図解ゼロ戦のすべて

図解ゼロ戦のすべて

金曜日の午後は半休を取って、警察署に免許更新手続きに行った後、年明けから実家の行き来でほとんど顔を出せなかった行きつけの古本屋「港文堂」へ立ち寄る。いつものように店主と長話になって、ここでは書けないような最近この店が関わったディープな“事件”の数々を伺う。そしていつものように常連・一見客が入れ替わり立ち代わりやって来る間隙を縫って、さらに魔界化した書架・通路を探索していると、場所柄充実している軍事物コーナーに児童書が混ざっているのを発見した。本日ネタにする「図解ゼロ戦のすべて」(堀越二郎・監修、少年少女講談社文庫)である。

小学生の頃、少年少女講談社文庫、通称『ふくろうの本』はお気に入りだった。児童書なんだけど戦記ものが充実していて、クルマノエホンとしての一冊「図解世界の戦車」(アルミン=ハレ)や、映画『大脱走』に影響を受けて買ってもらった「トンネル脱走作戦」(エリック=ウィリアムズ、本書を原作とした別の映画があったみたい)も大人になって改めて手に入れた。その講談社文庫のゼロ戦ものにして、『風立ちぬ』(宮崎駿)の堀越二郎が監修となれば、手に取らない訳にはいかない。

堀越二郎
堀越二郎[1]

比較的リーズナブルな値付けの「港文堂」だが、これにはしっかりとした値段が付いていた(といってもプレミア価格ではない)。確かに今ではほとんど入手困難なシリーズなので、さすがプロの仕事。一瞬ためらいもあったが、ヒコーキノエホンにも手を広げようかと思っていたし、何より岩本正雄、徳田秀雄のカバーイラストが秀逸。本文イラストも梶田達二・加藤孝雄・境木康雄・白井正樹・新 清児・徳田秀雄・中西立太・依光 隆という豪華すぎる布陣。これはもう買うしかないでしょ。店主曰く「見つけたか…」。



言わずと知れた零式艦上戦闘機「ゼロ戦」。国境を越えて、色んな人の色んな思いが交錯する航空史に永遠に刻まれる名機である。今年1月、日本人所有の動態保存機体(といっても8割方ロシアで新造されたレストア機らしい)が戦後初めて、日本の空を飛んだ(『零戦里帰りプロジェクト』)。しかもテスト飛行は『特攻』ゆかりの地、鹿児島県鹿屋で行われた。初飛行までの複雑な経緯は[2]に詳しい。「世界自動車図鑑 誕生から現在まで」でも記事にしたように、産業遺産も含めヘリテージを遺すことの意義を全く理解できていない日本の課題を再び浮彫りにしている。世界遺産なんて、ほとんど町興しのための客寄せパンダ、観光資源くらいの意識しかないしね。歴史的な年になった広島だって、核廃絶を訴えるためだけのモニュメントじゃない。戦争の本質という視点で、このゼロ戦が深く関わった12.8も含め、戦闘員も非戦闘員も世界じゅうが狂っていた時代を考える場所なんだよね、きっと。そういう意味で、オバマさん広島訪問の報道はどれも浅かったなあ。偉そうだけど。

暁をついて(図解ゼロ戦のすべて)
暁をついて(「図解ゼロ戦のすべて」より)

重い話はこれくらいにして、この復元機、両翼にくまモンが描かれたゼロ戦が、熊本地震の被災地上空を飛んだのだそうだ[3]。「ヒコーキノエホン」で「ヒコーキってやつは、他人の人生を奪うためのマシンではなく、人生に実りをもたらすためのエモーショナルな道具であって欲しいと思う」って書いたけど、くまモンゼロ戦が飛ばせる時代に生まれてよかった。誰かがコメントしていたけど、宿敵だったグラマンF6F「ヘルキャット」と並んで飛ぶ姿も見てみたいね。

くまモンゼロ戦
出典:https://scontent.cdninstagram.com/t51.2885-15/s320x320/e35/13249893_260058234352978_1762475666_n.jpg?ig_cache_key=MTI2MjIwMTcwNTc2NzUxNzU3OQ%3D%3D.2

