都知事選

道路の権力

そもそも発端はこの男のマネースキャンダルからだった。猪瀬直樹。小泉政権下で道路関係四公団民営化推進委員会委員として公団民営化に積極的に関与した。利権蠢く道路行政にメスを入れたことで、族議員や官僚などとすさまじい攻防戦が繰り広げられたことは著書「道路の権力」(文藝春秋)に詳しい。道路公団OBの父などは猪瀬を嫌っていたようだが、周りに敵や復讐心を抱く人は相当多かったはず。その氏が五輪の誘致成功から一転、奈落の底に突き落されることになる。でも何か釈然としないのは私だけだろうか。今回の事件のもう一方の主人公、徳田虎雄と猪瀬の前任、石原慎太郎閣下がズブズブの関係であったことは周知の事実のようだ[1][2]。石原都政を継承すると言われた元日本空軍参謀長殿は大丈夫だろうか。石原都政を引き継ぐということは、すなわち猪瀬都政も引き継ぐということ。徳洲会との癒着も同時に継承するということか。また自民党だけでなく野党も含め、徳洲会との関係で猪瀬以上に叩けば埃の出るような国会議員も相当いるはずだが、マスコミは前知事の辞任以降、ほとんどこのマネー疑惑には触れなくなった。あれほどスキャンダルが大好きなマスコミが次を追わないのは何故か。猪瀬直樹は単なるスケープゴートにされただけなのだろうか。仕掛け人は誰なのか…。ブログテーマと全く関係ないが、都知事選劇場を外野から無責任に観戦させてもらおう。

後任知事よりヤバイ
後任知事よりヤバイ?(引用元

猪瀬が道路行政という魑魅魍魎と一戦を交えた際に後ろ盾となったのが、小泉元首相である。その小泉が与党自民党に反旗を翻すかのように支援を表明したのが、都知事選の争点に「脱原発」を掲げる元首相、細川護熙だ。私が学生時代を過ごした熊本時代の県知事である。自民党を飛び出た舛添某が、その自民党の支援を受けるのも節操がないけれども、かつて自民党55年体制に引導を渡した肥後の殿様が、保守本道を貫く変人とタッグを組むなんて、もうめちゃくちゃな呉越同舟だ。しかし維新の頃には、あの坂本龍馬だって討幕派・佐幕(守旧)派相互と深い関係にあったのだから別に驚くこともない。

別に細川支持という訳ではないが、彼の出馬に対してエネルギー政策は国策であり、都知事選の争点にすることは疑問と批判するのは、原発推進派の詭弁であろう。東京都は日本の人口の1割以上を擁する電力消費量No.1の自治体だ。しかも原発が稼働していれば、供給エネルギーの大半を原子力に依存する東京都が、今後どのようなエネルギー政策を選択すべきかは重要な論点の一つであるはず。エネルギーは我々が生活を営む上でなくてはならないもの。自分の生活との秤にかけて、原子力を止めるのか、リスクを負いながら原子力への依存を続けるのか、そういう大問題が都知事選で争点にならないのはやはりおかしいと思う。都民は十分関心を払わなくてはならない。そういえば、猪瀬前知事も原子力や東電に対して厳しい発言をしていたけれど…。

小泉、何をたくらむ
小泉、何をたくらむ

政治は複雑怪奇な力学だが、今の政治は原発利権と反原発利権(つまりは化石燃料派)との闘争だと思えば図式はわかりやすい。3.11以前は温室効果ガス削減を御旗に「脱石油」へ風向きが変わった。民主政権も原発推進の政策を掲げ、東電が推進していたように住宅だってオール電化が主流になるような勢いだった。そこへ米国を中心としたシェールガス・オイルブームで化石燃料派の逆襲。福島の事故は止めを刺した。就任前は原発派だったオバマ大統領も、いつのまにかシェールガス・オイル開発支援に政策を転換している。思い起こせば、突然脱原発を言い始めた小泉元首相は、石油メジャーと深い関わりを持つブッシュ前大統領と旧知の仲で、アメリカの犬とも揶揄された。

トヨタFCVコンセプト
脱原発技術?2015年量産化を目指すトヨタFCVコンセプト[9]

