一台の車 トップイラストレーター7人のカーロマン

一台の車(初版)

今年も横須賀は日米艦船イルミネーションと汽笛、花火で華やかに始まった。しかし現実の世界は問題山積。よい意味で変化のある1年になることを期待したい。本年もこのニッチなブログ、よろしくお願いします。さて、今年の最初を飾るクルマの絵本は、巳年に因んで「一台の車 トップイラストレーター7人のカーロマン」(岡本 博、岡本三紀夫、小森 誠、鈴木英人、高橋唯美、BOW、松本秀実・作、星雲社)を取り上げたい。当代きってのカーイラストレータ7名の作品集である。

光岡オロチ
”白蛇”光岡オロチ[4]

この本のどこが今年の干支と関係があるのか?そもそも巳(へび)と関連のあるクルマは存在するのか?最初に思い浮かんだのが、光岡自動車のスーパーカー「オロチ」である。ヤマタノオロチにヒントを得たという個人的にはあまり趣味ではない、いかにも爬虫類をイメージする有機的なデザインのクルマ。そして忘れてはならないスネーク・カーがあることを思い出した。1960年代を中心に製造されたスポーツカー、ACコブラである。エンスーの方ならば真っ先に思いつくのはこちらのクルマであろう。ACコブラ427(‘66)がクルマ絵本の“I SPY(ミッケ)”本、「MOTOR PANiC」で取り上げられていたが、本書に登場するコブラはBOW氏の描く289とデイトナ。

一台の車(新版)
「一台の車」(新版)

私も本書を手に取って一番印象的だったイラストが、メタリックの濃紺ボディに2本の白いラインが渋すぎるこのACコブラ289とデイトナ・コブラだった。私の所有する「一台の車」は昭和62年(1987)の初版本で、平成元年(1989)に新装版が出されているが、7人の代表作が並んでレイアウトされた初版本の表紙は、新装版でBOW作のデイトナ・コブラがどんと表紙一面を飾ったものに変更されている(初版本では右下隅に289の別のイラストが使用されている)。居並ぶお歴々の代表作の中でも、この“一台”は最もインパクトがあったのだろう、日本のカーイラスト史に燦然と輝く名作の一枚だと思う。

Bow
Bow。(池田和弘)

BOW。(正確にはBowの後に○が付いている)こと、池田和弘氏は1946年生まれ。雑誌「平凡パンチ」「メンズクラブ」「POPEYE」のファッションイラストレーションからこの世界に入る。「カーマガジン」「サイクルワールド」「クラブマン」「カーグラフィック」「KAZI」各誌での車、オートバイ、船、レーサーやライダーの絵、また、マツダ、ホンダ、トヨタ、スバルなどメーカーのカタログ、広告イラストレーション等を多数手掛ける。“BOW(ボウ)”は、絵の学校(セツモードセミナー)時代に友人から付けられたあだ名。そのままペンネームとして使っている。雑誌「カーマガジン」の表紙は、1979年8月創刊以来、300号近くを数える現在も、毎号Bowの自動車画で飾られている。また、創刊当初の表紙を手掛けた「クラブマン」誌上の“Sketch in Neutral”は、100回以上の連載が続いている。その他、KAZI誌など連載多数。リトグラフやTシャツ、小物類を製作、販売するオリジナルブランド“by Bow。Collection”も展開中。不定期で展覧会やお絵描き教室も開催中[1]。所有する趣味のクルマは、40数年にわたり共に暮らしてきたトライアンフTR3とロータス47[2]。

ACコブラ289 by Bow(「一台の車」より)
ACコブラ289 by Bow(「一台の車」より)

