クルマノエホン livres d'images de voitures

楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

テスラ・モデル3  

Tesla model3

前々回紹介した時代の寵児、イーロン・マスクが考えた「人類の将来にとってもっとも大きな影響を与える3つの課題」の一つ、「持続可能エネルギー」のソリューションとして立ち上げた会社が電気自動車ビジネス・テスラモーターズ社。当社が万を持して投入した小型エントリーカー『モデル3』が先月31日に予約販売を開始した。市場投入はまだ2年近くも先の2017年末に予定されている。価格は35,000USD(納車時の為替レートで諸経費が加算される。現レートで約390万円くらい。)で[1]、予約金1,000USD[2](日本では15万円[3])を前払いするにも関わらず(予約を取り消せば返金されるらしいが[2])、初日には店頭予約のための行列も出来たほど(まるでアップルストア)[4]。そして、日本を含め、販売開始から3日間で27万6,000台[1]、4月8日時点で32万5,000台を受注した[5]という、テスラ自体も予想だにしなかった絶好調スタートを切った。ちなみにマスク氏のもう一つの課題である宇宙開発では、彼の宇宙ビジネス企業SpaceX社が今月8日、難題であった宇宙ロケット(ファルコン9)の第一段ブースターを洋上へ垂直着陸させることに成功している[6]。

マスクCEOよりもEV量販化へ先手を打って出たのは日産・ゴーンCEO。2010年12月に販売を開始したリーフは、昨年末で販売5周年を迎え、今年1月で累計販売台数20万台を突破した[7]。ルノー・日産合わせれば2015年までに30万2,000台[8]。彼らが地道に5年かけて拡販した台数を、テスラ・モデル3はたった1週間で売ってしまった訳だ。これにはゴーン社長も相当ショックを受けていると思いきや、「これは朗報だ。競争を我々は歓迎している。そうすることによってEVの市場が拡大し、EVがまずます業界の中心になっていくからだ。」と強気の発言である[9]。逆境に立つと奮い立つ彼らしいコメントである。でも2年後にリーフを買ってくれる顧客が残っているのだろうか?

次期型リーフ?
次期型リーフ?
出典:http://www.autoexpress.co.uk/nissan/leaf/88344/nissan-leaf-to-get-sharp-new-look-and-range-boost

逆境と書いたのは、実際のところ心中穏やかでないことはデータで見ると明明白白だからだ。リーフはこれまでに20万台以上が売れた訳だが(これはこれですごい数字なのだけど)、ゴーン社長は2011年に、2016年度までに全世界でルノー・日産合計で150万台のEVを販売すると目標値をコミットした[10]。その目標遂行のために両社合わせて8車種のEVを投入するとしていたが、現在日産は『リーフ』と商用車『e-NV200』、ルノーはリーフと同じ5ドアHB『ZOE』、セダン『SM3 Z.E.』、商用車『KangooZ.E.』、マイクロカー『Twizy』の計6車種に留まっている[11]。新興テスラが既に4車種を投入しているというのに。前述のように両社合わせた販売累計はこれまでに30万台強。あと1年後の目標150万台には遠く及ばないと思いきや、実は2013年度に目標過達は2-3年遅れると、あっさり前言撤回していたのだ[12]。武士に二言はないという武士道は、ムッシュには通じないか。

しかし、その前途はかなり厳しい。2015年は最も市場の大きい北米で、リーフは前年比42.8%減と大きく落ち込んだ。走行距離を伸ばすべくLi-イオン電池(LIB)を24kWhから30kWhに改良したマイチェンモデルを同年末に投入したことで買い控えが起こったとも考えられるが、テスラの『モデルS』を始め、BMW『i3』、フォルクスワーゲン『e-ゴルフ』、シボレー『スパークEV』など他社EVが次々と市場投入されたことで、相対的にリーフの商品魅力が低下していることは歪めない[13]。

その電池容量を6kWhアップさせたリーフの航続距離も、旧モデルの228kmから280kmに伸びた程度。一方『モデル3』の電池容量は明らかになっていないが、後続距離は“公称“344kmとリーフの新モデルの性能を凌駕する[14]。さらにモデルSやXなど高級モデルに既に搭載されている自動運転機能も標準装備されるという。この機能は今年1月、モデルSで日本の国土交通省の認証も受けているので、日本の公道でも”自動運転車”が走っているはず。主に高速道路と自動車専用道路で自動運転が可能な「オートパイロット」、ウインカーを出せば自動的に車線を変更する「オートレーンチェンジ」、縦列と直角の駐車が可能な「オートパーク」の3つの機能になる[15]。

車の自動運転は今後どう進化?
車の自動運転は今後どう進化?[16]

