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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

ひこうじょうのじどうしゃ  

ひこうじょうのじどうしゃ

前回の続き)羽田空港へ遊びに行った報告も兼ねて紹介する空港で働くクルマの絵本第2弾、今回は「ひこうじょうのじどうしゃ」(山本忠敬・作、福音館書店)を取り上げる。以前にもコメントしたが、クルマ絵本作家の新旧両横綱、山本忠敬さんとこもりまことさんがともに、飛行場の自動車をテーマに絵本を描いていたということは、それだけ空港には魅力的なクルマがたくさん存在するという証左でもある。実際に絵本を開けばそのことがよくわかる。

くうこうではたらくくるま」では、こもり氏の筆力で空港のスケール感が見事に描写されていたが忠敬先生も負けていない。主役はヒコーキ、クルマはユニークな名脇役というこもり版に対して、忠敬版ではあくまで主役はクルマという演出の違いが面白いが、本書ではこもり版のように空港の全景を一切描かず、白地のキャンバスの中でクルマたちにズームアップすることで、主役として立ち回る飛行場の自動車たちが一層引き立つ。それは表紙の絵の違いにも現れている。そのこもり版に比べ控えめな印象の旅客機は、今はなきJAS(日本エアシステム)機だ。

つい先日、経営破綻したスカイマーク社がANA(全日空)の支援を受けて再建されることになった[1]。かつて日本の航空業界には、日本航空(JAL)、全日空(ANA)に東亜国内航空(JASの前身でTDAと呼んでいた)を加えた三大航空会社時代があった。90年代以降の規制緩和で新規参入した代表格がスカイマーク社だったが、航空運賃の価格競争にまずJASが敗れる。2002年にJALとJASが経営統合するのだが、結局これがJALの経営も苦しめることになる[2][3]。そしてJALの経営破綻。一方で新たなLCCなどの参入もあり、競争はますます激化。スカイマークも破綻して今回ANA傘下となった訳だ。これってJAL・JASの二の舞にならないのだろうか。日本の航空業界のWIN-WINを目指した規制緩和・自由化だったが、地方空港乱立の影響も大きく結果を見れば失策と言わざるを得ない。政治家・役人の考える発想は、日本経済の活性化にブレーキになることこそあれ、アクセルになった試しがない。

本書で脇役として登場するヒコーキは、何とも懐かしいレインボーカラーのエアバス社A300。A300は東亜国内航空が1981年に国内初導入。TDA-JAS機の象徴とも言える虹色塗装は、エアバス社のデモフライト機の塗装を譲り受けた物だそうだ[4]。僕はこのカラーリングとA300が気に入っていたので、実を言うと3社の中でTDA-JASが一番好きだった。

ひこうじょうのじどうしゃ その1
本書のメニュー画面?(「ひこうじょうのじどうしゃ」より)

さてクルマが主役の忠敬版だが、ページを開くといきなりA300を中心にその周りに取り巻く小さなクルマたち。なるほど、まずはこの絵本のメニュー画面といった導入部で読者を惹きつける。空港で働くクルマにはどのようなものがあるのか一目でわかる仕組みだ。

コンテナ・ドーリーを牽引するトーイング・トラクター
コンテナ・ドーリーを牽引するトーイング・トラクター@羽田第2ターミナル
本書で描かれたコンテナ・ドーリーを牽引するトーイング・トラクター
本書で描かれたコンテナ・ドーリーを牽引するトーイング・トラクター(「ひこうじょうのじどうしゃ」より)

クルマの種類は「くうこうではたらくくるま」に登場したものと基本変わりはないが、呼称の異なるものもある。こもり版でトーイング・トラクターと呼ばれていたものは、本書ではペイ・トラクターと書かれている。コンテナ・ドーリーを牽引する車両をトーイング・トラクターと呼んで区別しているようだ(こもり版はどちらもトーイング・トラクター)。トーイング・トラクターは英語ではpushback truckと呼ばれる。このクルマは自走で後退できない旅客機を後方へ押し出して移動させることからそう呼ばれているが、日本ではトーイング(towing、牽引)式も含めてこの呼称が一般的。トーイング・トラクターと旅客機の接続はトーバー(tow bar)という棒を連結してプッシュバックする[5][6][7]。

トーイング・トラクターの働きぶり
トーイング・トラクターの働きぶり(「ひこうじょうのじどうしゃ」より)

あと「くうこうではたらくくるま」に登場しなかったクルマとしてはジラフ車が描かれている。キリンという名称から旅客機の高いところの点検や整備をする高所作業車のこと。

もう一つ注目したいのは、電源車とエア・スターター車の2台。ここで自動車と飛行機(ジェットエンジン)の始動の仕組みをおさらいしておこう。クルマはキーで(最近はボタンが多いけど)エンジンをかける。実際にはキーを回して(あるいはボタンを押して)スターター(通称セルモーター、キュルキュルキュルと鳴るあれ)という装置を始動させている。クルマが走っている時はオルタネータという発電機がプラグの発火やライト点灯、電装品のための電気を供給している。しかしエンジンが回っていないとこのオルタネータは発電できない。じゃあエンジンが止まっている状態からクルマを発進させるにはどうしたらよいのか。ここでスターターの登場である。スターターはバッテリの電力で作動して強制的にエンジン(ピストン)を回す。一旦エンジンが回り始めればオルタネータも発電し始めるのであとは問題ない。但し、バッテリーが上がればどうすることもできない[8]。

