タイヤのひみつ

タイヤのひみつ

先週末は記録的な大雪で都心の交通は大混乱だったが、今日も朝から雪。再びかなりの積雪になるとの予報も。さすがにあの大雪の中、ノーマルタイヤで出かけたリスキーな人はいなかったと思うが、ドライバーの命を預かるのがタイヤ。今日は自動車にとっても非常に重要なタイヤの基礎知識を分かり易く解説した学習漫画、タイトルもズバリの「タイヤのひみつ」(絵・大石容子、構成・橘悠紀、企画・㈱ワークショップ21、協力・㈱ブリジストン、学研まんがでよくわかるシリーズ)を紹介する。「燃料電池車のひみつ」と同様、小学校図書室や公立図書館に無料配布される「学研まんがでよくわかるシリーズ」の第59巻。このシリーズはマニアックな自動車ネタも多く、私も非常に重宝している。

ハガキ1枚分 カーブで起こるタイヤの変形
(左)タイヤの接地面積はハガキ1枚分[1]、(右)走行状態によるタイヤ接地面の形状[2]

自動車におけるタイヤの役割は何か。一つ目は、乗員も含めて数トンにも及ぶ車両重量を支える役目。タイヤと路面は、理論上円と直線が交差した点接触になるはずだが、実際には弾性のあるゴムのタイヤがクルマの重さで潰れ、路面とタイヤは面接触している。その面積はおよそハガキ大。たったハガキ4枚で乗員とクルマを支えている。

タイヤのひみつ その1
タイヤのはじまりは鉄?!(「タイヤのひみつ」より)

二つ目は、路面の凸凹など乗員に伝わる衝撃を和らげる役目。車輪のある乗り物が発明されたのは、今から約5000年前(B.C.3000年)、シュメール人の四輪馬車が最初と言われている。その後約2000年前には金属加工の技術に優れたケルト人が車輪に鉄の輪を付けた。これがタイヤの始まりとされる。しかし、これでは乗り心地が最悪である。その後車輪は長きにわたって木か金属が使われたが、15世紀にコロンブスがヨーロッパにゴムをもたらす。それから数世紀を経て、ゴムを貼っただけの車輪が1867年に作られたが、乗り心地はさほど向上しなかった。

J.B.Dunlop Michelin兄弟 L´ÉCLAIR
(左)J.B.Dunlop(中)Michelin兄弟と(右)L´ÉCLAIR号[3]

現在のような空気入りタイヤが発明されたのはそれに先立つ1845年、スコットランド人のR.W.トムソンが原理を考案し特許を得たが、実用化には至らなかった。空気入りタイヤが実用化されたのは1888年(本書には1887年とあるが88年が正しい)、同じくスコットランド人のJ.B.ダンロップが、息子の自転車用タイヤとして考案してからである[3]。自動車の発明が1885年だから、カール・ベンツのパテント・モトールヴァーゲンもまだ鉄製のワイヤースポークホイールにソリッドなゴムタイヤを巻いただけであった[4]。「まんがはじめて物語 明治時代のスーパーカー 自動車」でも紹介した国産初の自動車「山羽式蒸気自動車」(1904年)も、同様なソリッドゴムタイヤの構造だったが、当時の舗装のない道路ではこれが命取りになって試走に失敗している[5]。自動車に空気入りタイヤを使い始めたのは、フランス人のアンドレ&エドアール・ミシュラン兄弟。1895年、パリ~ボルドー間往復の1,180kmレースで、プジョー製のエクレール号(L´ÉCLAIR=稲妻)に空気入りタイヤを採用した。しかしこれとて、レース中に何十回もパンクする散々なものだったらしいが、このようなタイヤの進歩のお陰でクルマの乗り心地は格段に向上した[3]。

タイヤのひみつ その2
タイヤの重要な役割(「タイヤのひみつ」より)

