タイヤのことを知ろう

首都圏に大混乱を招いた大雪もさすがにほとんど解けたが、まだ日当たりの悪い場所へ行けば雪は残り、冷え込みの続く早朝の路面は凍結しているところもある。クルマを使う人にとっては油断のならない日々が続く。こういう季節だからこそ、命綱であるタイヤについて理解を深めておく必要がある。先日紹介の学習絵本「タイヤのひみつ」を参考に引き続きタイヤの勉強をしたいと思う。

乗用車タイヤの構造
乗用車タイヤの構造(「タイヤのひみつ」より)

まず基本であるタイヤの構造を学ぼう[1]。(乗用車用)タイヤの構造は、上図のように①トレッド部②ショルダー部③サイドウォール部④ビード部に大別される。人間でいえば、頭部、上肢、体幹、下肢といったようなものだ。①のトレッド部はタイヤと路面が直接接する部分。表面にはトレッドパターン(溝)が刻み込まれて「タイヤのひみつ」でも紹介したように路面をグリップすることで、安心して「走る、曲がる、止まる」ことができる一番大事な部分と言ってもよい。人間の骨格に相当するものが⑤カーカスと言われるものだ。表層のゴム材だけだとぐにゃぐにゃして強度が保てない。「タイヤ交換」で解説したように、ポリエステル、ナイロン、レーヨンといった繊維コード(線材)層をタイヤの内部に構成することで、タイヤの強度を保ち、空気を閉じ込める役割を担っている。トレッド部とカーカスの間には⑥ベルトと呼ばれる主にスチールのコード層が補強帯としてはさまれており、タイヤの形を保ち、強さを高める働きがある。ビード部には、カーカスの両端を固定して、タイヤとホイール(リム)とを固定させるための⑦ビードワイヤーと呼ばれる部分があり、高炭素鋼を束ねた構造でがっしりと強化されている。このように一見黒いゴムだけで構成されているように見えるタイヤも、実はいろいろな素材でできている。タイヤの内部は自転車タイヤのようなチューブは入っていなくて、直接タイヤ内部に空気を充填する構造となっている。

ゴムができるまで
ゴムができるまで(「タイヤのひみつ」より)

タイヤの基本素材であるゴムはどのように作られるのだろうか。タイヤのゴムには天然ゴムと合成ゴムが混ぜられてる。天然ゴムは皆さんよくご存じのように、ゴムノキ(子供の頃、育ててたなあ)の木の皮に傷をつけて採取した樹液が元になっている(※1)。天然ゴムをヨーロッパ文明にもたらしたのはコロンブス。彼が発見したインド諸島ハイチ島で住民が持っていたゴムを持ち帰った。しかし、当時のゴムは暑くなると柔らかくべとつき、寒くなると硬くなりひび割れるという実に使い物にならない代物だった。

新しい天然ゴム資源
新しい天然ゴム資源(2013東京モーターショー、ブリヂストンブースにて)

(※1)最新の研究では、ゴムノキ由来の天然ゴムに代わる新たな天然ゴム資源が開発されている。北米原産の「グアユール」やロシア原産の「ロシアタンポポ」などがそれである。原材料供給源の多様化によって、地政学的なリスクを避けることができる[2][3]。

天然ゴムの塑性変形
図1.天然(生)ゴムの塑性変形[4]

天然ゴムは、ゴムの分子が鎖のように繋がった構造を持ち(化学的にはイソプレンCH2=C(CH3)CH=CH2という高分子が付加重合した構造のポリイソプレンが主成分つーことで…化学苦手^^;)、引っ張ると少し伸びるが元に戻らない、すなわち塑性変形の性質を持つ(図1)[4][5]。

加硫ゴムの弾性変形
図2.加硫ゴムの弾性変形[4]

1839年の寒い冬のある日、趣味でゴムの研究をしていたアメリカ人、チャールズ・グッドイヤーは、突然の来客にストーブの上にゴムと硫黄を放ったらしにした。部屋に戻るとゴムと硫黄は燃え上がっていたが、燃え残ったゴムは寒さの中でも硬くならなかった。この偶然の産物がゴム開発史上最大のブレークスルーである「熱加硫法」の発見となる[6]。ゴム材料に硫黄を混ぜて熱を加えると、硫黄分子がゴムの分子であるイソプレンの鎖同士に橋をかけたようになり(「架橋」という)、力が加わり変形しても元の形に戻ろうとする、すなわち現在のゴムでは当たり前の弾性変形の性質と強度を持つようになる(図2)[4]。

Charles Goodyear
Charles Goodyear

一方、合成ゴムは1910年頃から盛んに開発が行われるようになった。当時天然ゴムの一大産地は英国植民地のマレー半島。英国と敵対する国、特にドイツなどでは自前で作るしかなかった。その結果、ドイツではジャガイモから合成ゴムが作られたり、石炭からも作られるようになったが、大量生産が行われるようになったのは1930年代のアメリカで、石油から合成ゴムが作られるようになってからである。ゴムの主成分は炭素と水素から成るポリイソプレンという炭化水素。同じ炭化水素化合物である石油からゴムが作れるのではないかと思うのは自然の成り行きであった[6]。

