Beggar 293
出典:http://www.lazerhorse.org/2015/06/18/bagger-293-the-heaviest-land-vehicle-in-the-world/#

前回の続き。「想像を絶するクルマ界の巨象は何か?」の問いですが、答えはバケットホイールエクスカベーター(Bucket Wheel Excavator:以下BWE)という露天採掘(strip mining)に用いられる大型鉱山機械です。BWEの中でも旧東ドイツ人民公社だったTAKRAF社(現Tenova TAKRAF社)が1995年に製造し、現在はドイツ第2の電力会社RWE社が所有するBagger 293(MAN TAKRAF RB293やSRs8000型とも呼ばれています)が自走可能なクルマとしては史上最大となります[1][2]。高さは約100m、長さは200mを超える巨象、いや恐竜、怪獣、モンスターです[写真]。こうなるともうクルマじゃないですね。お恥ずかしい話、私は大学の資源開発工学科出身で一応鉱山機械も勉強したはずなのですが、BWEもBagger 293も最近まで知りませんでした。建機マニアにとっては良く知られているようですが、Google先生に聞けば、わんさか情報が出てきます。もちろん前回紹介した絵本の最初のページにBWE(ドイツ語ではSchaufelradbagger)が登場するくらい、ドイツの少年少女にとっては常識なのかもしれません。

では、なぜこのような巨大な鉱山機械がドイツで誕生したのでしょうか。BWEは約1世紀の歴史があり、サイズこそ変わりましたが100年前からほぼ同じ構造原理です。歴史でも習ったと思いますがドイツといえばルール工業地帯。その発展の原動力となったのが石炭です。今でこそ生産量は減少の一途を辿っていますが、それでもドイツは世界第8位の石炭大国です[3]。日本でも私が子どもの頃に住んでいた福岡県北九州市は、かつて日本四大工業地帯の一つに数えられていましたが、これも近くの筑豊炭田と鉄鉱石の産地である中国に近いという地理的条件によります。ただ同じ石炭でも筑豊の坑道掘りに対してドイツは露天掘り。そこで効率的に露天掘り作業を進めるために、いかにもドイツらしい合理的な機械が生まれたという訳です[4]。

ドイツの褐炭露天掘り
ドイツの褐炭露天掘り
出典:http://footage.framepool.com/ja/shot/712968304-tagebau-hambach-pit-coal-lignite-pit-hole

3.11以降、ドイツは脱原発に舵を切り、再生可能エネルギーにシフトしています。しかし気候に左右されやすい再生可能エネルギーは、安定供給という点において課題が残ります。そのため、石炭は温室効果ガス削減には不利となるエネルギー資源であり、ドイツの石炭は主に褐炭といって水分や不純物の多い低品質の石炭にも関わらず、石炭への依存度はむしろ高くなっているそうです。ドイツは天然ガス輸入の4割をロシアに依存しているのですが、ウクライナ問題以降、安全保障の観点から自前の資源が見直されていることも背景にはあるようです[4][5]。

上記のように褐炭生産が見直されているとはいえ、BWEの利用はドイツや東/南西ヨーロッパでの電力生産の目的に限定されていますし、露天掘りは環境破壊のイメージもあって、これから先、BWEの新しい需要はほとんど見込めないと思われます。従って、BWEの製造会社はTenova TAKRAFやSandvikなどドイツを中心にわずかに存在する程度で、現在はメンテナンスや改修プロジェクトからいくらかの収入を得ているものの、他の目的のための大きな鋼製部品も製造しているのが現状のようです[6]。Bagger 293を超えるような規格外のクルマは、今後はもう現れることはないのでしょうね。何か太古の大型恐竜絶滅と重なって見えてしまいました。

Bagger 293の構造
Bagger 293[7]

それではそのBWEの構造や機能[7][8][9]、驚愕なスペックを調べてみましょう。上図はBagger 293の側面図です[7]。ちょっと特許明細書の記述のようになりますが、左側の丸い1は18個のバケット(ショベル)が回転するバケットホイール部で、6のケーブルウィンチによって上下します。バケットの鋭利なブレードが石炭層に食い込み、トラック1台分の石炭を破砕しながらバケットですくいます。バケットがホイールの最上部に到達すると石炭は2のベルトコンベア橋に落下し、メインユニット8に運ばれます。3はバラストブームで1と2に対するカウンターウェイトの役割を果たします。9は8基のクローラー式車台、その上に載るメインユニットが回転することで、1のバケットホイール部も横に移動しながら石炭層を削っていきます。10はメインユニットからさらに後方へ伸びた別のベルトコンベア橋で、メインユニットを経由して流れてきた石炭が、ベルトコンベア橋と連結した4基のクローラーを持つ積載台車11に落とされます。小型のBWEならば、積載台車の代わりに大型ダンプトラックの荷台に石炭が積み込まれ運搬されることになりますが、絵本ではこの積載台車から更に数キロメートル離れた発電所まで伸びるベルトコンベアによって、火力発電のために燃やす石炭が運ばれる様子が描かれています(下図)。