勉強不足で、最近まで三菱・ゼロ戦のエンジンが自社製でなかったことを知らなかった。その経緯も本書には詳しく記載されている。ゼロ戦誕生の元になる、外国技術に頼らない自前の新型機開発の計画がスタートしたのが、昭和7年から9年までの海軍機試作三か年計画。このプロジェクトで試作された艦上戦闘機が七試艦上戦闘機。この設計主任が三菱の堀越二郎技師だった。空母という短距離を離着陸する艦載機は、揚力確保のためどうしても翼が大きくなる。一方で速度や機動性を犠牲にするデメリットも生じる。そこで艦上戦闘機という条件を取っ払って、再び堀越が設計したのが九試単座戦闘機。これが抜群の性能を発揮して、正式機として採用、九六艦戦と名付けられた。そして昭和12年、この九六艦戦を超える戦闘機の開発が十二試観戦計画要求書で求められた。これがゼロ戦開発プロジェクトの始まりである。

これがゼロ戦のエンジンだ(図解ゼロ戦のすべて)
これがゼロ戦のエンジンだ(「図解ゼロ戦のすべて」より)

当初、心臓部のエンジンは三菱製瑞星13型(875馬力)が採用され、試作2号機までこれが使われた。試作3号機からは、瑞星よりも馬力の大きい、当時世界最大の航空機メーカー、中島飛行機の栄12型(950馬力)に変更となった。ゼロ戦は企業の枠を超えた(というかエンジンは中島という海軍内での常識)オールジャパン製の戦闘機だったのだ(三菱製金星エンジンを搭載したかった堀越は面白くなかっただろうけど)。その後、1000馬力級の栄21型、31型と続く名エンジン・栄は、名機としてのゼロ戦を支えた。戦争末期には金星62型が搭載されたが実戦参加はなく、事実上ゼロ戦=栄エンジンという図式が定着したようだ。前述の鹿児島で里帰り飛行したゼロ戦は、残念ながらオリジナルの栄エンジンが修復不能だったため、PRATT&Whitney社製のエンジンを搭載しているという[2]。

栄エンジンの設計主任は小谷武夫技師、後に14気筒の栄エンジンを18気筒化して紫電改や疾風に搭載された伝説の誉エンジンの設計主任は中川良一技師。それぞれ戦後、富士重工、日産の役員になられた[4]。かつては日産の傘下にあって、現在トヨタの資本下で絶好調の富士重と、今回日産の軍門に下った三菱自との関係性にゼロ戦の歴史を絡めると実に興味深い。ところでオリジナルの栄エンジンを何とか日本の技術で復刻できないものだろうか。エンジンの試作ユニットとか設計図って、中島飛行機の末裔、スバルとか日産に残っていないのかなあ。日産と三菱重工・自工のエンジニアが、栄エンジンを復活させるなんていうアイデアも面白いと思うのだよね。若いエンジニアの勉強にもなると思う。

その他も少年少女にはマニアックすぎる記事満載の本書は、『風立ちぬ』を観るよりは格段に面白い。

リバイアサン

「港文堂」の帳場で支払いをしようとすると、周りに積まれた本の中の「リバイアサン」(早川書房)という文庫に目が行った。世界史で習ったホッブスの『リヴァイアサン』(社会契約説ね。どんな内容だったか忘れたけど。)?と思ったが、帯に書かれた「めざせ地底探検!<ペルシダー>こそ我が故郷!バロウズのSFに狂った少年が発明した珍妙なる乗物とは?」と全く関係のない謎めいた文章に、琴線に触れるマシンの表紙イラストが気になる。ジェイムズ・P・ブレイロックという人の著作だった。これも“ゼロ戦”の上に載せたらオマケしてくれた。「港文堂」感謝!

沈む夕日をめざし(図解ゼロ戦のすべて)
歴史に翻弄され続けた零式艦上戦闘機(「図解ゼロ戦のすべて」より)

[参考・引用]
[1]ジブリ最新作主人公(ゼロ戦設計者・堀越二郎)「幻の名機 烈風」の設計図に込めた思い、賢者の知恵、現代ビジネス、2013年6月2日、
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35974
[2]悲願の里帰りフライト実現も、ゼロ戦を「放置死」させる日本、izaニュースまとめ、2016年1月28日、
http://www.iza.ne.jp/topics/events/events-9083-m.html
[3]零戦が被災地の空を舞う 翼に「くまモン」、西日本新聞、2016年5月31日、
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/248855
[4]複列星型エンジン「栄/誉」、日本航空館、埼玉スバルホームページ、
http://www.saitama-subaru.co.jp/plane/11_sakae.html
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