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アイルトン・セナ―時速300キロの世界で戦う音速の貴公子―  

アイルトン・セナ 時速300キロの世界で戦う音速の貴公子

ブラジルが熱い。スペインの1次リーグ敗退は残念だが、これを他山の石としてザックJには残り2試合、サムライ魂を見せてもらいたい。そのブラジルには、サッカーのペレやジーコらと並んで忘れてはならない英雄がいる。元F1パイロット、アイルトン・セナである。セナに関する絵本や児童書はほとんど見つけられずにいるのだが、本日紹介するのは「アイルトン・セナ 時速300キロの世界で戦う音速の貴公子」(画:六田登、監修:山口正、アイルトン・セナ財団、朝日新聞出版 週刊マンガ世界の偉人⑳)という児童向けのコミック伝記本である。命日(5月1日)からは少し日は経ってしまったが、今年はセナが鬼籍に入って20周年。彼の短い生涯をこの児童書をネタに辿ってみたいと思う。

『音速の貴公子』、セナをそう名付けたのは古館伊知郎なのだそうだ。その古館氏が神妙な顔つきでセナの訃報を伝える深夜の特別番組を見たのがもう20年も昔のことだとは、年が経つのは早いものである。1994年のイモラ、エンツォ・エ・ディノ・フェラーリ・サーキットは異常だった。4月29日予選でのバリチェロのクラッシュ、彼は鼻の骨を折り、首を痛めた。翌30日にはラッツェンベルガーの事故死[1]。そして決勝5月1日の衝撃的な映像を深夜リアルタイムに見ていたのか、翌朝のニュースで知ったのかは覚えていないが、出向も2年目を迎えた大阪で私はその悲報に接した。

追悼アイルトン・セナさよなら音速の貴公子
セナの死を伝える古館伊知郎氏(現地から今宮純氏、ゲストは中嶋悟氏)

学生時代から時々F1中継は見ていたものの、それほど熱烈なF1ファンでもなかった。‘92年にはホンダもF1から撤退、セナの宿敵アラン・プロストも’93年シーズンで引退するなど少なくとも日本でのF1ブームのピークは過ぎ去った時期での出来事だった。それでもよほどショッキングだったのだろう、翌2日深夜に『追悼アイルトン・セナさよなら音速の貴公子』(司会:古館伊知郎、フジテレビ)が放送された時は自然とビデオの録画スイッチをONにし、そのデータは今でもDVDに焼き直して大切に残している。5月の連休中、各種メディアでセナが取り上げられていたので思い出し、この古い映像を改めて再生してみる。私と2歳違いの彼は、生きていれば白髪交じりの老練なレーサーになっていただろうか、インディとかに出たりして、多分現役を続けていたのではないだろうか、そうしみじみと思い耽っていた。

レーシングカートとセナ
セナの人生を決めた父からの贈り物[1]

遡ること今から54年前。1960年3月21日、アイルトン・セナ・ダ・シルバは、サンパウロ市の地主でブラジル国内でも有数の実業家ミルトン・ダ・シルバの長男として裕福な家庭に生まれる。4歳のときには父親からレーシングカートを与えられ遊んでいたという(恐るべし)。普通ならワガママなボンボンに育つところだろうが、父はマシンの扱いから日常生活に至るまでセナを厳しく育てたようだ。

アイルトン・セナ その1
「アイルトン・セナ 時速300キロの世界で戦う音速の貴公子」より

父親は自動車修理工場も経営していたので、小さい頃から本物のクルマに囲まれて育った。本書にも描かれているが、8歳のときにはスクラップ寸前のジープをノークラッチ(回転数を合わせることでクラッチを切らずにシフトチェンジする方法)で運転したという逸話もある。小学生のガキがマニュアルのクルマを運転していたことにも驚かされるが(田舎だったので私の小学校の同級生にも私有地で運転していた奴はいましたけどね)、ノークラッチ走法でとは…。

カートの公式レースには13歳から出場した(※)。14歳でサンパウロ・ジュニアチャンピオンシップを獲得、17歳でついに南米の選手権も制してしまった。

“Vencer é o que importa. O resto é a conseqüência.”
(重要なのは勝つこと。それ以外は全て結果に過ぎない。)
[2]

後の彼の名言が示すように、“人には絶対に負けたくない”というレーサーに不可欠な強い意志を彼は少年期の頃から持ち合わせていた。

(※)ブラジルでは13歳になるまで公式カートレースに出場できない[3]。

“Quero melhorar em tudo. Sempre.”
(全てにおいて常に向上したい。)
[2]

