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ぴかくんめをまわす(馬場のぼる版)  

馬場のぼる版「ぴかくん めをまわす」

先々週は当家の墓がある山口県防府経由で実家の福岡に帰省していたが、滞在していた4日間、ほとんど家の掃除をしていた。男寡になんとかで、特に男性の高齢者一人暮らしは悲惨なものがある。この辺の“高齢社会問題”については別の機会に話そうと思うが、とにかく急激に衰えの見え始めた父のこれからのことを考えると気が滅入る帰省休暇だったので、最終日には気晴らしに3時間ほど一人で外出して久しぶりの福岡市内を散策してみた。目的地は古本屋さん。かつて中央区大名にあって一度だけ行ったことのある「徘徊堂」さんが一旦店を閉じ、今度新たに2店舗をオープンしたという情報を得ていたからだ。寄ったのは絵本や児童書を置いているという別府(べふと読む)店の方。2店とも回りたかったが時間の関係で1店に絞る。そこで見つけたのが今回紹介する「ぴかくん めをまわす」(松居直・文、馬場のぼる・絵、福音館書店<こどものとも>「母の友」絵本49)である。ちょうど1年前、長新太版の「ぴかくん」を紹介したが、これは1960年初版の旧バージョンの復刻版だ。

馬場版ぴかくんめをまわす その1
信号機はどこ社製?(「馬場版ぴかくん めをまわす」より)
京三製作所製信号機 日本信号製信号機
昔懐かしいゼブラ板信号機(左:京三製作所製、右:日本信号製)[1]

馬場のぼる版を見て最初に気づくのは信号機のカタチだ。いずれも歴史を感じさせるゼブラ板だが、その形状が新旧作品で異なる。調べてみると、交通信号灯の三大メーカーは京三製作所、小糸工業、日本信号の三社[1]。最近でこそほとんどその構造に差が無くなったように見えるが、昭和の頃は各社個性的であった。長新太版では小糸工業製の六角形のゼブラ版だが、馬場版では四角形である。四角形だと京三製作所製か日本信号製ということになるけど、そもそも両社に違いはあるのか。よーく見るとゼブラ模様で区別ができる。左上と右下の角の色に違いがあるのだ。京三製作所製は白で日本信号製は緑でちょうど角にグリーンラインが入っている。そこで、本書で描かれた信号機を見てみると角は白。つまり京三製作所製だということがわかる。

今ではほとんど見ることのないこのゼブラ版、何のために付けられていたのだろう。[2]によれば、終戦後に電圧低下による信号機の視覚認識度を上げるために縁地(地の色が緑だったんだ)に白斜線を施したゼブラ板(正確には信号灯背面板)が設置されたのだという。ここ神奈川では黄色地に黒斜線というバージョンもあったそうな。新旧版が描かれた昭和30~40年にかけて灯器レンズの大型化等で視覚認識度が上がったために、昭和50年(1975)頃から次第にゼブラ版が撤去された。

ぴかくんめをまわす その4
歩行者専用信号機なんて無い時代(「長版ぴかくん めをまわす」より)

またこれら新旧二作品を読んでいると不思議なことに気づくだろう。新旧ともに歩行者専用信号機がどこにも見当たらないのだ。馬場版が出版された昭和30年代には車両用信号機と同じ灯器(つまりゼブラ板)を用いて「歩行者専用」の標識を取り付けていたが、昭和40年(1965)頃から歩行者用信号機専用の灯器を製造・設置が始まっている[3]。しかし、’66年初版の長版でも学童はまだ車両用と同様な信号機を利用して横断歩道を渡っている。私が小学生の頃には歩行者専用信号機があったように記憶している。

そして松居直氏の文章がまた長版と馬場版で微妙に異なることもわかった。例えば冒頭のシーン、馬場バージョンだと、
ここは、おおきな びるでぃんぐの そびえたつ、だいとかいです。
ひるまは、たくさんの くるまや ひとで さわがしい まちも、よなかは、
しーんとして しずかです。
しんごうきの ぴかくんも、よく ねむっています。
そろそろ ひがしの そらが、あかるく なってきました。
よあけです。

一方、長バージョンだと、
おおきな びるでぃんぐの たちならぶ だいとかい。ひるまは、
たくさんの くるまや ひとで さわがしい まちも、よなかは
しーんとして きみがわるいほど しずかです。
しんごうきの ぴかくんだけは、きいろい ひかりを つけたり
けしたりして、うとうと ねむっています。

ひがしの そらが、ぼーっと あかるく なってきました。
もうすぐ とあけです。

馬場版ぴかくんめをまわす その2
ぴかくんめをまわす その2
別の場面も比較してみた。挿絵は相当印象が異なる。(上:馬場版、下:長版)

