事業化に向け、昨年2月から神奈川県藤沢でトヨタ・エスティマベースの自動運転タクシーの実証実験を開始して話題となった。ところが今年になって突然2社の提携解消を発表、DeNAは新たに日産とパートナーシップを結び、2020年までに無人運転による交通サービスプラットフォームの構築に向けたビジネスモデルなどを検証するのだという[8]。社長を退任する前のゴーン氏も2022-23年には無人タクシーが実現していると講演しているので[9]、DeNAとの協業もその布石なのだろう。色々コンプライアンス上の問題を起こしている三菱自とDeNAと手を組んで日産は大丈夫なのだろうか。

日本における無人運転カーの本当のニーズはこういうことかもしれないね。

出典:ある田舎町で愛される「1人のタクシー運転手」。彼が365日休まない理由とは?

自動車完成メーカーでは他にもBMWが米インテルとイスラエルのモバイルアイ社(※)と提携、2021年までに完全自動運転車を生産すると発表、GMは配車サービス大手リフトに巨額出資、無人タクシーの実験を始めるという。フォードは米国ベロダイン社(Googleカーの屋根でクルクル回っているセンサーの会社)に出資、イスラエルのAIベンチャー企業サイプスも買収し、無人タクシーをやるとは明言していないものの2021年までに完全自動運転車の配車サービスに供給するとアナウンスした。トヨタもUberとライドシェア領域における戦略的な協力関係をスタートしている。中国のGoogle、百度も米シリコンバレーに自動運転車の専門部門を設立、対するGoogleはフィアット・クライスラー社と組んで、自動運転車の公道試験を目論んでいるようだ[5][11]。無人にせよ有人にせよ、自動運転車分野で天下を獲るのはどこか?まさに群雄割拠の戦国時代である。

(※)自動運転化の技術に欠かせない高度運転支援システム(ADAS)市場において、単眼カメラで現在世界で搭載されているADASの80%以上のシェアを持つ、自動車産業おけるインテルに成り得るかも知れない企業[10]。

無人タクシーになっても、「ナイトライダー」の人工知能K.I.T.Tのように何の負担もなく、運転に集中しながらお客と上手に会話してくれる気の利いたAI運転手が乗っていれば、単なるサイレント空間ではなく、コミュニケーションの問題も解決してくれるかもしれない。彼ら先進テクノロジー企業に仕事を奪われ兼ねないタクシー業界は今後どうなるのだろう。全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)は昨年8月、トヨタと、“未来の日本のタクシー”の開発/導入に向けた協業を検討するための覚書を締結したと発表した。トヨタの持つユニバーサルデザイン技術、安全・利便技術、そして自動運転技術のタクシーへの活用を進めるというもの[12]。結果的にタクシー業界は仕事の場を失うかもしれないこのプロジェクト、トヨタが大お得意様である業界から何とかしてくれと泣きつかれたのだろうか。自動運転と既存のタクシー、普通に考えれば水と油の関係だが、どういうWIN-WIN戦略を考えているのだろう。50年前のこの紙芝居の世界からは想像もつかなかった時代がすぐそこまで迫っている。

[最後にもう一言]
この挿絵を見てふと思ったんだ。
カナリア・タクシー たかせ・たかしくん その6
初乗り100円の時代(『カナリア・タクシー たかせ・たかしくん』より)

自動運転ドローンタクシー、ドバイで7月にも運行開始へ

東京がタクシーの初乗り料金を下げたとニュースになっている一方で、海の向こうのドバイでは無人タクシーどころか空飛ぶドローンタクシーが実用化されようとしている。シンガポールも、以前記事にした宇宙ビジネスもそうだけど、日本と比べてこの経済が進むスピードとスケールの違いは何なんだ。nuTonomyにモバイルアイ、ベロダインやサイプス、Uber、リフトらに匹敵するようなテクノロジーやビジネスの潮流を生み出すルーキー企業が日本にいるだろうか。東芝みたいな会社が市場に居残るし、東京は五輪で大阪じゃまだ万博なんて言ってる。堺屋太一的発想から全く進歩していない。経済が旧態依然とした老舗大企業やイベントに支えられている日本に未来はあるのだろうか。



[参考・引用]
[1]信号のない横断歩道、歩行者が渡ろうとしても「止まらない」車9割 JAF調査、IT Media NEWS、2016年9月27日、
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1609/27/news085.html
[2]タクシー車内、会話不要? 乗務員が客に話しかけない「サイレンス車両」、試験運行中、乗りものニュース、2017年4月5日、
https://trafficnews.jp/post/67714/
[3]グーグルの自動運転車、人工知能が「運転手」 米運輸省見解、日本経済新聞、2016年2月12日、
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM12H0M_S6A210C1EAF000/
[4]ヤマト運輸、Amazonの当日配達撤退へ ドライバーの負担軽減で、濵田理央、ハフィントンポスト、2017年4月7日、
http://www.huffingtonpost.jp/2017/04/07/amazon_n_15854476.html
[5]世界初、自動運転タクシー試験サービス開始 シンガポールで米ベンチャー、Paul Sawers、日本経済新聞、2016年9月1日、
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO06696480R30C16A8000000/
[6]Uber、サンフランシスコでの自動運転車公道テストを中止、AP通信、IT Media NEWS、2016年12月22日、
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1612/22/news090.html
[7]無人タクシーが日本の公道を走る日は来るか、前田佳子、東洋経済ONLINE、2016年3月4日、
http://toyokeizai.net/articles/-/107849
[8]DeNA、ZMPと提携解消し日産に走る、明豊、日刊工業新聞ニュースイッチ、2017年1月6日、
http://newswitch.jp/p/7446
[9]日産ゴーン社長「2022~23年には無人運転タクシーが実現」…講演、池原照雄、レスポンス、2017年3月30日、
https://response.jp/article/2017/03/30/292846.html
[10]イスラエル発、世界シェア80%の高度運転支援システム、加藤スティーブ、ASCII.jp×ビジネス、2014年11月14日、
http://ascii.jp/elem/000/000/951/951267/
[11]米フォード、21年までに完全自動運転車 まず配車サービス向け、日本経済新聞、2016年8月17日、
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN17H0S_X10C16A8000000/
[12]トヨタが自動運転タクシーを開発へ、「タクシーの日」に協業発表、朴尚洙、MONOist、2016年8月5日、
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1608/05/news114.html
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