古本と横須賀

港文堂書店

このブログのテーマである絵本とクルマというのは、基本的にあまり親和性のないジャンルだと考えている。明確な根拠はないが、恐らく絵本に興味のある人はクルマに興味はなく、クルマに興味のある方は、絵本などほとんど興味を持たれないだろう。数あるブログのテーマに対する読者の嗜好を主成分分析にかければ、多分「絵本」と「クルマ」は直交する無相関を持つと思う。難義なブログを立ち上げてしまったと思う。

もう一つ私の好きな「古本屋」。蒐集したクルマ絵本の多くも古書店で見つけた。この古本屋とクルマの趣味に相関がないことはロジカルに説明できる。B/Oといったチェーン店でもない限り、一般的に古本屋に駐車場はない。基本古本屋めぐりは歩きである。神田のような大古書店街を徒歩で梯子するか、クルマでは入りにくい商店街や住宅地の狭い路地を散策し、お目当てのお店を見つける。もちろんクルマ本を扱う東京青山の「ロンバルディ」とか愛知県の「高原書店」といった有名な古書店もない訳ではない。鉄道マニアの乗り鉄、撮り鉄のように、乗り車(シャ)だけでなく読み車といったジャンルもあるのかもしれない。ただ多くの自動車趣味の人には、クルマを使わず、ひたすら歩いて古書探しなんてあり得ないはずだ。でも私はこの両方がとても好きである。クルマ(のりもの)絵本の古本屋、もしくは児童図書館の店主、館長になることを夢見たりすることもある。ミニカーなんか並べて。こんな相反するテーマを持つブログを管理していて、立ち寄っていただいた方はどういう興味でこのブログにアクセスし、どういう感想を持って去っていくのだろうと日頃思うことがある。絵本に興味を持ったとか、クルマに興味を持ったとか、思わぬ情報に出会えたと少しでも思っていただければ幸いである。それこそ、偶然の本との出会いが醍醐味の古本屋散策に通じるからである。さて本日のお題はその古本屋。横須賀のとある書店を紹介したい。


横須賀は決して古本屋の多い土地ではないが、古本屋の伝説は多い。古本好きの方にとって知らぬ人はいないであろう古本屋巡りのサイト「古本屋ツアー・イン・ジャパン」(※)の管理人、小山力也氏も個性店として一押しの「堀川書店」。100円もあれば本が何冊か買えた。この書店については当ブログでも紹介したが、昨年惜しまれつつ閉店となった。その彼が古本屋のベストテンと紹介する中に横須賀の古本屋がある[1]。それが本日紹介する「港文堂書店」。小山氏は幼少時横須賀に暮らしておられたので、郷愁というバイアスも含まれているかもしれないが、なにせ彼がこれまでに訪れた古書店は約千軒以上、のべにして二千軒を見てきた中での評価だ。私も最初この店を訪れた時は強烈なインパクトを受けた。

(※)小山力也氏もついに「古本屋ツアー・イン・ジャパン」の書籍を上梓された。これまで訪れた1,550軒から厳選された150軒をピックアップ。もちろん港文堂書店も。

古本屋ツアー・イン・ジャパン

人によっては本の好みも違うだろうから、置いている本の趣味性とか、蔵書の稀少度合、掘り出し物発見率なんて評価軸もあるかもしれない。あるいは棚が見やすいとかセンスの良いディスプレイの仕方とか、オシャレな感覚を店の評価として重要視する場合もあるだろう。東急東横線や中央線沿線とかに多い新しい古本屋さんのイメージ。こちらは泣く子も黙る京急ディープ沿線である。「県立大学」で下車をし5分ほど歩くと、そんなイメージを抱いて行ってはいけないその古本屋はある。

港文堂書店門構え

この港文堂書店、門構えからしておしゃれとは無縁である。建付けの悪い開き戸を開けると、ぷーんと古本屋独特のカビ臭が鼻をつく。其処ここに書籍が平積みされているので棚も見やすくないし、本を避けながら爪先立ちで奥の方へ進むと、そこにも埃だらけの本の山。今大地震が起これば確実に圧死する。いわゆる昔ながらの古本屋。見つけた本は手で埃を叩いてから帳場へ持っていくのが基本の店である。鎌倉の「公文堂書店」とか横浜野毛の「天保堂苅部書店」に近い雰囲気。でもあの先に、あの本の下に、あの無造作に置かれた段ボールの中に新種・亜種の何かがあるかもしれないという秘境感覚はピカ一だ。これらの棚の整理と掃除を無償でしてあげたい気にもなるが、いやいやこの何が出てくるかわからないジャングル状態がいいのだ。無形文化遺産級のパノラマ、小山氏をも虜にする所以だろう。