本当にさらっと読んだら気づかないくらいのわずかな変更なのだが、なぜ長バージョンで挿絵だけでなく文章にも手を加えたのか理由はわからない。作家の方の言葉に対する拘り、気まぐれは常人にはわからないのかもしれない。ただ、上述の冒頭例では気になる変更箇所がある。夜が明ける前、新版ではぴかくんは黄色い光を点滅しながら”うとうと”眠っているのに対し、旧版ではぴかくんは点滅せずに”よく”眠っているのだ。挿絵をみてもその違いがよくわかる。旧版は初版が昭和35年(1960)、新版は昭和41年(1966)で6年の開きがあるが、この間に夜間時は消灯から点滅に変わったのだろうか。そもそも昔は夜間信号が消えていたのだろうか。私は生まれていないか幼児の頃なので、この頃の信号機のルールをご存じの方教えて下さい。

馬場版ぴかくんめをまわす その3
もうすぐ夜明け、ぴかくんは完全に眠っている。信号機が夜間完全に消灯されていたことってあったのだろうか?(「馬場版ぴかくん めをまわす」より)

その他、おまわりさんが朝、ぴかくんを起こしに来るシーンや少年が青で横断歩道を渡るシーンで、信号が青でも右をよく注意して渡りましょうと交通安全をしつける内容は、馬場版にはなく長版で新たに追加されている。この場面追加の理由も謎である。

馬場のぼる
馬場のぼる[4]

馬場のぼる氏は知る人ぞ知る戦後手塚治虫・福井英一と「児童漫画界の三羽ガラス」と呼ばれた日本を代表する漫画家・絵本作家。だから馬場さんの絵本はどうしても昔のコミック本を読んでいるような気分になる。絵本としては長新太版の「ぴかくん」の方が個人的には好きかな。馬場氏は1927年青森県三戸町生まれ。海軍飛行予科練習生14期生として土浦海軍航空隊に入隊し、終戦後は三戸に帰郷、リンゴ行商人、開墾農民、獣医手伝い、大工見習い、小学校の代用教員、ポスター描きなど職を転々とし、この頃から独学で漫画の勉強を始める。1949年に上京し、1950年『ポストくん』で漫画家としてスタート。少年漫画家として人気を得る。1951年「東京児童漫画会」(児漫長屋)発足時に入会、手塚治虫と出会い生涯の友となる。1967年に出版された『11ぴきのねこ』(こぐま社)でサンケイ児童出版文化賞受賞。『きつね森の山男』』(こぐま社)が絵本デビュー作。『11ぴきのねことあほうどり』他で文藝春秋漫画賞受賞。『絵巻えほん11ぴきのねこマラソン大会』でイタリアの子どもたちが選ぶ、エルバ賞を受賞。2001年永眠[5][6]。

2015師走の福岡天神
2015師走の福岡天神

さて冒頭の福岡散策。天神に到着すると真っ先に向かったのは天神コア内にある「味の正福」[7]。定食が何ともおいしそうだったが、ここではふりかけ“いかこんぶ”を土産に購入し、駆け足で向かいのソラリアプラザへ。1月帰省時と同様、いつもの「因幡うどん」で博多うどんといなり寿司を食す。やはり博多はうどんがホッとする。この日は12月17日。毎月17日は“いなりの日“なんだそうで。[8]の記事を見て初めて知った。天神にある「海木」という日本料理店のいなり寿司が抜群に旨いらしく食べたくなったが、事前に予約が必要ということで断念。また福岡には「鮨おさむ」の”わさびいなり“なるものがあり[9]、これも食してみたいと前々から気になっていた。店は中学生の頃住んでいた処に近く、天神からはかなり遠い。ということで、今回は「因幡うどん」でいなり寿司も頼み、親父が食いたいと言っていた博多うどんの生麺とあご(トビウオ)出汁を土産に購入。混んでいたので博多のおっちゃんと相席で早々にうどんといなりをかっ込み、次の目的地「徘徊堂」さんへ移動する。

福岡市営地下鉄3号線
福岡市営地下鉄3号線
福岡市六本松
六本松と言えば九大教養部だったが今はそれもない。元あった場所は現在工事中。
徘徊堂別府店
この日の最終目的地、徘徊堂別府店

