ポケモンGOはイノベーティブなのか?

Don't Pokemon and Drive.
出典:http://www.visordown.com/motorcycle-news-general-news/%E2%80%98don%E2%80%99t-pok%C3%A9mon-and-drive%E2%80%99-warn-police

日経BP社が主催するイベントに「日本イノベーター大賞」というものがある。日本の産業界で活躍する独創的な人材にスポットを当てることにより、日本に活力を与えようと2002年に創設された賞で今年が15回目。16日に東京で表彰式があったそうだ。この中の「ソフトパワー賞」を、スマホアプリ『ポケモンGO』を共同開発した㈱ポケモン社長、石原恒和氏と米ナイアンティック社CEO、ジョン・ハンケ氏が共同受賞した[1]。僕はデジタルゲームをほとんどしないし、ポケモン世代であり、ゲーム好きのうちの子たちですらこのポケモンGOは全く刺さっていなかったので家庭内で話題にもならず、このアプリの独創性についてコメントできる知識も経験も持ち合わせない。しかし、アメリカから端を発し、日本を含め世界的にブームとなったこのゲームが社会に及ぼしたインパクトは誰もが認めるところである。[2]の記事のように位置情報とVR(ヴァーチャルリアリティ)技術の組み合わせで「世代を超えたコミュニティの変化」や「場(地域)に新しい価値(※)」を与えたという意味では確かにイノベーティブだったのだろう。一方で、そのキャラクターの特徴から人をほんわかと幸せにしてくれるはずのこのゲームが、人の人生を狂わせてしまう一面も持つことが浮き彫りになった。それが私の愛するクルマと絵本の主たる読者である子どもたちに影響を及ぼすとなると看過することのできない問題だ。

(※)ここ横須賀も市長自ら「ヨコスカGO宣言」まで出しちゃってポケモンGO人気に便乗、町興しに活用している[3]

ポケモンGOが登場した当初からその功罪は議論されていた。日本での配信が決まってからも、このゲームに熱中することによるトラブル、特に交通事故の危険性が指摘された。案の定、これまでに自動車運転中のポケモンGO操作に起因する国内死亡事故は、15日現在で3件発生[4]。10月26日に愛知県一宮市で発生した死亡事故は、横断歩道を渡っていた小学4年生が、ポケモンGOを操作しながら運転していたトラックに轢かれた完全に前方不注意が原因の事故であり、被害者も小学生ということで社会に衝撃を与えた。ドライバーは運転中にポケモンGOアプリを常態的に起動しており、この時も前を見ていなかったというから、これはもう単なる過失というより確信犯、危険運転致死傷罪が適用されてもおかしくないと思う[5][6]。小学4年生といえば、最もポケモンにハマる世代だ。ポケモングッズを持っていただろうし、ポケモンGOで遊んでいたかもしれない。その子どもたちがポケモンによって未来を奪われる。何ともやり切れない事故である。

一宮警察はこの事故後から11日までに、運転中のスマホ利用者80人を摘発し、うち6名がポケモンGOを操作していたという[7]。また岡山では観光バスの運転手がポケモンGOを操作しながら乗務していたことが発覚した[8]。スマホはGPSで位置情報が取れるのだから、多少通信遅れがあっても移動速度はおおよそ計算できる。ならば一定速度以上でアプリを起動できなくすればよいではないかと容易に思いつく。そこは運用会社も想定していて、ポケモンGOには移動中の車内など、一定以上の速度を感知するとプレーを制限する機能が付いていた。しかし「私は運転者ではありません」という表示を押せば、制限の一部は解除されるというほぼ無意味な設計となっていた。やはりというか一宮事故の加害者は、この制限を解除していたらしい[9]。