電源車 エアー・スターター車
(左)電源車と(右)エアー・スターター車(「ひこうじょうのじどうしゃ」より)

それでは航空機のジェットエンジン始動の場合はどうなのか?実は私も知らなかった。クルマのスターターに相当するものがニューマチックスターターというもので、圧縮空気で回転する小型で軽量なエアモーターを装備している。このスターターを回転させるのには、2気圧以上の圧縮空気と点火装置のための交流電源が必要になる。圧縮空気によってジェットエンジンのタービンを回転させ、ある程度回転が上がったところで燃料噴射、点火を行ないエンジンが始動するという流れだ。このように航空機の主エンジンを始動させたり、空調・電気系統の補助動力として利用される電気とエアーを供給する補助動力装置のことをAPU(Auxiliary Power Unit)と呼び、通常航空機の胴体後部に取り付けられているのだそうだ。一方で地上において航空機の整備等を行なう際に電気とエアーを供給する施設がGPU(Ground Power Unit)と呼ばれるもので、移動式(車両に設備を搭載したもの)と固定式(地上に設備を固定したもの)とがある[9][10][11]。本書に登場する電源車とエア・スターター車は移動式GPUということだ。駐機中にAPUを作動させると騒音や排気ガスが発生するので、近年は環境の配慮からGPUが用いられるとのこと[12]。本書は2才~4才向きとあるが、これらの車両を指さして「このクルマは何をするの?」と質問されても答えられないわな。

空港の消防自動車
空港の消防自動車(「ひこうじょうのじどうしゃ」より)

あと本書では空港の化学消防車もきちんと紹介されている。忠敬先生の完璧すぎる拘りだ。ところで表紙の2種類のクルマは何だろう?赤いクルマは最初のページに空港パトカーと紹介されているが(左上)、空港消防の司令車ではないかと思う(車種不明)。[13]によれば、空港の消防体制は、国連の専門機関「国際民間航空機関(ICAO)」の規定に基づいて定められているそうだ。救難消防車の台数、車両に積載する水量、消火剤の性質、そして「3分以内に現場に到着」など。所管官庁が国土交通省航空局なので、本書の化学車やこの司令車と思われる車体にはいずれも“航空局”と書かれている。加えて各空港は消防庁の管轄、例えば羽田空港では東京消防庁蒲田消防署の管轄エリアにあるので、実際の災害時には同署との協力が欠かせない。

JASのトーイング・トラクター
表紙の働くクルマはトーイング・トラクター[14]

そして表紙の主役を飾る大型車両、この働くクルマの正体が最初わからなかった。本文を見てもこの車両が登場しないのだ。色々調べてみると、これもトーイング・トラクター(ペイ・トラクター)だということがわかった。製造メーカーや型式は不明。

羽田でスロットカーを楽しむ
羽田でスロットカーを楽しむ@羽田国際線ターミナル

前回の羽田空港訪問記で紹介したように、第2ターミナルでヒコーキとクルマを堪能した後、今度は国際線ターミナルへ移動。新国際線ターミナルが開業したのが5年前。昨年夏には出国前エリアの拡張部分が開設し、様々なアミューズメント施設が楽しめると以前から話題になっていた[15][16]。息子と真っ先に向かったのは、5F「TOKYO POP TOWN」にある老舗おもちゃ屋さんの羽田店「博品館TOY PARK」。ここに併設された全長50mのスロットカーサーキットで遊ぶためだ。1回5分で200円[15]。マシンは子供用と大人用を選べるが、自宅でスロットカーに慣れ親しんでいる愚息は迷わず大人用を選択。一緒に遊んでいた人とコーナーバトルを楽しんだ。

羽田でフライトシミュレーターを楽しむ
羽田でフライトシミュレーターを楽しむ@羽田国際線ターミナル

5Fの展望デッキと「はねだ日本橋」とを結ぶ「TIAT Sky Road」には、子供から大人まで体験できるフライトシミュレーターを4台が設置されている。上級者向けのモーション付きは1回5分で300円、初~中級向けモーションなしは200円で遊ぶことができる[16]。ただ一旦離陸して水平飛行に入るとほとんど風景の変化もなく飛行を続けるだけなので、遊び方には工夫がいるだろう。子供でもモーション付きがいいかも。

はねだ日本橋
はねだ日本橋@羽田国際線ターミナル
羽田から東京スカイツリーを望む
羽田から東京スカイツリーを望む@羽田国際線ターミナル

展望デッキの反対側には、空港のコンセプトとしては度胆を抜いた4F「江戸小路」の繋がりで江戸時代の日本橋が再現された総ヒノキ造りの「はねだ日本橋」がある。全長25m、幅4mという巨大なものだが、これでも実際に江戸の町に架かっていた橋の縦横半分の縮尺なのだそうだ。