店の開店時間は不規則のようなので事前に電話でオープンしていることを確認。地下鉄七隈線の天神南駅へ向かう。七隈線(市営地下鉄3号線)は2005年に開業しているが乗車するのはこれがお初だ[10]。グリーンの車両は実家へ帰るのに使う1号線や2号線のそれよりもコンパクトで、ロンドンのTUBEに少し広さ感が似ているような気がした。最寄の駅は天神から5駅目の六本松か次の別府。六本松で下車すれば、歩いて10分ほど。別府橋を渡り左折すると、こ洒落たイタリアンレストランやカフェなどがちょこちょこと並ぶ住宅街の狭い通り沿いに別府店舗はあった。なかなか良い感じの店構えである。小一時間ほどここで時間を潰し、「ぴかくん」など数冊を購入した。

梅光園団地交差点
梅光園団地交差点:昔はこの信号機もゼブラ板だったんだろうな。
梅光園団地交差点2
高層住棟に建て替えられた現在の梅光園団地

店を出て、来た道とは反対側へ道なりに進むと、梅光園団地の交差点に出る。ここは53年前、ちょうど本書のオリジナルが出版された頃に私が生まれた場所である。今は立派な高層住棟に建て替えられているが、当時は小さな公団住宅がびっしりと建ち並ぶ、その名の通り昭和の香り高き”団地だった[11][12]。その後、ご近所の塩屋町(現・鳥飼)にあった社宅に越したので、全く覚えてはいないがこの界隈は私の幼少時代のホームだったのだ。

53年前の私と母 近所のお兄さん、お姉さんたちと
左:53年前の私と母、右:ちょっと成長してから近所のお兄さん、お姉さんたちと。誰だかわからないけれど、当時の少年少女の顔つきがいいね。

横須賀へ帰り、当時のアルバムを見ると、今は亡き母と父の若い姿がある。その父もすっかり年老いてしまった。足の具合が悪くなり、最近近所の歩道でハデに転倒したという父は、私の帰省中にも自宅で転んだ。慌てて父を抱き起こしたとき、かつて風呂場で背中を流し、居間で肩たたきをした頃の大きく力強かった父の背中は小さく怯えていて、まるで幼児の頃の自分の息子を抱いているような感覚を覚えた。こうして人は老いてまた子供に戻るということか。53年の月日の流れはなんとも切ない。

シティ情報ふくおか
実家の近所の本屋で久しぶりに買った「シティ情報ふくおか」最新号。偶然にも直前に墓参りを済ませた防府特集、福岡のBOOK&CAFEE情報で紹介されていた徘徊堂、博多の旨いもん情報に触発され、福岡最終日の小旅行となった。

[参考・引用]
[1]交通信号灯器三大メーカのデザインの移り変わり、信号機の灯器の歴史、ようこそ信号機のページへ、
http://signal-net.sakura.ne.jp/sig_ago.htm
[2]Q.なぜむかしの信号機にはゼブラ板が設置されていたのですか、信号機の豆知識、ようこそ信号機のページへ、
http://signal-net.sakura.ne.jp/index.html
[3]信号機、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E6%A9%9F#.E6.AD.A9.E8.A1.8C.E8.80.85.E7.94.A8.E4.BF.A1.E5.8F.B7.E6.A9.9F
[4]ほのぼの館、三戸町スポーツ文化福祉複合施設(アップルドーム)、青森県三戸町ホームページ、
http://www.town.sannohe.aomori.jp/appledome/honobono/honobono.htm
[5]平成22年度 調査員報告、青森県近代文学館、
http://www.plib.pref.aomori.lg.jp/top/museum/baba_noboru.html
[6]馬場のぼる(ばばのぼる)、EhonNavi、
http://www.ehonnavi.net/author.asp?n=84
[7]思わずにやけてしまう、知る人ぞ知る博多定食屋の主役級のふりかけ、荒岡俊行、ippin あの人の「美味しい」に出会う、2015年8月5日、
http://r.gnavi.co.jp/ippin/article-3352/
[8]【本日17日はいなりの日!】大人から子供まで大好きな絶品稲荷寿司まとめ、ippin あの人の「美味しい」に出会う、2015年12月17日、
http://r.gnavi.co.jp/ippin/article-4717/
[9]玄界灘の海の幸堪能♡福岡の超人気店『鮨おさむ』の美味しすぎるお鮨、maica、4yuuu!、
https://4yuuu.com/articles/view/750876
[10]福岡市地下鉄七隈線、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E5%B8%82%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E9%89%84%E4%B8%83%E9%9A%88%E7%B7%9A
[11]梅光園団地と筑肥線遠望、福岡市の風景(1960年代)、にしてつ画像ライブラリー、にしてつwebミュージアム、
http://www.nishitetsu.co.jp/museum/library/02/064.html
[12]公団 梅光園団地、ALL-A blog 団地・近代化遺産・建築・まちなみ、 2009年1月11日、  
http://allxa.blog114.fc2.com/blog-entry-299.html
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Posted on 2015/12/29 Tue. 09:50 [edit]

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