Close to You by Carpenters

最近、この3日から公開されているアメリカ映画「パパが遺した物語(原題“Fathers & Daughters”)」がちょっと気になっている。ラッセル・クロウ演じる小説家ジェイク・デイヴィスは自分の起こした事故で妻を失い、彼もまた事故の後遺症によってまだ7才の最愛の娘ケイティとの永遠の別れが近づいていることを悟る。25年後、過去のトラウマから人を愛せなくなったケイティ。ある日、父の小説のファンという青年と出会い、彼女は恋に落ち、新しい人生を踏み出そうとする。そして、父がケイティに遺した最後の小説とは…。予告編の動画を見ると、私の大好きなハル・デイヴィッドバート・バカラックの名曲“(They Long to Be)Close to You”の切ないメロディが流れる。このプロットにこの曲を重ね合わせるだけで私は泣きそうになった(歳のせいか、最近涙もろくて)。



主演のラッセル・クロウはこの脚本を読んで号泣したという。“Close to You”は父娘の思い出の曲という重要な設定で、「歌詞が素晴らしく、シーンや作品のメッセージとマッチしているのが決め手だった。」とプロデューサーは語るが、この曲を大ヒットさせたカーペンターズのオリジナルソングはライセンスがなくて使えない。エンドロールの曲を依頼しようとマイケル・ボルトンを試写会に招待したら彼も大泣きして、無償でオリジナルソングを書くことを約束し、“Close To You”の事情を知った彼はこの曲も歌うことになったそうだ。この映画、ネット上の評価では賛否が分かれている。今日のテーマはこの映画ではなく音楽の方なので、私もまだ観ていないし、中身の論評については“カッツ・アイ(割愛)”。

この映画のストーリーと、先日乳ガンの手術を受けた北斗晶さんが、入院前に「愛する子供達の白髪の生えた顔が見たい」と子を持つ親の素直な心境を語っていたこと[1]を聞いて思い出したことがある。長女が生まれた15年前、私は学生時代、同じ研究室だった親友をガンで亡くしている。彼はスポーツマンで誰よりも病気とは縁のないような健康そのものの男だった。大学卒業後は高校の数学教師となり、同業の美しい奥様を娶り、家も建て、英国での研修も経験して仕事にもプライベートにも自信に溢れていた彼に、突然不幸は訪れた。結婚して間もない私も義理の母を肺ガンで失い、実母も乳ガンの手術を受けたばかりという身内の災難が続いたショックもまだ癒えぬ頃、彼に非常に発見しにくいスキルス性の胃ガンが見つかり、その時点でもはや手遅れだと聞かされたときは言葉を失った。今でも大切に残しているが、亡くなった年に彼から届いた賀状には「ガンを告知され、余命5ヶ月。どん底の精神状態から今は立ち直り、ガンと闘っています。」と覚悟のコメントが書かれていた。何と声をかけてよいかわからない私は恐る恐る電話をかけたのだが、非常に元気そうな声だった彼と何を話したか覚えていない。

その後も彼を力づける言葉もかけられぬまま、この時が彼と会話を交わした最後となった。事情があって九州で行われた葬儀にも参列できず、ここでもまた彼と彼のご家族に不義理をしてしまったのだ。後日、頭がすわるようになった娘と妻の3人でそれまでの失礼を詫びにご自宅へ仏前を参ったのだが、今でも大きな後悔として私の深い心の傷になっている。彼はワーゲンのゴルフとボルボのエステートワゴンを所有していたくらいクルマも大好きな男だった。クルマの絵本をテーマにしたこのブログは、今にして思えば天国の友人に向けて書いていたのかもしれない。

彼がガンを告知された時、二人のお子さんはまだ小さかった。奥様の話によれば、闘病中も大好きなスポーツに打ち込み、時間のある限り、愛娘と愛息に彼の思うこと経験したことあらゆることを伝えていたと言う。彼もまた、北斗さんのようにかわいい盛りのお子さんの一人前になった姿を見たいと切望していたと思う。娘さんの花嫁姿を見たかったろう。息子さんとは酒を飲み交わしたかったろう。一瞬でも長く、彼らの傍にいたかったはずだ。その夢が果たせなかった無念の気持ちを思うと、いまだに涙が止まらなくなることがある。そのお子さんも今は海外に留学されていると便りで知ると、立派になったその姿を見せてあげたかったなあと改めて思う。

