はしる

先月のことになるが、陽射しも強かった23日は息子の小学校の運動会だった。私の頃と違って、最近は春(といってもほとんど夏の陽気だけど)に運動会を開く学校が増えた。小6の彼にとっては最後の運動会。今年高校生になった娘も通った学校なので、時の流れは湯水の如し。もうこれで見納めかと感慨深いものがあった。低学年のある年には徒競走でこけてビリとなり、泣きべそをかいていた姿が忘れられないがラストランは1等賞。昨年・今年と応援団、練習の苦労も多い組体操では三段組みのてっぺんを仰せつかるなど締めくくりに相応しく大活躍だった。身体は小さく軽い持病も持つ息子だが、サッカーをやっているお陰かちょこまかとすばしっこく、まあ元気に成長したものだと思う。ということで、久しぶりのクルマノエホンはあらゆる“走る“を科学的に学ぶ「はしる」(構成・文:吉田秀樹・「うごくかがく」編集委員会、絵:高橋透、ほるぷ出版)を紹介する。

運動会の応援合戦
息子の運動会での応援合戦

『それは足からはじまったーモビリティの科学』(技報堂出版)という本によれば、クルマも含めたあらゆる交通システムの歴史的オリジンは「足」である[1]。その足を使って人は歩きそして走る。人はなぜ走るのだろう。原始社会においては食うか食われるか、生きるか死ぬか、獲物を追い、危険から逃れるために人は走った。文明が進むとこれら動物の本能による理由は薄れ、情報やモノを早く伝達する目的で走った。古代ギリシャ軍がマラトンの戦いに勝利したことを兵士がアテネまで走って伝えたとされるマラソンの起源の話[2]や江戸時代の飛脚のシステムである。さらに「足」が機械に置き換わると、人は体育やスポーツとして健康や楽しみを求めて走り始めるようになった。日本での運動会の始まりは明治時代からである[3]。

運動会の花形、リレー
運動会の花形、リレー

その運動会では今も昔も徒競走での順位に皆が一喜一憂したことだろう。足が遅いからかけっこはいやだなあとか、どうしたらかけっこではやく走れるのか?とか。私もビリにはならなかったがどうしても一等賞を獲れなかった。スタートダッシュに賭けて直線路ではトップだったが、コーナーを曲がるのに失敗して抜かれた苦い思い出とかね。

走る速さのメカニズム
走る速さのメカニズム(うごくかがく「はしる」より)
※スポークの線は筆者が追記

本書では走る速さの理屈を人の足と自転車の車輪とを比較してやさしく解説している。自転車のスポーク1本を人間の足と考えてみる。超細長い足(スポーク)が短いタイヤの靴を履いていると仮定する(上図の赤い部分)。この短い靴が地面を離れ、1回転してまた地面に着くまでの長さ、すなわち車輪の円周は人間が足で走るときの走幅(ストライド)となる。例えば車輪の円周が子供用1m、大人用2mの自転車があるとする。どちらも車輪が1回転するのに2秒かかるなら、子供用自転車の速度は秒速0.5m、大人用のそれは秒速1mでこちらの方が速い。子供用が大人用に負けないためには子供用で車輪1回転を1秒でこげばどちらも秒速1mとなる。つまり車輪で速く走るには、車輪の径が大きく回転数が速ければよいので、人が速く走るにはストライドが長く、足が出る回数が多い(1歩にかかる時間=ピッチが短い)ほどよいということになる。ウサイン・ボルトはこの両方を満たすストライドピッチ走法で走るといわれる[4]。ストライドを広く取るにはやはり身体が大きく、足が長い人の方が有利だ。チビの息子はピッチ走法で稼ぐしかない。

ウサイン・ボルトとゴールドGTR
ウサイン・ボルトとゴールドGT-R[5]

ストライド走法もピッチ走法もそのエネルギーの源は筋肉である。筋肉を強くするには運動して鍛えること。筋肉は使えば使うほど太くなる。筋肉は自動車に例えるとエンジンだ。燃料のガソリンに相当するものがグリコーゲン[6]。食事を摂ることでグリコーゲンは肝臓で作られ、筋肉や肝臓に蓄えられる。エンジンもガソリンを燃やすのに空気中の酸素が必要だが、グリコーゲンも燃やしてエネルギーに変換するのに酸素が必要になる。激しい運動をするにはたくさんの酸素が必要だ。走ると息苦しくなるのはそのせいだ。だからグリコーゲンを効率良く燃やすには、酸素を取り込むインテークであり、エネルギーを取り出した後に生成される二酸化炭素を吐き出すイグゾーストの働きをする肺、酸素が溶け込んだ血液を全身に運ぶポンプの役割を果たす心臓も鍛えなければならない。そしてエンジンである筋肉をバランスよく動かすには、賢い制御コンピュータである運動神経の働きを良くしたい。そのためにはいろんな運動をすることだ。サッカーの本田は水泳をやっていたし、テニスの錦織もサッカーをやっていたという。スーパーアスリートたちは、小さい頃から様々なスポーツを経験している。

