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健さん-あなたへ-  

あなたへ

僕ら以上の世代は”健さん”といえばイコール、高倉健である。『俺たちの旅』の田中健でもない。私も大好きな同世代のカリスマ、クレイジーケンバンドの横山剣さんも脳裏に浮かぶが、やはりケンさんは高倉健以外にない。職場の先輩にも字は違うが親しみを込めて“ケンさん”と呼ばれる方がいて、彼には大変失礼ではあるが、その風貌も容姿も異なる先輩を“ケンさん”と呼ぶときは昔から照れというかちょっと抵抗感があったものだ。福岡出身の私にとっては同郷の大先輩というまた特別の感情もある。父と2つしか違わないのになぜいつまでもあんなに若々しいのだ、彼はゴルゴ13と同様、絶対不死身に違いないと思っていた。しかし健さんもやはり人の子であった。彼が「共演1本しかなかったから向こうで映画演らないか」って呼んだのだろうか。文太さんまでもが…(うちの娘は“赤犬”が亡くなったんだって?…時代は変わってしもうた)。

唐獅子牡丹
からじしーぼーたーあ~んー♪

正真正銘の銀幕スターだったが、実は健さんの映画をじっくり観た記憶はあまりない。『幸せの黄色いハンカチ』とか『八甲田山』『南極物語』、そして僕ら世代が一番記憶に残っている薬師丸ひろ子デビュー作『野生の証明』くらいかな。子供のころは任侠映画真っ只中で、確かに健さんの地元、私も育った北九州市でも映画館は倶利伽羅悶々の世界を描いた看板やポスターが多かった記憶がある。なんてったって、そっち方面の業界の方々が多い土地柄ですから。小学生の私は洋画少年で、友だちと繁華街の映画館へ行くこともあったが(不良!)、ある意味もっと暴力的な“ダーティハリー”を観ることはあっても、さすがにヤクザ映画はなかったなあ。勿論小学生を入れてくれる訳はないのだけど。

ポルシェ356カブリオレ
健さんの愛したポルシェ356カブリオレ[1]

「裕ちゃん」「健さん」と呼び合う仲だったという石原裕次郎同様、健さんもかなりのクルマ好きだったらしい。[1]によれば彼が長く愛し続けたクルマはポルシェ356カブリオレ。しかも真っ赤なスポーツカー。カッコ良すぎるではないか。でも彼にしかこのクルマは乗りこなせない。また、白金台でポルシェカイエンのハンドルを握る健さんを見たという御仁もおられる[2]。どうもポルシェ党だったようだ。

幸せの黄色いハンカチ
『幸せの黄色いハンカチ』より

裕次郎さんは『栄光への5000キロ』というサファリラリーの映画が有名だが、このポルシェ好きの俳優が出演するクルマ映画ってほとんどなかったと思う(三菱・ギャランΣのCMには長い間出ていた)。その中で『幸せの黄色いハンカチ』では、4代目マツダ・ファミリアが良い脇役になっているし[3]、遺作となった『あなたへ』はクルマが重要な役割を果たしている。先日追悼番組で放映されていたものを録画したので初めて観てみた。

「あなたへ」その1

『あなたへ』(2012、降旗康男・監督)は、彼の205本目の最後の主演作品となった。奇しくも共演をした名優・大滝秀治さんの遺作ともなった。主人公・倉島(高倉健)は富山の刑務所で技能指導教官を務める。忌引き休暇中にも関わらず公務についていた彼に、病気で亡くなった妻・洋子(田中裕子)からの二通の手紙の存在が知らされる。彼女がNPO法人遺言サポートの会に託したものだった。一通はその場で開封された絵手紙。故郷の長崎・平戸の海へ散骨して欲しいとのメッセージが書かれていた。もう一通は平戸の郵便局留で送付し、そこで手紙を受け取って欲しいという遺言だった。郵便局の保管期限は10日間。倉島は彼女の真意を確かめるため、いずれ妻とクルマ旅行に出ようと自らキャンピングカー用に内装を施したクルマ(初代日産・エルグランド)で一人旅を始めるというストーリー[4]。いわゆるロードムービーというやつだ。謎多きプロローグでいきなり期待感をもたせる。

「あなたへ」その2
ビートたけしは言う「旅の定義を一つ。帰るところがあるということです。」

旅の道中で出会う人たちに、ビートたけし、草彅剛、佐藤浩市、余貴美子、綾瀬はるかなど主役級のスターたちが各々訳ありな人物を演じて脇を固める。旅の舞台も富山から飛騨高山、京都、朝来竹田、瀬戸内、下関、門司、そして平戸へ。今話題の天空の城、竹田城のシーンにも時間を割いてブームをきちんと押さえている[4]。プロットは悪くないと思ったが、所々に敷いている伏線でその後の展開が容易に読めてしまうなど脚本の詰めがやや甘いと感じた。肝心の絵手紙の意味も、分かったような分からないような結末でちょっと消化不良気味。夫婦のいろいろな愛のカタチが表現されていて、望まざる形で離婚をし、早世された元妻・江利チエミさんへの深い想いも込められていたのかも知れない。映画からノベルライズされた小説(幻冬舎文庫)の方が妻のメッセージの意味が素直に伝わると言う評もあるので、こちらもいずれ読んでみよう。

