じどうしゃのおうさま

未来の英国国王が誕生されて10日ほどが過ぎた。私と同じ蟹座生まれ(それがどーした)。世界中のメディアがこのめでたい瞬間を報道しようと大騒ぎだったが、個人的には、キャサリン妃がご出産された超高級病院前に横付けされた超高級車の数々、退院時にウィリアム王子自らがベビーシートを取り付けて運転されたレンジローバーの方が気になった。カジュアルな服装に身を纏ったキャサリン妃が、報道陣の目の前でごく普通に将来の国王を抱っこし、ウィリアム王子がごく普通に赤ちゃんをクルマに乗せて公道を運転するなど、日本の皇室との違いに驚愕。そんな特別なVIPが乗られる高級車、“世界8か国最高級車の特集”としてまとめられた「じどうしゃのおうさま」(監修:波多野勤子、指導:佐々木敦朗、絵:川上恭弘、野口佐武郎、細川武志、小谷智明、白井正樹、小学館保育絵本)を紹介する。

じどうしゃのおうさま その1
トヨタ・センチュリーVG型(上)と日産・プレジデント150型(下)(「じどうしゃのおうさま」より)

1972年発行の古い絵本なので、取り上げられたクルマたちはそれなりにオールドカーである。日本代表はトヨタ・センチュリーと日産・プレジデント。天皇の御料車は「ザ・ロイヤル・カー」でも紹介したが、私が子供の頃の国産高級車といえばこの2台だった。戦後日本の自動車産業がようやく外国と肩を並べられるようになった時代のクルマ。レクサスとインフィニティの源流である。“じどうしゃのおうさま”といえば、やはりサイズとパワーは並外れている。本書で描かれているクルマたちをこれらのスペックで比較してみよう。1967年登場の初代センチュリーVG型リムジンは、全長5,770mm、全幅1,890mm、全高1,450mm、ホイールベース長3,510mmで、最大出力148hp(110kW)のV型8気筒3,994ccエンジンを搭載[1][2]。一方1965年登場の初代日産・プレジデント150型は、全長5,280mm(H150型)、全幅1,795 mm、全高1,460mm、ホイールベース長2,850mmで、最高出力178hp(132kW)、V型8気筒の3,988ccエンジンを搭載[3]。数字だけみれば、なかなか立派である。イラストは川上恭弘。先の「AAFオートモビル・アート連盟作品展」で彼の原画を見たばかり。

じどうしゃのおうさま その2
キャデラック・フリートウッド60スペシャル・ブローアム '71(「じどうしゃのおうさま」より)

米国代表はキャデラック・フリートウッド60スペシャル・ブローアム。アメリカ製の高級車の代名詞といえば、表紙に描かれたリンカーン・コンチネンタルかキャデラック(米国大統領専用車は“キャデラック・ワン”と呼ばれる)。キャデラックの中でも一番贅沢なモデルがこのフリートウッドである。さらにその特別仕様である60スペシャル・ブローアムセダン。本書に描かれているのは‘71年モデルで、全長5,812mm、全幅1,795mm、全高1,410 mm、ホイールベース長3,378mm。エンジンはV型8気筒の7.7Lと8.2Lの2種類。最高出力は380hp(283kW)[4][5][6]。丸目4灯の片側2灯の間に配置されたオペラライトが特徴的で、高級感をさらに演出する[5][6]。イラストは野口佐武郎。

じどうしゃのおうさま その3
メルセデス・ベンツ600プルマン・リムジン(「じどうしゃのおうさま」より)

旧西ドイツ代表はメルセデス・ベンツ600プルマン・リムジン。1963年登場のベンツ600にはショートホイールベース(3,200mm)の「リムジーネ」(全長5,540mm、全幅1,950mm、全高1,500mmの6座)、ロングホイールベース(3,900mm)の「プルマン」(全長6,240mm、全幅1,950mm、全高1,500mmの8座)、そしてプルマンベースでオープンパレード仕様の「ランドーレット」がある。V型8気筒の6,332ccW100エンジンは、最高出力247hp(184kW)。最高時速200km以上[7]。イラストは川上恭弘。

じどうしゃのおうさま その4
マセラティ・メキシコ・クーペ(「じどうしゃのおうさま」より)

イタリア代表は1966年パリモーターショーで発表されたマセラティ・メキシコ・クーペ。有名なカーデザイナー、ミケロッティによるデザインで、全長4,760mm、全幅1,730mm、全高1,350 mm、ホイールベース長2,640mm。イタリア製ってスポーツカーというイメージでリムジンの印象はあまりない。ただこのクルマも4.7L、最高出力290hp(216kW)のV型8気筒エンジンが放つ最高速度は時速250km[8]。やはり速さへのこだわりはイタリア流。職業運転手が運転するクルマではなく、王族や貴族が自らハンドルを握るクルマなのだろう。細川武志の手によるイラストはイタリアンレッドを背景に実に情熱的でセクシーだ。細川氏の作品も「AAFオートモビル・アート連盟作品展」で出品されていたが、この時は汽車を描いたものだった。