友人の死を経験してからは、会社から遅く帰ってきて家族の寝顔をみるたびに、俺はいつまでこいつらの寝顔を見られるのだろうかと思うようになった。“(They Long to Be)Close to You”(みんなあなたの傍にいたいの)の歌詞は、一見よくある女子の恋心を歌ったラヴソングように聴こえるが、They Want to BeではなくThey Long to Beであるところがミソ。Long toってなかなか実現できないことを願うときに使う表現だ。今回紹介した映画の中の、そして現実の世界の登場人物たちに皆共通する想いが、このThey Long to Be Close to Youのフレーズに凝縮されている。ハルの詩は深いのだよ。



実母は乳ガンの手術を受けてから10年後に亡くなった。抗ガン剤が合わなかったのでホルモン治療を続けることで予後は安定していたが、8年目にPET検査で骨に極めて小さな転移が発見されて、抗ガン剤治療を始めてからあっという間だった。転移に気づかず、ホルモン療法を続けていれば、もっと長生きできたかもしれない。最近はガンによる有名人の訃報も続いている。日本人2人に1人がガンを発症する現代。

満屋裕明博士
Dr.MITSUYA[2]

一昨日、先の友人と苦楽を共にした大学のOB、世界初のエイズ(HIV)治療薬を発見した満屋裕明博士の特集がNHKで放映されていた(Dr.MITSUYA ~世界初のエイズ治療薬を発見した男~)。エイズもまた不治の病と言われた血液のガンである。我々が大学に在籍していた30年前に、当時世界最大規模の医療研究機関NIHで研究をされていた満屋先生が世界初のHIV治療薬ATZを発見したと大きなニュースになっていたことを覚えている。大学OBだったので熊本では特に関心が高かったのだと思う。その後も複数のエイズ治療薬を開発して、彼はノーベル賞候補とも言われていた[2]。ちょうど特集の放映がノーベル賞ウィーク真っ只中だったので、NHKは賭けに出たのかもしれないが、今回吉報は届かなかった。昔から南九州で多くみられる成人T細胞白血病(ATL)という血液のガンがある。母校熊大はこのATLの研究で有名だったが、ATLとエイズは同じレトロウィルスを原因とするガンだったため、エイズ研究の下地があった。看護師をしている従妹にATLの話をしたら「詳しいね」と驚かれたことがあるけど、熊大には国内初のエイズ専門の研究センターがあることを多くの人は知らないと思う。今年のノーベル医学・生理学賞は別の日本人、大村智博士が受賞され彼もまた多く人の命を救った医薬の開発に貢献された一人だが、いつになればすべてのガンの寛解法あるいは特効薬でノーベル賞が授与される時代がくるのだろうか。より多くの人の”They Long to Be Close to You“の願いが叶うように、剛毅朴訥な満屋さんのような世界中のガン研究者に頑張ってもらうしかない。

さて、うちのバカ娘、高校にまぐれで合格したまではいいが、最近は部活で疲れ果てて帰って来る毎日で、毎晩ソファーで口を開けて寝ている。目を覚ませばスマホいじりに興じてろくに勉強もせず、こっちが小言を言えば「うるさい」の一言。親の心子知らず。反抗期なんだろうけど、親に対する口のきき方に育て方を間違ったと、こちらも日々是後悔也。

[参考・引用]
[1]北斗晶、乳がん告知以来の苦悶明かす 全摘にためらいながら「子供達の白髪を見たい」、デイリースポーツ、2015年9月23日、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150923-00000058-dal-fight
[2]医薬にノーベル賞は出るか?(2)、有機化学美術館・分室、2013年9月28日、
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/52124174.html

