三菱ジープCJ3B-J3

先日紹介した「しょうぼうじどうしゃじぶた」の主人公じぷたのモデルについて推理してみよう。作者の山本忠敬さんの絵は非常に写実的であるので、必ず実車モデルがあるはずだ。

ヒントとなる情報は、
①原文には「ふるいジープをかいりょうした」とある。明らかにベース車両はジープであり、この本の初版は1963年なので、少なくとも63年以前に発売されたモデルということになる。
②右ハンドル車である。
③ウィンカーの形式が、今では一般的な橙灯が点滅するタイプではなくて、矢羽(腕木)が飛び出すタイプ、いわゆるアポロ式(矢羽式方向指示器)であること。
以上から推定して三菱ジープ、CJ3B-J3Rの可能性が高い。

コンバット
テレビ映画「コンバット」

根拠を説明するには、三菱ジープの歴史を紐解く必要がある。ジープといえば、アメリカのテレビ映画「コンバット」でサンダース軍曹がさっそうと乗っている車、戦後の「進駐軍」が乗っている車のイメージがある。これが米国ウイリス・オーバーランド社製の四輪駆動世界戦略車ジープである。

このジープ、日本では1949(昭和24)年から倉敷レイヨン(株)との共同出資による倉敷フレーザーモータース(株)が設立され、駐留軍人・軍属、在留外国人向けに同社が輸入・販売していた。戦後の混乱期においては大量の完成品は輸入できないし、戦後の産業復興・国産化という国策から、ノックダウン生産(※)が進められた。実際、日産は英国オースチン、日野は仏ルノー、いすゞは英国ヒルマンとの技術提携が結ばれた。三菱もドイツVWとの提携を考えていたが、アウトバーンを想定していたドイツ車は当時の悪路だらけの日本には不向きということと、当時発足したばかりの自衛隊の前身である保安隊(1952年10月15日、警察予備隊を編成替え)が三菱によるジープ生産に関心を持っていたこともあり、1953(昭和28)年7月18日、ウイリス・オーバーランド輸出会社とジープを中心とする四輪駆動自動車に関する技術援助契約および販売契約を締結し、同年9月1日、正式に政府の認可を得た。こうして三菱ジープが誕生した。

それまでのジープのエンジン型式はCJ3A(ゴーデビル・エンジン)であったが、本家ウイリス社は新型エンジンCJ3B(ハリケーン・エンジン)に生産が切り替えられており、三菱が1953(昭和28)年7月から生産した国産車もこのCJ3Bがモデルとなっている。新三菱重工業(のちの三菱自動車工業)での型式名を、民間用はJ3、それを軍用化したのをJ4と称した。最初にCJ3Aをノックダウン生産した林野庁等向けをJ1とし、当時の警察予備隊ないし保安隊向けをJ2としたのに続いて、新型車のCJ3Bを国産化してJ3、J4とした。その後、1957(昭和32)年には4,000台近くのジープを生産するようになっていた。

このように、民間あるいは各諸官公庁等に多用途性が認められるようになると、それら用途に対応するいろいろな仕様が要望されるようになる。基本型である4人乗り幌型(キャンバストップ・キャンバスドア)を大型化し、メタルドアとした7人乗りあるいは9人乗り、また、キャンバストップをメタルトップにしたもの、さらにワゴンスタイルのジープも1956(昭和31)年には誕生しており、また、これらの各タイプには、左ハンドル、右ハンドル、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等があり、1964(昭和39)年5月末までに、なんと25型式(!)が生産されたそうである。

4人乗りキャンバストップ・キャンバスドアタイプでは1953(昭和28)年に生産を開始した左ハンドル・ガソリンエンジンのJ3のバリエーションとして、右ハンドルに変わったJ3Rが1961(昭和36)年に誕生した。また、J3にディーゼルエンジンを搭載したJC3(左ハンドル)を1958(昭和33)年に生産を開始し、さらにその右ハンドル車J3RDを1961(昭和36)年に出した。

三菱ジープCJ3B-J7
三菱ジープCJ3B-J7

したがって、じぷたの条件②からすれば、CJ3B-J3Rが妥当であるが、エンジンがガソリンかディーゼルかは断定できないので、J3RDという可能性もある。また①の「ふるいジープをかいりょうした」からすれば、誕生年の1961年はこの本の初版1963年からすると、ちと新しすぎる。左ハンドル車J3もしくはJC3の右ハンドル車への改良版かもしれない。さらに[2][4]によれば、CJ3Bの消防車仕様はJ7とある。するとJ7の改良版なのか?