私は毎回、主に児童書とクルマ関係、理工書籍を物色する。それほど棚の中身は動かないが、行く度に新しい発見がある。ジャンルの偏りは少ないように思う。蔵書量は店のスペースにしてはかなり多い。行くと必ず威勢のよい、この秘境を知り尽くした女主人と常連の客との本の話や世間話で会話がはずんでいる。地域のコミュニケーションスペースとしても機能している。小さなドアで隔たれた店の奥は、どうやら先代が蒐集した本がかなり眠っているようなのだ。

さて年の瀬も押し迫った28日、前出小山さんにも促されて、今年最後の古本屋納めにと港文堂へ。相変わらず元気な女主人が常連と話し込んでいる。まず右奥の児童書の置いてあるスペースへ。棚の変化はないようだが、平積みされたものには目新しいものもある。Uターンして帳場の方へ棚を舐めまわすように見ていく。帳場前で常連と話の終わった女主人に声をかける。クルマの絵本・児童書を蒐集していることを話し、いくつか探し物の本がないか尋ねてみた。あのジャングルの中に眠っているかもしれないと思って。残念ながらこれらの本はなかったが、書名をメモして気に留めておくねとおっしゃってくれた。その後はいつもの威勢の良い調子で彼女としばし話し込む。

港文堂は先々代、彼女のおばあ様が昭和5、6年頃に始められたのだそうだ。横須賀では恐らく最古参の古本屋である。その後、お父様が継いだのだが還暦前に亡くなられ、今は彼女がやりくりしている。お父様の代には、右と左が店舗の中で喧々諤々のこともしょっちゅう。古き良き時代の話だ。娘さんは継ぐ気はないそうで、「私の代で最後かな」とおっしゃっていた。場末の横須賀で古書店を続けるにはやはり地の不利がある。「ここ(横須賀)は何の商売やるにも厳しいね」とポツリ。こればかりは、第三者は何とも言えないので、とにかく頑張って長く続けていただきたいが、予想通り店舗以外にも母屋の押入れ、階段には本が山積み状態なのだそうだ。いつかガサ入れしたい。「古本屋ツアー・イン・ジャパン」調に、ちくま学芸文庫『ゆかいな理科年表』とEICHI MOOK本『絶版車カタログ1945-1999スーパーカー編』を購入。

Scientia est potentia
Scientia est potentia

外に出て店先を撮影させてもらう。看板には謎の“Scientia est potentia”の文字が。ラテン語で「知識は力なり」。フランシス・ベーコンの格言だ。先代がこの文字を掲げたのだそうだ。古本屋は知識の宝庫なり。故に古本屋は力なり。古本屋ツアー・イン・ジャパンの詳細な紹介文の足元にも及ばないが、Deepな古本屋好きの方、行きたくなったでしょ。先々代の介護も必要なので、開店は基本午後から。古本屋散策好きの方も伝説の古本屋を開業されたい方も、是非横須賀へおいでやす。

2013年末の横須賀
年末の横須賀中心街

[参考・引用]
[1]ご来場ありがとうございました!(第50回西荻ブックマーク「『古本屋ツアー・イン・ジャパン』がやって来る!」)、西荻ブックマーク、
http://nishiogi-bookmark.org/2011/nbm50report/
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[ 2013/12/28 20:54 ] Yokosuka/横須賀 | TB(0) | CM(10)

初めてコメントいたします。先週、約20年ぶりに、このお店に行きました。若いころ、安浦町に住んでいたので、毎日のようにこちらにお邪魔していました。
[ 2014/10/08 02:09 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

マチカネワニさん
コメントありがとうございます。
おかみは元気でしたか?
最近顔を出していないので、また行きたくなりました。

[ 2014/10/08 19:09 ] [ 編集 ]

