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おとうとのビー玉―身近な人を交通事故で失ったとき  

おとうとのビー玉

今日取り上げるクルマ絵本は、不幸にも身近な人を交通事故で亡くしたときの心のケアを考える「おとうとのビー玉―身近な人を交通事故で失ったとき」(クリスティーヌ・ディールティエンス、ペーテル・アドリャーンセンス・文、サンネ・テ・ロー・絵、野坂悦子、林由紀・訳、大月書店心をケアする絵本4)という絵本である。原題は“Knikkers op de weg”(Kristien Dieltiens、Peter Adriaenssens、Sanne te Loo、Clavis Uitgeverij Amsterdam-Hasselt)、ベルギーの絵本だ。多くの人にとって1年で一番の家族団欒の日であろう今日のこの日は、事故で身内を失った人にとってはその家族が平和だった日々を思い出す、辛い日であるかもしれない。こういう日であるからこそ、クルマの安全について家族と話し合い、交通被害の痛みや苦しみを自分自身の問題として考えてみる、1年無事に過ごせたことを感謝する日にされてみてはどうだろうか。

昨年度の交通事故死者数は4,411名で12年連続減少している[1]。今年度の交通事故死者数は11月末時点で3,883名の前年比0.7%減[2]だから、このままの推移で行けば13年連続で減少ということになるだろう。それでも毎年4千名前後の尊い命が自動車によって奪われている。これが世界規模となると、2010年のWHO世界保健機構の統計でなんと124万人。2020年には190万人に達する恐れがあるという。日本のように88ヶ国で死亡事故が減少している一方、87ヶ国で増加しているからなのだそうだ[3]。第2次世界大戦での犠牲者数については様々な統計データがあるが、全世界で4,000万人とも5,000万人ともいわれている。この数字も改めて聞くと恐ろしいものがあるが、上記の交通事故犠牲者数から推定するに、戦後70年間で恐らく世界大戦と同程度、あるいはそれ以上の人が交通事故の犠牲になっていると考えられる。「交通戦争」といわれる所以である。

11月に息子の描いたポスター画が横須賀市交通安全市民総ぐるみ運動推進大会で表彰されたと「こうつうルールをまもろう!ー交通安全のために」で書いたが、この記事をアップした11月17日(11月の第3日曜日)は、国連で制定された『世界道路交通犠牲者の日』であったことを最近知った。この国際記念日については、「脱スピード社会」(小栗幸夫・著)という本を改めて読み直していて気づいたのだ。クルマをテーマとするブログを立ち上げながら、お恥ずかしい限りである。推進大会も恐らくこの日に合わせて設定されていたのだろうが、特に「犠牲者の日」については言及がなかった。公の機関はなぜもっと積極的に広報活動をしないのだろうかと思う。

『世界道路交通犠牲者の日』は、イギリスのNGO団体が1993年から実施していた活動が欧州を中心に広がり、世界保健機関が共同提唱する形で国際的な取組となった。交通犯罪被害者の救済及び、交通犯罪予防のための取組の重要性を啓発するための国際デーとして、2005年10月26日の国連総会決議で毎年11月の第三日曜日と定められた[4]。『世界道路交通犠牲者の日』は一つのイベントに過ぎないが、交通事故によって愛する人を亡くすというトラウマは決して消えて無くならない。被害者の心のケアは常に重要なのである。

おとうとのビー玉 その1

下校時間になっても、なかなか学校から出てこない弟ワルチェを待つ兄エリアス。この絵本の主人公である。このままでは放課後の音楽教室に遅れてしまうと焦るエリアス。ようやく、ワルチェが運動場を走ってきた。息を切らしながら「エリアスにいちゃん!ぼく、ビー玉あそびでチャンピオンになったの。ほら見て!」と叫んだ。ヨーロッパのビー玉って、日本と違ってずいぶん大きいことが妙に印象的だ。

さあ急がないと、と彼らは大またで歩き始めた。近所に住むエリアスと同い年のネナも「待ってよ!」と追いかけてきた。ワルチェは紺色の大きなビー玉を取り出すと、「世界一の宇宙玉だよ。」と得意気に話し始めた。教会の時計をみると教室の時間に間に合わない。エリアスが「誰が一番先に…」と言うが早いかワルチェはもう駆け出してしまった。エリアスは「信号まで行けるかな?」と言うつもりだった。

おとうとのビー玉 その2

時々後ろを振り返りながら、ワルチェは次第に遠く小さくなっていく。弟は交差点の近くで手を振った。「ワルチェ、信号のところで待つんだ!」いつもかあさんが言っていることを大声で伝えた。ワルチェの目には、エリアスが大きく手を振りながら、何かを叫んでいるのが見えた。何を言っているのかわからなかったが、「僕が一番先に、向こうに渡るよ!」と叫び返した。全ては、そのすぐ後に起こった。キーッと、車が急ブレーキをかける音。女の人の悲鳴。そしてドンッと、いなや音。

救急車が弟を運び去った後、道には血の跡と、辺り一面に散らばったビー玉が残った。そこに立ちすくむエリアス。

おとうとのビー玉 その3

この後は読むのが辛い絵本である。フィクションの世界だとわかっていても、同じような経験をした幾千万という実際の被害者の情景が思い浮かんでくる。また、身内の事故を目撃することがどれほど心に深い傷を負わせることか。雨の中、事故現場に戻ってワルチェのお気に入りの宇宙玉を見つけた時、弟が必ず助かると信じるエリアス。自分のせいで弟を事故に会わせたと後悔の念に駆られるエリアスにとって、この宇宙玉が一縷の望みなのである。しかしその願いも空しく…。