クルマのイラストは「平凡パンチ」に描いたACコブラがデビュー作なのだそうだ。コブラがBOWにとって特別なクルマであることは、本書の中の彼のエッセイに綴られている。彼とコブラとの出会いは高校生の頃。古本屋で買ったアメリカの自動車雑誌に載っていた小さなモノクロの写真。そこに写っていた黒っぽいボディに白線が2本、獰猛に開いた口とヌルリとしたフォルム、まさに“コブラ”の名にふさわしいスポーツカーに彼は虜になった。その後、そのクルマの実物に出会うため、2度もアメリカへ渡ることになる。最初の渡米。カリフォルニア州モントレーにあるラグナ・セカ・レースウェイのコースで、あの写真そのものの姿で駆け抜ける実車に出会う。帰国後、雑誌の表紙のためにシェルビー・コブラを描いた。しばらくして彼の元へ1通のエアメールが届く。彼の描いたコブラに感激したワークス・コブラのオーナーからであった。アメリカまでコブラに乗りに来いというお誘い付きで。

デイトナ・コブラ by Bow
デイトナ・コブラ by Bow(「一台の車」より)

その雑誌の表紙に描いたイラストなのだろうか、カリフォルニアの強い陽射しが反射する、メタリックブルーのボディが眩しいデイトナ・コブラは、シャシー番号CSX2299。オープンボディの289とは異なり、空力性能に優れるクーペボディ。世界で最も高価な車の一つといわれるデイトナは、プロトタイプCSX2287とイタリアのカロッツェリアに製作を依頼した5台(CSX2286、CSX2299、CSX2300、CSX2601、CSX2602)の計6台が存在する。CSX2299は1964年のル・マン24時間レース、GTクラスで優勝するなど数々の戦歴を残した名車中の名車[3]。

CSX2299
daytona CSX2299

本書は他にも私の知っている作家として、「バルンくん」でもお馴染みの小森誠さんや山下達郎のジャケットで有名な鈴木英人さんの作品も含まれる。小森誠さんはこのブログを始める頃、「バルンくん」で初めて知った作家だが、イラストレーターとしてのキャリアは非常に長い。鈴木英人さんは、福岡生まれで私と同郷にして、拙宅のある横須賀市の名門高、県立横須賀高校の卒業生でもあるので前々から親近感を覚えていた。ラジオ世代の小生としては、80年代、エアチェックに欠かせなかったFM情報雑誌「FMステーション」の表紙を彼の自動車イラストが長年飾っていたことも懐かしい。まさに彼の作品は我が青春の思い出。

FIAT ABARTH OH by 小森誠
FIAT ABARTH OH by 小森誠(「一台の車」より) 「バルンくん」の原点?
FORD PICKUP by 鈴木英人
FORD PICKUP by 鈴木英人(「一台の車」より) アメ車を描かせたら天下一品!

そんな旧い記憶も蘇りながら、新年早々、本書を鑑賞しなおしている。素人の私が言うのも何ですが、流石みなさんお上手ですな。知人のカーイラストレーター、溝呂木陽さんのブログにも紹介されているように、初版の’87年はバブル期で、自動車メーカーだけでなく自動車イラストレーターも光り輝いていた頃。しかも30代を中心に脂の乗り切っていた年齢に描かれた作品の数々。また、彼らは絵だけでなく文章の表現力にも優れる。現役のプロの方にとって今でも刺激を受ける貴重な画集のようだ。

「一台の車」チラシ

この作品集をめくっていると、中からチラシが2枚出てきた。1枚はこの「一台の車」シリーズを紹介したもので、本書は「忘れ得ぬ一台の車EOUROPE」「一台の車JAPAN-1」「一台の車JAPAN-2」の写真集に続く第4弾の企画ものであることを知った。もう1枚は、本書の出版記念企画として、選ばれし7名のトップイラストレーターのテレホンカード(死語!)1000セット限定販売のお知らせ。3枚組1セットが4,500円。高いのか安いのかわからぬが、時代を感じさせる資料が興味深い。

[参考・引用]
[1]Bow.'s Profile、by Bow。collection、
http://bybow.jp/
[2]Bow/池田和弘ギャラリー、AUTOCAR JAPAN、2012年2月24日、
http://www.autocar.jp/gallery/2012/02/24/1946/
[3]シェルビー・デイトナ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%8A
[4]ミツオカ・オロチ(MR/5AT)【短評】、webCG、
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/i0000017174.html
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