こんな三菱はイヤだ
出典:https://twitter.com/Yoshinami01/status/730446886948065283/photo/1

じどうしゃとともだち」で危惧した三菱自工の行く末。電撃的な日産との資本業務提携で三菱劇場第2幕が始まった。少し引きつった顔にもみえる益子会長とは対照的に、「両社にとってWIN-WINの内容」と使い古されたビジネス用語で満面の笑みをたたえるゴーン社長。燃費不正の問題はどこに消えてしまったのだろう?と思うくらい何とも違和感の残る12日の共同記者会見[1]。

問題になった軽自動車は三菱と日産の共同開発と謳われているが、実質OEM(受託製造)だから確かに製造責任は三菱にある。でも日産のバッジ(商標)で売ってきた以上、商品に対する日産の責任もゼロではない訳で、「我々は被害者」は少なくともそのブランドに対価を払うエンドユーザーに対しては通用しない(※)。まだ不祥事の全容も明らかになっていない、オーナーや取引先への補償問題も何ら決定されていない、つまりあらゆるステークホルダーに対して説明責任を果たしていないこの状況下で、その当事者2人がそろって、にこやかに会見できる神経が私には理解できなかった。常人の感覚では経営者など務まらないのだろう。

(※)これは自動車メーカー各社が、製造元のタカタに責任を“押し付けた”エアバッグの欠陥問題と本質は同じである。タカタの問題は、単なる部品のアセンブリ(組立)メーカーになりつつある自動車OEM(最終製品製造会社)の製造者責任は、どこまでが対象範囲なのかという大きな課題を投げかけた。個々の部品の高性能化・ブラックボックス化が進み、完成車メーカーでは容易にチェックできない構造になっていることも問題を複雑化させている。最近やたらにリコールの多い自動車だが、背景の多くはここにある。センサー、マップ(地図)、OS、A.I.(人工知能)、自動運転の世界になればなおさらである。言い換えれば、高度な技術を持つTier1、Tier2(サプライヤ)とOEMが簡単に主客逆転する可能性があるということ。家電・PC業界がその先例で、特に日本の大手家電メーカーの惨状はご承知のとおり。シャープもテレビを作らず、液晶製造に特化していればまだよかったのかもしれない。自動車業界のIntelが誰になるかで、業界の未来地図は決まる。三菱も誰にも負けない軽自動車技術を持っていれば、安売りすることもなかったのだろうけど。

ゴーン氏は「お客様、取引先、株主、社員を含めた全てのステークホルダーの皆様に喜んでいただけるものと思っている」と話したそうだが、この笑みは株主(恐らくゴーンさんの関心はここ)に対するポーズなのか、あるいは彼だけがそう思っている裸の王様なのか。

三菱、日産の傘下へ
ツラの皮が厚くないと経営者は務まらん[4]

通常の資本提携では当たり前のリスク要因も含む対象企業の調査(「デュー・デリジェンス」っていうんだって)をすっ飛ばし(前科3犯の言葉を信じるなんてアホだろ)、三菱の「焼け太り」と言われてもおかしくない提携プロセスの背景には、[2]で述べているように、日本経済に与える影響を最小限に留める緊急回避的な経営判断があったのかもしれない。もし三菱自工が経営破綻すれば、直接、間接に取引がある下請企業約7800社、総従業員数で41万以上の失業者が出てしまうからだ[3]。アベノミクスなんて吹っ飛んでしまう。シャープの二の舞にならぬよう、技術の海外流出防止の意図もあったかもしれない。ゆえに何か釈然としない一般人の感情をよそに、大手経済紙はおおむねこの提携合意に好意的だ[4]。裏では政府(経産省)も関与していたかもね。

三菱のデータ不正の可能性を日産が指摘したのが昨年の秋頃ということだから、遅くともその時点から用意周到に練られたシナリオだったと考えれば、ゴーン日産の素早い行動も合点がいく[5]。もっと遡れば、日産が三菱に対して、軽自動車の自主生産を匂わせたことが事の発端という説[6]も興味深い。これに三菱は抵抗、ひと悶着あったというもの。事実、2014年7月に日産が軽を自社生産する意欲を突如表明し、共同開発事業に不協和音が生じたという報道がされている[7]。ここからは勝手な臆測だが、三菱を意のままに操れない日産が三菱車を徹底的に調べ上げ、今回の弱みを握ったとしたら。これをカードに切って三菱自工の株価を下げ、格安で経営権を手に入れるという外資らしい買収シナリオ。もちろん日産側にも大きなリスクを伴う訳だが、それ以上のメリットに賭けた。こうなるともはや陰謀だ。真相は闇の中だが、タカタのエアバッグように人命に関わる問題ではないし、三菱の天皇、相川賢太郎氏のように「買う方もね、あんなもの(公表燃費)を頼りに買ってるんじゃないわけ」という感覚であれば、禊(みそぎ)を済ませばまた売れるという読みなのかもしれない。そう考えるとゴーン氏のニタリ顔がえげつなく見えてくる。