筋肉は走るためのエンジン
筋肉は走るためのエンジン(うごくかがく「はしる」より)

余談だが先日TBSの「夢の扉+」という番組で筋肉についての興味深い話が紹介されていた。筋肉は速く走るために重要なものというだけではなく、もっと人間の生に対する根源的な役割を持つことが最近の研究でわかったのだそうだ。臓器だけでなく筋肉からもホルモンが分泌されていて、これが老化を防止するホルモンのようなのだ。筋肉量が減ると死亡率が高まると言う。この常識を覆す発見をしたのは首都大学東京の藤井宣晴教授。彼曰く「筋肉は健康を生む源の臓器」とのこと[7]。運動せなあかんとつくづく思った。

古代ローマの戦車
古代ローマの戦車(うごくかがく「はしる」より)

再び足からはじまった“走る”の歴史を振り返ってみたい。木から降りたサルは、食うか食われるかのために草原を走った。走ることでは他の動物たちに対して圧倒的に不利であったサルは、“投げる”という行為の有効性を発見する。モノを投げることで相手の足が速くても戦える、狩りができる。こうして初めは石や棒からはじまった“武器”は、槍や矢、弓といった足に代わる“道具”へと進歩した。手や腕が器用に使えるようになると脳も巨大化し、サルは人へと進化した。そうして知恵を手に入れた人間は今度は“摩擦”を克服する術を発見する。ソリや車輪の発明である。これにより重い荷物を楽に運べることができるようになった。恐らく車輪のついた台車を牛に引かせたものが人類最初の乗り物だったに違いない。その後、もっと速く移動するために馬で引かせるようになった。じきにそれは戦争でも使われるようになった。古代ローマの戦車である(なかなか人の言うことをきかない馬に直接跨って乗るようになったのは、もっと後のことらしい)。さらに古代ローマ人はこの乗り物が速く遠くまで移動できるように道を整備した。乗り物(道具)と道路(インフラ)から構成される交通システムのはじまりである。

キーニョの蒸気自動車(「はしる」より)
キーニョの蒸気自動車(うごくかがく「はしる」より)

文明が進んだ18世紀。蒸気エンジン(外燃機関)を馬の代わりにした乗り物が誕生する。フランス人のキーニョが発明した蒸気自動車である(1769年)。以降はこれまでに何度も紹介した自動車の歴史が私の大好きな高橋透画伯の手により美しく描写される。

本書の最後では、動物の走る速さや走り方は、彼らがどこで、どういうふうに生きているかってことに関係があるのと同様、人が機械で走るのも、どういうふうに生きているかってことに関係があるのだろうかと乗り物に対する本質的な疑問が投げかけられる。人はなぜ移動するのか。なぜ乗り物を求めるのか。前出の『それは足からはじまった』によれば、人間は「交流する動物」なのだという。古来から人間は、離れた場所や異なった集団の間で相互に交流を行いながら、生産し、消費し、生活し、そして楽しんできた。この交流のしやすさの良し悪しがモビリティ(移動性)であり、人間の根源的な欲求であるより高いモビリティを希求することで、人は様々な走る機械を産み出してきた[1]。つまりその走る機械の使い方は交流という人間の本質的な活動、言い換えれば使う人の生き方そのものを反映していると言える。連日ニュースで報道されている北海道で発生した悲惨な交通死傷事故からは、加害者らの非人間的な生き方が見えてくる。自分たちの集団の中だけで生き、他の集団(社会)との交流ができない加害者たち。わずか30頁弱の絵本だが、様々なテーマを深く考えさせてくれる。

ダイムラーの自動車(「はしる」より)
我々の生活に革命をもたらしたダイムラーの自動車(うごくかがく「はしる」より)
クルマの運転ってドライバーの生き方を写し出す鏡なのか・・・

[参考・引用]
[1]それは足からはじまったーモビリティの科学、東京大学交通ラボ、技報堂出版、2000年
[2]マラソンの名の由来(情報伝達)、情報夜話(情報千一夜物語)、金谷信之、Webで学ぶ情報処理概論、
http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/episode/marathon.html
[3]運動会、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8B%E5%8B%95%E4%BC%9A
[4]ウサイン・ボルトの「筋力に依存しない走り」100mのトレーニング、インナーマッスル新論研究所、
http://sinsoukinkenkyujo.web.fc2.com/sub14.html
[5]あのウサイン・ボルトのゴールドGT-R、じつは世界に2台あった!?、clicccar、2013年5月7日、
http://clicccar.com/2013/05/07/219261/
[6]グリコーゲンとは?、肉体改造研究所、
http://www.know-dt.com/SuppleARC/nutri/005_glycogen.html
[7]TBS「夢の扉+」筋肉研究の専門家 首都大学東京教授 藤井宣晴(48)さん、敏腕ビジネスマンなら押さえておきたいテレビ情報、2015年5月18日、
http://colaryourlife.seesaa.net/article/419160401.html?1431999770


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