カロリーヌのたのしいドライブ/L'automobile de Caroline

カロリーヌのたのしいドライブ

横浜で探していた文庫本「発掘!子どもの古本」(北原尚彦、ちくま文庫)を購入した。児童書の中の入手が難しい「稀覯本」やあまり知られていない「珍本」に焦点を当て、大人本だけでない子ども古本の楽しい世界を紹介した本である(北原氏は私と同い年。なんか親近感沸くなあ)。クルマ絵本も古書店やネットで探すことが多いが、人気の高い、あるいは珍しい絶版本などは、非常に高値で取引されていることが多い。それでも狙いのつけた欲しい本を、できるだけ安価で手に入れた時は至福の喜びがある。それが期待以上の本であればなおさらだ。「発掘!~」に紹介されていた有名な「カロリーヌ」シリーズもそんな一冊である。

L’automobile de Caroline

このシリーズにもクルマ絵本が存在する。小学館「オールカラー版世界の童話」シリーズ第12巻「カロリーヌとおともだち」に収録されている「たのしいドライブ」(ピエール・プロブスト・作、土家由岐雄・訳)である。第12巻にはこの他にも「うれしいなつやすみ」「ゆかいなカウボーイ」「げんきですべろう」の3話が収録されている。原著は”L'automobile de Caroline”(Pierre Probst・作、Hachette版)で、こちらは一冊に一話が独立した形で出版されている。

小学館の「カロリーヌ」シリーズは、その他第19巻「カロリーヌのつきりょこう」、第23巻「カロリーヌのせかいのたび」、第35巻「カロリーヌのぼうけん」も含め計4巻が既刊(当然全て絶版)。この小学館版はネットでもけっこう高値で出品されており、「カロリーヌ」絵本は今でも人気のあるシリーズなのだ。特に、子どもの頃読み親しんだ大人の世代が、改めて当時の本(記憶)を探していると思われる。それを示すエピソードが、「発掘!~」にも登場する。

著者が古本屋で聞いた「カロリーヌ」本を探している女性と店主とのやり取りなのだが、古本屋で予約(というのも珍しいが)しようとしたところ、「30人待ち」と言われたそうだ。30人は少しオーバーな気もするが、この本を手に取るとその人気もわかる。当然、今の子どもたちも必ず引き込まれる出来である。

主人公はお下げ髪がわわいい、元気な少女カロリーヌ。英語読みではキャロライン。私は意味もなくキャロライン洋子は、フランスではカロリーヌ洋子なのかあ とくだらない事を考えてしまった(40歳以上のご同輩でないとわかりませんよね)。このシリーズに欠かせないのが、彼女の楽しい仲間たち、それは全て動物なのだが、擬人化されて登場するキャラクターだ。車も運転するし、フォークでスパゲティを食べたりする!別に手足の長い犬猫たちではない。見た目は普通の、黒い子猫のノアロー、白い子猫のプフ、豹の子のピトー、ライオンの子のキット、黒と白の子犬のボビー、縮れ毛子犬のユピー、黒い子犬のピボ、小熊のブムである(彼らの呼び方も国によって異なる。詳しくは[2]参照)。こいつらが大変ないたずらっ子たちなのだが、リーダーのカロリーヌがうまく統率する「しつけ」絵本にもなっている。

私は子どもの頃に「カロリーヌ」シリーズを読んだ記憶はなく、大人になってクルマ絵本を収集し始めた中で知ったわけであるが、まず絵がいい。写実的な描写なのだが、絵のタッチや色づかいが、いかにもフランス絵本らしくセンスが良い。何よりも、1枚1枚の絵に、数々のストーリが散りばめられていて、細部まで見ると色々発見があり楽しい。

「たのしいドライブ」のストーリーはこうだ。今日のように天気の良い日曜日。こんな日にはどこかに出かけたくなるもの。カロリーヌたちは、赤いクラシックカーに乗ってドライブに出かける。黒猫ノアローの運転で珍道中が始まる。町中の狭い道での逆走、じゃがいも運搬車への追突で大変なことに、坂道でのパンクとタイヤの脱輪、大雨で水浸し、最後は泥道にはまってスタック。はちゃめちゃなドライブなのだが、主人公たちの所作が生き生きと表現されている。

「たのしいドライブ」一部

勿論、車の描写もすばらしく、赤いクラシックカー(モデルは不明、オールドカーに詳しい方、教えて下さい)以外にもたくさんの車が描かれている。このクルマ画に影響を受けた御仁も少なからずいると思う。シトロエン乗りの方のサイト「シトロ絵本」の主宰者も、「たのしいドライブ」の挿絵をクルマ好きにさせた決定的一枚と語っている。

こんな素敵な本を、私は30人待ちもせず、高いお金を払うことなく手に入れた。数年前、出張帰りの東京駅地下街のとある古本屋に立ち寄った際に目に留まった。函付で中身の状態も良いほぼ完品(函にちょっと絵の具の跡がある程度)。当時、既に探し物リストに入っていた一冊だったので、値段も見ずレジへ。そこで値段を聞いてびっくり。確か150円くらいだったと思う。この日は上機嫌で帰宅した記憶がある。原著版は、後日ヤフオクで3000円くらいで入手した。