BWEの構造と機能
BWEの構造と機能(“Wir entdecken die Riesenfahrzeuge”より)

本書ではこの疲れ知らずのBWEを操作するのに、4人のオペレーターで一日4万人分の働きをすると説明されています。この巨艦をたった4人でコントロールしていることには驚かされますが、Bagger 293はオペレーターが5名必要なので、この挿絵は同じくドイツのKrupp社が1978年に完成させたBagger 288ではないかと思います。Bagger 293は全長225m、全高96m、全幅45mで総重量は14,200t。Bagger 288の方は全長220m、全高96m、全幅45mで総重量は12,840tというケタ外れの諸元です。いずれもバケットホイールの直径は21.6mでバケット単体の採掘量は6.6m3、一日当たりの総採掘量は240,000m3にもなります[1][2]。

Bagger 288
Bagger 288[1]

調べていて気になったのですが、Bagger 293や288の全長は資料によっては220-225mだったり[1][2]、240mだったり[9][10]と記載がまちまちです。そもそもBWEの全長はどこからどこまでの長さをいうのでしょうか。もちろんBWE に関する専門資料を持ち合わせないので、Google先生であちこち探してみましたがどこにも定義の記述がないのです。でもヒントになる資料は見つけられました。

BWEの全長はどっち?
BWEの全長の定義とは?[11]

この図はポーランドのSKWという会社の小型BWE、KWK-910の側面図です[11]。BWEはメインユニットの回転中心から時計の針のように左右にベルトコンベア橋が伸びた基本構造で、一方にバケットホールが、一方に積載車両への投入口が付いた構成になっています。図面を見る限り、この2つのベルトコンベア橋の回転半径を足した長さ(30+34m)がどうも全長と定義されているようなのです。つまりバケットホイールの中心から積載車両への投入口までの長さということになります。そうであれば、Bagger 293の全長が225mだったり240mだったりする理由がわかります。前者は上記の仮説に従った長さ、後者は本当に端から端までの長さということです。あくまで推測なので、正しい情報をご存じの方は是非教えてください。いずれにせよ、Bagger 293や288を縦に立てると、新宿高層ビル街のような風景になるのでしょう。単純に全高だけでもここ横須賀一、二の高層ビル並みです。

Google Mspで見えるBWE
Googleマップでも見えてしまうくらい巨大なBWE
https://www.google.com/maps/@51.0613938,6.4982211,324m/data=!3m1!1e3?hl=en
モンスターマシン
Begger 288と普通乗用車の比較
出典:https://newtechnohub.wordpress.com/2014/04/20/bagger-288-excavator-the-worlds-largest-excavator/

車速は最大分速10mで(こんなのが時速何十kmも出たら怖い)、Bagger 288は2001年にドイツ西部のハンバッハ炭鉱から22km先のガァツワイラー炭鉱まで3週間かけて移動したそうです。移動には1,500万マルクと70人の作業員を要したのだとか。Bagger 293は現在もハンバッハ炭鉱で働いています[1]。定格出力は293で19,000kW[9](288は16,560kW[1])のようですが、バケットホイールやこれだけの車両を動かす動力源はさすがに外部電力の供給を受けます。定常運転時でも16MW(=16,000kW)のパワーが必要で、一般家庭の年間消費電力が5,500kW程度だと考えるとそのエネルギー消費量にも驚かされます[12]。これだけのエネルギーを消費して、発電のための石炭を掘削して発電所に送る。何のための仕事なのか意味がわからなくなってきました。



ところでBWEを調べていたら、とんでもないおもちゃの存在を知ってしまいました。それが昨年8月に発売されたレゴの新しいモデル42055です。幼児向けというよりは大人向けの上級者モデルであるレゴテクニックから、このBWEが商品化されていたのです。293にあやかってなのか、こちらもレゴ史上最大のサイズ(全長76cm、全幅26cm、全高40cm、重量3.5kg)にして最大のパーツ量(3,929ピース)を誇るのです。1モーターで、実物のようにクローラーも動きますし、土石に見立てたパーツをバケットホイールでかいて、コンベアに流して付属の大型ダンプトラックに積載することができます。レビュー記事[13][14][15]を見たとたん「欲しい…」と思いました。でもAmazonで25,000円強はとても我が家の財務省許可は下りません(誰かみたいに忖度してほしい)。また、前回紹介した世界最大の油圧ショベルカー、CAT 6120B HFSを組み立てたMOC(My Own Creation、オリジナル作品)の紹介記事を見つけました[16]。もう、スゴすぎます。