「あなたへ」その3

でも一番の違和感は主人公の年齢と健さんのギャップかな。倉島はどう考えても60代という設定で、健さんは当時81歳。いくらいつまでも若々しい名優だといっても、演技だけでこの溝を埋めるのはさすがに厳しい。同じ高齢での作品が遺作となり、私も大変好きな映画の一つ、ヘンリー・フォンダ主演の『黄昏(原題“On Golden Pond”)』(1981、米)は人生の黄昏を迎えた老夫婦と父娘との確執を描いた作品だ。美しい映像とともにデイヴ・グルーシンの音楽も素晴らしかった。既に引退をした元大学教授を好演し、実際に当時不和だった実娘ジェーン・フォンダとの初めての共演も話題を呼んだ。高倉健ほどの俳優の遺作にケチはつけたくはないけれど、『黄昏』のように彼の実年齢に相応しい役柄だったらもっと良かったのになあというのが素直な感想。でも彼は十分満足されて旅立たれたとは思うけどね。

「あなたへ」その4

健さんの作品では、どうしてももう一度観ておきたい映像がある。福岡RKB毎日放送が製作したドキュメンタリー『むかし 男ありけり』(1982)。名ドキュメンタリスト・木村栄文の手によるもので、最後の無頼派と言われた作家・壇一雄(壇ふみさんの父)の足跡を高倉健が辿る作品である。これを見て影響されたのか、ちょうど放映された大学生の頃、実家の福岡に帰省した際に、壇一雄の終の住み処となった能古島へ一人ふらっと遊びに行ったことがある。壇一雄の小説なんか読んだこともないのに、なぜこの離島に出かけたのか、失恋でもしたのか、未だに思い立ったきっかけを思い出せない。ただ壇の自宅(現在はエッセイストの長男・壇太郎氏夫妻が住む)がある小高い丘から博多湾を望む景色が素晴らしかったことだけは覚えている。女性は失恋すると京都一人旅とよく言われるが、男は何か想うことあれば、黙って博多・能古島へ行くと良い。

健さんと三菱ギャランΣ
4代目三菱ギャランΣ2000GSR-GT TURBOと高倉健

[参考・引用]
[1]【高倉健が愛したクルマ ポルシェ356カブリオーレ、★昭和とVANと橘浩介、2012年2月22日、
http://blogs.yahoo.co.jp/kousuke427sc/65472051.html
[2]高倉健が病気で死去、実はポルシェカイエンの運転姿を見た話、Oak Journal、2014年11月19日、
http://okiraku-news.net/2014/11/19/k-takakura/
[3]【追悼】高倉健が長年愛し続けた車とは?、CarMe、2014年11月21日、
http://car-me.jp/articles/1062
[4]あなたへ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%B8

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Posted on 2014/12/04 Thu. 23:03 [edit]

category: movies/クルマと映画

tb: 0   cm: 4

コメント

寒くなってきたからか、この時期は訃報が続きますね。

健さんも文太さんも、なんだか自分の父親が亡くなったようで妙に悲しいです。
あの世代の俳優さんでは児玉清さんも好きでした。
読書家で書物に対する想い入れに共感していたので、亡くなったときはショックでした。
自分の親があんな人だったら…などと思ったこともあります。
三人ともに、尊敬できる「素敵な男」であり「格好いい漢」でした。

URL | びょうせい #-
2014/12/07 15:03 | edit

Re: タイトルなし

児玉清さん、私も大好きな俳優でした。知的でダンディな方でしたよね。
ダンディといえば、徳大寺有恒氏が鬼籍に入られたのもショックでしたね。
ニュースを見落としたのか、最近まで知らなかったのです。
クルマネタブログを運営する者としては不覚でした。
健さん、文太さんらも昔はいろいろとワルをやったと思いますが、彼らと比べると、
「ちょいワルオヤジ」とか言って嘯く一部の輩がなんとも軽薄に見えます。
本当の伊達男は自分から「ちょいワル」なんて言わないものです。

URL | papayoyo #-
2014/12/07 20:13 | edit

徳大寺氏、残念です。
著書を数冊読んだだけですが、いろいろ学ばせていただきました。

「ちょいワルオヤジ」。
「中年デビュー」もそうですけれど、なんとも無粋な言葉だと思います。

伊達男で思い出すのは、夭折した天才レーシングドライバー福澤幸雄です。
自分がまだ二十歳前後の頃、古書店で古い車雑誌やファッション誌を見つけては
福澤幸雄の記事やグラビアを読み漁った覚えがあります。
外見は当然として、まだ二十代半ばの若さであのダンディさ格好の良さは見事でした。
ぼくが中学の頃に福澤幸雄の凄さを知ったのは、大藪春彦の作品を読んでいたためですが、
CKBの横山剣さんは小学生の頃から好きだったようですね。
剣さんも粋で素敵な伊達男。「あるレーサーの死」はよく聴いています。

URL | びょうせい #-
2014/12/09 13:26 | edit

Re: タイトルなし

徳大寺さんのことはいずれ記事にしようと思います。
昨年の小林彰太郎さんといい、クルマ好きには痛すぎます。
徳大寺さんはちょっと早すぎた。
福澤幸雄さんを知ったのは割と最近でした。
最初写真を見たときはこんな日本人がいたのか?と驚きでしたね。
この容姿でレーサーなんて出来過ぎだと。
確か欠陥車のことを調べていてヒットしたのだと思います。
彼の事故死も不可解な点があるといいますからね。
セナもそうですが、天才レーサーは最期までミステリーを残します。

URL | papayoyo #-
2014/12/09 19:24 | edit

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