RE:ミニバンに乗るの、やめませんか?

トヨタ・ヴォクシー(2014)

日経BPに興味深い記事があった。「ミニバンに乗るの、やめませんか? カー&プロダクトデザイナー/SWdesign代表 和田智さん(2)」というインタビューがそれ。読み進むうちに「ん?」となったので、同記事について検索してみると、あるわあるわ。このちょっとセンセーショナルな問題提起が、世間の話題となっているようなのだ。和田智氏の名前は私も知っていて、元日産デザイナーからAUDIに移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとしてA5やA6など主力車種を担当。現在は独立して自身のデザインスタジオ「SWdesign 」を設立。最近のAUDIのアイデンティティとも言える「シングルフレームグリル」(「あ゛~」と言っているような顔=(゚Д゚)、私はAUDI顔キライなんだけどね)を最初にデザインしたのが和田さんと言えば、彼の発言の影響力はおわかりになると思う[1]。以下、記事の一部をチェックしてみた。

『個人として購入して、自分の家の駐車場にあるクルマも、ひとたび車道に出て行けば、その姿は「公共の風景」の一部になる。クルマ離れといいますが、実際に街中にはびっしりクルマが走っていますよね。クルマって、もはや文明の風景の欠かせない一要素になっているわけです。大げさにいえば、クルマとは「動く建築」です。』

これは良くわかる。Agreeだ。このブログにもよく登場するミゾロギアキラさんの個展「12回目のPARIS」が現在原宿で開催されているが(本日最終日)、彼の絵を見てもわかるようにクルマはパリの風景に欠かせないことがわかる。私が個人的に日本の街並みに不満を持っているのは色。特に国内を走るクルマのボディカラーは無彩色が多く、街全体の雰囲気を暗くしている。道路を走るクルマはもっとカラフルになればいいのにと思っている。

12回目のPARIS
パリの街にはクルマが映える(ミゾロギアキラ個展「12回目のPARIS」より)

『幸か不幸か、日本メーカーのデザイナーで、クルマのデザインの公共性、歴史性を意識している人って皆無に等しいんですよ。』

彼の視点と少しずれるかもしれないが、車の公共性、歴史性というキーワードから2つのことが思い浮かんだ。車の公共性という点ではタクシーが最たるものであろう。ロンドンタクシーにNYのイエローキャブ。いずれも色を統一することで認知しやすいアイコンデザインとなっている。前者については、タクシーの利用者を考えた機能的デザインも特徴的だ。一方、日本のタクシーはというと色は会社によってまちまちで、最近でこそ1BOXのスライドドア・タクシーを見かけるようになったが、これだけミニバンが市民権を得たとはいえ、いまだに乗客が負担の大きい乗降姿勢を強いられる3BOXのヒンジドア・セダンが主流だ。歴史性でいうと、日本の産業界は国の歴史以前に、自らの産業史に興味がない(「世界自動車図鑑 誕生から現在まで」参照)。クルマでいえば公共の自動車アーカイブスが存在しない。戦後の日系自動車メーカーの歩みを総合的に俯瞰できる施設はトヨタ博物館でもなく、石川県小松市にある日本自動車博物館だけだ。しかもここは自動車メーカーでもない民間企業の経営者が私費を投じて開設したものだ[2]。車の歴史性に疎いのは、デザイナーがという訳でなく日本のクルマ文化そのものの実態を表している。

インタビューの後半から話が急に独善的になる。

『ミニバンばかりの自動車の風景は美しくないし、乗っている人もかっこよく見えないからです。』
『ミニバンばかりが走っている都市って、美しくない。クルマに乗っている人間の意思が見えない。多様性がない。なにより幼稚に見える。ミニバンって、結局「子どもが主人公」の車種だったりしますから。セダンが走っていたりクーペが走っている町並みのほうが美しい。多様性がある。なによりオトナの社会に見える。「ミニバン、乗るの、やめませんか?」と思わず口走りたくなるのは、そんな理由からです。』

ミニバン乗りの人格否定、ユーザーの多くを敵に回した。確かに今のミニバン、特にドヤ顔系のデザインは正直私も好みではない。ミニバンといえるのかどうかわからないが、昔のいすゞ・2代目エルフ・ルートバン(1968)とか日産・初代キャラバン(1973)のデザインの方がむしろ好みだったりする。ただ美的にはミニバンよりセダンやクーペの方が上というのは独りよがりの考えだ。初代よりミニバン的になったルノー・カングー2も造形的には美しく処理されていたと思うし(勿論初代のデザインも秀逸)、ワーゲンバスなんてバンデザインの究極と思えるのだが。ワーゲンバスが走る街並みは美しくないのだろうか。仮に美しいミニバンがないというのであれば、批判ではなく美しいミニバンのデザインを提案して欲しかった。日産やAUDIにいれば会社のしがらみもあるだろうけど、独立しているのだから自由にデザインもできるだろう。世界的な仕事をしたデザイナーがデザインの可能性を自ら否定している発言に聞こえて残念だと思う。

日産・初代キャラバン
日産・初代キャラバン[3]

