日産エクストロニックCVT

毎朝5時半の出勤が辛い。こういう厳寒の朝は愛車エクストレイル君のシートヒーターに助けられている。なかなかの速暖で下半身はすぐに快適になるのだが、エアコンの暖房ではなかなか手元が暖まらない。家では床暖やデロンギのオイルヒーターも活躍しているが、輻射熱はやはり心地がよい。そのエクストレイル、先日ディーラーで定期点検(6ヶ月点検)を終えた。走行距離も丸2年で46,000km超、一般ユーザとしては多い方だろう。でもほとんど不具合らしい不具合は生じていない。この点が先代ルノーカングー君と大きく異なる。交換もエンジンオイルくらいだ。ゴム製部品の劣化は致し方なく、フロントワイパーの交換も勧められたが今回は継続(劣化が進んでいたリアワイパーのブレードは既に交換済み)。しかし1点だけ少し気になる現象があったので、ディーラーに相談した。エクストレイルのミッションはCVTなのだが、どうもそこから出ていると思われる異音が最近気になり始めた。減速時やエンジンブレーキをかけるときにその音は出る。

ヒュー、ヒューともキュルルル、キュルルルとも聞こえる何か回転体そのものから発する、もしくは回転体との接触によって出るような、そんな高周波の音である。CVTのプーリーとベルトの干渉音であろうか、ディーラーでもその現象は再現された。彼らの判断によれば、「CVTフルード(オイル)に気泡が発生し、オイルポンプでその気泡が潰されることにより発生する音と思われる」とのこと。発生源はどうやら正しかったようだ。

この現象をもう少し理解するには、CVTの原理や構造を知っておく必要がある。ここは絵本紹介が主体のブログなのでCVTって何?という方のためにも少しお勉強を。エンジンの力(回転力)をタイヤに伝えるための動力伝達装置(トランスミッション)については以前、しかけ絵本「Watch It Work!-The Car」で紹介した。この絵本では手動でギア(歯車)比を変えるマニュアルトランスミッション(MT)の原理をカラフルな“動く”挿絵でわかりやすく説明している。このギア比の切り替えを自動で行ってくれるのがオートマチックトランスミッション(自動変速機)であり、従来型のいわゆるAT(有段変速機)と特に日本では最近の主流になりつつあるこのCVT(無段変速機:Continuously Variable Transmission)がある。この2つの違いは、大雑把に言えば、前者がMTと同じように歯車の組み合わせによって動力の伝達特性(ギア比)を変えるのに対して、後者は直径をなだらかに変化させることが可能な2つのプーリーの組み合わせによって伝達特性(プーリー比)を変える仕組みである。よってATは段差(変速ショック)があり、CVTは段差のない無段変速になるのが特徴となる。もちろんATも多段化になればなるほど、限りなく無段変速に近づくので、最近の高性能車では7段、8段といったものまである[1]。

トルコンの作動原理
トルコンの作動原理[7]

ATの原理と構造は[2]などでできるだけわかりやすく解説されているが、MTに比べれば結構複雑なメカニズムで「Watch It Work!-The Car」のように絵本で児童向けに説明するのは難しいだろう。ATは、MTでいうクラッチの断接操作を自動的に行ってくれるトルクコンバーター(トルコン)とギア比を切り替えるための遊星歯車から構成されるトルコンATがほとんどである。トルコンはよく向かい合う扇風機に例えられる。片方の扇風機(エンジン側)にスイッチを入れると、もう片方の扇風機(ミッション側)も自動で回り始める。アクセルは踏んでいないのに、アイドリング(低速回転時)で勝手に動き出してしまうクリープ現象が発生するのはこのためである。実際のトルコンは、空気の代わりに動力(トルク)を伝達しやすい専用の流体(オイル、通称ATF)に2つの扇風機が浸された状態と考えればよい。エンジンからトルコンを介して伝達された動力は、遊星歯車を構成する3つの歯車のうち2つの歯車を組み合わせることでギア比を変える(変速する)。歯車の選択は、油圧制御により1つの歯車にブレーキをかけることで行う([2]で紹介されている動画がわかりやすいので参照されたい)。2つの歯車の大小の組み合わせによる伝達特性の違いは、「Watch It Work!-The Car」でも解説していたが、遊星歯車の仕組みがまたわかりにくい。[3]のアニメーションがよくできているので、こちらを参考にするとメカニズムの理解が進むだろう。ATの仕組みをうまく表現したポップアップ絵本がどこかにないだろうか。