もちろん悪いのは、運転中に法律を無視してスマホを使っていた人間だし、アプリ開発者・運用者側に法的な問題はない(「ポケモンGO」利用規約に仕組まれた"ワナ")。だけど、制限解除など容易に想定はできる訳で、とりあえず「予防対策は打っている」姿勢だけ見せるようなザルな対応ではなくて、企業倫理として事故を未然に防ぐ強い意志を見せることはできなかったのか。少なくとももう少し効果のある技術的対応ができたのではないかと思うのである。ダメだと言っても、できてしまえばやる奴は必ずいる。飲酒運転もそうなのだが、この手の中毒型行為に対しては、完全に操作できない、運転できないようハード側で規制する以外、事故の根絶は不可能だと思う。そこまでやってなお、前出の記事が示すような”革命”が起こせるのなら、それが真のイノベーションといえるんじゃないだろうか。

この事故とその後の違反者続出を受け、一宮市や愛知県警が運営会社に対して利用制限するよう要請をした[10]。自民党も法改正による厳罰化の検討に入ったという[4]。これらの批判を受けた形で、米ナイアンティック社と㈱ポケモンは仕様を変更して、電車内や車の助手席に乗っている場合も含め、一定の速度以上での移動中は、ゲームの主要な操作はできなくなった[11]。規制強化の要請を出した一宮市に対しては、脅迫メールも送られてきたそうだが[12]、文句があるなら法の下で主張しろ。これじゃ、高樹沙耶と一緒じゃねえか(若い頃、彼女のこと好きだったのに…)。こういう異常な反応を見せる中毒患者は、早く見つけ出して脅迫罪で検挙すべき。

Distraction
出典:http://howwedrive.com/2009/07/30/hanging-up/

またポケモンGOがスケープゴートになっている、問題の本質は運転中のスマホ操作にあるというポケモンGOバッシングに対する反対意見も多い。確かに「ながらスマホ」自体を止めさせないと、この問題の根本解決にはつながらないだろう。クルマの中に様々な情報が入ってくるようになった自動車運転のヒューマンファクター(人間工学)を議論する上で、ドライバーの3つのディストラクション(Distruction、注意力低下)という考え方がある。その3つとは(1)前方道路から“心”が離れること、(2)前方道路から“目”が離れること、(3)ステアリングから“手”が離れること(=緊急回避操作に支障が出る)で、これらの注意力低下を防ぐことが大きな課題となっている。ナビやHUD(ヘッドアップディスプレイ)などもこの考え方をもとに人間工学的な設計が施されている[13]。スマホの通話は、主に(1)と(3)が誘発されるが、ポケモンGOのような運転中のゲーム操作やネット視聴はまさにこの3つのディストラクションが一度に誘発されるという意味でリスクがさらに高くなる。ながらスマホの中でも、ポケモンGO操作が注目されるのはそういう理由だ。

もちろん、ポケモンGO操作をする歩行者にもこの3つ、ではなくて2つのディストラクション(歩行中ステアリングは握らないので)は起こりうる訳で、運転者側も歩行者はディストラクションを抱えているかもしれない、つまり接近するクルマに気づいていないかもしれないと意識して運転をする必要がある。そういう観点からいえば、一宮市のもう一つの要請事項である「歩行速度であっても道路上を移動している際は利用できないようにすること」[10]に対する何らかの対策も必要になってくるだろう。望むべくは、ポケモンGOなどの特定アプリだけではなく、全てのスマホ操作に対してだ。

もしそうなったら、歩きながらや電車の中でもスマホが使えない、立ち止まらなければ電話もネット検索もゲームも出来ないとなると、一斉に反発が出るに違いない。私もそのスマホに毒されつつあるので不便に感じるだろう。でもよくよく考えてみて欲しい。ほんの十数年前まではスマホが無くたって普通に生活できたのである。電話だけで大して困りもしなかったのに、ただちょっと便利になっただけだ。つまりスマホという道具は、我々が生きるため、楽しく暮らすための本質的なツールではないということだ。

とは言え、今さらガラケーに逆もどりは出来ないだろう。でも例えば、昔は東京でも見られた夜空の星を眺めるために、ライトアップ施設や家庭の照明の一斉消灯を呼び掛ける運動(「クールアース・デー・ライトダウン」[14])があるように、月に一度くらい一日、いや数時間でも全ての通信キャリアがネットを遮断してみるという活動があってもいいんじゃないか。突然回線が遮断されるのは困るが、あらかじめ活動日が決まっていれば、その日は外で身体を動かして遊ぼうとか、家族と会話しようとか、仕事のやり方を変える準備や新しい仕事の仕方の試みも出来る。スマホのない世界を体感する日、我々おっさん世代には、ちょっと前まで当たり前だった世界を取り戻してみる日。本当に必要なことは何なのか、本質は何なのかを考えることで、本当のイノベーションを生み出すきっかけになるような気がする。