自動車業界に目を転じると、原発エネルギーがCO2を排出しないゼロエミッション実現の要であった2次電池利用の電気自動車も一時のブームが去り、昨年自動車各社の合従連衡(※)が報道されたように、天然ガスからも改質可能な水素を燃料とする燃料電池車の開発に業界はシフトし始めた。海千山千の自動車会社経営層がこのエネルギーパワーバランスの微妙な変化を感じ取っていてもおかしくはない。
(※)トヨタはBMW、ホンダはGM、日産はダイムラーとフォードと燃料電池車の研究開発で提携

一方で、特定秘密保護法なんて色々と隠し事をしたい原子力ムラにとっては好都合である。この法案を強行採決した安倍首相はいったい何の秘密を守ろうとしているのか。彼が「原発、やめるわけにいかぬ」と言い切っているので[3]、現政権にはかなり原発利権が食い込んでいるのではないかと勘ぐってしまう。化石燃料への依存が高まれば輸入量は益々増大し、貿易赤字も解消されずにアベノミクスにも支障が出る。話は少し逸れるが籾井NHK新会長の問題発言[4]は、慰安婦の発言よりも「政府が右といえば、 左と言えない」というメディアの自殺行為ともいえるコメントの方が重大で、これにも安倍政権の強い圧力を感じる。最近は大手メディアがすっかりおとなしくなってしまったが、党がどこであれ、政権与党の暴走を監視するのがメディアの役割ではなかったのか。今書いているようなネット上のコメントにも、いずれ中共のように圧力がかかるのかね。”炎上”なんてのも、裏で誰が操っているかわからないしね。

福島原発
FUKUSHIMAを脱原発の研究拠点に(写真は東京電力ホームページより)

こうして見ていくと、なんとなく世の中の駆け引きが透けて見えるが、実際はそう単純な力学でもないだろう。私個人は現実的に「ゼロ原発」は当分出来ないだろうという見方だ。脱原発を図るにも、廃炉といった大きな問題が立ちはだかる。福島にしても廃炉の課題に加え、放射能汚染という原発の本質に関わる問題が何ら解決されていない。これらの問題が残る以上、使用済み核燃料の処分も含めた廃炉技術、放射線物質を除染する技術の研究開発、つまり原発事故の落とし前をつけるテクノロジーの開発は継続する、むしろ強化するべきだと思う。そのためには少なくとも研究用の原子炉施設が今後も必要になる。これは地震予知よりも難しいかもしれないが、これらの技術を確立しない限り、少なくとも今存在する原発を安全に処分することもできない。FUKUSHIMAはそのような国際研究拠点として再生すればよい。すぐそこに実験場があるのだから。むろん工学的に100%の安全技術はあり得ないから、万が一事故が発生した場合のリスク、損失が甚大すぎる原発への依存度は極力ゼロに近づけるのが最終ゴール、そしてそこへ至るロードマップを早く作るべきだというのが現時点の私の考えだ[5]。これらの研究開発及び戦略策定を、現在の原子力ムラに任せてはいけない。延命のためにチンタラ進めるのがオチだからだ。現状の組織体制は解体再編し、智慧を集結して学際的に検討を進める必要がある。ここまで考えるとさすがに都政の域を超えてしまうね。

新国立競技場案
こんな巨大な競技場が必要なのか

また東京五輪も争点の一つになっているが、オリンピックの成功を公約の最前面に掲げるのもどうかと思う。批判を恐れずに言えば、たかがオリンピック、国際イベントの一つに過ぎない。6年後の2020年夏になれば、そのはかなきスポーツの宴は一瞬で終わってしまう。その一瞬一時のために、あんな巨大なスタジアムがいるのだろうか。その時点では新都知事も、現首相も存在するかどうかもわからない。五輪を招致した都市は開催後に大概財政難に陥るが、アベノミクスと同様、景気のよい話でもっと重要な問題を包み隠そうとしているようにも見える。福島原発の処理の問題も含め、1000兆にも膨れ上がる国の借金はどうするのか、東北の復興はどうするのか、少子化をこのまま放っておいてよいのか等々。オリンピックまでに東京のCO2排出量を何%削減するとか、再生可能エネルギー依存率を何%に拡大するとか、スポーツも含め子供たちの才能を世界基準で育てる教育政策、外国からの観光客も安心して滞在できる震度7にも耐えうる防災都市構築といった、五輪を政策論議の一つのきっかけとするならまだ良い。しかしそのオリンピックもまた原発論争に利用されている。「原発即ゼロ」ならば(電気が必要な)五輪返上しかないという主張が出てくる[6]。五輪運営にどれだけの電力増加が見込まれるのか具体的根拠もわからないし、原発事故を経験した東京の意義をアピールするのであれば、電気を使わない節電オリンピックを目指してはどうかとも思う。