仮にCJ3B-J3Rとして、条件③に矛盾はないのか。J3は時代的に明らかにアポロ式であるが、[3]によるとJ3Rには前期、中期、後期タイプがあるようで、最初期のモデルはアポロ式の方向指示器だったそうだ。であればCJ3B-J3Rであっても成立する。ということで、「じぶた」はとりあえず三菱ジープCJ3B-J3Rと結論づけることにしよう。

ところで、その後の三菱ジープであるが、1998年8月J55モデルを最後に生産中止となった。1953年の国内生産から累計20万4千台を生産したロングランモデルはここに幕を閉じたのである。三菱ジープについては、引用文献[1]~[3]が非常に詳しいので、是非参照していただきたい。その他、ジープ乗りのサイトも数あるが、ジープファンは熱い。

のっぽくん
鋼製4連油圧式30mはしご車

さて、「しょうぼうじどうしゃじぷた」の他の主人公たちにも少し触れておこう。はしご車の「のっぽくん」は、1959年(昭和34年)に製作された鋼製4連油圧式30mはしご車である(上図)。シャシは日野TH15K-59、艤装が森田喞筒(現モリタ)、もしくは日本機械製であった。これははしごの駆動に初めて油圧式が採用されたモデルである。

ぱんぷくん
高圧ポンプ車

ポンプ車の「ぱんぷくん」は、メーカ名は不明なのだが1954年(昭和29年)に製作された高圧ポンプ車に外観は一致する(上図)。資料によれば、主ポンプとして4段タービンポンプ、加圧ポンプとして3段タービンポンプを搭載、56kgf/cm2以上の高圧噴霧放水が可能、ポンプ以外に容量1500Lの水タンクと容量420Lの泡剤タンクを搭載し、化学車としての機能も持ち合わせた。

いちもくさん
トヨタFS35型救急車

救急車の「いちもくさん」は1961年(昭和36年)にトヨペット・クラウンを基本として改良したトヨタFS35型救急車(上図)。昭和38年度の自治省消防庁の委託研究で試作された「標準救急車」のベースになったもので、これ以降FS45型、FS55V型を経て、救急車は全国で統一されていった。

これらの情報はすべて[5]に記載されている。この本は消防装備の資料としては秀逸なものであり、消防ファンにとっては一家に一冊必携である。私は消防おたくではないが、数ある消防車絵本の資料として所有している。残念ながら、じぷたに関する詳細記述はなかった。謎多きじぷたである。

(※)他国(他企業)で生産された製品の主要部品を輸入して、現地で組立、販売する方式である[6]。

[2009.2.15追記]
山本忠敬の世界」というブログを見つけ、その中にじぷたのモデルについて山本忠敬ご自身が語っている貴重な資料が掲載されていた。これによると、戦後ウイリス・ジープを、消防車両の製造を手掛ける日本機械工業会社が消防車に改装したのが"じぷた"なのだそうだ。そして1950年代の日本で、消防車として大いに活躍した。「しょうぼうじどうしゃじぷた」の発行の63年当時は、すでに東京の消防署には一台も無くて、見ることができず困っていたとのことであるから、昭和36年(1961)年から登場したJ3Rがモデルの可能性は低い。戦後すぐに米軍払い下げのジープを直接日本機械工業会社が改装したか、左ハンドル車の消防仕様、三菱J7の改装を日本機械工業会社が請け負った可能性が高い。

[参考・引用]
[1]三菱ジープ最終生産記念誌「THE MITSUBISHI JEEP J55 FINAL PRODUCTION」、
http://jp-jeeper.com/jeep/index2.html
[2]じいぷファン倶楽部、Vol.1、三菱製CJ3Bのなかまたち、
http://www.asahi-net.or.jp/~si8t-osgs/jb.htm" target="_blank">http://www.asahi-net.or.jp/~si8t-osgs/jb.htm
[3]じいぷファン倶楽部、Vol.2、さようなら三菱ジープ!(三菱ジープ創成期)、
http://www.asahi-net.or.jp/~si8t-osgs/mj3.htm
[4]レストアしたJ7と十方山林道を走る、4×4MAGAZINE、No.19、2003年12月号、
http://www.fuchu.or.jp/~okamura/reporter/ja11/2003-12/top.html
[5]災害と戦ってきた装備の変遷「消防装備史」、東京消防庁装備部監修、東京連合防火協会・東京法令出版、1998
[6]ノックダウン生産、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E7%94%9F%E7%94%A3
[7]三菱ジープ諸元、
http://jp-jeeper.com/jeep/ayumi/shogen.html
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旧車/三菱/JEEP/ジープ/CJ3B-J10/6人乗/昭 ( 18:09 )

メーカー名三菱(ウイリス)車種名ジープ グレード名CJ3BJ10 スノープラウ付年式昭和35年式 走行距離15693キロ実走?車検有効期限  ボディタイプ6人乗 幌型 左ハンドル色黒 修復歴なし整備記録簿昭和53年  10327キロ昭和55年  10402キロ昭和56年  11188キロ

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