自動運転は、NHTSA(米高速道路交通安全局)や日本政府によってレベル1(安全運転支援)~4(完全自動運転)で定義されている(上図)。多分世の中の多くの人が「自動運転」に抱くイメージはレベル4。ドライバーが運転に関与しないクルマが公道を走る世界が5年くらい先に想定されているが、法整備や国民のコンセンサスも含め果たして実現するのかどうか。既に単独のシステムで実用化されている車間維持システム(ACC)や車線維持支援システム(LKA)、自動ブレーキなどは先進運転支援システム(ADAS)と呼ばれるもので、上記定義でいえばレベル1に相当する。前述のテスラの自動運転機能や、日産が今年発売するとアナウンスしている高速道路一定車線内の自動運転車は、レベル1の複合機能搭載という意味でレベル2の自動運転車ということになる[16][17][18][19][20]。

さて今一度冷静に考えてみると、『モデル3』はまだ写真だけで実物もないし、何といっても販売されるのは約2年先だ。344kmという数字の根拠がどこからくるのかもわからない。テスラ車の電費については[21]といったレポートも見られるし、2013年には車両火災が相次いだ[22]。テスラの電池は航続距離を確保するためパナソニック製のPC向け汎用LIBを数千個床下に配置する。ゆえに衝突時の衝撃に弱いということも考えられる[23](テスラ側の反論はここを参照)。自動運転機能についても、日産は近々に同等のレベル2自動運転車を市場投入するだろうし、他社もすぐに追従する。自動駐車だって既に各社から実用化されている。決してテスラに技術的なアドバンテージがあるとも思えない。

しかし、EVに関するブランディング戦略は他社に対して圧勝である。理由は、その流麗なスタイリング(モデル3は若干凡庸なデザインにも見えるが、リーフに比べれば…)だったり、自動運転機能のアプリケーションをPCやスマホのように、OSをアップデートするカスタマイズ性だったり[24]、ティザーキャンペーンどころか、販売の2年前に商品情報を開示してネット販売するといった自動車セールスの革新だったり、とにかく既存メーカーが何十年もの間培ってきた従来の常識を根底から覆す斬新さ、スマートさがCoolと市場に受け入れられているのかもしれない。ちょうどモバイル音楽市場でSONYのお株をAppleが奪ったときのように。

ブランドの強さはテスラ社が扱う商品がEVのみというシンプルさにもあるような気がする。ゴーン日産のEVシフトは、結局トヨタのハイブリット、マツダの低燃費内燃エンジン、スバルの水平対向というようにパワトレに強みを持たなかった末の消去法で選択されたものだろう。だからバリバリのエンジン技術に「技術の日産」としての矜持を持っていたエンジニアにとっては、EV戦略へのシフトは受け入れ難い経営判断だったろう。今でこそ全社をあげてEV開発と販売に全力を注いでいるだろうが、当初は社員のモチベーションは低かったと想像に難くない。一方、テスラ社は初めから「EVで世の中を変える」がCEOの経営方針だったから方向性は明確で、社員もそれに共感して転職した人たちだからモチベーションはそもそも高い。

また、日産も含め既存OEMは、環境に優しいという謳い文句でEVを販売し、一方ではGT-R[25]やフルサイズピックアップなど決して環境には優しくないモンスターマシンをブランドの柱にする二枚舌経営だ。個人的には何でも環境に配慮してストイックになり過ぎる世の流れには抵抗感があるが、テスラはEV専業なので企業理念の一貫性という点で共感されるのかもしれない。他社はEVで失敗しても内燃機関やハイブリットに逃げられるが、テスラは退路を断ってEV一本だからビジネスに対する本気度、危機感もハナから違うのである。その結果が今回の好調な販売の理由の気がする。2年後、モデル3の販売実績が予約どおりになるのか否かはまだ様子見だけど、既存のメジャーOEMを慌てさせたことは間違いない。

「モデル3」店頭予約のための行列
自動車販売の常識を破る:アップルストア並みの店頭予約行列(テスラ青山)[4]

[最後に一言]
熊本、いや九州全体がとんでもないことになってきた。専門家にとっても、これだけ大きな地震が、これほど広域的に続発するのは地震学の教科書を塗り替えるほどの異常事態らしい。つまり専門家でもわからないことが地下で起こっている。だから今後次の“本震”が来てもおかしくないと言うことだ。でも丸山環境相兼原子力防災担当相は、今回の断層帯の先にある川内原発を「停止させる必要ないと判断」したのだそうだ。その根拠は、今回の地震発生時に原発地点で観測された地震動が、自動停止させる設定基準値よりも非常に低いからとのこと。専門家でもメカニズムがわからないといっている今回の想定外地震に、従来の基準で対応する政府の危機感のなさ。古い常識に囚われる日本組織の問題点に、モデル3は警鐘を鳴らしてくれたようにも思えるのだ。今から福岡に帰省します。しばらくUPDATEはお休み。