最近名古屋に開園したレゴランド・ジャパンがいろいろな意味で話題になっていますが[17]、高いと酷評された入場料を家族4人分払うくらいならBWEのキット42055を買ってまだお釣りが来ます。レゴランド・ジャパンは2歳~12歳の子どもを持つ家族をメインターゲットに据えているそうですが[18]、そもそもその設定自体がズレているように思えるのは私だけでしょうか。上記のBWEモデルや自作のCATショベルカーなど、ネットで調べてみてもわかるとおり、大勢のいい大人がレゴに夢中になっていますし、彼らマニアなファンがレゴを支えているといっても過言ではありません。もちろん小さいお子さんも楽しめることが重要ですが、そもそも高額のおもちゃですから、昔買えなかった大人が子どもをダシに大人買いして自分が楽しんじゃっているところがあります。廉価な国産のダイヤブロックしか買ってもらえなかった私もそうでした。でもそうやって子供たちもまたファンになります。中学生の息子もまだ時々遊んでいます。だから子どもだけでなく大人も十分楽しめることが、レゴテーマパークの成功の鍵だと思うのですが、レビューを読む限りそういう感じでもなさそうです。

レゴランド・ジャパン
レゴランド・ジャパン
出典:https://jouhou.nagoya/legoland-japan-report/

また、レゴの醍醐味は自分で作る(創る)ことなので、出来上がったブロックをただ見せられても楽しみは半減です。自分が組み立てた作品もどんどん追加されてパークの一部になるとか、モデルの作り方を学べるワークショップもあるようですが[19]、多分子ども向けなので上級者も満足するように技も充実させたり、レゴクリエイターを呼んでMOC作品の紹介の場なんかもあると良いなと思います。また、ここでしか買えないオリジナル商品や復刻版を販売するとか(各種パーツが買える公式ショップが欲しい)、ここで人気となったMOCアイデアがまた新商品になるといった新しいビジネスに繋がる工夫もあると良いですね。

普段は動かないレゴにモーションを与えることもファンの楽しみの一つですから、ここ限定のレゴムービー上映館があるというのも一つの客寄せになるかもしれません。ミニチュアの街並みにしても、小さなレゴの世界に自分も入り込めたらなあと夢想する人も多いと思います。そんなことがバーチャルに体験できるといったことが最先端技術を使ってできないでしょうか。現状を知る限り、オーナーはレゴの可能性を十分理解していないように思えます。はっきり言って、作っては壊せるレゴの世界観は施設定置型の遊園地には向かないので、遊び提供型のテーマパークではなく、むしろ入場料を安くしてファンの方が自由な発想で楽しみを広げられ、クリエイトできる参加型・能動型の場にした方が良いと思いますね。私の稚拙な提案より、コアなファンから意見を募ればもっと良いアイデアが出るでしょう。ちなみに、レゴランド(LEGOLAND)は一部LEGO社が投資しているものの、過去の経営不振時に投資会社に売却されたので[20]、LEGO社とは基本無関係、レゴブロックの本質をわかっていない夢のない大人たちが作ったテーマパークなのではと心配になります。でなきゃ、もう少しまともにファン目線のコンセプトを考えたと思いますが、名古屋に行ったらトヨタ博物館とレゴランドに行きたい、と思わせるようなテーマパークになって欲しいと今後を期待します。後半はちょっと話が逸れてしまいました。

フェロポリス
究極のテーマパーク、BWEの聖地「フェロポリス」
出典:巨大な5基のモンスター掘削機が鎮座する、ドイツの野外産業博物館「フェロポリス」

私の子どもの頃は高度経済成長期で、「大きいことはいいことだ!」といったCMコピーが話題になるくらいスケールのでっかいことが良しとされるイケイケの時代でした。BWEもその頃から巨大化が加速していったのでしょう。今は中東や中国にそれに似たようなマインドを感じます。大きいことは大昔から富や権力の象徴でしたが、省エネ・省資源時代の今の世界の流れからは逆行しているように見えます。オリンピックもコンパクトな開催が求められ、手を広げ過ぎた巨大企業・東芝も「事業拡大が良い経営」と思い込み過ぎたのだと思います。ユーザーがクルマを“保有する”前提での「1000万台クラブ」の論理がいつまで続くのか、自動車業界の未来も心配になります。BWEのような巨大重機は、その姿カタチも含めて、特に男の子の好奇心をくすぐりますし、個人的にも大好きな世界観です。しかし、これからは大きいだけの存在はエネルギー・資源の無駄と、無視され消えてゆく運命にあるのだと思います。前回、新人君たちには「世界一」を目指せと偉そうに書きましたが、是非もっと違う価値観で世界一を創造して欲しいと願います。





