ずかん・じどうしゃ

ずかん・じどうしゃ

本屋で素敵な本を見つけた。「絵本作家のアトリエ1」(福音館書店母の友編集部)という絵本に興味を持つ人であれば必ず手に取りたくなるような本。「車」「絵本」という文字に人一倍感度を持つようになった小生なので、書店内をうろついていた時に「絵本作家」というキーワードが視界に入って来たのを見逃さなかった。この本は児童書の出版では有名な福音館書店創立60周年を記念して、同出版社の雑誌「母の友」に2006年から連載された「絵本作家のアトリエ」を書籍化したものである。世代を超えて読み継がれる絵本の秘密を画家の創作現場から伝えるシリーズで、第1巻は戦後日本における絵本の礎を築いた大御所の画家10人が収録され、今後第3巻までが予定されている。このブログでも紹介した「うちのじどうしゃ」の太田大八氏や「月夜のじどうしゃ」の井上洋介氏、「ぐりとぐら」の山脇百合子氏、「しょうぼうじどうしゃじぷた」「とらっく とらっく とらっく」「のろまなローラー」の故・山本忠敬氏などクルマ絵本作家も紹介されている。なかなか知り得ることのできない彼らの生い立ちや絵本作家になったきっかけ、日常の生活ぶりなどが読めて、作家の人物資料としても非常に貴重な「絵本作家辞典」である。彼らの絵本が生み出された作業現場や作品のベースとなる創作ノートの写真なども豊富に掲載されていて、実に飽きない構成となっている。仕事場におかれた小物や書棚の蔵書って、その人の人物像が透けてみえて非常に面白い。今回は山本忠敬・編でも興味深いエピソードとともに紹介されていた「ずかん・じどうしゃ」(山本忠敬・作、福音館書店)を取り上げたいと思う。



ずかん・じどうしゃ その1
(上)日野のフルトレーラー、(左下)日産ディーゼルのダンプ、(右下)いすゞのダンプ(「ずかん・じどうしゃ」より)

「ずかん」というくらいだから、忠敬先生お得意の写実的に描かれた様々なクルマが登場する。「のりたいくるまどれ?」のようにクルマの具体的な車種名は書かれていないが、クルマの種類(形態)だけが簡単に記されている。ハードトップ、セダン、リムジン、ライトバン、マイクロバス、軽トラック、ダンプカー、はしご車、パトロールカー、ゴミ収集車、コンテナ運搬車、コンクリートミキサー車などの乗用車からはたらく車まで42種類(商用車のルートバンやパネルバンという用語は初めて知った※1&2)。基本的には文字のない絵本である。昆虫や魚に負けず劣らず、クルマのカタチの多様性に興味をもってもらうのが本書の狙いなのだろう。それぞれのクルマたちも読者の目を引くように色とりどりに塗り分けられている。

※1)ルートバン:運転台と荷台とを1つの箱にした商用貨物自動車。ライトバンより本格的トラック[1]。
※2)パネルバン:運転室と荷物室が一体に作られた鋼板ボデーの軽量トラック[1]。


ずかん・じどうしゃ その2
”狂言回し”のケンメリスカイライン(「ずかん・じどうしゃ」より)

整然と並べて緻密に描かれたクルマの他に、各場面の隅には主役たちとはちょっと描写の異なる小さな絵が描かれている。消防自動車の場面には、少年と猫の乗る“しょうぼうじどうしゃじぷた”のようなクルマ、警察車両の場面では、やはり少年と猫が乗るバキーのようなクルマといった具合に。前出の「絵本作家のアトリエ1」ではそれらのイラストを「狂言回しのような絵」と表現している(最後の場面の狂言回しはオープンのケンメリスカイライン!実車は存在したのか?)。福音館書店編集部(当時)の時田史郎氏はこの“狂言回し”に違和感をもって不要ではないかと山本氏に進言した。それに対して彼はその絵がいかに大事であるかと反論する。「これがあって楽しい」「なくても楽しい」と3時間に及ぶ議論の末、時田氏が折れた。本書出版後、「てつたくんのじどうしゃ」や「たろうのおでかけ」でも紹介した堀内誠一が“狂言回し”を指して、「これがあってすごく楽しい」と編集部に手紙を書いてよこしたのだそうだ。