そして三つ目の役割は自動車の基本性能「走る、曲がる、止まる」を実現可能にすること。ノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生が大学院生時代、高校で物理の臨時講師をしていたときに「この世に摩擦がなくなったら」という問題を出し、正解は白紙回答(摩擦がないので鉛筆の芯がすべって文字が書けない)だったのは有名な話[6]。摩擦力がなければクルマも「走る、曲がる、止まる」ことができないが、路面とタイヤとの間に摩擦力を効率的に発生させるのがタイヤの役目である。

遠心力とコーナリングフォース
図1.遠心力とコーナリングフォース[7]

ハンドルを切ればその方向にクルマは曲がると当たり前のように思うかもしれないが、タイヤを切った方向に動くのは極低速走行でのこと。ある程度スピードが出ているとこれが当たり前でなくなってくる。つまり「遠心力」と「求心力」の問題だ。例えば紐のついたボールをぐるぐる回しているとボールは円を描きながら回る。これは遠心力と紐の張力(求心力)が釣り合っているからだ。しかし紐を離すと、ボールは外に飛んで行ってしまう。クルマも同じで、コーナリングの場合、車体は慣性で直進運動を続けようとするので、遠心力に釣り合う摩擦力(コーナリングフォース)の発生によって車線を逸脱せずに曲がれるのである(図1)[7]。ノーマルタイヤで先日の氷雪の中を曲がろうとすると、タイヤに十分なコーナリングフォースが働かずにそのまま外側に突っ込んでいく羽目になる。

タイヤに発生する3つの摩擦力
図2.タイヤに発生する3つの摩擦力[3]

さてそのタイヤに発生する摩擦には大きく3種類あるのだそうだ(図2)。第1は「凝着摩擦(アドヒージョン)」。タイヤが路面に接することによりタイヤのトレッド(接地面)ゴムの分子と、路面素材(アスファルト)の分子とが互いに引っ張り合う凝集力(分子間力)のこと。第2は「変形損失摩擦(ヒステリシスロス)」。路面の細かい凹凸でタイヤのトレッドゴムが変形し、変形したゴムが元に戻ろうとして発生する摩擦力のこと。第3は「掘り起こし摩擦」。路面との接触でタイヤのゴムが引き裂かれたり、削られるとき、弾力を持つゴムの抵抗として働く摩擦力のこと。これら3つの摩擦力の総和がタイヤの路面をグリップする力となる[3]。このことからわかるのは、古く硬くなったタイヤは変形しずらく、十分な接地面積を得られずに凝集力も弱まるため高いグリップ力を得られない、すなわち安心して「走れない、曲がれない、止まれない」ということになる。タイヤは溝の深さだけでなく、適度な弾力(柔らかさ)にも注意を払う必要がある。

スノータイヤのグリップ
図3.スノータイヤのグリップ[3][8]

それでは今回のような雪道で使用するスノータイヤは、通常のノーマルタイヤと何が違うのだろう。雪道でのタイヤのグリップメカニズムは、上述したゴムの摩擦力とはまた別の働きによって得られる。先週末の大雪も最初は比較的さらさらの乾雪だった。このような雪では手で雪を掻き集めて雪玉を作ってもすぐに砕けて遠くに飛ばせない(力が伝わらない)。しかし、雪玉をしっかり手で固めれば、より遠くに飛ばすことができる(力が伝わる)。同様に、雪道でタイヤがグリップ力を得るには、雪を掻き集め、固めることが必要となる。そこでタイヤの溝のパターンが重要となる。スノータイヤはタイヤ表面に細かく刻み込まれた横溝が、タイヤの回転によって雪を掻き集め雪を掴む。雪を掴んだ後、タイヤが接地面で潰れたり、元に戻ったりすることによる収縮運動によって、雪が圧縮され固められる。この固められた雪柱は、タイヤが回転することで路面の雪から引き裂かれる。雪柱は路面の雪から引き裂かれまいとする抵抗力を持っているので、それを引き裂く際に摩擦力としてグリップが発生するのである(図3)。このメカニズムにより、低温でもタイヤが柔軟な動きをするようにスノータイヤはノーマルタイヤよりも柔らかい素材を使用している[3]。