ワタシが、安浦町に住んでいたのは、25,6年前です。その頃は、今年の2月に亡くなられた、今の女主人(と言ったら失礼か。ワタシは、●○さんと、名前で呼ばせて頂いているので)の母上が店を切り盛りされていました。ワタシも常連客のひとりとして、帳場で、他のお客とさまざまな議論をしていました。本のこと以外でも、プライベートなことでも、お世話になりました。帳場でおかみさんに、ワタシの名前を出すと、「知り合いですか?」と言われるでしょう。
それにしても、あのお店の中は、古書好きにとっては、まさしく「宝の山」ですね。近くに住んでいたら、毎日出かけるのですが、今は大阪に住んでいるので、そうもいきません。
[ 2014/10/15 22:21 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

マチカネワニさん
これはこれは大先輩。あの場で議論されていた常連の方だったとは。
偶然にも今夕、店へ寄ってきたばかりです。
おかみ、元気と言いたいところですが、
飼っている猫ちゃんの具合が悪いようで、なんだか辛そうでした。
でも話をされるときの笑顔はいつも通り。
今日も「要塞の歴史と生活」というフランスの翻訳絵本を購入しました。
あるんですね、こんなテーマの絵本が!
それこそ25、6年前の絵本です。
このような渋めの本がポロッと置いているものですからつい足が向いてしまいます。
マチカネワニさんという名前でおかみはわかるのでしょうか?
今度聞いてみます!
大阪はどちらですか?私は緑地公園に3年ほど住んでおりました。
天牛書店という古書店によく通いました。
大阪大好きです。横須賀も変な人多くて似ています。
[ 2014/10/15 23:18 ] [ 編集 ]

マチカネワニというHNは、ワタシが豊中市に住んでいた頃(南桜塚。現在は、藤井寺市)から、使っていますから、港文堂では、通じないです。本名なら通じます。
大阪では、天牛書店は老舗ですね。最近、天神橋筋に、天牛書店がお店を出されました。ここも、宝の山のような古書店です。ただ、港文堂と比べると、さすがにきれいに整理されたお店です。
先日、20年ぶりに顔を出すと、「年賀状が戻ってきたから、どうしてたかと思っていた」と言われてしまいました。
「10月初めに来た、大阪のハナミツ」と言えば、通じると思います。
[ 2014/10/16 01:00 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

マチカネワニさん、ありがとうございました。
大阪また行きたいなあ。京都にも神戸にも。
北新地にオフィスがあったので阪急古書のまちにもよく行きました。
飲んだくれの毎日でしたね。
港文堂には今度聞いてみます。
明日、会社の帰りに寄ろうかな。
[ 2014/10/16 21:13 ] [ 編集 ]

月末、慌ただしかったので、自分のブログを放置したままでした。コメントを頂いていたのを、つい今しがた気がついたところです。ワタシの武勇伝ですか?そういうものがあったのかどうか覚えていませんが。。。。笑。
[ 2014/11/02 00:32 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

時は経っても港文堂は地域のサロンとして機能しています。
いつでも誰かが店主と話し込んでいる。いまどき珍しい空間です。
[ 2014/11/03 22:20 ] [ 編集 ]

こんにちは。
老舗の古書店はいいですね。自分もあの空間とそこに漂う匂いが大好きです。
他にも図書室、図書館、新刊書店など本がたくさんある場所は、子どもの頃からどことなく居心地の良い異空間のように感じていました。
あるときには理想郷となり、そうかと思えば秘境や迷宮でもあり、気分次第で深海を行く潜水艦や光速の宇宙船にタイムマシン、そして竜宮城にもなる空間。
そう、本に囲まれていると、浦島太郎のようにどうも時間の流れが遅くなるようです。
自分では三十分ほどのつもりが、ふと気がつくと二時間も経っている。そんな浦島効果みたいな経験をお持ちの方は少なくないのかもしれません。
その空間で手に入れた本が玉手箱なわけではありませんが、自分の髪の毛は若い頃から白髪が目立ち、今では写真を撮るとほぼ真っ白です。(白いのは髪だけではありませんが…)
[ 2014/11/05 12:20 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

びょうせいさん
いつもありがとうございます。
確かに古書店のあの匂いがたまりません。
クルマでいうとオイルの匂いみたいなものですかね。
その本屋もクラウドが書架になり、クルマもモーターと回路になりつつあります。
時代の変化といえばそれまでですが、おじさんには何とも言えない切なさがありますね。
[ 2014/11/06 21:43 ] [ 編集 ]

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