この面白いエピソードを読んで、単なる図鑑絵本だと思っていた本書に、こんな細かい仕掛けがあるのだと初めて気づいた。絵本1冊を制作・出版するのにも、いろいろな拘り・ご苦労があるのだと感心しきり。確かにただサンプルの羅列で無味乾燥になりがちな図鑑が、このちょっとした挿絵の導入によって、ストーリーのない図鑑全体に動きが出てくる。特に本書の読者対象であるまだ集中力が続かない幼児に対して、動きのある脇役の絵で引きつけるという工夫には、時田氏の言葉を借りれば「常に読者との距離を測っていた」忠敬先生の基本スタンスが垣間見える。

山本忠敬2
クルマの本とミニカーが並ぶ、忠敬(ちゅうけい)先生のアトリエ[3]

さて「絵本作家のアトリエ1」によれば、絵本制作にあたっては綿密に資料を読み、実物を見に何度も出かける忠敬先生であるので、全てのクルマの挿絵にはモデルとなった実車があるのは間違いない。しかし、インターネットの力を借りても私の知識や能力ではとうてい全ての車種を特定することはできない。とはいえ乗用車や商用車の場面くらいはわかるかもしれないと、少し調べてみた。

ずかん・じどうしゃ その3
図1.乗用車(「ずかん・じどうしゃ」より)

いすゞフローリアン中期型
いすゞフローリアン中期型
出典:http://nsadj0623.blog.fc2.com/blog-entry-4.html

ハードトップ(図1左上)は、トヨタ・初代カリーナ・ハードトップA10系(1972)
軽自動車(図1左中)は、スバル・レックス360バンK22型(1973)
セダン(タクシー、図1左下)は、いすゞ・フローリアン中期型PA20/30系(1970)[2]
リムジン(図1右上)は不明。旧ソ連のジルにも似ているが、ちと違う。誰か教えて!
スポーツカー(図1右下)は、王道の日産・フェアレディZ初代S30系(1969)
乗用車といっても、なかなか渋いところを突いてくる。どういう選択判断なのだろう?

ずかん・じどうしゃ その4
図2.商用車(「ずかん・じどうしゃ」より)

商用車はさらに難しい。表紙にも描かれているルートバン(図2左下)は、いすゞ・2代目エルフ・ルートバン(1968)のようだ。郵便車(図2右上中)はスバル・2代目ニューサンバーの’70年型(通称”ババーンサンバー”)とトヨタ・コロナ4代目ブラボーコロナT80系(1970)がベースか。本書は初版が1977年なので旧車のオンパレード。しかもかなりマニアック。現代の読者にはちと古すぎる感もあるだろうが、このエルフ・ルートバンのフォルムはいいではないか。現在でも十分通用するデザインだと思う。最近ののっぺりとしたワンボックスのフロントフェースよりもよっぽど表情がある。やはり角目よりは丸目の方がいいなあ(改めて本書をみると、角目のクルマは1台も登場しない)。リアゲートも私の好きな観音開きだし、個人的には、もし今あれば購買の選択肢にあがるクルマだ。

いすゞ・2代目エルフ・マイクロバス
ベースはほぼ同じいすゞ・2代目エルフ・15人乗りマイクロバス[4]

ババーンサンバー(1970)
ババーンサンバー[6]

本書は幼児向けというよりも、旧車好きのおっさん向けに今でも再版され続けているのかもしれない。

[参考・引用]
[1]新版自動車用語辞典<増補新版>、大須賀和美・著、精文館、2007
[2]年代別車型、いすゞフローリアン博物館、
http://www.geocities.jp/sabisabi_club/hakubutukan/models_of_FLORIAN.html
[3]絵本作家のアトリエ1、福音館書店母の友編集部・編、福音館書店、2012
[4]いすゞTLシリーズ マイクロバスの系譜、403 Forbidden、イマブチモータープール、
http://hccweb6.bai.ne.jp/~hfg04901/im/403/isuzu/tl_1959.htm
[5]2代目エルフ(1968年~1975年)、エルフの歴史、いすゞ・フォワードマニア、
http://o-sumo.com/rekisi/two.html
[6]スバルサンバーモデルの変遷、SUBARU博物館、
http://members.subaru.jp/know/museum/subarusambar/03.php


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