また、彼は車の機能性という視点を完全に無視している。ミニバンは乗降性や積載性などの点で明らかにセダンやクーペに対して優位だ。高齢者のいる家族にクーペの選択は難しいだろう。ミニバンは「高齢者が主人公」のクルマだったりもするのだ。(アートの側面もあるけれど)クルマは芸術品ではない。何がしかの機能を持った道具として設計されるプロダクトデザインである。そこには使い手がイメージされなくてはならない。彼が純粋なアーティストであればこの毒舌も理解はできるのだが、彼はプロダクトデザイナーである。著名な建築家の建物は使いづらいとはよく言われるが、彼も有名建築家が陥りやすい罠、自分をアーティストと勘違いしているのかもしれない。

AUDIでは成功したかもしれないが、彼の偏った物言いは、デザイナーとしての引き出しの少なさを感じざるを得ない。私のように飲んだくれの親父の戯言ならまだしも、一応デザイン論をぶつのなら、もう少し思考を深めた方がいいかもね。

最後に彼の発言を擁護するとすれば、彼の本意はミニバンや軽、ハイブリットばかりが増えすぎて、日本のクルマ社会の多様性が薄れたと言いたかったのだろう。それも一理ある。しかし、家のローンもある、ケータイの月々の支払もバカにならない、子供の教育費もかかる、そんな一般庶民にとってはガソリン代も高く維持費のかかるクルマの選択基準はもはやデザインでも機能性でもなく、経済性が最優先だ。私だって経済的余裕があればスポーツクーペとかいろいろなクルマを乗り継いでみたいけれど、そんなのは贅沢の極み。数%の人間が世の中の半分以上の富を所有する現代においては、多様性どころかコモディティ化がさらに進むのは間違いない。「ミニバンに乗るの、やめませんか?」を阻害しているのは、実はビジネスエリートである和田さんたちなのだということを彼らはわかっていないのかもしれない。

AUDI A5
AUDI A5

[参考・引用]
[1]モデルチェンジ以前は、Audi A4などフロントライトと同じ高さと狭い幅だった小さい口(グリル)を、下に大きく切り取った口(グリル)にデザインを変更したのがA6の「シングルフレームグリル」この大胆なモデルチェンジは大成功し、それまでのアウディ・デザインを古いものにした。このマーケティング手法を計画的陳腐化という。、坂井直樹のデザインの深読み、2011年6月16日、
http://sakainaoki.blogspot.jp/2011/06/audi-a4a6.html
[2]日系自動車産業のタブー。最大の敗北要因は「カルチャーの欠落」――トヨタ・日産・ホンダ等日系メーカーが自動運転とEV技術で「グーグル」に大負けするこれだけの理由【後編】、桃田健史、ダイアモンドonline、2014年6月23日、
http://diamond.jp/articles/-/54934
[3]旧車・日産・キャラバン(E20型)、旧車カタログコレクション、2009年5月19日、
http://kyuusyamania.blog73.fc2.com/blog-entry-102.html
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[ 2014/09/17 00:49 ] cars/車のお勉強 | TB(0) | CM(2)

う〜ん・・・

元記事読みました。
デザインに関する話しは共感しますね〜。
でも「ミニバンに乗るの、やめませんか?」の話になると、急にデザイナーの発想じゃなくなって、もの凄く独善的なアーティスト思考のような・・・

自分もミニバン・スタイルは好きじゃないので自分では絶対に乗りませんが、乗っている人やライフスタイルを否定したりはしませんし、今の時代、個人の好み最優先でモノ選びできないってのも現実ですよね〜。

車やカメラなど、いくつかのジャンルって特殊で、車文化とか写真文化とかってしっかりあるので、そこを大切にしてリードしていくのは車メーカーやカメラメーカーやそれに携わる人たちだと思います。そこをユーザーのせいにしちゃダメ。
ならば、かっこいいミニバンをデザインしてみせてほしいし、かっこいいコンパクト・エコカーもミニバン以上に溢れているので、そっちのデザインも提示して欲しいし、それらに変わる違う新しいものが生まれるなら見せて欲しい。

溝呂木さんの個展あったんですね!
もっと早く知ってれば見たかったな〜
[ 2014/09/17 15:10 ] [ 編集 ]

Re: う〜ん・・・

こんちわ。
やっぱり、う~んと唸っちゃいますよね。
これだけ名声を得たデザイナーですから、もっとポジティブな意見を聞きたかったですね。
「こんなミニバンに乗りませんか?」みたいな。
なんだか昔は良かったんだよなー的な、私と同じただの旧車好きのオッサンです。
ただミニバンはエネルギー損失の大きい代物であることは間違いない。
通勤に一人でアルファードを運転するなんて、輸送効率は最悪ですからね。
人や荷物が積めるクルマはそこがネックです。
私も毎日エクストレイルに乗って、地球に申し訳ない気持ちで通勤しています。
エネルギー論で否定すればまだ説得力はあったかもしれません。

ミゾロギ個展、今年は都合がつかず行けませんでした(涙)。
毎年この時期に原宿で開催されるので、
来年は会場でお会いしましょう!
[ 2014/09/17 21:35 ] [ 編集 ]

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