じどうしゃのおうさま その5
シトロエンDS21パラス(「じどうしゃのおうさま」より)

フランス代表はシトロエンDS21パラス(pallace)。いわゆるリムジンと言えば思い浮かぶボクシーで巨大なイメージとは明らかに一線を画すスタイリングのDS最上級モデル。後期型であるDS21は1967年に登場し(パラスは‘69年)、外観上は丸目2灯のDS19から4灯に変更。パラスは全長4,874mm、全幅1,803mm、全高1,470 mm、ホイールベース長3,125mmと意外に大きい。エンジンは2,175ccの直列4気筒で、最高出力は123hp(92kW)[9]。Pallaceは仏語辞書には載っていなくて、palace(宮殿)やpalais(豪華な)から来た造語なのだろう。映画「ジャッカルの日」でも黒塗りのDSが印象的だったが、DS21パラスは当時のフランス大統領専用車でもあった。イラストは小谷智明。

じどうしゃのおうさま その6
ジル114(「じどうしゃのおうさま」より)

ソビエト代表はジル114。旧ソ連のクルマは資料も少なく謎が多い。本書によればジルはソビエトの政府高官専用車。全長は7.8mで世界の高級車で最も長いと記されているが、[11]によれば、全長は6,305 mm、全幅2,068 mm、全高1,540 mm、ホイールベース長3,380 mmと確かにこれまで紹介した高級車に比べてみてもデカいが7mは超えていない。前モデル111から1970年にモデルチェンジした114のエンジンは、6,962 ccのV型8気筒で最大出力は303hp(226kW)[12]、こちらもモンスター級だ。スタイリングはアメリカの古いリムジンとそっくりで、何かとアメリカと張り合ってはパクっていた旧ソ連は、今の中国に似ている。イラストは川上恭弘。

じどうしゃのおうさま その7
紅旗CA72型(「じどうしゃのおうさま」より)

そして最後の謎多き超大国、中国からは紅旗。中国の自動車メーカー第一汽車の高級車ブランドである。挿絵は1959年に登場したCA72型。全長5,730mm、全幅2,010mm、全高1,670mm、ホイールベース長3,400mmのこれまた立派なものだ。紅旗というくらいだから、ボンネットには紅い旗のオーナメントが。フロントは丸目2灯と大きなグリルが特徴的で、初代トヨペット・クラウンのようだが、ジルと同様、全体的なスタイリングはアメ車の影響を強く受けている。それもそのはず、ベースは1955年型クライスラーで、エンジンは5.6LのV型8気筒、最高出力は217hp(162kW)[13][14]。後継車のCA770型は1972年にアメリカのニクソン大統領が訪中した際に使用されて有名になったとのこと[15]。イラストは細川武志。

じどうしゃのおうさま その8
ロールス-ロイス・ファンタム5(もしくは6)(「じどうしゃのおうさま」より)

最後に英国代表はロールス-ロイス・ファンタム(ファントム)5か6リムジン。絵本ではファンタム4と記されているが、ファンタムのヘッドライトが2灯から4灯に変わったのは1962年のファンタム5から。1968年にはエンジンを変更した6が登場し、1991年まで生産が続いた[16]。全長6,045mm、全幅2,007mm、全高1,750mm、ホイールベース長3,658mm。エンジンはV型8気筒の6,230cc(ファンタム5)及び6,750cc(ファンタム6)。最高出力は未発表[17]。ロールス-ロイスはその性能ゆえ、単なるお金持ちではない世界各国の王室や大統領などVIP専用車に使われてきたため自動車の王様の中の王様といってよい。細川武志の描くイラストはその気品と威厳を見事に表現する。ちなみに現在の英国王室の御料車は、今やフォルクス・ワーゲングループ傘下となったベントレー・ステートリムジン。

じどうしゃのおうさま その9じどうしゃのおうさま その10
ポルシェ917(左)とダットサン1号車こと10型フェートン(右)(「じどうしゃのおうさま」より)

番外編で西ドイツからは、レーシング・カーの王様、水色とオレンジのGulfカラーが素敵なCカー、ポルシェ917も描かれる。917Kは映画「栄光のル・マン」でスティーブ・マックイーンが運転するレースカーのモデル。日本からはダットサン1号車。日産自動車が1931年(昭和6年)に発売したダットサン10型フェートンが正式名。初年度は10台が生産された。エンジン排気量は495ccで10hp(7.4kW)。上記に紹介した”じどうしゃのおうさま”たちに比べれば何と非力なことか。1932年には11型フェートンとなり約150台を生産。翌’33年にはエンジンも750ccに排気量アップ、’35年には横浜と大阪の工場で年間3,800台を生産する当時としては画期的な大量生産車となった[18]。そういう意味では、国内で初めての近代的な量産小型乗用車であり、日本における最初のじどうしゃのおうさまとも言える。イラストはいずれも白井正樹。

