燃料電池車のひみつ

燃料電池車のひみつ

先月24日、トヨタと独BMW社は、燃料電池車の共同開発で正式合意をした[1]。見計らったように28日、独ダイムラー社、米フォード社、日産の3社(日産は仏ルノーの子会社なので実質4社)は、燃料電池車の開発で提携したことを発表した。いずれの提携も開発期間の短縮とコストの引き下げを目指し、次世代自動車での主導権を狙っている。ダイムラー・フォード・日産の提携では2017年の販売開始を目指すのだそうだ[2]。燃料電池車開発を巡るグローバルな合従連衡が立て続けにニュースとなったが、燃料電池(Fuel Cell)って何?、電池ってことは電気自動車とどこが違うの?などの疑問も出てくると思うので、クルマノエホン「燃料電池車のひみつ」(御堀直嗣・監修、手丸かのこ・絵、学研まんがでよくわかるシリーズ)を題材に少し勉強をしてみる。

燃料電池とは
燃料電池とは[3]

先日のSKYACTIVのキーワードは「圧縮比」だったが、今回の燃料電池のキーワードは「水素」。平たく言えば、水素を“燃料”とする電気自動車が燃料電池車(FCV)だ。まず、電池とはなんだということになるが、電池にはいくつかの種類がある。乾電池のように使い切りの電池を「1次電池」という。携帯電話の電池もそうだが、充電すると繰り返し使える電池は「2次電池」という。電気自動車はこの2次電池でモーターを動かし動力を得る。この2次電池にはいろいろな種類があって、一般的な自動車に搭載されているバッテリー、鉛蓄電池もそうだ。最新の電気自動車ではエネルギー密度が高い、すなわち小型軽量なのにたくさんの電気を貯められるリチウムイオン電池が使われている。ボーイング787で話題になっている電池だ。一方、「燃料電池」は水素と酸素を供給すると電気を作りつづける電池、というよりは発電装置といった方がその特徴を言い表している[3]。酸素はどこにでもある空気から得られるので、人工的に供給される“燃料”は水素ということになる。この電池(発電機)でモーターを動かして走るクルマが燃料電池車である。

本書は小学生児童向けの学研まんがでよくわかるシリーズの第20巻。このシリーズは本来、小学校図書館や公立図書館に無料で配布されているもので非売品である。なぜ私が所有しているのかは置いといて(オークションで結構出品されている。それって横流し?)、販売しない理由を学研に聞いたことがある。タイトルによって読者の購入に繋がる動機の振れ幅が大きく、書店の流通ルートに乗せるのが困難なためなのだそうだ。確かに、「燃料電池」に興味を持つような小学生はそうはいないだろう。

0.6℃の危険
宇宙人ホルスと大地少年(「燃料電池車のひみつ」より)

「燃料電池車のひみつ」というタイトルながら、半分以上はなぜ燃料電池車が必要なのか、その背景となる地球の環境問題と自動車の基礎(仕組み)について学習するストーリーとなっている。地球に派遣されながら100年も寝過ごしてしまった宇宙人ホルス。宇宙同盟本部にデータを送らなかった1世紀の間に、地球の温度は年間0.6℃も上昇してしまった。これに怒ったシヴァ神、愚かな人類のせいだと地球に大地震や大洪水、台風などの大災害を起こしてしまった。本書の初版は2005年。少し恐ろしくなった。シヴァ神の怒りを鎮めるため、観世音菩薩様、ホルスにチャンスを与えることにした。「地球温暖化の原因とその解決策を見つけ出し報告しなさい。協力してくれる地球人を捜し、救いを求めなさい。もし見つけなければ、地球に永遠に留まらなくてはならない(シヴァ神の怒りを抑えることはできない)」と。ホルスは小学4年生の大地君とその解決策を探しに出かけることになった。

中国 高速道路のスモッグ
中国は世界の癌か?中国 高速道路のスモッグ(共同通信)

