ダットサン・ベビィ

GWも後半戦。どこも人、車で大混雑。我が家の前半戦はというと、お父さん休暇中でも妻は仕事、子供たちは学校に部活と家族バラバラな状態。子供が成長すれば、まあこんなもんだろう。自宅マンションは外壁工事中だし、独り家に居てもつまらないので、先日ちょいと横浜へ出かけてみた。行き先は日産グローバル本社。「ダットサン240Z」でも紹介した「ダットサン・ベビィ」の実物が30日まで本社ギャラリーに展示されていたからである。240Zから前回の「ダットさん」番外編、今回とDATSUNネタが続きます。

ダットサン・ベビィは240Zのデザインを担当した松尾良彦氏(以下敬称略)が、日産で最初にデザインを任された“クルマ”。今上天皇の御成婚に併せて1965年に設立された横浜「こどもの国」の遊戯施設のために日産が設計・開発し100台を寄贈した、いわゆるゴーカートである。急激なモータリゼーションの進展で交通事故も急増した1960年代。この小型モビリティには「子供たちを事故から守り、正しい知識を持った運転舎を育てる」という使命があった。だから一般的なゴーカートがそうであったように、子供たちは運転免許を持つ大人の運転で乗車する遊び方以外に、園内で有効な「免許証」を取得すれば何と小学5年~中学3年でも1人で運転ができるスペシャル仕様の乗り物だった[1][2]。

コニー・グッピー
コニー・グッピー

当初ベース車両は410ブルーバードを考えていたらしいが、子供向けには車体が大きく、排気量も1,000ccだったので他の候補を探すことになったという[3]。そこで目を付けられたのが当時日産と技術提携(後に業務提携)した軽四輪メーカー、愛知機械工業の量販軽ピックアップトラック、コニー・グッピーだった[4]。松尾によればサイズはちょうど良く、何よりも当時まだ珍しかった(アクセルとブレーキの)2ペダル式トルコン(オートマ)仕様だったことがポイントとなった。さすがに子供に3ペダル式でのクラッチ操作は難しいと考えたのである。加えてエンジンも単気筒の空冷式だったので「こどもの国」でのメンテナンスも楽という判断でベース車両はこれで決まる[3]。

NSU シュポルト・プリンツ BMW 700
左:NSU シュポルト・プリンツ、右:BMW 700(いずれもGAZOO.comクルマデータベースより)

最初はこのグッピーを少し改良する程度で考えていたようだが、如何せん小型商用車。「ダットサン240Z」でも紹介したように、時代はスポーツカーだと考えていた松尾は、子供に夢を与えるミニスポーツカーを作ろうと思った。しかもただ小さいだけではない実車さながらの本格的なクルマに拘った。流麗なデザインのボディは板金叩き出し。ドアの内張りやシート、ステアリングなどの内装も本格的な仕様。メーターやウィンカー、ワイパー、フェンダーミラー、サイドブレーキなども装備し、このまま公道走行ができるほどだ。ベンチマークとしたデザインはBMWの『イセッタ』や『700』、NSU(元アウディ)の『シュポルツ』、オースチン『スプライト』、フィアット『アバルト』など欧州の小型スポーツカーだという。低いボンネットと独特なヘッドライトカバー形状に、その後の240Zデザインが見て取れる[3]。

修復されたダットサン・ベビィその1
修復されたダットサン・ベビィ(日産本社にて)

2ドアクーペ、ベビィの基本諸元は全長2,960mm、全幅1,420mm、全高1,245mm、ホイールベース長1,670mmで車重は430kg。7.5PS馬力(5.5kW)、199ccの空冷単気筒2サイクルエンジンはスポーツカーの王道、ミッドシップレイアウトで搭載される。サスペンションは前輪ダブルウィッシュボーン、後輪トレーリングアームの四輪独立懸架。駆動系は前出のように1速(+後進)トルコン(AT)のリアドライブ。最高速度は時速30km。時速20km以上でブザーが鳴り、30kmになるとエンジンが止まるリミッター付となっていた[1][2][3][4][5]。

修復されたダットサン・ベビィその2 修復されたダットサン・ベビィその3
修復されたダットサン・ベビィその3
ゴーカートとは思えない、松尾良彦拘りの内外装(日産本社にて)

さて日産本社ギャラリーに展示されていたピカピカのベビィ。50年前のクルマがこんなにきれいに残っているハズがない。1973年にその役割を終えたベビィだが[4]、実は「こどもの国」に当時の姿のままの車両が1台だけ残っていた。赤い車体に寄贈車100台目を示すナンバーは100。今回展示された車両はその#100をレストア(修復)したものだ。修復を担当したのは製造元である日産・研究開発部門の現役社員を中心に活動するボランティア組織「日産名車再生クラブ」。同クラブは、かつての名車に採用した技術の伝承や自動車文化の継承・発信を目的に2006年に発足している[1]。2015年5月5日、「こどもの国」開園50周年記念に間に合わせるように約9ヶ月を掛けて実走可能にまで仕上げた[3]。



