くるま あらいます

黄砂の影響なのか、最近はクルマが汚れるのがやたらと早い。ところが私は元来無精者で、洗車をほとんどしないと来ている。いつも汚い状態のエクストレイル君はへそを曲げているかもしれないが、そういう私も年末年始にはさすがに洗車を行う。年末に行きつけのガソリンスタンドに洗車しに行ったのだが案の定1時間半待ちと言われて断念した。正月三が日も過ぎればさすがに大丈夫だろうということで、息子とクルマを洗いに出かけた。私も子供の頃はよく洗車を手伝わされたが、洗車は親子のコミュニケーションには良い機会だ。本日紹介する絵本は、クルマでお出かけ中の親子が急に洗車場に行かなければならなくなったお話。洗車機洗いでこんなにもイマジネーションを膨らませられるのかと感心した「くるま あらいます」(文:サンドラ・スティーン&スーザン・スティーン、絵:G.ブライアン・カラス、訳:石津ちひろ、BL出版)は、原題が“CAR WASH”(文:Sandra Steen&Susan Steen、絵:G.Braian Karas、Putnam Juvenile)というアメリカの絵本である。

私が子供の頃に手伝わされたのは、洗剤をつけたブラシでホイール(キャップ)をゴシゴシ洗うこと。ワックスがけもやらされたなあ。昔は自宅前での洗車が割と当たり前だった。自分のクルマを持つようになって、手洗いの洗車も若い頃はよくやったものだが、腰を悪くしてから自分でクルマを洗うことはなくなった。そもそも環境問題への関心が高まった昨今では、たとえ無リン洗剤であっても周囲に汚染水を出してしまう自宅での洗車は気が引ける。水洗いのみでも、クルマを洗う以上多少なりとも汚水に油分は含まれてしまうし。やはりきちんと設備の整った場所で洗車を行うのが今の時代は間違いない。

Myエクストレイル洗車中
Myエクストレイル洗車中

ちょっと前まではコイン洗車場を使う手もあったが、最近はセルフの洗車施設がめっきり姿を消してしまった。遊休地の有効利用の一つが洗車場経営だったのかもしれないが、一度洗車場にしてしまうと水質汚濁防止法特定施設に指定され、いろいろ面倒な届出が必要になる上、汚水処理施設の設置のため費用もかさむだろう[1]。つまり土地所有者にとってはあまりおいしい運用方法ではないということだ。やはり洗車場は大手のガスステーションくらいしか採算がとれないのだと思う。私も専らスタンドの自動洗車機を利用している。

くるま あらいます その1
「くるま あらいます」より

さて、この絵本はアメリカのお話。パパは、二人の子供に「お昼ごはん、食べに行こう」と誘って、彼らはくるまでお昼を食べに出かける(ランチといっても所詮ハンバーガーの類です、きっと)。途中、突然目の前に大きな水たまりが現れて、バシャ、バシャーン!くるまは泥だらけになってしまった。そこで急遽目的地を変更して、洗車場へ行くことになった。

窓を閉めて、エンジンを切ったらトンネルの中へ。天井の窓を閉めたら潜水艦になってしまった。なんだか海の底へ潜っていくみたい。窓から見えるのは泡だらけの海と緑のサンゴ礁。「あれ何なの?」外では巨大なタコの足がくるまを洗っている。すると今度は大きなモンスターの手のひらが出てきた。子供たちはキャーッ、きたーっ!

くるま あらいます その2
①まず水と泡で洗浄(「くるま あらいます」より)

くるま あらいます その3
②次はタコの足のようなブラシで洗います(「くるま あらいます」より)

くるま あらいます その4
③モンスターの手のひらのような高圧スプレーで泡を洗い流し(「くるま あらいます」より)

くるま あらいます その5
④海藻のようなモップで磨く(「くるま あらいます」より)

突然すごい嵐になったと思ったら、次は大きな波がやって来る。スーッ!やっと静かになって窓の外では水滴のダンス。次にブォーッ!ブォーッ!と大きな口が息を吐く。最後にぽたぽた雫を拭き取ったら、くるまはぴっかぴか。

くるま あらいます その6
⑤再び水の嵐と(「くるま あらいます」より)

くるま あらいます その7
⑦大波で洗い流したら(「くるま あらいます」より)

私も小さい頃、父が洗車場に連れて行ってくれたときはくるまに乗ったまま洗車機の中へ。まさにこの絵本のような楽しい光景を車室内から見ていた記憶がある。でも、洗車機の中を海の底と想像することはなかった。ブラシをタコの足や海藻に、高圧水のスプレーをモンスターの手のひらに喩える作者のイマジネーションはお見事。水滴を吹き飛ばす送風ノズルも確かに大きなモンスターかエイリアンが息吐く姿だね。

くるま あらいます その8
⑧大きな口から出るエアブローで水を吹き飛ばす(「くるま あらいます」より)
実際の送風プロセス
実際の送風プロセス

以前、本書のように子供たちに車の中から洗車を楽ませようと乗ったまま洗車機にかけてもらおうとしたら、降りて下さいと言われてしまった。何かトラブルがあっては困るとリスク対応なのだろう、今は乗車したまま洗車はさせてくれないようである。今回も外から洗車の様子を伺ったが、息子も面白そうに見ていた。でも外から眺めただけじゃ、こんなユニークな想像力は働かないね。