次にタイヤの生産工程の話。まず基本のゴムの作り方。前述した天然ゴムと合成ゴム、それに硫黄とカーボンブラック(炭素の粉末)を混ぜ合わせて作る。天然ゴムと合成ゴムをなぜ混ぜるのかだが、弾性などのゴムの基本性能は天然ゴムが勝る。しかし価格が高いために、合成ゴムとの混ぜ物になっている。その比率は天然ゴム6に対して合成ゴム4くらい[7][8][9]。しかし近年の石油高騰、将来的な枯渇の懸念等から、最近は植物由来の天然ゴム比率が増えているようだ(※2)。

(※2)石油由来の合成ゴムや加硫促進剤、老化防止剤などのゴム薬品、カーボンなどの充填剤についてもバイオ原料への転換が進んでいる[10]。

カーボンブラックはゴムを強くするための補強剤として使う。ゴムノキの樹液が白いように、天然ゴムも合成ゴムもそのままでは白っぽい色をしている。カーボンブラックを混ぜることで、強度は10倍近く高くなり、我々が通常目にする黒いタイヤが出来上がるという訳だ。

タイヤができるまで
タイヤができるまで(「タイヤのひみつ」より)

基本のゴムが出来たら、これに各種の加工を施して、前述のトレッド、カーカス、ベルト、ビードの各部を作る。トレッドは基本のゴムを柔らかくして、機械でゴムの帯のように押し出す。カーカスはナイロンなどの繊維コードを帯状に並べた状態で接着剤を塗り、両面からゴムを貼りつけて糸を挟む。ベルトは同様に鉄のコードを帯状に並べてコードの両面にゴムを押し付ける。ビードは鋼のワイヤーを線状に束ねて、このワイヤーの束をゴムで包んで押し出し、巻き取って輪ゴム状にする。このワイヤーの入った輪ゴムをタイヤ1本につき2本使う。これらのパーツを上図のように組み合わせて生タイヤが出来上がる。この生タイヤを金属の型に入れて熱と圧力を加えることで、普段見慣れたタイヤが完成する。

エアリーコンセプト
ブリヂストンの空気レスタイヤ「エアリーコンセプト」(2013東京モーターショー、ブリヂストンブースにて)

最近は、伸縮性があり頑丈なスポークでゴムタイヤを支えた空気レスタイヤなんかも開発されている[11]。こういう新しい形にタイヤが進化していけば、タイヤの作り方もまた大きく変わっていくのだろう。単なるゴムの塊と思われがちなタイヤも実は非常に複雑な構造をしていることがよくわかった。でもここに至るまでには様々な先人たちの多くの苦労と努力がある。「タイヤのひみつ」は世界最大のタイヤメーカーである㈱ブリヂストンの全面協力を得ているが、次回のクルマ絵本ではそのブリヂストンの創業者、石橋正二郎の伝記を通じて、日本のタイヤ開発史を振り返ってみたい。

タイヤのひみつ 石橋正二郎
次回のクルマ絵本は私(石橋正二郎)の出番(「タイヤのひみつ」より)

[参考・引用]
[1]タイヤの基本構造、ブリヂストンホームページ、
http://www.bridgestone.co.jp/personal/knowledge/maintenance/01_02.html
[2]天然ゴム資源「グアユール」の研究活動を開始、ブリヂストンホームページ、2012年3月8日、
http://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2012030801.html
[3]天然ゴム資源「ロシアタンポポ」の研究活動を加速、ブリヂストンホームページ、2012年5月17日、
http://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2012051701.html
[4]ゴムって何?、高石工業株式会社ホームページ、
http://www.takaishi-ind.co.jp/what/
[5]大学の化学でつまづいた人へ 高校化学再入門、小玉信武、化学同人、2005
[6]タイヤの科学、御堀直嗣、講談社ブルーバックス、1992
[7]【質問】 タイヤの原材料、タイヤ問答 まめ知識編、TireFactory、
http://www.tirefactory.jp/info/quest/knowledge.html
[8]タイヤの原材料、タイヤの基礎知識、GOODYEARホームページ、
http://www.goodyear.co.jp/faq/advanced02.html
[9]ゴム、商品先物取引入門、日本ユニコム㈱ホームページ、
http://www.unicom.co.jp/commodity/knowledge/rubber.html
[10]ブリヂストン バイオ合成ゴム、ゴム薬で再生可能資源化促進、ゴムタイムズ、2012年10月11日、
http://www.gomutimes.co.jp/?p=41176
[11]パンクしない非空気入りタイヤは実現するのか?、cliccar.com、2014年2月2日、
http://clicccar.com/2014/02/02/245472/
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