かっとび!ドラえもん 圧縮空気エンジンカー

数か月も前に購入した今回紹介する児童書、というよりは付録付き児童向け学習誌の類である。古~い御仁であれば、昔小学校で販売されていた学研の「科学と学習」を懐かしく思い出されるだろう。私も「科学」の付録が毎回楽しみだったが、その現代版「科学」ともいえるこちらはライバルの小学館、あの天下のドラえもんのキャラクターたちが狂言回しとなっている『ドラえもん ふしぎのサイエンス』シリーズの第6巻「かっとび!ドラえもん 圧縮空気エンジンカー」(監修:藤子・F・不二雄、漫画・イラスト:田中道明・三谷幸広・如月たくや、協力:トヨタ自動車、小学館)である。

自動車今昔・未来物語
しっかりトヨタの宣伝(「自動車今昔・未来物語」より)

漫画としてはあまりにも直球すぎる“ドラえもん”をクルマの絵本としてエントリーするには些か抵抗があった。クルマノエホンではコミックも対象とするが、あまりにもキャラクターが強すぎると主題であるクルマへの興味が薄れてしまうという懸念からだ。確かに学習絵本における狂言回しの役割は重要である。読者の代わりに本の内世界で学習者を演じることで読者の理解を助けてくれる。例えば以前紹介した“Petit Tom et le code de la route”のトムとヴェロニカの兄妹や、「フリズル先生のマジック・スクールバス」シリーズでのフリズル先生や生徒たちである。彼らは人気者ではあるが、絵本シリーズのために作られたキャラクターであって、世間一般に広く知れ渡った“スター”ではない。これらの役者は目立ち過ぎず、本の主題へうまく興味を誘導してくれる。ところがよくある手法として、学習絵本や教材にドラえもんやディズニーのような人気漫画のキャラクターを用いると、それ自体が興味の対象になってしまう。子供は喜ぶだろうし、売り上げは伸びるかもしれないが、やはり本来の役回りからすれば、狂言回しが目立ち過ぎてはいけないのだと思う。

連載当初のドラえもん
連載当初のドラえもん

と言いつつも、付録が大変興味深かったのでついつい購入してしまい、ここで取り上げることになった。私はドラえもんが嫌いな訳ではない。むしろドラえもん1期生だと自負している。「ドラえもん」の連載が始まったのは1969年。小学館の学年誌『よいこ』『幼稚園』『小学一年生』『小学二年生』『小学三年生』『小学四年生』で連載が開始された[1]。私は『小学一年生』の読者として初連載の「ドラえもん」を読んだときの記憶が今でも鮮烈に残っている。まさにドラえもんと共に育った世代と言ってもよい。

なんと1970年当時の「ドラえもん」がここ↓で読めます。今のドラえもんとずいぶん印象が違います。
http://blogs.yahoo.co.jp/samusongo/archive/2007/06/26



ドラえもんはクルマのCMにもたびたび登場している。古くは日産ラシーン、そして現在のトヨタの企業CM。まさかジャン・レノが実写版ドラえもんを演じるとは思わなかったが…。ドラえもんにイメージされる夢とか未来、新技術というキーワードは、自動車との親和性が高いのだろう。付属の学習誌の半分は「自動車今昔・未来物語」と題して自動車の歴史と最新の自動車技術をわかりやすく紹介しているのだが、協力会社はそのトヨタ自動車。内容はしっかりトヨタの宣伝にもなっている。しかし、今回の主役はトヨタご自慢のハイブリット(もちろん燃料電池車やプラグインHVも抜かりなく紹介していますが)ではなく、空気で走るクルマというのが面白い。

ジャン・レノドラえもん
ジャン・レノがなんて姿に…

世の中に無尽蔵にある空気でクルマを走らせることができたら…。子供の頃、そんなことを考えたことはないだろうか。「どこでもドア」とか「タケコプター」など、どこにでもある身近な材料を使って夢のある道具を見せてくれるドラえもんなら、空気で走るクルマもポケットから出してくれそうだ。ポケットではないけれど、本誌の付録には、本当に空気エンジンで走るクルマのキットが付いている。それどころか、人を乗せて走ることができる空気エンジン車が実際に開発されているのである。


豊田自動織機「KU:RIN」

トヨタ系列のサプライヤー、豊田自動織機の技術者有志たちがクラブ活動で試作した「KU:RIN」というクルマがそれだ。圧縮空気が膨張する力を車の駆動力として利用するのだ。同社が作っているカーエアコン部品であるスクロール式(渦巻型)のコンプレッサ(圧縮機)を逆転の発想で膨張機として使用。300気圧の空気ボンベから20気圧に減圧された圧縮空気をこのエンジンに送り込み、2気圧まで膨張させながら回転力を発生させる仕組みだ。2011年9月、この試作車両でなんと時速129.15kmを達成したのだそうだ[2]。空気エンジン車としてのギネス記録だ。私が本誌の紹介記事を読んでむしろ驚いたのは、ドラえもんの最高時速が129.3kmだということ。ネズミに驚いて逃げる時にのみ、出せる速度らしい。

