男と女 un homme et une femme

きのう、横須賀中央に用があって、お昼をお気に入りのカフェで過ごしたんだ。そこで若いマスターと年配の常連さんが映画の話をしていた。僕も好きな『カサブランカ』のね。で、マスターは「今バーグマンに会っても恋しないけど、『男と女』のきれいな女優さんなら惚れちゃうね。なんて名前だったかなあ…」みたいな会話をしていた。常連さんも名前が思い出せない。聴き耳立てていた俺も覚えていない。家に帰った深夜、久しぶりに『男と女(原題”un homme et une femme”)』をDVDで観た。アヌーク・エーメ(Anouk Aimée)だった。

Anouk Aimée
Anouk Aimée
出典:http://www.learnaboutmovieposters.com/newsite/STILLS/A/AimeeAnouk/AimeeAnouk.html

当時29歳だったクロード・ルルーシュ監督を世に知らしめた名作。フランシス・レイのテーマ曲、ダバダダバダを知らぬものはいないだろう。ちょうど映画を観ているときに予備校から帰って来た高2の娘も「フランス映画?」と言いながらメロディを口ずさむ。「この曲知ってんのか?」「うん」

男と女 その0

ストーリーはいまさらだが、簡単に要約するとこうだ。パリ郊外にある寄宿舎に子どもを預ける二人の男女の恋愛物語。男の子の父親はカーレーサー。真っ赤なオープンのマスタングに乗って登場する。おカネも女にも不自由しない、まあ遊び人の男だ。女の子の母親(これが冒頭、マスターの惚れるアヌーク・エーメ)は映画制作のスタッフとして働いている、どこか影のある女。お互い週末を子どもと過ごし、再び寄宿舎に訪れたときに二人は出逢い、恋に落ちる。

ただ二人とも複雑な過去を持つ。女の夫はスタントマンで、撮影中事故で亡くなった。男の妻はレーサーのパートナーである宿命だろう、常に精神が張り詰める日々、夫がル・マンの事故で意識不明の重体になったとき、錯乱して自殺をしている。そう、これは流行りの不倫ドラマではないのである。でも彼らの絶ち切れない過去が、この恋愛ドラマの伏線となってくる。

君の名は 元祖君の名は
今どきの恋愛ヒット映画はアニメ(右は元祖『君の名は』)

俺は恋愛博士でないから気の利いたことは書けないが、恋愛映画の金字塔と言われるこの50年前の名作に、特に今の『君の名は』(おじいちゃん、おばあちゃん、岸惠子と佐田啓二の映画じゃないぜ)に共感するような若い人には理解できない部分もあるかもしれない(といいながら『君の名は』はどんな映画かも知らない)。現代風に作れば、さしずめ離婚した子持ち男女のラヴストーリーになるだろう。そうなるともっとドロドロした過去だとか、逆にそんな昔のパートナーのことなんて引きずらないサバサバした映画になるんだろう。もっと言えば「男と男」「女と女」というタイトルの方が今風だ。まあ人によって、経験によって色々捉え方があるのが恋愛モノなんだろうね。ただ、女に(電報で)告られて、出場したラリーカーでモンテカルロからパリ郊外まですっ飛ばして来るなんて、ただやりてえだけだろうと男の単純バカさ加減は今も昔も普遍的な気がする。

余談だが、この主人公の男女とその子どもたち、ちょうど当時の両親と俺の年齢に重なるんだよね。そう思って親父とお袋はどういう恋愛してきたのだろう?(両親は見合いだけど)ってイメージするとなんだか興ざめしちゃって…(笑)。それだけ古い映画ってこと。

男と女 その1

不得手な恋愛論はこれくらいにして、私的には本作が恋愛映画の名作か否かよりも、クルマの映画としては不朽の名作であることに興味がある。冒頭、男が愛車の助手席に乗って、ハンドルを握る誰かと話をしている。カメラが引きのアングルになると、ドライバーが彼の息子だとわかる。幼稚園児か小学校低学年くらいの男の子だ。シフトチェンジは無理だから、おそらくローギアにして運転させているのだろう(追:初代マスタングはオートマだったね)。前にも書いたけど、おいらの田舎の同級生にも、小学生にして既にクルマの運転を経験していたヤツがいた(A.セナも8歳の時、ノークラッチで運転している。「アイルトン・セナ 時速300キロの世界で戦う音速の貴公子」より)。今じゃ逮捕だけど(まず映画撮影も無理だろう)、半世紀前はこんな風にのんきな時代だったんだ。

