2013年度決算発表をする富士重工吉永社長

国内自動車各社の2013年度決算が出揃った。アベノミクス効果なのか、円安の恩恵もあり輸出産業、とりわけ自動車業界は主要各社の売上高が軒並み前年度比2桁増の好業績をたたき出している。しかし、各社の数字を並べて眺めてみると、本当の実力が浮き彫りになってくる。

2013年度自動車各社業績
表1.国内主要自動車各社2013年度連結業績

表1は2013年度の自動車主要各社の決算報告に基づき、連結の経営・財務指標を整理したものである。決算報告書は各社ホームページで誰でも閲覧できるので、こんな一覧表はサクサクと作れてしまう。ほとんどのメーカーが売上高、営業利益、純利益で前年度比2桁増を達成したことで業界の好況ぶりを示しているが、それにしてもトヨタの売上高25兆円って…。ノルウェーやスウェーデンなどの国家予算規模に匹敵し、お隣韓国をも凌駕する(※)。営業利益(2.2兆円)で、お膝元愛知県の年度予算を賄えるのだから恐ろしい。ピンククラウンを出すなど、お坊ちゃま社長ご乱心かと少し見縊っていたところがあったが、豊田章男社長の堅実な経営手腕には脱帽である。ひょっとしたら名経営者になるかもしれんな。また営業利益で3桁の伸びを示したマツダ、富士重の絶好調な業績も注目に値する。SKYACTIVEアイサイトでともにブランディングに成功した2社は決してイメージだけではなかった[1]。

(※)参考にした[2]を見るとドイツが歳出=歳入であることが羨ましい。もらった収入の範囲で生活する。当たり前のことなのだけれど、それでも十分豊かな国である。

ここでチェックしておきたいのは本業における収益性を判断する指標である売上高営業利益率と経営の効率性を判断する指標であるROE(株主資本利益率)、ROA(総資本利益率)。営業利益率は一般に製造業大手で平均値5-6%だそうだから最も低い日産(5.3%)でもまあ及第点といえる[3]。ただ、トヨタも驚く富士重工の13.6%(日産のゴーン社長が10億の報酬を貰えるなら、冒頭の写真、スバルの吉永社長は20億以上貰えるぜ)、売上高、利益ともに微増にとどまったダイハツの7.7%、その他軒並み6%前後の他社と比べるとやはり日産の業績は見劣りするし、最大の問題点は唯一前年度に対して営業利益率のポイントを落しているところだろう。『日産独り負け、ゴーン神通力に翳り』といったニュースの見出しが踊る所以である[4][5]。

経営効率性の指標をとってもその明暗ははっきりと見て取れる。ROEは、株主から預かっている資本を経営陣がどれだけ有効に活用しているのかを測る指標で、一般に10-25%が適正レベルとされる[6]。高い利益を上げているマツダ、富士重は驚異の25%超え(かつて日産の下では長く経営に苦しんだスバルだが、トヨタグループに変わるだけでこれだけ変貌を遂げるのだねえ)。ROEが高すぎる場合、負債の状況を注意する必要があるが(ROEは借金に無関係の指標だからだ)、負債も含めた総資産に占める利益の割合を見るROAでも両社は高い数字を示しているので、財務上の健全性も高いと判断できる[7]。一方、ROEで見ると日産、スズキが冴えず、ROAでは日産のみ3%を切っていることを考えると他社に比べ有利子負債も多い状況なのだと分析できる。意外だったのは、軽自動車の開発提携などでその日産・ゴーン社長の陰に隠れて存在感の薄かった三菱の業績が堅調だったこと。純利益も3桁の増加率だ。日産の経営戦略に飲み込まれることなく、独自路線を貫いたのだろう。

日産リーフとゴーン社長
電気自動車は日産成長のブレーキなのか?