じどうしゃのおうさま その11
アルファロメオ・モントリオール(上)とジャガーEタイプ(下)(「じどうしゃのおうさま」より)

その他、表表紙にはT型フォードとリンカーン・コンチネンタル、裏表紙にはアルファロメオ・モントリオールとジャガーEタイプが描かれている。どの挿絵も写実的な表現で描かれているが、作者によってそれぞれの描写に個性が出ていて面白い。3~5歳が読者対象になっているが、子供たちにこれら世界の高級車はどのように見えるのだろう。一生乗れるか乗れないかの非日常的なクルマたちは、現実には存在しない想像上のクルマのように映るのかもしれない。

親子3ショット
大衆の面前でのごく自然な親子3ショット[19]

ベビーシートを運ぶウィリアム王子
自らベビーシートを抱えるウィリアムパパ[20]

ハンドルを握るウィリアム王子
自ら家族を乗せてレンジローバーを運転するウィリアム王子[21]

[参考文献・引用]
[1]トヨタ・センチュリー、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%BC
[2]トヨタ・センチュリーVG20型、トヨタ博物館、
http://www.toyota.co.jp/Museum/collections/list/data/0110_ToyotaCenturyModelVG20.html
[3]日産・プレジデント、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%88
[4]Cadillac Sixty Special、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Cadillac_Sixty_Special
[5]1971 CADILLAC、Fleetwood Sixty Special、
http://motorera.com/cadillac/cad1970/CAD71-60.htm
[6]1971 Cadillac Production Numbers/Specifications、AUTOMOBILE MILEPOST、
http://automotivemileposts.com/cadillac/prod1971cadi.html
[7]メルセデス・ベンツ W100、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%84_W100
[8]マセラティ・メキシコ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3
[9]1969 Citroen DS 21 Pallas、automobile-catalog.com、
http://www.automobile-catalog.com/car/1969/162770/citroen_ds_21_pallas_i_e_.html
[10]今年初のヒストリックカー、シトロエンDS21。、吉田匠、男は黙ってスポーツカー、車・自動車SNSみんカラ、
http://minkara.carview.co.jp/userid/378570/blog/28906921/
[11]ZIL-114、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/ZIL-114
[12]ZIL 114、Cars Database、
http://cars-database.com/zil-114.html
[13]Shanghai Car Museum: 1959 Hongqi CA72、The Tycho's CarNewsChine.com、
http://www.carnewschina.com/2012/12/05/shanghai-car-museum-1959-hongqi-ca72/
[14]Hongqi (marque)、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Hongqi_(marque)
[15]MiniCar|Century Dragon 第一汽車 紅旗(Hongqi) CA770、office North-Star業務雑記帳、2012年08月11日、
http://minkara.carview.co.jp/userid/241036/car/135750/3212690/photo.aspx
[16]イギリス王室御料車、VIP CAR VIPの車、ミニチュアカー ミュージアム、
http://minicarmuseum.com/vipcar/uk.html
[17]ロールスロイス ファントムV、HISTORIC CAR LIFE、ホビダスオート、
http://www.car-mag.jp/contents/historic/phantomv.html
[18]ダットサン11型フェートン、日本の自動車技術240選、日本自動車技術会ホームページ、
http://www.jsae.or.jp/autotech/data/1-5.html
[19]The royal baby: A bouncing bundle of international obsession、The Washington Post、2013年6月22日、
http://articles.washingtonpost.com/2013-07-22/lifestyle/40723131_1_royal-baby-brand-new-baby-boy-baby-s-arrival
[20]The Royal Baby Leaves the Hospital、ZIMBIO、
http://www.zimbio.com/pictures/xbctxjczak_/Royal+Baby+Leaves+Hospital+Part+2/pq2ELJxb_uO/Prince+William
[21]MSN産経フォト、2013年6月23日、
http://photo.sankei.jp.msn.com/essay/photo?gid=%7B7ABC5428-8FAC-417C-B46F-D063A0DC8F02%7D
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コメント

  1. 真鍋清 | -

    管理人様!
    シトロエンDS21パラスの「パラス」はPallasと表記され、ギリシャ神話に登場する勇猛な若者(男性)の名前です。
    シトロエン車のうち、フル装備を備えたグレードにはPallasの名が冠されることになっております。

    ( 03:14 )

  2. papayoyo | -

    御礼

    真鍋様!
    パラスはギリシャ神話からでしたか。不勉強でお恥ずかしい限りです。
    シトロエンのグレード設定も勉強になりました!

    ( 17:51 )

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