各国のエネルギー開発予算
異常すぎる日本の原子力開発予算[7]

同様な議論として、原発肯定派の人は、3.11以降原発を止めたことで経済活動が停滞したとも言う。果たしてそうなのか。日本経済の停滞は、近隣諸国との緊張関係や新しい産業やイノベーション、雇用を生み出す土壌を作り出せなかった政府の失策、あるいは家電業界に代表される競争力の低下など企業の経営判断ミスの方が大きい。原子力という特定の分野に偏って研究開発費予算をつぎ込んできたこれまでのエネルギー戦略から[7]、その他のエネルギーソースにも広く投資を増やす方が、新しい技術や産業を生み出すチャンスを与えると思うのだが。新エネルギーの視点で見れば、ミドリムシから油を抽出なんて面白いアイデアだってある[8]。蓄電技術だって、エネルギーの有効利用に大きな影響をもたらすだろう。とにかく、いろいろ新しいことに挑戦してみる、そういう人たちを東京が率先して支援すると言えば、結果的に日本経済は活性化すると思う。今はエネルギーが足らないのではなく、アイデアが足らないのである。

個人的には大きな被害が想定される世界に冠たる下町の中小企業設備・技能労働者を、地震災害からいかに守るか、日本の産業の根幹に関わる重要な課題だと思っている。世界的大都市東京の知事なのだから、東京オリンピックの成功もいいけれど、五輪後も含めた東京のグランドデザイン、首都百年の計を語るぐらいの人でないとね。

さて、都知事はいったい誰になるのか。もし都民が「脱原発」を選択したら、そのインパクトは計り知れないだろう。恐らく道路公団民営化の攻防以上に、原子力ムラの徹底抗戦を受けるに違いない。今回の都知事選で残念なのは、候補者に若い人がいないことである。皆とうの昔にリタイヤされたおじいちゃんばかり。良くも悪くも「脱原発」といった世の中の政治を変えようとするウェーブが若者から全く出てこない(科学の世界では若いスーパー博士が登場したけれど)。だから都知事選も今ひとつ盛り上がりに欠ける。原発問題よりも何よりも、この状況こそが一番この国の今そこにある危機なのかもしれない。

[参考・引用]
[1]直言~生命だけは平等だ~、能宗克行、2009年7月6日、徳洲会グループホームページ、
http://www.tokushukai.or.jp/media/chokugen679.html
[2]「徳洲会=旧自由連合」スキャンダルの背景にある「徳田ファミリーvs“すべてを知る男”」の血みどろの戦い、伊藤博敏、ニュースの深層、現代ビジネス、2013年2月14日、
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34862
[3]首相「原発、やめるわけにいかぬ」再稼働に意欲、読売新聞、2014年1月28日、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140128-00000944-yom-pol
[4]秘密保護法しょうがない・慰安婦どこもあった NHK新会長 問題発言、東京新聞、2014年1月26日、
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014012602000107.html
[5]保守派の私が原発に反対してきた理由、中島岳史の希望は、商店街!、マガジン9、
http://www.magazine9.jp/hacham/110330/
[6]「原発即ゼロ」なら五輪返上しかない…森元首相、読売新聞、2014年1月18日、
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/politics/20140118-OYT1T00775.htm
[7]各国のエネルギー開発予算、よくわかる原子力、原子力教育を考える会、
http://www.nuketext.org/mondaiten_yosan.html
[8]ミドリムシで、空を飛ぶ。euglenaホームページ、
http://www.euglena.jp/solution/energy.html
[9]トヨタがFCV量産へキックオフ。大きな不安は「人の問題」、桃田健史、環境ビジネスオンライン、2013年11月11日、
http://www.kankyo-business.jp/column/006197.php
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[ 2014/01/30 22:56 ] bookshelves/本棚 | TB(0) | CM(0)

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