Air Pod
Air Pod

圧縮空気エンジンカーがメディアで話題になり始めたのは、フランスのMDI社がインドのタタ・モーターズと提携して共同開発している「Air Pod」というクルマが2008年に発表されてからだろう。「Air Pod」は3人乗り、最高時速80kmの小型自動車だ。重量はわずか275kg。約250気圧260リットルの高圧空気タンクを搭載し、圧縮空気を膨張させてエンジンのピストンを動かす方式。1回の給気で135~150km走行できるという。80万円を切る価格で量産すると公言しているが、未だ市販化されていない[3]。

空気エンジンのメリットは、①燃料が空気だから軽い、②圧縮空気の膨張力を利用するだけなので何も燃やさず熱くない、③排気がクリーン、④製造コストが安い等が挙げられるが、デメリットとしては航続距離が短いこと(エネルギー密度が小さい)、空気を圧縮するのにエネルギーが必要だということ(エネルギー効率はガソリンより多少良い程度[4])など。燃料電池車における燃料(水素)を作るためのエネルギー消費やコストはかからないけれどね。まだまだ課題の多い圧縮空気エンジンカーだが、単に物珍しいだけの技術に終わるのか、夢のクルマに化けるのか、しばらく様子を見てみたい。

付属の学習誌 圧縮空気エンジンカーキット
付属の学習誌(左)と圧縮空気エンジンカーキット(右)

さて肝心な付録について、ちょっと古い話になるがレポートする。製造コストもかからず、構造もシンプルな空気エンジンカーは、子供向けのキットとしてはもってこいだ。本誌を購入したことをすぐには息子に言わず、暇そうな休日にサプライズで登場。表紙を開くと学習誌とキットが梱包された段ボール箱が別々に付いている。キットの梱包を開封して、早速二人で組み立ててみると、前出の「KU:RIN」とそっくりなデザイン。どんな動きをするのかワクワクしながら息子とポンプで空気を入れる。さあスイッチをONにして…、あれ?動かない。空気の抜けるシューッという音とともにピストンが情けなく往路をスライドするだけ。何度やっても同じだ。空圧が低すぎるのではないかと、目安より少し多めに給気。やはりダメだ。楽しみにしていた息子は完全にがっかりだ。Youtubeにアップされた動画を探すと、カタカタと元気よく走っている。

圧縮空気エンジンのメカニズム
圧縮空気エンジンのメカニズム(「自動車今昔・未来物語」より)

このままでは父親のメンツに関わる。ここは基本に立ち返って学習誌に解説された圧縮空気エンジンのメカニズムを理解してみることにした(上図)。「KU:RIN」とは違い「Air Pod」と同様のピストン駆動方式。2つの黒いゴムパッキン(ラバーシール)の位置によって、空気の供給路が前後に入れ替わることでピストンが往復運動し、ピストンの上部に取り付けられたラック&ピニオンギアを介して往復運動を回転運動へ変換している。エンジンは剥き出しで透明になっているので、実際に手で動かしながら空気の流れを確かめられて理解しやすい。なるほど、なるほどとエンジンの機構部を眺めていると重大欠陥を発見。上図右側のゴムパッキンが完全にずれてめくれていた(下写真)。ここから空気が漏れていたのだ。これでは上図②の状態で空気がピストン側に十分供給されず、③のようにピストンが復路に戻って来ない訳だ。

空気エンジンの不具合
空気エンジンの不具合

不良品ならばしようがない。問い合わせ先であるドラえもんふしぎのサイエンス事務局に原因も含め連絡すると、交換するので現物を着払いで送ってくれと言う。学習誌も含めて元のままセットで送り返して数日後、戻って来たのは圧縮空気エンジンカーのキットのみだった。大事な学習誌は?と改めて電話で苦情を言うと(決してクレーマーではありませんよ)、平謝りで後日新品のセットを送付してくれた。不良品のキットのみ返品するよう指示したらしいのだが、間違えた私も悪いが、開封したら普通は全部返品するでしょ。ネットで検索すると同様の不良品報告が結構多い。子供向けの付録おもちゃとはいえ、品質管理のずさんな本誌には正直がっかりしたが、小学館の対応は一貫して懇切丁寧だったので気分を害することはなかった。

ちょっとトラブルはあったものの、結果的に2台の圧縮空気エンジンカーをゲットすることになり、いずれも動画のように元気よく発進した。息子とレースも出来て結果オーライでした。

2台の圧縮空気エンジンカー

[参考・引用]
[1]ドラえもん、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93
[2]豊田自動織機の空気エンジン車「KU:RIN」の仕組みを知る、笠井美史乃、マイナビニュース、2011年10月5日、
http://news.mynavi.jp/articles/2011/10/05/kurin/index.html
[3]夢の空気自動車は実現するのか 提携メーカーから開発者に怒りの声、頼みはインド・中国?、岩澤里美、JBPRESS、2011年8月10日、
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/17692
[4]圧縮空気車、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%A7%E7%B8%AE%E7%A9%BA%E6%B0%97%E8%BB%8A

ドラえもん ふしぎのサイエンス 6 圧縮空気エンジンカー KU:RIN (小学館学習ムック)ドラえもん ふしぎのサイエンス 6 圧縮空気エンジンカー KU:RIN (小学館学習ムック)
(2013/01/12)
藤子・F・ 不二雄

商品詳細を見る


もう一度見たい!「科学」と「学習」 (Gakken Mook)もう一度見たい!「科学」と「学習」 (Gakken Mook)
(2010/04/17)
大人の科学マガジン編集部

商品詳細を見る

スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事