この話どこかで見たような。そう、最近テレビで放映していた映画「地球が静止する日(“The Day the Earth Stood Still”)」(2008米国)。地球に突如やって来たキアヌ・リーブス扮する宇宙人、彼の目的は地球を汚染し破壊する人類を絶滅させることだった。彼らの圧倒的な破壊力を見せつけられた地球人にもう一度チャンスを与えてもらおうと宇宙人を説得する地球外生物学者。人類の負の行動様式に猛省を促すよくあるプロットだが、中国の大気汚染のニュースを聞くと、本当に今すぐにでも現在の自動車を燃料電池車に置き換えないと大変なことになるのではと思ってしまう。中国政府よ、自衛艦にロックオンする暇があったら、自分ちの汚染問題を解決することが先ではないのか?それともこの“0.6℃の危険”を今回避しようとしても時すでに遅しなのであろうか。

世界初のFCV個人向けリース販売
世界初のFCV個人向けリース販売:Spallino家とHonda燃料電池車「FCX」[12]

燃料電池車(以下FCV)の解説についてはホンダが全面協力をしている。最近の一連の提携話には登場していない、FCV開発に関してはいかにもホンダらしく独立独歩を貫いているが、その技術力は非常に高い。2002年にFCVを世界で初めて実用化、日米でリース販売したのが天下のトヨタとこのホンダであった。1999年にホンダ初のFCV、FCX-V1を世に出して以来、FCVの開発では世界をリードしてきた[4]。本書で取り上げられているホンダFCVは、この世界初の限定販売車「FCX」(ベースはホンダEVのEV Plus)をさらに改良し、2005年に米国で世界初の個人向けリース販売を開始、日本で初めて国土交通省の型式認証を取得した特別な燃料電池車。型式認証を受けたということは量産車として認められたことになる。「FCX」は最高時速150km、高圧水素タンク充填時での航続距離は355km[5]。

FCXクラリティ
FCXクラリティ[13]

本書出版後の2008年にリース販売されたFCXクラリティはもっとすごい。FCV専用設計のデザインで非常にモダンな低床セダンは、いかにも実証実験車的であった先代FCXや他社のRV車ベースのFCVとは違って、明らかに市販車として相応しく近未来を感じさせる洗練されたものだった。近年のホンダ車のデザインは個人的にはあまり良い印象を持っていなかったが、当時このFCXクラリティには素直にカッコいいと思った。室内空間やトランク容量を犠牲にせず、よくぞこのパッケージングで燃料電池システムを積み込めたものだ。FCV量産化へのホンダの本気度を感じる。ハイブリットやEVほど話題にはならなかったが、プリウスやリーフに引けをとらないくらい歴史的な一台だと思う。クラリティの最高時速は160km、航続距離も620kmとこれまたガソリン車並みである[6]。

答えは燃料電池車だ1 答えは燃料電池車だ2
地球を救う答えは…(「燃料電池車のひみつ」より)

本書での燃料電池のメカニズム説明は最小限に留めている。ホンダの協力をもってしてもさすがに小学生に燃料電池の仕組みを理解させるのは難しいだろう。『0.6℃の危険』や『PM2.5の危険(※)』を解決する一つの方法として「燃料電池」という新しい言葉に好奇心をもってもらうだけで今は十分だ。出版当時小学生だった読者はもう大学生のはず。どれくらいの子供たちが、大地君のように地球を救う研究の道に進んだだろうか。(未来の人材育成も含めて)地球の問題を解決する責任を持つ大人は知っておくべき知識なので、次回「燃料電池車のひみつ」についてもう少し理解を深めてみる。

(※)大気中に浮遊する粒子状物質(Suspended Particulate Matter)の中で直径2.5μm以下の微小粒子状物質をPM2.5と呼ぶ(ちなみに花粉は約30μm)。非常に小さく、肺胞など気道より奥に付着するため、肺や循環器の疾患を起こすと考えられている。1月12日現在、北京のPM2.5数値は日本の環境基準の約20倍。1960~70年代の公害日本とほぼ同じ水準だそうだ。車の排ガスや暖房用石炭の燃焼、工場からの排煙が原因とされており、特に欧州や日本の15倍の硫黄分を含む低品質のガソリンが流通していることが汚染を悪化させている[7]。

