いろなしくん

いろなしくん

当ブログのテーマはどこに行ったのかしら?(元ネタ本だけは着実に増殖をし続けているのですが…)というくらいクルマの絵本ネタのアップデートが滞っていたので久しぶりに。「絵本の色」で色の面白さについて取り上げたので、まさにドンピシャの絵本『いろなしくん』(こもりまこと・作、PHP研究所)を今回は紹介する。クルマノエホンに欠かせない作家、こもりまこと氏の今年の新作の一つである。

主人公いろなしくんのモデルは、あっしの先代マイカー、カングー君の兄貴分みたいなルノー・エクスプレスだ。ペンキ屋さんの仕事クルマであるこのエクスプレスのボディカラーは灰色なので、みんなから「いろなしくん」と呼ばれている。周りのクルマは赤や青や緑、黄など色でいっぱいなのに、どうして自分だけ色がないのか、この灰色も嫌いじゃないんだけど、きれいな色だったらもっと楽しいのにと、いろなしくんは色のついたクルマに憧れを抱いていた。

日本における乗用車のカラーシェアの変遷
図1.日本における乗用車のカラーシェアの変遷[1]

白と黒、その2色を混ぜた灰色は無彩色で、日本人は無彩色のクルマが好き、特に清潔感、神聖なイメージのある白は、80年代後半に新車の4台に3台が白というカラーシェアになったくらい「日本人は白が好き」が定説になっていた。ところが[1]によると、70年代半ばまで日本の自動車市場では有彩色のボディカラーが支配的であったという。カラーシェアの統計が始まった65-66年モデルなんて、白のシェアはわずか2%ほど。むしろ無彩色では無難なグレーが人気色になっている(図1)。これは60年代初期まで、白と赤がクルマのカラーリングに使えなかった名残なのだそうだ。そう、救急車や消防車などの緊急車両用の色だったからだ。ちょうど我が家にマイカーが来たのもこの頃で、真っ白な初代カローラだったから白が多いというイメージがあったのだけど、自分の子どもの頃は、そんなにカラフルな道路環境だったかなあとあまり実感がない。

初代ソアラ
トヨタ・初代ソアラZ10型
出典:http://minkara.carview.co.jp/userid/329879/car/230509/profile.aspx

60年代後半から70年代にさらに有彩色支配が強まるのは、カラーTVの普及が影響を与えたと[1]では分析している。カラーテレビを買って「ウルトラマン」や「仮面の忍者赤影」を色付きで見られたときは感動したし、確かに70年代に買い替えた2台目カローラは緑だった。無彩色と有彩色のシェアが逆転する転機となったのが1973年のオイルショック。有彩色も彩度を抑えたパステル調に主流が移行する。「日本人は白が好き」を決定づけたのが、1981年の初代ソアラ、スーパーホワイトの大ヒットからである。80年代後半のバブル期はこの白が全盛で(白は下取り価格も良いと言われたが、私はなんでもアンチ派なので、この頃初めて自分で手にした日産・テラノはグレーを選択)、バブル終焉から00年代までは有彩色がやや盛り返すものの、グレー、シルバー系が主流を占める。その後は白、黒、灰色、有彩色がだいたい1/4ずつ。クルマのカラーにブームがなくなり、ユーザーの色に対する嗜好がぶれなくなったということなのだろうか。

日米欧の2013年のカラーシェア
図2.日米欧の2013年のカラーシェア[1]

無彩色好きなのは日本市場だけの特徴で、いろなしくんが憧れているように、彼の母国フランスに代表される欧米、特に欧州では色鮮やかなクルマ環境だと思っていた。しかし[1]によれば、それも私の思い込みだったようで、図2のように00年代以降は色の嗜好がグローバルに共通化してきて(いわゆる、産業のグローバリゼーションってやつね)、北米、南米、ヨーロッパ、アジアの4地域で無彩色が有彩色を上回るようになったのだそうだ(白・黒が増加し、灰色系は激減傾向なのだとか)。そういう意味では作者・こもりまことさんも、私と同様、古いヨーロッパ自動車文化の価値観で本書を描いたのかもしれない。宮崎駿のアニメや絵本に出てくるような欧州の古い都市は色鮮やかだし、浮世絵を見ると日本の風景も色彩に富んでいる。ゆえに古都の街並みには色鮮やかな有彩色のクルマが映えると思うのだ。一方で、高層ビル立ち並ぶ無機質な近代都市では、白や黒の無彩色なクルマと親和性があって、古い街並みがだんだんと消えゆく中で、色のない世界に進んでいるのではないか。限りなく機械化された自動運転車なんて、有彩色のイメージがあまりしないんだよね(『ナイトライダー』のイメージが強すぎるのかな)。『赤いロボット自動車』なんて絵本もありますが。



