真鍋博の鳥の眼

今年は酉年。これは昨年、とある古本屋で英世さん1枚でお釣りがくる値段で手に入れた日本イラストレーター界の巨人、真鍋博氏の『鳥の眼』(毎日新聞社)。昭和43年(1968)に出版された古い本で、昭和42年から43年にかけ当時の「サンデー毎日」に連載された、毎日新聞社本社の飛行機で日本列島5万kmを飛んで描いた真鍋版鳥瞰図による明治100年(おっと来年は明治150年のアニバーサリーイヤーだぜ)の記録である。なかなか市場に出回らない真鍋氏の著作であると同時に、右肩上がりで発展し続けていた半世紀前の日本の様子を知ることができる非常に貴重な資料でもある。

鳥の眼その1
霞が関~皇居に向かって(『鳥の眼』より)
鳥の眼その2
霞が関~特許庁旧総合庁舎(『鳥の眼』より)
現在の霞が関ビルからの眺望は、以下のブログより眺められます。
http://blog.goo.ne.jp/wagaomhi/e/48751950b096eb98705111e80db1c086
http://keystonesapporo.blog.fc2.com/blog-category-19.html

鳥の眼第一発は霞が関ビルディングから見下ろした東京絵図二景。霞が関ビルは本書初版の1968年にオープンした日本初の超高層ビル。高度経済成長期の日本を象徴する建築物だ。一景目の右下には昭和初期の雰囲気漂う特許庁旧総合庁舎が見える。現庁舎への建て替えは1986年に着工、89年に竣工している[1]。ちょうどそのころ現在の勤務先に入社した私は、初めての特許調査で特許庁の公報閲覧室に先輩と出張した。多分、仮庁舎だったと思うのだが、インターネットも、もちろん電子公報も無い時代。丸一日、指サックで手めくり調査をしたことを思い出した。エンジニアのご同輩、諸先輩方にはお分かりかと。

鳥の眼その3
小倉(『鳥の眼』より)
鳥の眼その4
小倉~勝山公園のジェットコースター(『鳥の眼』より)

興味深かったのは、当時住んでいた北九州・小倉と、実家のある福岡の鳥瞰図。「福岡人志」でも紹介したように小倉城のある勝山公園内にはかつてジェットコースターが存在していたことを証明している。老舗デパートの井筒屋と玉屋の間には、よくクルマで買い物に出かけたダイエーがまだ建設中になっていた。

昨年、駅前道路の陥没で大騒動となった博多駅周辺は、駅ビル以外ほとんど何もない更地だったことがわかる。当時の写真からもそれは確認できた。

鳥の眼その5
福岡(『鳥の眼』より)
鳥の眼その6
福岡~博多駅から板付(福岡)空港(『鳥の眼』より)
昭和42年当時の博多駅空撮画像をみると確かに何もない。駅前はもっと大都会の記憶があったのだが。
http://c.nishinippon.co.jp/photolibrary/cat/201607_0116.php
現在の同じ俯瞰はこんな感じ。
https://www.photolibrary.jp/img215/7527_1505419.html

鳥の眼その7
江ノ島(『鳥の眼』より)
江ノ島2011
江ノ島(シーキャンドル展望台から2011年8月15日撮影)
鳥の眼その8
江ノ島~旧江ノ島灯台(『鳥の眼』より)
新旧江ノ島灯台
旧江ノ島灯台
出典:https://www.enoden.co.jp/train/museum/memoirs/chapter-3/story-1/

勤め先への通勤経路である江ノ島も描かれている。江ノ島名物である灯台(シーキャンドル)が現在の姿になったのが2003年。当然、本書では1951年に設置された旧灯台の姿で描かれている[2]。個人的には新旧両灯台ともデザインは気に入っていない。もうちょっと周囲の歴史ある風景と馴染むようなモニュメントにできなかったのだろうか。好き嫌いは別として、日本には塔建築の文化もあるし、古都鎌倉に連なる江ノ島には『千と千尋』に出て来そうな雰囲気もあるから、伝統建築をベースにした灯台デザインもあったかなと思うのである。日本には優秀なプロダクトデザイナーや建築家が巨万(ごまん)といるのに、こと現代都市のデザインはヒドい。都市景観を俯瞰できるプロデューサーがいないのだよね。本書を見て読んで感じたことは、この半世紀で日本の風景は鉄とコンクリートだらけに豹変してしまったということ。