羽田の締めくくりは日産?
羽田の締めくくりは日産@羽田国際線ターミナル

今回探検しなかった第1ターミナルも含め、まだまだ気になった場所はあったのだが、「江戸小路」でちょっと遅めのお昼を食べてこの日は帰宅することに。国際線ターミナルのエスカレーターを降りていくと、大きな日産リーフの垂れ幕が目に入る。行きはダイムラー、帰りは日産と意外にクルマと縁のある羽田空港。

自宅からのアクセスもいいし、楽しめる場所も多いし、これじゃ成田の地盤沈下は深刻だなあと思っていたら、どうも海外からのお客様はその逆の感想らしい。「プロから見て羽田空港には大きな欠点がある」という記事にその羽田空港の抱える課題が示されているのだが、日本語を解さない訪日客にとって公共交通を使って羽田から都心へ向かうにはかなりのスキルを要するとのこと。“To Tokyo”と表示されたバスや電車がないというのがその理由だ。確かに日本人でもこの電車がどこへ向かうのか判断するのに神経を使うのだから、土地勘のない外国人が理解するのは至難の技だろう。品川=東京は当然知っている前提で行先表示板は書かれているように、ハイコンテクスト文化、すなわちコンテクスト(言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性)の共有性が高いことによって、直接的ではなく複雑でわかりにくい日本社会の負の面が表れた一例だ[17]。

その外国人には評判の悪い京急線に乗って帰宅途中、スマホでニュースを閲覧していると「軽飛行機が住宅地に墜落」の速報がUPされていた。先日の調布での航空機事故の第一報だ。後日友人からのメールで知ったのだが、調布に住む共通の友人宅が、まさにこの事故現場から数十mの距離だったと言う。幸いに被害はなかったようだが、正直調布も広いからと友人の安否は気にしていなかった。世の中何があるかわからない。空港で働く人やクルマたちによる日々の点検・整備のお陰で、空の安全は保たれているのだと再認識。御巣鷹山の日航機事故から今日で30年を迎える。過去の航空機事故による犠牲者やそのご家族へ改めて哀悼の意を捧げるとともに、空港はいつでも楽しい思い出の場所であり続けて欲しいと思う。

東京国際空港

[参考・引用]
[1]ANA、「スカイマーク」で逆転劇 エアバスに発注約束、日本経済新聞、2015年8月6日、
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ05HQJ_V00C15A8EA2000/
[2]日本エアシステム、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0
[3]JALが破綻した理由、ニュースの社会科学的な裏側、2010年5月6日、
http://www.anlyznews.com/2010/05/jal.html
[4]エアバスA300、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%90%E3%82%B9A300
[5]プッシュバック、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF
[6]夏休みは空港へ「はたらくクルマ」を見に行こう 羽田空港国内線第1旅客ターミナルで見られるJALのクルマたち、Car Watch、2014年8月13日、
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140813_662083.html
[7]「空港で働くクルマ」大集合! “メカメカしさ”にグッと来る!?、日経トレインディネット、2014年08月12日、
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140801/1059363/?ST=life
[8]スタータ(セル)とは?、電気装置基礎編、カーライフサポートネット、
http://www.carlifesupport.net/denki%20kiso_starter.html
[9]エンジンスタートにはモーターではなく圧縮空気を利用!?、飛行機の素朴な疑問を集めてみたら…、
http://skyshipz.com/engine/b083.html
[10]旅客機のエンジンを始動するには、飛行機の素朴な疑問を集めてみたら…、
http://skyshipz.com/engine/d029.html
[11]基本知識、参考図書 マニアの王道 「旅客機操縦マニュアル」 イカロス出版、767 Pilot in Command、Level-D 767、Omi 767、
http://www.flightinfo.jp/omi/level_d_flight2/001_preflight.htm
[12]電源車、丸々一冊はたらくクルマ 空港車両編、ネコパブリッシング、p40、2014
[13]羽田空港の安全を守る東京空港事務所の仕事、ネコパブリッシング、p95、2014
[14]プッシュバック風景、ヒコーキ光画館、2004年8月29日、
http://runway10.sakura.ne.jp/page/air0024.html
[15]もはや娯楽施設! 羽田・新国際線&“新第2”ターミナルの楽しみ方、山下奉仁、日経トレンディネット、2010年10月8日、
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20101007/1033290/?rt=nocnt
[16]【レポート】羽田空港国際線ターミナルの拡張部分がオープン 空港内にヒノキ造りの”日本橋”も、トライシー、2014年8月28日、
http://www.traicy.com/archives/8506156.html
[17]ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化、P.C.G.ホームページ、
http://www.pan-nations.co.jp/column_001_005.html


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Posted on 2015/08/12 Wed. 23:36 [edit]

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