さて本題のCVTは、ATに比べて原理や構造はもっとシンプルである。CVTにはベルト式やチェーン式、トロイダル式(これがまた面白い機構なのだが)などがあるが、ここでは最も一般的でエクストレイル君(日産エクストロニックCVT)にも採用されているスチールベルト式を例に取り上げる。ATと同じくトルコンと2つのプーリー、そのプーリー間で動力を伝達するスチールベルトがCVTの基本構成。構造上、変速機そのもので逆回転を作り出すことは不可能なため、後進を行うときは遊星歯車を組み合わせて逆回転を作り出して行う[4]が、ここでの説明は割愛する。

ベルト式CVT概念図
ベルト式CVT概念図[2]

トルコンの役割はATと同じなので、2つのプーリーによる動力伝達の仕組みを考えてみる。上図のように円錐状のディスク2枚を組み合わせた形のプーリーは、溝幅を狭めたり広げたりできる仕組みになっている[5]。幅を広くした場合はプーリーの径が小さく、狭くした場合には径が大きくなることで、2つの径の異なるプーリーの組み合わせにより伝達特性、すなわちプーリー比を変えるのである。MTやATのように不連続な歯車の切り替えでないため、この伝達特性は無段階に連続的に変えられ、理論的にはエンジンの「美味しいところ(=効率の一番良いところ)」が使えてパワーロスが少なく、部品点数も少なくて済むので軽量化できることから、CVTは一般に燃費が良いとされている[4][6]。

CVTはベルト式でもトロイダル式でも基本は「接触による摩擦伝達機構」、つまりベルトとプーリーの“摩擦”によって力と回転を伝えるメカニズムである[6]。歯車のような噛み合いによらず摩擦力で駆動力伝達を図らねばならない故に、『ベルトとプーリーの摩擦熱はオイルによって冷却している。オイルを用いれば滑る。その滑りを抑えるために高圧をかける。高圧をかけるためオイルポンプを駆動し動力が消費された上、摩擦熱が発生する。この熱を冷やすためにオイルを用いる。』といった矛盾を抱えるのがCVT最大の欠点である[4]。

このような基本構造・機構を理解すると、異音は流体機械の物理現象としてよく知られる液体(ここではCVTオイル)の流れの中で大きな圧力差が生まれることにより、短時間に泡の発生と消滅が起きる「キャビテーション」によって引き起こされたと考えられるが、CVTのメカニズムゆえに避けることのできない現象ともいえる。CVTの異音に関しては、日産セレナでリコールが出ているが、エクストレイルは対象でないとのこと。消泡剤を添加する対策もあるようだが効果は保証できないといわれたし、セレナのように走行性能に支障を来すものではないという見解だったので、特に対策は打たなかった。リコールで届けられた異音以外の不具合は本当に大丈夫なんだろうなあと少し不安も感じながら、ディーラーを後にした。今のところ正常に走っている。



[参考・引用]
[1]2.トランスミッションの種類、JAMAGAZINE、2011年2月号、日本自動車工業会ホームページ、
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/201102/02.html
[2]オートマチックトランスミッションって?、車FAN、
http://www.a-nob.com/automatic-transmission.html
[3]遊星歯車シミュレータ、松のページ、
http://www.wind.sannet.ne.jp/m_matsu/developer/PlaGearTest/
[4]無段変速機、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E6%AE%B5%E5%A4%89%E9%80%9F%E6%A9%9F
[5]CVT(無段変速機)の仕組み、メリットは?、御堀直嗣、クルマとエコのなるほどBOX、読売新聞、2012年6月21日、
http://www.yomiuri.co.jp/atcars/eco/eqa/mileage/20120621-OYT8T00856.htm
[6]CVTは「燃費が良くなる」変速機なのだろうか?、p57-58、Motor Fan illustrated vol.8 特集トランスミッション、2007
[7]トルコンの基本作動(扇風機に例えて…)、カーライフサポートネット、
http://www.carlifesupport.net/mag_ill_2006-10-9_torque-converter.html
[8]くるま学入門、浦栃重夫、技術書院、1986
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事