[参考・引用]
[1]バケットホイールエクスカベーター、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC
[2]Bagger 293、Wikipedia、
https://en.wikipedia.org/wiki/Bagger_293
[3]世界の石炭生産量ベスト10、なんでもベスト10、2015年5月15日、
http://nandemobest10.seesaa.net/article/418982239.html
[4]ガンダムの327倍もあるウルトラ・メガサイズの重機、黄金の国ジパング、2017年1月6日、
http://golden-zipangu.jp/german-machine0106
[5]脱原発ドイツ進む石炭依存、毎日新聞、2014年5月10日
[6]Bucket-wheel excavator、Wikipedia、
https://en.wikipedia.org/wiki/Bucket-wheel_excavator
[7]B.Schlecht,C.Schulz:Untersuchung und Optimierung des dynamischen Verhaltens von Schaufelradantrieben:p7, AKIDA 2010. Aachen, 17./18. November 2010、
http://www.fdbi.org/index.php?article_id=13&fileName=abschlussbericht_srad_dyn_18_03_14.pdf
[8]BUCKET WHEEL EXCAVATOR GEARBOX (O&K 1420) & DYNAMIC STEEL STRUCTUE、S.ARUN KUMAR、2014年9月15日、
https://www.slideshare.net/arunbrowley/bucket-wheel-excavator-gearbox-ok-1420-dynamic-steel-structue
[9]Grossgerätesimulator bei RWE Power、Robert Mittmann、p27-42、VIRTUAL REALITY – MENSCH UND MASCHINE IM INTERAKTIVEN DIALOG、Gastvortragsreihe Virtual Reality 2010、
http://www.iff.fraunhofer.de/content/dam/iff/de/dokumente/publikationen/gastvortragsreihe-virtual-reality-2010-tagungsband-fraunhofer-iff.pdf
[10]Schaufelradbagger、thyssenkruppホームページ、
https://www.thyssenkrupp-industrial-solutions.com/de/produkte-und-services/mining-systems/schaufelradbagger/
[11]Excavator KWK-910、SKWホームページ、
http://skw.pl/en/portfolio/excavator-kwk-910/
[12]総重量14,200トンでギネス認定!人類史上最大の自走機械はもはや動く建造物!?、CarMe、2017年1月6日、
http://car-me.jp/articles/1394
[13]生半可な覚悟じゃ無理。LEGO史上もっとも複雑な「バケット掘削機」組み立てレビュー、GIZMODE、2016年10月18日、
http://www.gizmodo.jp/2016/10/building-legos-gigantic-motorized-excavator.html
[14]何じゃこりゃ!?2016年8月登場のレゴテクニック新製品はバケット掘削機!、新米パパの子育てエブリデイ、2016年6月7日、
http://shinmaipapa.hatenablog.com/entry/%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF2016%E5%B9%B48%E6%9C%88%E6%96%B0%E4%BD%9C
[15]レゴ(LEGO)テクニック史上最大 「バケット掘削機(42055)」のレビュー、あることないこと日記、2016年9月3日、
https://terutakke.com/diary/review-of-lego-42055-%E2%80%8E/
[16][MOC]F RC CAT 6120B Hfs Mining Shovel - Technic Figure Scale、shineyu、Eurobricks UNTINING TECHNIC FANS AROUND THE WORLD、2017年1月3日、
http://www.eurobricks.com/forum/index.php?/forums/topic/145484-moc-f-rc-cat-6120b-hfs-mining-shovel-technic-figure-scale/
[17]【衝撃】バナナマン日村も笑うしかなかった…OPEN2週目。レゴランドが超大変な状態だと話題に。更新中、NAVERまとめ、2017年4月15日、
https://matome.naver.jp/odai/2149118891234896901
[18]レゴランドの「物足りなさ」は計算づくだった マダム・タッソーの運営会社が描く戦略は?、東洋経済ONLINE、2017年4月1日、
http://toyokeizai.net/articles/-/165866
[19]名古屋にレゴランドジャパンがオープン!何が楽しめる?、AirTrip、
https://www.airtrip.jp/column/?p=1109
[20]レゴランド、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89

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