でもそんなハッピーシナリオになるのだろうか。1000万台クラブの仲間入りといっても、不祥事発覚前の台数の積み上げに過ぎない。今回の騒動で両社の国内でのブランドイメージはさらに低下するだろう。競争の激しい軽自動車市場には優れたモデルが溢れているから、よほどの魅力がない限り、敢えて三菱車・日産車を選択する理由が見当たらない。また不正は軽自動車だけではないようだから、三菱離れはさらに加速するだろうし、軽の生産を再開したとしても顧客が元のレベルに戻るのはかなり厳しいと思う。ただでさえ国内の自動車販売台数が目減りしている中、日産も国内販売の約1/4をデイズの2車種に依存しているので[8]、最悪のシナリオは共倒れ。両社とも好調な海外に軸足を移し、ニッチなルノーとEVだけ残して国内販売からの撤退ってことも、あり得へんことするゴーンさんならやりかねない。2015年の日産と三菱の販売台数が各々59万台と10万台だから計69万台[9]。1000分の69と考えると、海外市場に資源を集中して69万台分を新たに確保した方がよほど効率的だ。フォードも日本市場からの撤退を決めたし、ビジネスって観点から冷静に分析すれば、自動車市場としての魅力・活気が日本にはないのだよね。すでに悲鳴を上げる販社はどうなるのか?他社への売却かアフターサービスとリース・レンタル・カーシェア事業に業態を変えていくしかないだろう。でも市場の縮小する日本では、遅かれ早かれ全てのメーカーが直面する問題でもあるから、日本市場のリストラ(再構築)を真剣に考えるチャンスになるかもしれない。

あまり取り上げられていないが、両社の将来の糧となる人財力に関して、次のデータにも注目している。ちょうど2017年卒大学生の就職人気企業ランキング(マイナビ)が公開されていた。自動車業界の理系総合ランキングを見ると、トヨタ(4位)、デンソー(22位)、ホンダ(26位)、マツダ(39位)、アイシン精機(59位)、富士重工業(60位)、アイシンAW(73位)、ヤマハ発動機(96位)とまあイメージ通りだが、100位以内に三菱どころか業界3位の日産すらも顔を出していない[10]。調査期間はこの問題が発覚する直前まで(2016年3月1日~4月20日)だから、今回のバイアスはかかっていない。事件後に調査したらもっと結果は悪くなっていただろう。自動運転など先進技術力が鍵となる自動車業界にとって、両社に対する技術系学生のブランド評価の低さは相当深刻である。

三菱最強伝説
三菱最強伝説
参考:http://diamond.jp/articles/-/85099

そして私が一番困難を極めると思うのは、日産が主導権を握ったとほくそ笑んでいる三菱(グループ企業も含めて)のコントロールだ。三菱社員はとにかくプライドが高い。自工はともかく、重工や商事、銀行は新参の鮎川財閥ごときに(古いっ!)と今回の発表を苦々しく思っているに違いない。日本で最初の自動車を生産したのは俺たちだという自負もあるだろう。益子会長の「俺がいないと日産と三菱はうまくなじまない」という発言が、その難しさを物語っている[11]。三菱自工が海外に強いといっても、三菱商事の貢献度も大きいだろうし、日産が経営権を握る34%の筆頭株主になっても、三菱グループ主要3社も1/3を保有する大株主だ。一筋縄では行かぬ彼ら三菱三兄弟がこのまま指をくわえて黙って見ているとも思えない。外様大名が将軍家に乗り込むには激しい抵抗を覚悟しなければならない。これに対峙できる経営者はゴーンさんくらいしかいないのかもね。今回は資本業務提携に基本合意しただけで、まだ正式調印に至った訳ではない。自工はまだ隠していることがあるのかもしれないし、今後のデュー・デリジェンスの結果次第では白紙撤回される可能性もある。三菱劇場はまだまだ波乱の第3幕、4幕がありそうだ。