2013年度決算報告の数字を眺めて日産独り負けを改めて再確認できたのだが、ではなぜ日産だけなのだろう。業績不振で人事を刷新した昨年11月にはリコール費用の増加が不振の要因の一つと説明されていたが[8]、これは部品共有化の進んだ現代の自動車業界ではどこの企業でもある得るリスクだ。トヨタだってホンダだって、大量リコールのニュースは頻繁にあるし、日産だけが特に多い印象は受けない。現地生産比率が高い日産は、円安による為替差益も他社に比べて少ないだろう。為替レートが安定すれば今度はむしろ差損に転じるリスクもある[9]。他社との決定的な違いを見つけるとすれば、電気自動車(EV)への突出した投資である。2020年までにルノーとあわせて計150万台のEVを販売する目標を掲げているが、現時点で10万台強[10]。単純にこの数字だけ見ればEVで10万台は大した成果だと思うが、目標値とはあまりにも乖離しすぎている。これでは開発投資を回収できていないのも当然で借金が減らない。

ダイハツ・ムーヴCM「スマート・アシスト」編
ダイハツ・ムーヴCM「スマート・アシスト」編

技術戦略もちぐはぐだ。三菱との共同開発の新型軽自動車、デイズルークスとeKスペースには自動ブレーキ搭載モデルがないことが販売拡大のネックになっているという[11]。競合他車であるダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」、ホンダ「N BOX」などの主力車は、どれも自動ブレーキの設定がある。日産の普通乗用車では既にセレナやノートに自動ブレーキが設定されているが、これとて全車種設定を打ち出したスバル・アイサイトに比べれば後塵を拝する。「軽自動車でこんなに自動ブレーキが普及するとは想定外だった」と日産担当者は言うが[11]、業界に先駆けて2020年に自動運転車を市場投入すると発表した会社が、その最も基本的な技術である自動ブレーキの商品化に出遅れ感があるのはなんとも心もとない。

マツダ・アクセラ ハイブリット スバル・フォレスター
ちょっと気になるマツダ・アクセラ ハイブリット(左)とスバル・フォレスター(右)

しかし最大の理由は、投入技術も含めて商品の競争力が低いからではないだろうか。日産は北米市場でトヨタやホンダに比べてインセンティブ(販売奨励金)が多いとのこと[12]。これは値引きをしないと売れないということだから、日産車に魅力がないことを示している。私自身の中でも、業績好調なマツダや富士重には購買欲をそそられるクルマが確実に増えてきたが、日産には最近あまり買いたい・乗りたいクルマがないなあという印象。エクストレイルもでかく丸くなったし。これはあくまで個人的な趣味嗜好に基づく感じ方だと思っていたが、今回決算報告内容を可視化してみると、あながち的外れの評価でもなかったのかなと思う。相方ルノーも業績不振と言われるが、新型ルーテシアキャプチャを見る限り、日産より魅力を感じる商品が多い気がする。

初代プリメーラ
「技術の日産」の矜持が滲み出ていた初代プリメーラ

ゴーン氏のコミットメント経営により原価コストとか台数とか数値目標を追うだけの仕事になっていて、社員が本当に作りたい・お客様に乗ってもらいたいクルマづくりが疎かになってはいないだろうか。GTRにはその気概が感じられたが、セレナやノートには売れ筋の量販車以上の強いクルマへの思い入れがあまり見えてこない。我が愛車、すなわち先代までのエクストレイルには、その一貫したボクシーなスタイリングに設計者の哲学を感じることが出来た。このカタチの必然性は乗ってみて初めてわかる。しかし新型はとてもビジネスライクになった。かつて親父も乗っていた初代プリメーラには、大衆車であっても走りやパッケージングに「技術の日産」としての拘りがあったけどなあ。もちろん利益を出すことは営利企業である以上最も重要なのだが、それだけが目的化していないかという心配がある。かつて経営に苦しんだマツダやスバルは、クルマ(モノ)づくりの原点に立ち戻ってみたのではないだろうか。日産は彼等や盟友ルノーのクルマづくりをもう一度ベンチマークした方がよいと思う。少なくとも日産の商品力の方が上だ、日産の儲けでなんとかルノーは生き永らえているといった驕りは捨てた方が良い[5]。敵は内に潜む。謙虚たれ。

プーチン大統領とゴーンCEO@日産サンクトペテルブルク工場
ロシアへの深入りでさらに首を絞めるかMr.ゴーン
(日産のロシア・サンクトペテルブルク新工場開所式=2009年6月[13])

日産にはさらなる不安材料がある。それは政情不安定な海外市場への拡大戦略である。世界各国と軋轢の多い中共市場では、尖閣問題以降減少していた販売台数が17%増と回復基調[9]、日産は日本メーカー最大のシェアを維持しているが、「強制連行訴訟」のような日本企業たたきの連鎖が懸念される[14]。南シナ海における中国とベトナムの領有権争いも再び尖閣に飛び火しないか気がかりだ。一方、東南アジア・オセアニアでは、タイでの政情不安のあおりを受けて販売台数17.8%減となった[9]。日産、いやルノー・日産連合が今一番の心配の種はロシア市場だと思う。ロシア経済成長の減速に追い打ちをかけるようなウクライナ問題は、自動車業界にも大きな影響を及ぼしそうだ。今一番ホットなロシアのクルマ事情については、別の機会に取り上げてみたいと思う。