「L’automobile de Caroline」一部

原著版には小学館版にはない挿絵が3枚ある。車のオーバーヒートの場面(上図:ノアローが水温を計っている!)、牛に囲まれて身動きが取れなくなった場面、そして最後は車を修理工場に預けて、ヒッチハイクで帰る場面だ(フランス語が読めないので、あくまで推定です)。こういううれしい特典も、原著ならではである。

Pierre Probst
Pierre Probst

Pierre Probstの略歴をユトレヒトさんより引用。1913年フランスのミュルーズに生まれる。地元の美術学校で学んだ後、絹織物に下絵を描く仕事(テキスタイルデザイン)を始め、その後30年代にはリヨンで出版・広告デザイン業や写真修正師、写真製版工などあらゆる分野に携わる。余談ですが、チョコレート会社のスシャール(Suchard)社のあのワンちゃんの絵は、彼がデザインしたそうです。第二次世界大戦中に捕虜となるが、脱走。再びリヨンで本の仕事を始めた。 1955年にパリにて、娘のシモンヌをモデルにした『カロリーヌ』シリーズを発表し、フランスの子供を始め、日本や各国世界中にでも愛される女の子キャラクターに。(15カ国!)ちなみに日本の出版状況として、60年代に小学館・オールカラー版世界の童話として15タイトル刊行、その後絶版。そして90年代後半にBL 出版より、待望の復刊で親子2世代に愛されるベストセラーに。『カロリーヌ』シリーズは現在29巻まで刊行されており、今後も新作が予定されていたが、残念なことにプロブストさんは先月2007年4月12日、パリ郊外で永眠されたそうです。享年92歳[4][5]。

幸いに私は原著と小学館版を比較的容易に入手できたが、それは「たのしいドライブ」に絞って探していたからだ。「カロリーヌ」ファンにとっては、他の作品も欲しいはず。こんな良本、人気本は復刻版を出して欲しいもの。近年、販売低下の出版業界は、つまらない駄作ばかり出版せず、温故知新、このような古き良き作品ももう一度見直して欲しい。Probstの略歴にもあるように、現在はBL出版バージョンでも手に入る。小学館版では出ていないエピソードも翻訳されているようだ。ただし、前出の「発掘!~」によれば、版権の関係で小学館版とは多少絵が変わっているらしい。作者のProbstが後年描き直したバージョンを底本に翻訳したことが理由とのこと。BL出版バージョンには、「カロリーヌのじどうしゃレース」(原題は、“Caroline et son automobile”)というクルマ絵本が出ている。題名こそ違うが、これも「たのしいドライブ」の焼き直し版なのであろうか?BL版を探して確かめる必要がありそうだ(※)。

(※)カロリーヌ絵本のもっとも詳しいサイトと思われる「カロダス」によれば、やはり「カロリーヌのじどうしゃレース」の底本は「たのしいドライブ」らしい。どこが違うのか、コレクターとしての興味もある。奥が深いぞ、カロリーヌ。

Pierre Probstや「カロリーヌ」シリーズについては、様々な関連サイトがあるので詳しくはそちらを参照され、カロリーヌの世界にはまっていただきたい。私はやはり「クルマ絵本」に足場を限定することにする。深みにはまりたくないので。

[2013.7.18追記]
上述「シトロ絵本」メインHPを主宰者されているどんぶらこさんが、この赤いクラシックカーのモデルについて考察されている。
http://donboolacoo.blog92.fc2.com/blog-entry-1597.html
流石、本書を子供の頃に読んでクルマ好きになった原点と言われるくらいだから思い入れは半端ない。モデルは「Ford 1932年型 Model B Roadster」が近いのではないかとのこと。この記事を書いた後、BL出版の「カロリーヌのじどうしゃレース」も手に入れたが、絵のタッチも登場する自動車も現代風になっていて、やはりオリジナルの描写、彩色の質感は何ものにも代えがたい。BL版については、別の機会にまた紹介しよう。

[参考・引用]
[1]発掘!子どもの古本、北原尚彦、ちくま文庫
[2]Pierre Probst's Caroline Series、
http://home.pacbell.net/s_j/probst/
[3]CITRO絵本、
http://www.janis.or.jp/users/sonohara/CITROBOOK/CITROBOOK2.html
[4]Utrecht、人物別リスト、Pierre Probst (ピエール・プロブスト)、
http://www.utrecht.jp/person/?p=52
[5]カロダス、
http://homepage3.nifty.com/iroiro-lab/caroline/index.html
[6]Caroline Museum、
http://www1.parkcity.ne.jp/caroline/top.html

発掘!子どもの古本 (ちくま文庫)発掘!子どもの古本 (ちくま文庫)
(2007/01)
北原 尚彦

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