凍った道とタイヤ
図4.凍った道とタイヤ(「タイヤのひみつ」より) 

昔はさらに氷上でのグリップ性能を高めるために、スノータイヤにスパイク(スタッド=鋲)を打ちこんだスパイクタイヤが使用されていたが、今は公道での使用が禁止され、スノータイヤとしてはスタッドレスタイヤが主流になっている。雪が降った翌朝によく出現する氷雪路では、その上を自動車が走ると、車体の重みで氷が解け、氷とタイヤの間に水の膜ができる(図4)。雪道でクルマがすべるのは、この水膜によってタイヤの摩擦力が失われるからである。この水を取り除いて、乾いた氷の路面にしてやればグリップを得られるようになる。そのような発想で開発されたスタッドレスタイヤは、ゴムの中にミクロレベルの多数の気泡が入った発砲ゴムを使用している。毛細管現象によりこの気泡の中に水を吸い上げてしまうのだ。気泡が入ることにより、ノーマルタイヤよりも柔らかく、低温化でも硬くなりにくい性質を持つ。また気泡の縁がエッジになり、氷を引っかける働きもしてくれる[3]。

ノーマルタイヤ顕微鏡写真 スタッドレスタイヤ顕微鏡写真
ノーマルタイヤ(左)とスタッドレスタイヤ(右)の顕微鏡写真[3]

タイヤをただの黒いゴムの塊と思っていたら大間違い。なかなか奥が深い車両部品だが、こんなマニアックなテーマの本を真剣に読む小学生はいるのだろうか。是非興味をもってもらって、多くの子供たちに未来の科学者や技術者になってもらいたい。タイヤというと男っぽいイメージがあるが、本書の主人公は小学6年生の岸本のぞみという女の子。未来からやって来たタイヤを研究するジュンという少年から、タイヤのことについていろいろ学ぶというストーリーだ。少女漫画っぽいタッチの絵を描くのは、漫画家・イラストレーターの大石容子さん。1964年高知県香美市生まれ。デザイン事務所勤務ののち、25歳頃よりフリー。広告イラスト、挿絵、1コマまんがを中心に活動されている。書籍は図鑑、教科書、教育関連図書、物理学宇宙学などの「難しいことを一般向けに解説する本」が多い。代表作は『犬のすべて調べ図鑑』(汐文社)など[9][10]。

大石容子
大石容子[10]

ここまで勉強すると、タイヤは一体どうやって作られているのかにも興味がわく。次回はその辺りを学習してみよう。

[参考・引用]
[1]タイヤ館郡山(タイヤの接地面積ってどのくらい編???)、タイヤ館郡山、ぐるっと郡山、2012年7月7日、
http://gurutto-koriyama.com/detail/?pn_sn2=2&cl_id=56&sn_no=1517&viewmode=pc
[2]カーブで起こるタイヤの変形、たいやもどき、
http://www.taiyaya.info/inchup/03/5.htm
[3]タイヤの科学、御堀直嗣、講談社ブルーバックス、1992
[4]Benz Patent-Motorwagen、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Benz_Patent-Motorwagen
[5]山羽式蒸気バス、日本の自動車技術240選、JSAEホームページ、
http://www.jsae.or.jp/autotech/data/2-1.html
[6]ノーベル物理学賞の小柴氏にお会いしました、高田憲一、日経ものづくり雑誌ブログ、2008年1月28日、
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20080128/146359/
[7]車両運動性能とシャシーメカニズム、宇野高明、グランプリ出版、2008
[8]早めの準備で雪道・安全走行を!、一般社団法人日本自動車タイヤ協会、
http://www.jatma.or.jp/winterdrive/
[9]大石容子、高知出身のまんが家、横山隆一記念まんが館、
http://www.bunkaplaza.or.jp/mangakan/directory/dir_01/oishiyouko.html
[10]大石容子プロフィール、大石容子ホームページましゅまろふぁくとりー、
http://members2.jcom.home.ne.jp/yo-work/youko-pr.html
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