究極の解?
究極の解はやはりこれなのか?
出典:http://www.cartalk.com/blogs/craig-fitzgerald/driverless-car-coming-are-human-drivers-happy-about-it

さて先日の「日本イノベーター大賞」表彰式、私は参加していないけれど、奇しくもポケモンGOのネガティブ面がニュースとなったこのタイミングで、受賞者の石原氏とハンケ氏は栄えある”イノベーター”として、ポケモンGOが原因となった死亡交通事故に対して、何かコメントや提言があったのか、もしあったのなら何を語ったのかとても気になる。

[参考・引用]
[1]ソフトパワー賞:ポケモンGOを支えた日米協業、決定!日本イノベーター大賞2016、井上理、日経ビジネスONLINE、2016年10月31日、
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102700078/102700004/?rt=nocnt
[2]イノベーション論:ポケモンGoは、革新的な意味のイノベーションだ。vol1. 『あいさつ革命』、羽山康之、ボンジョルノ・デザインーイタリア留学ブログ、2016年7月29日、
http://yasuyukihayama.com/pokemon_01/
[3]【ポケモンGO】ついに横須賀まで便乗!ヨコスカGO始まる!、バトルBOY、ポケモンGO攻略Wiki、2016年8月29日、
http://appmedia.jp/pokemon_go/401348
[4]ポケGO事故で厳罰化検討 自民、運転中のスマホ防止、共同通信、2016年11月15日、
http://this.kiji.is/171089860415931894?c=110564226228225532
[5]「運転中は必ずポケモンGOをしていた」また死亡事故 小4男児はね逮捕のトラック運転手供述 愛知、産経WEST、2016年10月27日、
http://www.sankei.com/west/news/161027/wst1610270038-n1.html
[6]運転中「ポケモンGO」で男児死亡、弁護士「これまで以上に重い責任の可能性」、伊藤諭、弁護士ドットコムニュース、2016年11月1日、
https://www.bengo4.com/c_2/n_5297/
[7]一宮ポケモンGO死亡事故後に6人摘発、CBCテレビ、2016年11月12日、
http://www.sankei.com/west/news/161027/wst1610270038-n1.html
[8]観光バス運転中にポケモンGO 会社「あるまじきこと」、朝日新聞デジタル、2016年11月4日、
http://www.asahi.com/articles/ASJC441JSJC4PPZB006.html?ref=linenews
[9]運転手、ポケモンGOの制限画面解除か 小4死亡事故、朝日新聞デジタル、2016年10月28日、
http://www.asahi.com/articles/ASJBW5TN5JBWOIPE020.html
[10]一宮市が「ポケモンGO」利用制限を求める要望書 市内で起きた小学生事故死を受けて、宮原れい、ねとらぼ、2016年11月5日、
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1611/05/news032.html
[11]ポケモンGO運転中の操作を一部制限 運営会社仕様変更、大村健一、毎日新聞、2016年11月7日、
http://mainichi.jp/articles/20161108/k00/00m/040/090000c
[12]「ポケGO」規制強化要請の一宮市に脅迫メール、読売新聞、2016年11月5日、
http://www.yomiuri.co.jp/national/20161105-OYT1T50107.html
[13]“ヘッズアップコックピット”という考え方vol.1、大池太郎、マツダのクルマづくり、マツダホームページ、
http://www.mazda.co.jp/beadriver/cockpit/thought/userinterface/
[14]Fantastic Night ~あかりを消すと広がる世界~<第3回>見上げればそこにある、素敵な夜空、林完次、COOL CHOICE、
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/topics/20160707-01.html
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[ 2016/11/17 00:29 ] cars/車のお勉強 | TB(0) | CM(0)

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