三菱グループ、暗黙の序列
出典:http://diamond.jp/articles/-/90505
山口組組織
同じ菱マークのこの組織と同じようにしか見えんのだが…
出典:http://sharetube.jp/article/1039/

どっちに転ぼうが両社は茨の道を進むことになる。明白なのは、全てのステークホルダーに対して速やかに説明責任を果たし、誠意ある対応を取ること以外、これ以上傷口を広げない手立てはない。私も父が倒れ、遠く離れた福岡の地でゴミ屋敷化した実家の片づけのピンチが訪れたように、最大の危機は最大の好機でもある。父も生活環境やスタイルを変え、新たな一歩を踏み出したが、古い体質の三菱も変わることができるのか。会社再生のプロ、ゴーン氏の手腕が問われる。

レッズ・ユニフォーム マリノス・ユニフォーム
Jリーグにも面倒な話を持ち込みやがった
出展(左):http://football-uniform.seesaa.net/article/270291034.html
出展(右):http://football-uniform.seesaa.net/article/270226508.html

さて、この問題はサッカー界にも飛び火した。Jリーグの規約ではクラブ経営に関与できる株式保有率の高い企業が、他クラブの経営に関与できる株式保有率の高い企業の株を大量に保有することを禁じている。つまり横浜・F・マリノスの筆頭株主である日産自動車が、浦和レッズの筆頭株主である三菱自動車工業の株を大量に保有してはいけなくなるのだ。日産はマリノスを手放さないだろうから、レッズが三菱自工以外の会社にオーナーになってもらわなければこの規約に抵触するという訳。レッズからスリーダイヤが消えるなんて、レッズサポーターが許すハズがない。三菱グループは責任を取って、元々のオーナーだった三菱重工に引き取らせなさい。でないと、浦和市炎上するよ。どこまでもお騒がせの三菱・日産です。

三菱劇場第3幕『仁義ない戦い-代理戦争』


[参考・引用]
[1]日産と三菱自動車の資本業務提携、ゴーン氏「両社にとってウィンウィンの内容」、椿山和雄、CarWatch、2016年5月12日、
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20160512_757153.html
[2]三菱自動車の「焼け太り」を非難できない理由、川端由美、東洋経済ONLINE、2016年5月13日、
http://toyokeizai.net/articles/-/117884
[3]三菱自動車の下請け7800社、不正影響拡大が懸念…帝国データバンク、レスポンス、2016年5月2日、
http://response.jp/article/2016/05/02/274559.html
[4]日産による三菱自動車救済が「実にベストなタイミング」と評価される理由、井上久男、ニュースの深層、現代ビジネス、2016年5月13日、
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48652
[5]三菱自不正発覚の引き金・日産、三菱自を買い叩き…三菱財閥没落の隙突く、事前に計画準備か、Business Journal、2016年5月13日、
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15094.html
[6]日産が三菱自動車の燃費不正解明を待たずに買収に動いた訳は?、Avanti Yasunori、My Cloudトピックス、2016年5月13日、
http://azby.fmworld.net/gpp/cs/article/1289852/
[7]日産、三菱自「軽」提携めぐり不協和音 ゴーン社長「自社生産も」、飯田耕司、SankeiBiz、2014年7月30日、
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140730/bsa1407300500006-n1.htm
[8]現場から悲鳴、日産「軽販売半減」の巨大衝撃、木皮透庸、東洋経済ONLINE、2016年5月8日、
http://toyokeizai.net/articles/-/116895
[9]自動車販売台数速報 日本 2015年、マークラインズ、2016年1月15日、
https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_japan_2015
[10]【理系】「2017年卒マイナビ大学生就職企業人気ランキング」上位100社、「2017年卒マイナビ大学生就職企業人気ランキング」調査結果を発表、マイナビ、2016年5月、
http://saponet.mynavi.jp/enq_gakusei/ranking/data/kigyourank_2017.pdf
[11]ゴーンと益子、両CEOの蜜月が生んだ救済策、寺岡篤志、日経ビジネスONLINE、2016年5月13日、
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/051200343/?P=1
[12]浦和レッズ筆頭株主、三菱自動車が日産の傘下に Jリーグ規約抵触の恐れも、スポニチアネックス、2016年5月13日、
http://news.livedoor.com/article/detail/11515749/

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