おとうとのビー玉 その4

私はこの兄弟の両親が、ワルチェを失った直後にも関わらず、冷静にエリアスの心の傷を深い愛情で包み込む精神力の強さに心を打たれた。自分が同じ立場だったら、果たしてどれだけ冷静でいられるだろうか。自動車側の一方的な過失であれば、残った家族のケアまで気を回す余裕もなく、怒りで自分すらコントロールできなくなりそうだ。本書を読むと、タレント・風見しんごさんのことを思い出す。2007年1月、彼も交通事故で当時小学校5年生の愛娘えみるちゃんを亡くされている。風見さんは私と同い年で、私の娘も当時小学生。とても他人事には思えなかった。加害者の信号無視による事故ということを考えれば、彼や奥様の怒りと悲しみがどれほど堪え難いものだったかと思う。その後も、交通被害者を無くすため、講演やイベントなど啓蒙活動に積極的に参加されておられる。あれから6年、少しは心の傷が癒されたであろうか。

Kristien Dieltiens
Kristien Dieltiens

作者のクリスティーヌ・ディールティエンス(Kristien Dieltiens)氏は、1954年にベルギーのアントワープに生まれ、芸術と教育を学ぶ。5人の子どもの母親。本を書くということは、長年の努力と没頭、調査、会話や経験の賜物だと考えている。初めてのヤングアダルト(YA)小説『オルラック』はドイツでも出版され、2002年にフランダース地方の子ども・YA審査団に評価された。

Peter Adriaenssen
Peter Adriaenssen

もう一人の作者、ペーテル・アドリャーンセンス(Peter Adriaenssen)氏は、同じくベルギーの学術都市、ルーヴェン在住の著名な児童心理学者。子どもの養育者にむけて、数々の古典的名著を残している。本書の巻末にも保護者、先生、カウンセラーのみなさんへと題して、彼の解説が付記されている。実際の被害に会われた関係者には非常に参考になる情報だと思う。印象的だったのは、「子供たちに心配をかけまいとする」のは良くないと指摘している点。本当のことを話す、本当の自分を曝け出すことの重要性。周囲の大人も自分の気持ちを素直に話す、悲しみをありのままに見せる。そうすれば、子供も自分自身でいられると説く。そして亡くなった人の思い出を大切にすること、思い出し続けることが大切だと。

♪そう今は痛みを知るためにどうか好きなだけ泣いてください
何かに耐えて笑うより何もかも全て忘れて
泣くときも必要なんだ そして元気が出たなら歌いましょう♪
風味堂の「ナキムシのうた」という曲がふと頭に浮かんだ。



Sanne te Loo
Sanne te Loo[6]

作画のサンネ・テ・ロー(Sanne te Loo)氏は1972年、オランダ南西部のワディンクスフェーンに生まれ、現在はユトレヒト在住。1995年にブレダの美術アカデミーを卒業後、様々な雑誌、専門誌、児童書のイラストを手がけている。何か悲しげな雰囲気のある絵のタッチが、本書のテーマに見事にマッチしている。この本を読んで涙腺が緩んだという娘は、辛くて表紙をもう見られないと言っていた。

野坂悦子
野坂悦子[7]

訳者の野坂悦子氏は1959年東京に生まれる。オランダ語を中心に海外の絵本や子どもの本を積極的に翻訳している。2002年、『おじいちゃんわすれないよ』で産経児童出版文化賞大賞を受賞[5]。紙芝居文化の会の海外企画推進委員としても活躍。林由紀氏は1967年生まれ。1992年より6年間オランダに住み、ライデン大学文学部(DutchStudies、オランダの歴史、文化、文学について学ぶ外国人向けコース)を卒業。2000年より3年間、在ベルギー日本大使館に専門調査員として勤務。現在は絵本の翻訳に携わる。

以前にも書いたが、私も幼少の頃、自分の急な飛び出しで交通被害に遭遇している。直前で倒れたことが幸いし、擦り傷だけで今ここに生きている。妻が高校生の頃、立ち話をしていた義母に自動車が突っ込んだ。重症を負ったが幸い一命は取り留めた。後年、一緒に被害に会った近所の奥様と母が同年同日に同じガンで亡くなったのは、何かの因縁だったのだろうか。このように交通被害は身近に存在する。交通事故は年々減少しているとはいえ、決して他人事ではないことを肝に銘じておきたい。もちろん加害者にならないような運転を心がけるのは言うまでもない。加害者の家族もまた被害者となるのである。

おとうとのビー玉 その5

[参考・引用]
[1]【図解・社会】交通事故死者数の推移(最新)、時事ドットコム、
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_tyosa-jikokoutsu
[2]交通事故統計(平成25年11月末)、総務省統計局、
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001116229
[3]世界の交通事故死124万人 WHO、10年統計、日本経済新聞、2013年3月14日、
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM14087_U3A310C1FF2000/
[4]世界道路交通犠牲者の日、
http://higaisha-no-koe.com/world/world.htm
[5]野坂悦子、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%9D%82%E6%82%A6%E5%AD%90
[6]Sanne te Loo、LeesFeest、
http://leesfeest.nl/node/488
[7]新しい道具? 紙じゃなきゃ?「電子絵本」肯定派vs懐疑派、産経新聞、2013年2月1日、
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/626798/

おとうとのビー玉―身近な人を交通事故で失ったとき (心をケアする絵本)おとうとのビー玉―身近な人を交通事故で失ったとき (心をケアする絵本)
(2008/01)
クリスティヌ ディールティエンス、ペーテル アドリァーンセンス 他

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Posted on 2013/12/25 Wed. 00:01 [edit]

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