箱根駅伝とミライ

明けましておめでとうございます。もうダラダラと3日も過ぎてしまいました。こんな駄文ブログですが、クルマと絵本への探求(究)心が衰えない限りは細々と続けて行こうと思います。ユニークな、カッコいい、感動する、美しいクルマ絵本のタレ込み、情報交換大歓迎です。その他、お気軽にコメントいただけると励みにもなりますので今年もよろしくお願いします。さて新春恒例の箱根駅伝をご覧になった方も多いと思います。テレビを見て選手の後方を伴走する今まで見たこともない青いクルマが気になった方もおられるのではないでしょうか。

トヨタFCV・ミライ
トヨタFCV・ミライ

私はへーっと思って見ておりましたが、あのクルマは昨年12月15日に発売した、量産型としては世界初のセダン型(4人乗り)燃料電池車(以下FCV)、トヨタ・ミライ(MIRAI)という車です。“ミライ”というネーミング、プリウスのようにもうちょっと捻りがなかったかと思うのですがそれは置いといて、ベース車両にFCユニットを組み込んだ試作実験車とは異なりFCV専用車として新たに設計されたクルマなのです。FCVについては「燃料電池車のひみつ」や「燃料電池車のしくみ」で既に紹介しましたが、水の電気分解の逆、水素と酸素を反応させて電気を作り出す燃料電池(FC)を動力源にした究極のエコ車両といわれるものです。

トヨタは協賛企業なので伴走車にトヨタ車が使われるのは当然と言えば当然なのですが、市場投入してまだ半月の、この超ハイテクな未来の乗り物が正月のメインイベントに登場したことに驚いたのです。年間生産台数は700台、価格は消費税込み723万6千円。国からの1台202万円の補助金を使っても、購入時の負担額は約520万円と高級車並みにも関わらず、全国での受注は約1千台に達していて納車は2年先になるらしいですが、恐らく大半は官公庁や地方自治体向けと思われます[1]。燃料となる水素の供給インフラがまだ十分に(というかほとんど)整備されていませんし、将来的な普及シナリオも良く見えません。なかなか普及の進まない電気自動車ですら、ライフラインとなる電線網はほぼ全国、いや世界中に張り巡らされています。しかし、何と言っても電気の力で作った水素で電気を作るという自己矛盾の技術が普及することに私は未だ懐疑的です。バイオエタノールから水素を改質する方がまだ現実的だと思います。

ホンダも今年中に新型FCVを発売予定ということです。もちろん他社も合従連衡などで研究開発は進めている訳ですが、量産化は日本メーカーだけが先行し盛り上がっているように見えます。これには少し裏の事情があると思われます。2001年(平成13年)に経済産業省、国土交通省及び環境省は「低公害車開発普及アクションプラン」を策定し、「実用段階にある低公害車を2010(平成22)年度までのできるだけ早い時期に1,000万台以上、FCVを2010(平成22)年度に5万台普及」を目標として設定しました[2]。2004年と2005年新春には世界初のFCV個人向けリース販売車となったホンダ・FCXも箱根の山を走りました[3]。2009年と2010年の箱根駅伝でもFCXの後継車である大型セダン・FCXクラリティがその実力を示しました[4]。過酷な箱根駅伝は、FCVの低温始動性(排出するのは水ですから凍結すると困ります)、高勾配での走行性をアピールするのにもってこいのイベントなのでしょう。

2009年にこのアクションプランの評価が行われましたが、200億近い国の予算が投入されたにも関わらず、2007年度時点でのFCVの全国保有台数はわずか42台というものでした。総務省は「多額の予算が投入された結果に見合った普及台数になっていない」と経産、国交、環境、総務の4省に対し、目標設定や普及促進策の改善を“勧告”したそうです[5][6](※)。

(※)200億が全て無駄になったというのは語弊があるでしょう。このアクションプランは低公害車普及を目的としたものですから、ハイブリットや電気自動車などの普及にはそれなりの効果はあったと思います。事実、この10年で低公害車は格段に増えました。

それはそうでしょう。アクションプラン自体が現場を知らない役人と御用学者が中心に描いた画餅の計画なのですから。また、こういうプラニングが策定されるときには同時に、なんたら普及協会とか推進協議会なる高級官僚の天下り先が新設されることになります。改善勧告についても、当時のメディアには誰も気づかないような小さい囲み記事でしか紹介されていませんでした。STAP細胞と理研の不可解な関係もそうでしたが、税金の使われ方に納税者の我々はもっと関心を払う必要があります。マスコミもただ政府の情報を垂れ流すだけでなく、あるいはセンセーショナルな報道に走ることなく、自主性と理性をもった取材を通じて、このようなテクニカルな話題についてももっと広く深く伝える努力をするべきです。そのこと以外に彼らの存在意義はありません。

トヨタ・ミライのレイアウト1
トヨタ・ミライのレイアウト2
トヨタ・ミライのレイアウト[7]

この総務省勧告が出された後の経緯は通産系法人出向の経験がある私の想像でしかありませんが(個人の趣味ブログですから客観的な取材に基づいたものではありません)、恐らくヤクザなお役人が、「これだけ税金を投入しているんです。トヨタさん、ホンダさん、わかってますよね。」と優しい顔で脅しをかけたハズです。世界のトヨタと言えども日本のお上に逆らうことは出来ません。普及台数についてもある程度コミットさせられたのではないでしょうか。エンジニアたちはこれまでにない新しいFCV専用のプラットフォームや量産化技術の開発、現実的な販売価格に抑えるためのコスト削減にこの数年明け暮れていたことでしょう。しかし、相変わらず普及のシナリオはまだ暗中模索状態での、クルマ(商品)だけの見切り発車のように思えます。

私は政府がこのような国家戦略を立案すること自体何ら否定はしません。それが彼らのミッションであり、彼らの自尊心の源はこの「我々が国家を支える」ことに尽きるからです。ただ貴重な税金を投入し、オールジャパンで計画を遂行する以上、グローバルに日本が勝てるシナリオを立ててもらいたいのです。FCVが着実にステップアップすることは良いことですが、この技術が目指す水素エネルギー社会の構築は、自動車会社だけで実現できるものではありません。単に国内の業界利益に走ることなく、ガラパゴス化しないことを祈りたいものです。私の懸念が杞憂に終わるくらい大胆な発想と実行力が生まれることを2015箱根駅伝を見ながら期待したお正月でした。

[参考・引用]
[1]トヨタ、燃料電池車「ミライ」発売 受注すでに1千台、大内奏、朝日新聞、2014年12月15日、
http://www.asahi.com/articles/ASGDG74VSGDGOIPE01C.html
[2]世界最先端の「低公害車」社会の構築に関する政策評価資料、総務省、2009年6月26日、
http://www.soumu.go.jp/main_content/000028328.pdf
[3]氷点下始動が可能な燃料電池車「FCX」「東京箱根間往復大学駅伝競走」で走行、ホンダホームページ、2005年1月6日、
http://www.honda.co.jp/news/2005/4050106-fcx.html
[4]ホンダ・FCXクラリティ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BBFCX%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3
[5]総務省が国の低公害車普及策に改善勧告、燃料電池自動車は目標5万台に対し42台、田中武臣、日経BPnet、2009年6月29日、
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090629/163584/
[6]燃料電池普及策 200億円投入効果ゼロ 4省に改善を勧告、毎日新聞、2009年6月26日
[7]トヨタ「MIRAI」とホンダFCVとの違いはここ!、cliccar.com、2014年11月20日、
http://clicccar.com/2014/11/20/278989/
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