この頃からプロのレーサーを目指し始めたセナだったが、家業を継ぐことを望んだ父親が許してくれない。事実上のスポンサーである父親の援助なくしてレースは続けられない。そんな時に13歳から彼のメカニックとしてサポートを続けてきた“チェ”ことルシオ・パスカルの仲介でヨーロッパでの修行を積むことが出来た。21歳(1981)になったセナはもっと上のレースに出たくてイギリスに渡り、フォーミュラカーレースの登竜門、フォーミュラ・フォード1600に参戦、20レース中12勝する圧倒的な速さを見せつけた。その後いったんはブラジルに帰国するのだが、イギリスでの生活に馴染めずブラジルでの生活を切望した妻リリアンと別れ、父の経済的援助も絶ち、本格的なレースの道を選んだ彼は、再び一人イギリスに戻ってフォーミュラ・フォード2000に参戦し優勝を果たす。さらに23歳(1983)でイギリスF3に参戦して開幕から9連勝、最終成績20戦12勝という驚異的な記録を残した。

フォーミュラカテゴリー
フォーミュラカテゴリー[3]

そしてF2カテゴリーをすっ飛ばし、24歳(1984)にしてフォーミュラカーレースの頂点、F1に参戦することになった。契約したのは弱小チームだったトールマン。当時のF1環境はどうだったかというと、ターボエンジンが主流のハイパワーの時代で、ベテランパイロットにニキ・ラウダ(マクラーレン)やケケ・ロズベルグ(ウィリアムズ)、ルネ・アルヌー(フェラーリ)らが君臨。アラン・プロスト(マクラーレン)、ナイジェル・マンセル(ロータス)、ネルソン・ピケ(ブラバム)といった僕らの世代に馴染みのある名パイロットたちがまだ若手として台頭してきた頃の話だ[2]。そこにルーキーとして参戦してきたのがセナだった。

アイルトン・セナ その2
伝説の’84モナコGP(「アイルトン・セナ 時速300キロの世界で戦う音速の貴公子」より)

しかし弱小チームゆえマシンは非力、セナの才能をもってしてもF1デビュー戦のブラジルGPは故障でリタイア、第2戦の南アGPで6位入賞がやっとだった。彼の名を轟かせたのは、第6戦モナコGP。モナコは公道レースで道幅が狭く路面も滑りやすい。そこにきて決勝当日は豪雨の最悪なコンディション。だがこういう日だからこそ、セナはチャンスと考えた。ポールポジションはアラン・プロスト、セナは13番手からのスタートだった。雨のレースで他のドライバーはスリップを恐れて速度を抑えた。一方セナは限界ギリギリでコーナーを責める。これでマシンの性能差はなくなるということだ。他車のリタイアと神業のテクニックでラウダやアルヌーをオーバーテイクし、ついにトップを走るプロストを射程にとらえた。しかし、大雨により32週目でレースは中止、レース結果は31周終了時点が正式なものとされた。レースの中止があと少し遅れていれば、セナの初優勝となった可能性もある歴史的レースであったが、これを契機に「モナコマイスター」「レインマイスター」こと、アイルトン・セナ・ダ・シルバの伝説がはじまったのである。

本書はセナの幼なじみという設定のオジサンが、ファヴェーラ(ブラジルの貧民街)に住む少年に、旧い友人の話をするというプロットになっている。このオジサンが実在する人物なのかは、最後まで不明である。

最後にセナの名言をもう一つ。

“No que diz respeito ao empenho, ao compromisso, ao esforço, à dedicação, não existe meio termo. Ou você faz uma coisa bem feita ou não faz.”
(パフォーマンス、コミットメント、努力、渾身さに関しては中間なんて存在しない。やり遂げるか、やらないかのどっちかだけだ。)
[2]

社会人の私にも耳の痛いプロフェッショナルならではの言葉だが、後がない我がザックJにもこの言葉を贈りたいと思う。

(続く)

[参考・引用]
[1]アイルトン・セナ追悼写真集「レクイエム」、AUTO SPORT F1[アズ・イフ]臨時増刊、三栄書房、1994
[2]アイルトン・セナが遺した格好良すぎるポルトガル語の名言集、ポル語る.com、2013年8月2日、
http://www.porgoru.com/3098.html
[3]実録 音速の貴公子アイルトン・セナ、原作・田口浩次、作画・川石哲哉ほか、竹書房、2013
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Posted on 2014/06/19 Thu. 20:58 [edit]

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