虚か実か

論文捏造

相変わらず理研の若き女性研究者へのバッシングが止まらない。報道記事の中には「ノーベル賞受賞者に頭を下げさせた罪」といった内容も見られるのだが[1]、私はこの一個人のみを責める風潮には強い違和感を覚える。確かに彼女が科学者、いや論文を生業とする研究者としての基本的なお作法が全くできていなかったのは事実であるし、批判を受けるのは当然である。主著者としての説明責任も果たしていない。しかしその彼女を研究リーダーに登用したのは理研な訳だし、ノーベル賞受賞者であられる理研のトップ・野依理事長が「未熟な研究者」と切り捨てるのは、組織の責任を棚に上げて彼女とその直属の上司を今回の騒動のスケープゴートにしているように感じる。

理研のような歴史ある大研究所と比べるのもおこがましい私の勤務する民間企業の研究所ですら、部長クラスによる定期的な研究進捗レビューは当然のこと、株価にも影響を与える広報に値する業績にでもなれば、役員クラスの研究所長以上への報告を少なくとも一度は通してから発表する。アナウンスする文言も一言一句チェックされる。常識的に考えれば、理研においてもSTAP細胞に関するレビューは所内で何度も行われたハズである。今回のような世紀の大発見ならばなおさら慎重に審査するだろう。まともな研究機関ならば。

野依氏が分野の異なる再生医学の成果を事細かくはチェックできないという言い訳は立つとしても、彼女の所属する部門のトップ、日本人ノーベル賞の有力な候補者の一人でもある発生・再生科学総合研究センター長・竹市博士がノーチェックでSTAP細胞の成果を内外に公表することにGOサインを出すとは考えにくい。少なくともSTAP細胞の生きたサンプルは見せられたハズだし(現物を見ない限り信じてもらえないからだ。それだけ生物界の常識を覆す内容だった)。また研究を管理する者ならば、2002年に米国ベル研究所で高温超伝導に関するデータの捏造が発覚、世界を揺るがしたシェーン事件[2]や、今回と同じ再生医学の分野で騒がれた2005年に韓国ソウル大学で発覚したヒト胚性幹細胞捏造事件を知らないはずはないだろう。竹市センター長は「なぜミスが見逃されたのか、私自身が理解できない」と発言しているが[1]、何を寝言をである。

これらのことを考えると、これだけ杜撰なデータが世に出回ってしまったのは、“未熟”だったのが研究者ではなくマネージャーの方ではなかったのか。厳しい言い方をすれば“未熟”どころか“無能”だ。名選手、名監督にあらずと言われるようにノーベル賞クラスの大研究者が、必ずしも有能な研究管理者になるとは限らない。我々は理研、ハーバード大、Nature誌というブランドをやみくもに信じ、何ら疑うことをしなかった。このことを反省するならば、トカゲの尻尾切りの対応のようにも見える理研上層部の『権威』に対しても、厳しい目を向けるべきではないだろうか。理研内部では『権威』のジャッジが全てで、地位・業績に関係なく純粋に論議ができる研究風土になっていないのかもしれない。理研だけでなく日本科学界全体の問題ともいえる(311を予見できなかった地震学も同じ)。万が一、STAP細胞の存在そのものが捏造であったならば、世界的権威のお歴々は雁首そろえて辞任するしかない。

その結果が判明するのは、あと1年もかかるのだそうだが(前述のベル研は4ヶ月で調査報告書を出している[2])、もし本当にSTAP細胞が出来ていたのであれば、中間報告の場で証拠のデータを出してもよさそうなものだ。本論文の肝であるSTAP細胞の万能性を示す画像データは、彼女の博士論文からの取り違えだとのことだが[3]、本来投稿する予定だった正しいデータはいずこに?

発生・再生科学総合研究センター
渦中の理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)[4]

[2014.4.1追記]
4月1日の理研最終報告で小保方論文は捏造と発表された。まさかエイプリル・フールではないと思うが、発表の日をもう少し考えられなかったのだろうか。小保方氏本人はこの調査結果に不服を申し立てるようで、この問題はさらに泥沼化しそう。彼女も反論があるのであれば、やはり表に出てきて何もかも真実を洗いざらい話し、きちんと説明責任を果たされるべきだと思う。

一方、理研の方は「捏造は彼女単独」と管理者側に非がないことをアピールしてるが、捏造論文が簡単にスルーして、大々的にプレスリリースされること自体、理研上層部自らの無能さ、研究管理機能の杜撰さを示しているだけである。捏造が事実なら、理研トップ、少なくとも直接成果報告を受けたであろうCDBセンター長の竹市雅俊氏の辞任は免れないと思うが、彼女だけのトカゲの尻尾切りで、ノーベル賞候補の彼のキャリアに傷をつけたくないという組織の魂胆が見え隠れする。ノーベル賞はスキャンダルを最も嫌う。竹市博士の業績がどれくらいのものかは知らないが、疑義が発生した段階で彼女の所属部署のトップである彼のノーベル賞候補は消滅していると思う。

そもそも17日の中間報告では、最終的な報告にはまだかなり時間がかかるとされていた。ところが予想に反しての2週間足らずで最終結果を出す突然の方向転換には、問題解決に対する強い決意の表れというよりは、早くこの問題を収束させたい理研上層部の焦りが見える。最終報告には肝心の論文捏造の経緯や背景、今回の不正を見逃した理研内部の報告やチェックの仕組みなどのプロセス要因についてはほとんど言及されていない(報告書は共著者が悪いと言っているようにしか読めない)。この性急に幕引きを図ろうとする対応が、理研の印象をさらに悪くしている。個人的な私見だが、この”事件”の本質的要因は理研の組織や管理体制にあると見ている。その問題を上層部は隠ぺいしようとしているのではないか。

多くの全うな理研の研究者の皆さん、君たちに研究者としての矜持があるのであれば、大学者の権威など恐れず、自ら組織の自浄に立ち上がるべきだ。でなければ、理研の名声は間違いなく失墜するだろう。

<STAP細胞>理研「研究不正は小保方氏単独で」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140401-00000023-mai-sctch
小保方氏「とても承服できない」 理研に不服申し立てへ (日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG0101V_R00C14A4000000/
研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査中間報告について(理化学研究所)
http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140314_1/
研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について(理化学研究所)
http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140401_1/

[参考・引用]
[1]科学界に拡大する「コピペ疑惑」の地獄、ノーベル賞「野依博士」に頭を下げさせたSTAP論文の「大罪」…“ニューヒロイン”の今後はどうなる
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/140320/wlf14032004340003-n1.htm
[2]ヘンドリック・シェーン、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3
[3]STAP疑惑 不正かミスか、毎日新聞、2014年3月20日
[4]iPS細胞研究や発生学を通して生命の物質と時間の奥深さを感じる(2) -全3回- 西川伸一氏、インタビューこの人に聞く、iPS Trend、2010年5月6日、
http://www.jst.go.jp/ips-trend/column/interview/08/no02.html

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[ 2014/03/25 22:45 ] bookshelves/本棚 | TB(0) | CM(0)

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