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コメント

  1. SDTM | /ZyVyp1I

    この記事、、

    ☆ 3つのことがSDTMにヒットしてします。

      1.「CLOSE TO YOU」が日本語でない曲でカラオケで歌える。
      2.「乳がん」、実は妻がこの2月に検診で発覚。5月に入院。両胸にメスが入る。
        比較的、早期発見に近いが、やはり転移の可能性は否定できない。
      3.「Dr.MITSUYA」のTVが偶然、TVのスイッチを入れてたら、始まったばかり。

      薀蓄を言う程の頭も無し、ただ偶然とも言える記事の内容にグッときて、書き込みを
      した次第。不思議なものだ。自分でどうすることもできないこともあるが、
      「やるべきことが自分にある」と思えることが仕事であれ、趣味であれ、何かあれば
      人は頑張れるのだと思う。
      妻が、「何は始めるには、時間もお金を掛かる、だからはじめられない」と
      最近、呟く。
      自分は、強く自分で求めればできるはず、と言いたいが、先述している通り、病気で
      気弱になっている妻にとてもそれはいえない。
      また、世間的に(いや俗人的に)成功していない自分が何を言っても響かないかもしれない
      という心の弱みもある。
      でも、それがどうした、、とここの中で呟く。それでも自分はその都度頑張って生きているじゃ
      ないか、妻の同じこと。人間、呟きながら生きていかなくてはならぬ、、そう思いたい。

    ( 22:05 [Edit] )

  2. papayoyo | -

    Re: この記事、、

    SDTM様、
    昨夜コメントを拝見させていただき、深夜に返信するには重いなと、
    今朝デイライトの中で書いています。天気はいまいちですが。
    奥様のこと、ご心配でしょうが寛解に向かわれることお祈り申し上げます。
    患者さんの気持ちは本人でないと理解はできませんが、
    以前は告知されれば絶望だったこの病気も、
    満屋先生のような方々の勇気と努力によって克服できる確率が日々高くなっているのは確かです。
    ”確率”と書いたのは、どんなに医療技術が進歩しても人の寿命は最終的にはコントロールできないからです。
    ラグビーの南ア戦を観て、人に不可能なことはないのかもしれないと勇気と気付きもらいましたが(決勝Tを逃したことは残念でしたが)、死から逃れることは不可能です。
    早いか遅いかだけの違いです。それも宇宙の時間尺度からみれば誤差範囲。
    誰かが言っていましたが、寿命も性格と一緒で個性なんだと。
    僕は神がサイコロを振っているんだと思ってます。
    ゆえに誰からも慕われる人が早逝し、悪人の塊のような人が長生きをするという不条理も生まれる。
    日頃から健康に留意してガン検診にもまめに通っている人でもガンになって亡くなることがある一方、
    ステージⅣから生還する人もいる。
    若い頃は毎夜午前様で仕事上のストレスも多く、ヘビードランカー、ヘビースモーカーだった父は、
    途中心臓病で死にかけたものの80も半ばを超えた今も介護の必要なく元気に生きています。
    心臓病で倒れたときも偶然が重なり一命を取り留めました。
    だから明日の命の保証なんて誰もできない訳です。
    明日生きるか死ぬかは確率の問題。
    ガンを告知され、自分が本当にやりたいことを考える時間が与えられるというのはある意味幸せなのかもしれませんね。
    定期的な健診も健康を意識した毎日の運動や食事も決して否定はしませんが、
    ちょっとだけ長生きの確率が上がると考えた方がよいのではないでしょうか。
    気にし過ぎることも良くありませんから、笑って生きることが肝要です。
    ウルフルズの「笑えれば」を歌いたくなりました。

    ( 09:48 )

  3. SDTM | /ZyVyp1I

    ご丁寧に

    ☆ お返事を頂きまして、恐縮です。
      後で自分のコメントを読んでみると、支離滅裂ですね。
      誤字脱字も目立ちます。
      勢いに任せて書いてしまうと後悔します。
      papayoyo様が書いている「笑って生きる」を肝に銘じて
      頑張ろうと思います。

      カラオケの話題につなげ様と思ったのですが、残念。
      また、よろしくお付き合い下さい。

    ( 21:57 [Edit] )

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