アメリカン"Car Wash"のプロセス[4]

絵本を読んでいて気づくのは、アメリカの洗車事情は日本と多少異なるということ。日本のようにガソリンスタンドの付属施設として洗車機が設置されていることは少なく、本書のタイトルのように”Car Wash”と呼ばれる洗車専門店がアメリカでは主流である[2]。自動洗車機の種類には大きく2つある。一つはトンネル式。車がベルトコンベアに乗って動き、各洗車プロセスを通過しながら長いトンネルの中を進むというもの。本書に登場する洗車機はこのタイプ。土地が広いアメリカならではのスタイルである。もう一つは車固定式。車を止めたら、機械(洗車機)の方が動いて洗車の全プロセスを順番に行ってくれる。先日エクストレイル君を洗って来た、日本のスタンドで最もポピュラーな洗車機はこのタイプである[3]。モータリゼーション大国のアメリカでは、洗車機“市場“は巨大である。「全米オートアフターショー」と呼ばれる自動車のアフターマーケットに関するイベントがあるそうで、「全米・洗車機のためのショー」と言ってもよいくらい様々な洗車機が見られるのだそうだ[4]。こういう絵本が生まれる土壌が十分にある訳だ。

Sandra Steen&Susan Steen
Sandra Steen&Susan Steen[5]

作者のサンドラ・スティーン&スーザン・スティーンはふたごの姉妹で、教師、図書館員、そして作家である。二人で子ども向けにたくさんの本を作っている。ニュージャージー州に在住。彼らの翻訳本は本書以外出ていないが、他の共著に“Historic St. Augustine”、“Colonial Williamsburg”、“Independence Hal” (Dillon Pr)などがある。

George Brian Karas
George Brian Karas[6]

作画のG.ブライアン・カラス(George Brian Karas)は1957年、コネチカット州ミルフォード(Milford)生まれ。数多くの子供向けの本を描いてきたイラストレーターで、翻訳本では本書以外に『うみ』『はがぬけたらそうするの』(フレーベル館)、『むしゃ!むしゃ!むしゃ!』(BL出版)、『ちきゅう』(偕成社)など、未翻訳本ではゴールデン・カイト賞受賞(1996)の”Saving Sweetness”(G.P. Putnam's Sons)やボストングローブ・ホーンブック賞受賞(1997)の“Home on the Bayou”(Simon & Schuster Children's Publishing)などがある。ニューヨークタイムズ誌は彼の作品を「洗練された絵であることを偽って、まるで子供のようなタッチで描く。しかしその巧妙さは見事で心動かされるのである。」と評する。彼の表現方法は多彩で、本書でも布やボタンなどを使ったコラージュでタコや海藻、いや洗車ブラシやモップを表現している。現在は家族とともにニューヨーク在住。本書によれば、彼はこの本の取材をとても楽しんだという。なぜなら、子供の頃は私と一緒で、くるまを磨くのが彼の役目だったからだ[6][7]。

石津ちひろ
石津ちひろ[8]

訳者の石津ちひろさんは1953年、愛媛県生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒業。3年間のフランス滞在を経て、絵本作家、翻訳家に。作品に『なぞなぞのたび』(フレーベル館)でボローニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』(講談社)で日本絵本賞、詩集『あしたのあたしはあたらしいあたし』(理論社)で三越左千夫少年詩賞を受賞。『くだものだもの』(福音館書店)、『しりとりあいうえお』(偕成社)、訳書に「リサとガスパール」シリーズ(ブロンズ新社)ほか多数[8]。

きれいになったMyエクストレイル
キレイになったMyエクストレイル

洗車を終えて自宅マンションに戻って来たら最後の仕上げを。中を掃除機かけして、ゴミ箱のゴミを撤収。窓ガラスに”ガラコ”を塗って、撥水対策もバッチリ。久しぶりに気持ちの良いエクストレイル君になった。

[参考・引用]
[1]水質汚濁防止法(特定施設)に関する手続、神奈川県ホームページ、
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7569/p28052.html#kijun
[2]アメリカで洗車、アメリカでがんばりましょう、2005年4月18日、
http://amegan.com/blog/mtarchives/002999.html
[3]洗車:全自動洗車機、US万次郎:アメリカ暮らし・生活まめ知識、2009年8月26日、
http://usmanjiro.blog72.fc2.com/blog-entry-34.html
[4]アメリカ洗車事情、KeePre.TIMES、Vol.44、2005年5月31日、sensya.com、
http://www.keepercoating.jp/corp/keepertimes/vol44/201_1.html
[5]SteenSisters、
http://steensisters.com/
[6]g Brian Karas、
http://www.gbriankaras.com/index.html
[7]文学賞受賞作リスト、やまねこ翻訳クラブ 資料室、
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/index.htm
[8]絵本作家・石津ちひろさん、ミーテカフェインタビューVol.51、mi:te[ミーテ]、2010年3月16日、
http://mi-te.jp/contents/cafe/1-1-705/
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