[参考・引用]
[1]予約殺到の「テスラ量販EV」は日産ゴーン社長を奮い立たせるか?、佃義夫、ダイアモンドonline、2016年4月8日、
http://diamond.jp/articles/-/89293
[2]Tesla Just Received $115 Million For a Car That No One Had Seen、Chris Mills、GIZMODO、2016年4月1日、
http://gizmodo.com/tesla-just-received-115-million-for-a-car-that-no-one-1768391210
[3]モデル3 持続可能なエネルギーへ加速する、テスラモーターズ・ジャパンホームページ、
https://www.teslamotors.com/jp/model3
[4]テスラ「モデル3」予約開始日、日本も海外も行列ができてる!、塚本直樹、GIZMODO、2016年3月31日、
http://www.gizmodo.jp/2016/03/_3_1.html
[5]テスラ3、現時点で325,000台を受注、AUTOCAR DIGITAL、2016年4月8日、
http://www.autocar.jp/news/2016/04/08/165987/
[6]動画:スペースX、ロケット洋上着陸に初成功、AFP BB通信、2016年4月9日、
http://www.afpbb.com/articles/-/3083453
[7]日産 リーフ、誕生5周年…世界累計販売は20万台に、森脇稔、Response、2015年12月10日、
http://response.jp/article/2015/12/10/265853.html
[8]ルノー・日産アライアンス、2015年暦年(1月~12月累計)の販売実績を発表、日産自動車ホームページ、2016年2月4日、
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2016/_STORY/160204-03-j.html
[9]日産ゴーンCEO、テスラの新型EV好受注は「朗報」、Response、小松哲也、2016年4月5日、
http://response.jp/article/2016/04/05/272910.html
[10]「中期経営計画へのコミットメント」、鈴木行生、みんなの株式、2013年1月7日、
http://money.minkabu.jp/37365
[11]ルノー・日産アライアンス 累計25万台の電気自動車を販売、日産自動車ホームページ、2016年6月24日、
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2015/_STORY/150624-02-j.html
[12]ゴーン日産自 CEO、EV販売150万台の達成期限延期も投資に悔いなし、ロイター、2013年11月20日、
http://jp.reuters.com/article/autoshow-tokyo-nissan-idJPL4N0J530W20131120
[13]日本のEV米国販売、日産 リーフ が首位…4割減の1.7万台 2015年、森脇稔、Response、2016年1月28日、
http://response.jp/article/2016/01/28/268662.html
[14]テスラ「Model 3」ついにお披露目、航続距離は344km、久米秀尚、日経テクノロジーonline、2016年4月1日、
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/040101387/?P=1
[15]自動運転社会始まる。国交省が承認し、テスラ「モデルS」用自動運転ソフトウェアの配信開始、CarWatch、2016年1月15日、
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20160115_739177.html
[16]「自動運転」どこまで進んだ?、永井大介、なるほドリ・ワイド、毎日新聞、2015年11月29日、
http://mainichi.jp/articles/20151129/ddm/003/070/058000c
[17]自動運転・コネクテッドカー“超”入門、寄本好則、JAF Mate、2016年3月号、p22-27
[18]第1回視野に入った自動運転時代、連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕、伊藤元昭、テレスコープマガジン、2015年8月31日、
http://www.tel.co.jp/museum/magazine/japanese_spacedev/150831_report04_01/index.html
[19]無人タクシーも視野に? 「自動運転」という“未来”、鶴原吉郎、日経トレンディネット、2015年10月27日、
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20151022/1067069/
[20]自動運転 ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション、鶴原吉郎・仲森智博・逢坂哲彌、日経BP社、2014
[21]【悲報】電気自動車「テスラモデルS」を買った男性がバカだったと価格.comで泣く / やはりアウトランダーPHEVが最強か、なかの、ロケットニュース24、2015年4月15日、
http://rocketnews24.com/2015/04/15/570375/
[22]テスラのEV、6週間で3度の火災事故、DAMON LAVRINC、WIRED、2013年11月8日、
http://wired.jp/2013/11/08/3rd-tesla-model-s-fire/
[23]パナソニック、10兆円企業へのカギ握る車載事業の誤算~テスラ大型供給と巨額投資の成算、Business Journal、2014年4月12日、
http://biz-journal.jp/2014/04/post_4597.html
[24]テスラ新型EV、真の武器は自動運転、島津翔、ニュースを斬る、日経ビジネスONLINE、2016年4月7日、
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040600300/?P=1
[25]日産が新型GT-Rを発表!“GT-R史上最大の変化”日本仕様は570馬力で出す?、河口まなぶ、オートックワン、2016年3月24日、
http://autoc-one.jp/nissan/gt-r/special-2630918/
スポンサーサイト

Posted on 2016/04/17 Sun. 10:06 [edit]

category: cars/車のお勉強

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://ehonkuruma.blog59.fc2.com/tb.php/679-8057fcd0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

RSSフィード

リンク