数は力なりと自動車各社は販売台数の拡大に邁進してきた。ルノー・日産連合も例外ではない。しかし既に成熟した北米・欧州・日本市場では強者トヨタやVW、ビッグ3の牙城を切り崩すのは容易ではない。だからハンディの少ない新興国市場に活路を見出した。特に中国やロシア市場での日産の投資は他社に比べ積極的である。しかし新興国には政情不安定というハイリスクが伴う。ここに来てそのリスクが各地で顕在化し、積極策が裏目に出てきている。独り負け状態の日産は、2016年度までにグローバル市場シェア8%、営業利益率8%という中期経営計画目標[15]に対して経営をどう立て直すのかゴーン社長の正念場となる。倒産寸前の日産をV字回復をさせたゴーン社長だが、その彼の手で水泡に帰すことにはならないだろうなあ。彼はパリ国立高等鉱業学校の出身、私と同じ山師の教育を受けた男である。ギャンブラーの素質は十分だ。

国内では消費税も段階的にアップして、日産以外のメーカーも前途多難ではあるが、クルマファンとしては選ぶのに悩むくらい、ブランド各社には欲しいと思わせる魅力的なクルマをたくさん出してもらって、結果として大儲けしてもらえば良い。

[参考・引用]
[1]マツダ エンジン車の逆襲「スカイアクティブ技術」、第14回環境ブランド調査、p3、日経BP環境経営フォーラム、2013年7月4日、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/emf/20130703/250575/?P=3
[1]世界各国の国家予算規模ランキング(2012年)、世界ランキング統計局、
http://10rank.blog.fc2.com/blog-entry-170.html
[3]営業利益率とは、株式投資家個人生活研究所、
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/invest/hint/a/eigyo_riekiritu.html
[4]好況の自動車業界で一人負けの日産 ゴーン氏の神通力に翳り、週刊ポスト、2014年2月28日号、
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140218-00000008-pseven-bus_all
[5]変調来す日産の内幕、なぜ一人負け?「ゴーン・ショック」でくすぶるルノーとの提携解消、Business Journal、2014年1月12日、
http://biz-journal.jp/2014/01/post_3838_2.html
[6]ROEとは、金融・経済用語辞典、
http://www.finance-dictionay.com/2008/03/roe.html
[7]ROEとは ROAとは、N's spirit 投資学研究室、
http://www.nsspirit-cashf.com/inv_st/roe_roa.html
[8]日産、志賀氏が副会長に退く ゴーン氏ワントップ体制 通期決算の下方修正も発表、産経ニュース、2013年11月1日、
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131101/biz13110116580024-n1.htm
[9]日産、シェア拡大より利益率改善へ転針か? 為替差益はもう期待できず、NewSphere、2014年5月13日、
http://newsphere.jp/business/20140513-9/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=20140513-9
[10]日産リーフ、販売10万台へ 米で好調 「プリウス」上回るペース、SankeiBiz、2014年1月3日、
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140103/bsa1401030501001-n1.htm
[11]日産と三菱、軽新型車の誤算 自動ブレーキを装着できなかった理由、広岡延隆・佐藤浩実、日経ビジネス、2014年2月19日、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140218/259930/?rt=nocnt
[12]日産自株、10%下落 北米の利益低迷を嫌気、日本経済新聞、2013年11月5日、
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO62157920V01C13A1DT1000/
[13](けいざい深話)日産・ルノー15年:4 「4強」入りへ、再編の総仕上げ、朝日新聞デジタル、2014年4月19日、
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11092391.html?_requesturl=articles%2FDA3S11092391.htmlamp;iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11092391
[14]日本企業の撤退に拍車か 中国「強制連行訴訟」受理 リスク&コスト増、夕刊フジ、2014年3月19日、
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20140319/frn1403191209002-n1.htm
[15]日産自動車、新中期経営計画「日産パワー88(エイティエイト)」を発表、日産自動車ホームページ、2011年6月27日、
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2011/_STORY/110627-01-j.html
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