さて話が脱線して来たので本題に戻る。いろなしくん、その日は色の研究をしているおじさんと、お手伝いロボットのカラーくんのところへ、注文されたペンキを運んできた(こもり作品で、クルマ以外のキャラクターが登場するのは珍しい)。
そこで彼は自分の車体の色の悩みを打ち明けた。
「ボクもきれいないろになってみたいなあ」
するとおじさんは、
「研究用の色を作る装置で、色のついたいろなしくんを見てみようか。」
と提案したのだ。カラーくんがいろなしくんの頭にアンテナを取り付け、おじさんはパレット台で色々なペンキを混ぜ合わせて作った色を、装置でデータに変換していろなしくんに送ると、なんと車体が作った色に早変わり。着せ替え人形のようにいろんな色を試してみる。

いろなしくん その1

いろなしくんを緑色に変えた時の彼の感想、
「みどりいろかぁ。ちょっとむずかしいいろだなあ。」
に、かつてグリーンのカングー(緑缶)に乗っていた私は複雑な気持ちになった。

色をとっかえひっかえ変えてみても、いろなしくんのしっくりくる色が決まらない。
「自分の色を決めるのは難しいでしょう?」
「うん、おじさん、こんなに大変だとは思わなかったよ」
色=個性と考えると、自分を知る、自分の個性を見い出すのがいかに難しいことか。そして自分の思いもよらないところに本当の良さがあったりするものだ。

ネタ晴らしになるので、結局最後はどうなったかが気になる方は本書を読んでいただくとして、白と黒を混ぜ合わせて作るだけの灰色だと思っていたが、灰色にも様々な色のバリエーションがあること、そして色の持つ複雑さや神秘さ、楽しさを知ることができる絵本でもある。美大系に進もうとしている高2の娘は、ほぼ毎日、学校を終えた後に美大予備校にも通っているダブルスクール生(薄給をつぎ込んで、果たして対投資効果はあるのだろうか?と毎日が不安な私)。最近の課題制作(静物画)で珍しく褒められたとのこと。ただ、灰色に塗られたわずかな部分について講師から、「こんな灰色は現実に存在しない」と酷評されたのだとか。娘は先生のいう理屈を簡単に説明してくれたのだが、私の理解の範囲で解説すれば、恐らく娘は白と黒の絵の具だけで、あるいはその比率が極めて高い灰色を作って塗った。現実の日常世界では完全に可視光線を反射する色(白)は存在しないし、完全に可視光線を吸収する色(黒)も存在しない。だから灰色といっても我々には白と黒だけの無彩色成分だけでなく、他の有彩色成分も見えているということなのだろう[2]。彼女はその評価を受けて、色直しを夜遅くまでやっていた。それだけ、色の世界は深いということ(答えになっとらん!)。この娘のエピソードに関係することが本作でも重要なキーファクターとなっている。

いろなしくん その2

いろなしくんが悩んでいた灰色だけど、色表現の豊かな日本語表記でいえば「利休鼠色」というのか、何とも奥深いグレーである。シックなフランス車、エクスには良く似合う。

自動車外板の塗膜構成と機能
図3.自動車外板の塗膜構成と機能[3]

ところで、クルマの塗装は図3で示すように、電着・中塗り・ベース・クリアの4層構造になっている[3]。電着は外板素材の防錆の役割、中塗りは飛び石が飛んできたとき鋼板を保護するための耐チッピング性、電着面を滑らかにするための平滑性、光に弱い電着面に対する光線透過性制御の役割を果たす。そして肝心の車体の色を決める着彩部分のベース、色艶を出したり、耐久性を確保するための保護塗装であるクリア部という構成だ。生産工場での塗装行程は[3]やメーカーのホームページなどを参考にいただきたいが、新車の塗装(電着塗装)とクルマが痛んだり、傷を付けた場合の補修塗装(スプレー塗装や焼付塗装など)では行程が全く異なるため、補修塗装はメーカー塗装の色見本やデータなどを元に、人の手や目で限りなくオリジナルに近づける職人技が求められるらしい[4]。

現在世界中の自動車に採用されている車体色は6万色とも言われ、更に毎年、自動車メーカーでは新しく800色ほどが追加されているそうだ。自動車用塗料は主にソリッド用原色(無機顔料)、メタリック・パール用原色(有機顔料)、メタリック・パールなどの光輝性顔料など150色ほどの原色でベース部分の車体色を構成しているとのこと[5]。色の混色原理(減法混色)からいえば、3種類(赤、黄、青)の純色と白、黒の5色の基本塗料をベースに調色をして様々な原色を作り出す訳だから[6][7]、単純に6万×5=30万種類の膨大な調色データが存在することになる。ゆえに、最先端の塗装現場では、コンピュータの力が欠かせない[5]。

ルノー・トゥインゴ2016カタログ
最近もっとも気になるクルマの一台、ルノー・トゥインゴのカラーバリエーション(カタログより)

車体色といえば、自分の欲しいクルマのカラーバリエーションが少ないなあとか、服を選ぶようにボタン一つでクルマの色が変わったらいいのになあと誰もが一度は思ったはず。自動運転のこの時代に、いろなしくんのお話のような装置はなぜ実現しないのだろう。いや、そんな技術はもうできている。