千と千尋 油屋
例えば「千と千尋」の油屋みたいな灯台とか。
出典:http://quampaney.exblog.jp/11966213/

ところで私の愛車エクストレイルのナビシステムには、“スカイビュー”なる表示モードがある。2次元地図(ノーマルビュー)を鳥瞰図化した3次元立体表示で、他にもメーカによってバードビュー、バーチャルビューといった言い方をする。これらは、1995年に日産が世界で初めてカーナビ表示に鳥瞰図を採用したバードビューナビゲーションシステムがオリジンになっている[3]。愛車のナビは純正ではなくディーラーオプション品なので“バードビュー”ではなかった。ちなみにスカイビューは㈱ナビタイムジャパンの登録商標[4]。

このブログでも通勤時での江ノ島の遠景の美しさに何度か言及しているが(「変わりゆく季節、変わりゆく風景」「果てしなく続くストーリー」参照)、普段は使わないこのスカイビューで江ノ島や富士山は俯瞰できるのか試してみたことがある。その時の写真が以下である。(いずれも停車時に撮影したものです)

スカイビューその1
逗子海岸に入る手前の長柄交差点ではこんな感じ。
スカイビューその2
七里ガ浜。そろそろ見えてきてもよさそうな…
スカイビューその3
そして、はっきりと江ノ島の見える江ノ電鎌倉学園高校前付近では…えええーっ!
変わりゆく季節、変わりゆく風景
こんな風に表示して欲しかったのだが…

そう、鳥瞰図ではあるが2Dの地図データを傾けただけのこんな感じ。確かに海の方向がどっちかは直感的にわかりやすいが、富士山や高いビルといったランドマークの方角はわかりにくく、実際の風景をバーチャル化したものではなかった。もちろん、リアルな風景を再現できるハイグレードなカーナビも存在するが、当然データサイズも大きくなるので廉価なカーナビシステムでの対応は難しい[5]。技術の進歩でいずれそれも当たり前の世界になるだろうが、そうなると立体表示のデザインや味付けで差別化を図っていくのだろうか。真鍋博のイラストのような3Dナビがあれば楽しいな。

最新「WAREM Light」を使って表現した3Dマップ
こんなナビ表示も、やろうと思えばできる[5]

昨日の朝のニュース番組を観ていたら、東京都知事・小池百合子氏の都職員への年頭訓示と、ここ横須賀が地元の代議士、年男の小泉進次郎氏の今年の目標に、奇しくも「鳥の眼(目)」というキーワードが使われていた。いずれも木を見て森を見ずにならぬよう、鳥の眼で全体を現状を俯瞰しようというメッセージだ。私も組織人の一人。組織の中で働くと、往々にして「虫の目」になりがちだが、タカの眼にせよハトの眼にせよ、遠く先を見渡す大局的な視点が今の日本には必要なことなのだと思う。もちろん、「虫の目」も必要なんだよ。昨年ノーベル賞を受賞した大隅博士は、「鳥の眼」でオートファジーの可能性を予感し、「虫の眼」「ミクロの眼」でその作用を解き明かした。俯瞰する眼ととことん観察する眼、この両方があって独創は生まれる。もう一つ、本書は「鳥の眼」に関する重要な示唆を与えてくれる。それが真鍋氏のあとがきに書かれている。

「都市化と情報化は人間にテレビの眼鏡をかけさせ、人間を輸送品にし、同じ味付けの食事を食べさせる。しかし速度は遅くとも鳥の翼で飛べば軒先や塀の上から自然や四季やまだまだ残されている風土や味や営みを見つけることができる。連載・鳥の眼はメカニズムや科学の眼ではなく、生き物の眼の偉大さを僕にはっきりと教えてくれたのである。」

真鍋氏の心眼。この本は大切にしようと思う。

鳥の眼その9
日本アルプス~このデザインセンスが流石です(『鳥の眼』より)




[参考・引用]
[1]特許庁総合庁舎、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E8%A8%B1%E5%BA%81%E7%B7%8F%E5%90%88%E5%BA%81%E8%88%8E
[2]江ノ島灯台、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E3%81%AE%E5%B3%B6%E7%81%AF%E5%8F%B0
[3]バードビュー®ナビゲーションシステム、日本の自動車技術240選、自動車技術会ホームページ、
http://www.jsae.or.jp/autotech/data/14-1.html
[4]商標について、ナビタイムジャパン ホームページ、2016年3月1日、
https://www.navitime.co.jp/pcstorage/html/trademark/
[5]データサイズを1/10にコンパクト化、ジオ技術研究所の3Dマップ「WAREM Light」、会田肇、Response、2015年7月17日、
http://response.jp/article/2015/07/17/255919.html
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