ここでちょっと気になったこと。ベース車両となったコニー・グッピーも製造元の愛知機械工業内の再生クラブがレストアをしているが、貴重な産業遺産の修復作業を、好きだからとはいえ社員のボランティア活動だけに委ねるってどうなんだろう?会社の施設や設備は使えたのだろうけど、当然就業時間外の活動で9ヶ月も要したのだから、もはやボランティアの域を超えている。本格的なアーカイヴス施設「トヨタ博物館」を持っているトヨタは別として、多くの国内メーカーの旧車レストアは社内有志や愛好家による無償奉仕で実施されているのが実態ではないだろうか。「世界自動車図鑑 誕生から現在まで」でも問題提起したが、日本のメーカーは産業遺産の重要性に対する理解が正直あまりないと思う。ヘリテージとして遺すことは技術の伝承に繋がるし、旧い技術や当時の時代背景を学ぶことによって新しい技術や挑戦がまた生まれる。このようなスパイラルアップをすることが結果的に伝統、すなわち企業文化を根付かせる。そういう意味では、グッピーやベビィのように製造元に現物が残っていないようなレアな旧車の修復は、本来会社の正規業務として扱うべきものだと私は思う。事実、本社に展示してちゃっかり広報活動に利用している訳だからね。私はもっと前向きに、企業はこのような産業遺産・遺構の修復や保存を専門とする部署だとか社内教育プログラムを設けても良いのではないかと思うのである。

昨今、環境問題への関心の高まりによって超小型の新しいモビリティが注目されている。「横浜でちょっとマニアックなクルマ三昧」でも紹介した“チョイモビヨコハマ”や“smaco”もその実証実験やビジネスの一例だが、ベビィの復元はこれらの活動に示唆を与えてくれる。技術的価値は置いといてそのデザインは、チョイモビのTwizyやsmacoのSmartEVよりも洗練されていると思う。欧州では50年代、「バブルカー」と呼ばれたこのような小さな車の黄金時代だった[6][7][8]。有名どころのイセッタやメッサーも含めまさに百花繚乱。今見ても実に新鮮でキュートなクルマたちである。21世紀の”バブルカー”が世の中に認知されるには、遊び心のあったこれらのスタイリングを見習うべきであろう。

Goggomobil Coupe
Goggomobil Coupe[7]
Fulda Mobil S-6
Fulda Mobil S-6[8]

また[9]で言及されているように、子供が一人で運転できるクルマという発想も、知能化・自動化・電動化技術が進めば年齢や体型を選ばなくなり、現実味を帯びてくるだろう。現に前出のチョイモビにも使われるルノーTwizyは、フランスの運転免許制度の改定に伴い、14歳で運転できるようになった[10]。もう原チャリ感覚である。故・徳大寺翁も50年代の高校生時代、アメリカのコンパクトカー・クロスレーを真似たダットサン・DB-2型を乗り回していたらしいが[11]、自動車が全く別物のモビリティに進化し始めたこれからの時代、今までの常識に囚われない自動車黎明期のような様々な可能性が生まれるのかもしれない。そんなことをベビィを見て考えたGWの一日。

日産本社ギャラリー絵本コーナー
日産本社ギャラリーの絵本コーナー:絵本「ダットさん」を置いていないのが残念!

[参考・引用]
[1]日産自動車、こども自動車のダットサン・ベビイを再生、MOTOR CARS、2015年4月1日、
http://motorcars.jp/nissan-child-car-datsun-bebii-play20150401
[2]こども自動車「ダットサン ベビィ」(1965年AF8N型)、NISSAN GALLERY PHOTOGALLERY、2015年4月1日、
http://nissangallery.jp.net/ghq/baby_201504/
[3]子どもが「本物のクルマ」を、再び運転する日―ダットサン「ベビー」が映し出す日本特有の自動車社会の姿とは―超小型モビリティの可能性を探る旅⑮、桃田健史、DIAMOND online、2014年5月19日、
http://diamond.jp/articles/-/53131
[4]コニー・グッピー、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC
[5]子ども自動車、50周年の再発進 「ダットサンベビー」保管の1台、日産が復元、朝日新聞、2015年3月27日、
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11674180.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11674180
[6]Pen 2002/10/15 No.93 可愛いね、の車。、光鋲記、2014年12月5日、
http://byouuchi1gou.blog.fc2.com/blog-entry-61.html
[7]50年前の超小型車大集会、バックナンバー2014年12/21(火)・12/26(日)の放送、カーグラフィックTV、
http://www.bs-asahi.co.jp/cgtv/prg_20041221.html
[8]面白可愛い!車達 ドイツミーティング編。、Dr.2011omのブログ、2013年2月26日、
http://blogs.yahoo.co.jp/zbh91167b503/8711416.html
[9]「子どものクルマ」今昔物語 小中学生が運転できる「動力付き移動体」は必要か?―超小型モビリティの可能性を探る旅⑥、桃田健史、DIAMOND online、2013年5月21日、
http://diamond.jp/articles/-/36174
[10]ルノーTwizy、仏では14歳で運転可能に、carview!、2015年3月24日、
http://carview.yahoo.co.jp/news/market/20150324-10220740-carview/
[11]徳大寺有恒といくエンスー・ヒストリックカー・ツアー、NAVI編集部・編、二玄社、2008
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