御堀直嗣
御堀直嗣

監修の御堀直嗣氏は、1955年東京都港区生まれの自動車評論家、ジャーナリスト。玉川大学卒業後、1988年からFL500、1990年からFJ1600と、各種自動車競技に参加した経験がある。1984年にフリーランスとなり、現在はウェブサイトや雑誌などに、主に自動車関連の記事を寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー(2012-13)選考委員。自動車を取り巻く諸問題と電気自動車の普及を考える市民団体、「日本EVクラブ」副会長も務める。著書に「知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか」「ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本」「電気自動車は日本を救う」「クルマはなぜ走るのか」「電気自動車が加速する!」「クルマ創りの挑戦者たち」「メルセデスの魂」「未来カー・新型プリウス」「高性能タイヤ理論」「図解エコフレンドリーカー」「燃料電池のすべてが面白いほどわかる本」「ホンダトップトークス」「快走・電気自動車レーシング」「タイヤの科学」「ホンダF1エンジン・究極を目指して」「ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー」など多数[8][9]。

手丸かのこ
手丸かのこ

漫画を描いた手丸かのこ氏は、1967年埼玉越谷生まれ。高校在学中より投稿を始め、千代田工科芸術学校マンガ科卒業後は一時新聞社のイラストルームへ就職。第29回小学館新人コミック大賞に佳作入選をきっかけに1992年デビュー。少女・女性雑誌にて漫画を執筆するほか新聞や幼児雑誌のイラスト、愛娘たちをモデルに笑える子育て漫画を連載。あの「おじゃる丸(原案:犬丸りん)」の四コマ漫画も描いている。代表作「ポップコーン天使」「ロケット少年」(子どもの未来社)などの性教育コミックは学校の保険室を中心に多くの子どもたちに愛されており、「てしばまさみ」のペンネームで越谷市の広報にも作品を発表している。[10][11]。

[参考・引用]
[1]トヨタ、BMWと燃料電池車を共同開発 次世代電池も、日本経済新聞、2013年1月25日、
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD240JN_U3A120C1TJ2000/
[2]独ダイムラーと米フォード、日産が燃料電池車開発で提携、ロイター、2013年1月28日、
http://jp.reuters.com/article/jp_Germany/idJPTJE90R00720130128
[3]燃料電池とは・・・、NBSIホームページ、
http://www.nbskk.co.jp/engineering/solution/battery.html
[4]水素エネルギー革命 飛躍する燃料電池、駒橋徐、日刊工業新聞社、2002
[5]燃料電池車・電気自動車の可能性、飯塚昭三、グランプリ出版、2006
[6]ホンダ FCXクラリティ 試乗レポート、carview.co.jp、2008年7月3日、
http://www.carview.co.jp/road_impression/article/honda_fcx/218/1/
[7]中国「PM2.5」大気汚染 在留邦人対策追われ、毎日新聞、2013年2月9日
[8]御堀直嗣、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%A1%E5%A0%80%E7%9B%B4%E5%97%A3
[9]御堀直嗣、日本カー・オブ・ザ・イヤー(2012-13)選考委員、日本カー・オブ・ザ・イヤーホームページ、
http://www.jcoty.org/judge/mihori.html
[10]越谷 この人 マンガ家・手丸かのこ(てしばまさみ)さん、LOCAL NEWS、2010年5月28日、
http://blogs.yahoo.co.jp/rcnbt699/368681.html
[11]漫画家手丸かのこ/てしばまさみさん、越谷市ホームページ、
http://www.city.koshigaya.saitama.jp/koho_pdf_seg/2010/10/1245_H221015_17.pdf
[12]燃料電池車「FCX」を世界で初めて個人客にリース販売、ホンダホームページ、2005年6月30日、
http://www.honda.co.jp/news/2005/4050630-fcx.html
[13]燃料電池車、ニュースな科学キーワード、科学のふしぎたんけん、学研サイエンスキッズ、2008年5月30日、
http://kids.gakken.co.jp/kagaku/keywords/080530.html
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ソーラー電池を作って ソーラー充電器~電池の寿命~
[ 2013/03/21 07:26 ] [ 編集 ]

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[ 2013/03/21 22:37 ] [ 編集 ]

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