えっ、まさか!と思いました?そう、これは合成画像によるフェイクで、通行人じゃなく視聴者を驚かせるためのドッキリ動画[8]。でも、こんな機能があったらいいのにね。光の角度によって色が変わる「マジョーラ」という塗料[9]や温度で色が変わる塗料「チェンジカラー」[10]は実際に存在するようだが、ちょっと期待する機能と違うのだよね。むしろ、有機ELや生物模倣の技術を使ったようなフレキシブルディスプレイ[11][12]を車体に貼りつけた方がカメレオンカーとしては現実味があると思う。動く広告塔にもなるし。近い将来、いろなしくんの悩みを解決する、そんな夢のクルマが登場するかもしれない。

マジョーラカラー
マジョーラカラー
出典:photo.ap.teacup.com



[参考・引用]
[1]日本のクルマ、そのカラートレンドと新技術、有元正存、特集[クルマとカラー]、JAMAGAZINE 2015年3月号、No.49、p11-19、
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/jamagazine_pdf/201503.pdf
[2]グレーと黒の作り方:混色テクニック、水彩画:画材・テクニック・水彩画アーチストの紹介、
http://watercolor.hix05.com/mixing/gray/grey.html
[3]クルマと塗装の歴史と発展、中尾泰志、特集[クルマとカラー]、JAMAGAZINE 2015年3月号、No.49、p2-10、
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/jamagazine_pdf/201503.pdf
[4]ウレタン調色について、塗料の情報館、ペンキの専門店 株式会社山屋商店ホームページ、
http://www.yamaya-ybm.co.jp/info/jidousya_04.html
[5]調色のおはなし、MeisterBP 匠(The Art of Refinishing.)~のブログ~、2012年11月29日、
http://bptakiumi.blog.fc2.com/blog-entry-8.html
[6]混色、色彩学講座、
http://rock77.fc2web.com/main/color/color1-6.html
[7]work50、塗料の調色 簡単な調色のやり方、paint work’s 塗装工事に関する blog、2015年6月11日、
http://paintwork.hatenablog.com/entry/2015/06/11/work%EF%BC%95%EF%BC%90_%E5%A1%97%E6%96%99%E3%81%AE%E8%AA%BF%E8%89%B2_%E7%B0%A1%E5%8D%98%E3%81%AA%E8%AA%BF%E8%89%B2%E3%81%AE%E3%82%84%E3%82%8A%E6%96%B9
[8]カメレオンのようにボタン一つで色が変わる車で街中の人を驚かせてみた!、おもしろネタ、車の大辞典cacaca、2015年12月9日、
http://cacaca.jp/omoshiro/13375/
[9]光や見る角度で色が変わる!?『マジョーラ』ペイントで塗装された車や物 #maziora、NAVARまとめ、2014年11月26日、
http://matome.naver.jp/odai/2135740049992685101
[10]チェンジカラーとは、有限会社 West Hillホームページ、
http://www.changecolor.jp/01change/index.htm
[11]フレキシブルディスプレイ、みんなでつくる未来予想図、2016年4月29日、
http://forevision.jp/wiki/?%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%97%2F%E6%83%85%E5%A0%B1%2F%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B9%EF%BC%9A%E5%87%BA%E5%8A%9B%2F%E8%A6%96%E8%A6%9A%2F%E3%83%95%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4
[12]色を変える服ができるかも、米大学が反射型かつ極薄の液晶ディスプレー、野澤哲生、日経テクノロジーonline、2015年6月25日、
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20150625/425002/?rt=nocnt&d=1477401084141
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お疲れ様です。

ニホンの車は白ばかりと言われてましたが最近カラフルなクルマが増えましたね。
ワタシのクルマはいろなしくんですが(笑)

そうそう、ついに昨日港文堂におじゃましました。

子供のおみやげになにかと探してたんですが、クルマノエホンは誰かさんが買い占めて無いよ~。って言ってましたよ(笑)
[ 2016/11/03 14:52 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

和田さま、
> そうそう、ついに昨日港文堂におじゃましました。
ついにデビューされましたか書のジャングルに。いかがでしたか、実に対照的な母娘は。どちらも濃いでしょ。
>クルマノエホンは誰かさんが買い占めて無いよ~。って言ってましたよ(笑)
買い占めてないのですけどね。そもそも出て来ないですクルマノエホンは(涙)
> ニホンの車は白ばかりと言われてましたが最近カラフルなクルマが増えましたね。
ただデータを見る限り増えていないのですよね。街の色はカラフルな方が楽しいですけどね。軍港でグレーなイメージのある横須賀ですが、和田さんのように小さいお子さんを持つご家族が増えると色も賑やかになっていくと思います。そのうち、港文堂でお会いしましょう!
[ 2016/11/03 17:14 ] [ 編集 ]

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