男と女 その2

男がクルマで女をパリに送るシーン。モノクロで正面からほぼカット割りなしで二人の車内での姿が流れる。10分くらい続くかな。人によっては間延びしたシーンに映るかもしれないが、これはルルーシュ監督の計算された演出なのだとか。二人の会話はほとんどアドリブなのだそうで、閉ざされた空間で出逢ったばかりの男と女のきごちないやりとりや沈黙にリアリティがある[1]。

ところでこの映画は、モノクロとカラー映像が頻繁にスイッチする。現在進行がカラーで、回顧シーンがモノクロという王道の演出かと思いきや、どうもそういう法則に従っていないことがわかる。で調べてみると、単に予算がなかったからという理由らしい[1]。カネがない方が新しいものをクリエイトできる。

男と女 その3

男と女 その5
ル・マン式スタート(規定エリアでスタートを待つドライバー)
男と女 その4

そしてクルマの登場するシーンの数々。フォードのオーバルテストコースで男の運転するGT40。男の妻を回想するシーンでは、昔ながらのル・マン式スタートで乗り込む24時間耐久レースが登場したり、男が出場する第35回ラリー・モンテカルロも、前述のように地理的に重要な場面設定だったりして、クルマ好きにはたまらない。ル・マンもモンテカルロも実際の映像を使っていると言う[2]。そういえば、ル・マンの実況放送でグラハム・ヒルの名前も出ていた。このルルーシュという監督、相当なエンスーなのだそうだ。1976年、彼は夜明け前のパリ市内をスーパーカーでかっ飛ばしたノンストップ走行の短編映画を製作して大ヒンシュクを買ったことがある。サウンドはフェラーリ275GTBの後載せなのだが、実際にはメルセデスベンツ450SEL6.9にカメラをマウントして、走行・撮影したらしい[3][4]。こんないつまでも子どものようにクルマではしゃぐもんだから、男は女には理解不能のバカだと言われるんだろうな。

Claude Lelouche
Claude Lelouche
出典:http://mitteleuropa.x10.mx/filmlocations_rendezvous.html

そういえば最近の恋愛映画で、クルマが重要な脇役として使われているものってどれくらいあるのだろう?昔の映画ならば重要なツール、煙草のシーンもふんだんに出てくる。アヌーク・エーメがくゆらす姿も艶っぽかった。レストランで、子どもたちの前で吸うシーンだから、今ならそのスジの方から大批判を受けること間違いなし。健康マッチョな映画なんて面白くもないし、私はそんな表現の自由に対するファシズム的な風潮が大っ嫌い。



さてこの『男と女』は1966年の作品だから、昨年ちょうど50周年だった。二人のその後を描いた『男と女2』って映画もあるんだけど(まだ観てないっす)、オリジナルの方は製作50周年記念に昨秋デジタルリマスター化されたものが公開されていたこと知らなかった。今回、購入したばかりの4Kテレビでみると、フィルムの傷や汚れ、字幕文字のギザギザ感が目立つようになって、映像も美しい本作だから、是非ブルーレイ化を望みます。Amazonで調べたら、私の持っている古いDVD版が2万近くという異常な高値になっているのはなぜ?もう再販されないってこと?

P.S.この映画のもう一つの楽しみである音楽。テーマ曲もそうだが、ブラジル音楽好きとしては女の夫が歌うサンバが良いのだよ。夫役・ピエール・バルーの歌う「サンバ・サラヴァ(Samba Saravah)」[5]。

こっちは大好きなシンガー、Stacey Kentの歌うこれまたフランス語の同曲。チャーミングな歌声がたまらん。







[参考・引用]
[1]映画『男と女』あらすじネタバレ結末と感想、MIHOシネマ、2016年7月7日、
http://mihocinema.com/otoko-onna-16604
[2]男と女、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B7%E3%81%A8%E5%A5%B3
[3]【ビデオ】夜明け前のパリをアクセル全開で駆け巡る! あの名作がブルーレイで蘇る、Jonathon Ramsey、autoblog、2013年1月9日、
http://jp.autoblog.com/2013/01/08/c-etait-un-rendezvous-coming-to-blu-ray-w-video/
[4]突如釘付けにされた短編映画。クロード・ルルーシュのランデブー、GreatDrive、2015年8月19日、
http://www.z-pro.jp/great/?p=1171
[5]サンバ・サラヴァ 和訳 映画「男と女」 解読 ピエール・バルー、パワーストーンの真実。、
http://seiunsha-co.com/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%90%EF%BD%A5%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A1-%E5%92%8C%E8%A8%B3-%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%80%8C%E7%94%B7%E3%81%A8%E5%A5%B3%E3%80%8D-%E8%A7%A3%E8%AA%AD-%E3%83%94%E3%82%A8/
[4]Un homme et une femme, Movie, 1966、IMCDb Internet Movie Cars Database、
http://www.imcdb.org/movie_61138-Un-homme-et-une-femme.html
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