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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

ブルドーザーのガンバ  

ブルドーザーのガンバ

前回の「モモンキかんばる」と同じく主人公の頑張りがテーマのクルマ絵本、再び高橋透氏による挿絵が味わい深い「ブルドーザーのガンバ」(鶴見正夫・作、高橋透・絵、偕成社のりものストーリー2)を本日は紹介する。

「ブルドーザーのガンバ」その1
若かりし頃のガンバ(「ブルドーザーのガンバ」より)

ある町の建設会社に『ガンバ』という名のブルドーザーがいた。若い頃は力持ちで働きものだったガンバは、無理な仕事をさせられても不平一つ言わない頑張り屋だったので、会社からは重宝がられていた。しかし、長い間働き続けたので、あちこちが故障だらけとなり、いつの日からか会社の車庫の片隅に置きっぱなしにされてしまった。

ある日、ガンバに新しい仕事が舞い込んだ。大きな団地の建設のために、引っ張り出されたのだ。故障を直し、油を入れ、エンジンをかけた。「ちゃんと仕事ができるかな。」と少し不安になったガンバは、セルフローダー・トラックに乗せられ工事現場へ運ばれる途中、昔自分が手がけた高速道路を見つけて自信を取り戻した。

「ブルドーザーのガンバ」その2
怒鳴られるガンバ(「ブルドーザーのガンバ」より)

工事現場に着くと、そこにはまだ丘の山がなだらかに続いている。この山を切り崩さなければ団地を作ることができない。パワーショベルやタイヤドーザー、モーターグレーダーたちは既に働いている。その日から、ガンバは休みなしで働いた。木を倒し、根っこを掘り起こし、土を削り、運び…。でも昔のように仕事がはかどらない。体も疲れ切って、力はますます弱ってくる。現場監督は仕事が遅いガンバを怒鳴り散らした。仲間のショベルドーザーやバックホーものろまなガンバを見て笑っている。

それでもなんとか仕事をこなしたガンバ。木は倒され、地面もきれいにならされた。そのうちミキサー車やクレーン車、パイル・ドラッガーといった団地の建築に必要な建機がやってきた。ビルが建ち始めた。最初の仲間も帰り支度を始め、自分の仕事も終わりと思っていたガンバに、「おまえだけは残って後始末だ。」と監督に言われた。涙ぐむガンバは、仕方なく仕事を続けた。そのうち運転操作の人もいなくなり、ガンバは工事現場に取り残された。誰も迎えに来ない。悲しくなったガンバはそうっと目をつむった。

「ブルドーザーのガンバ」その3
居残りガンバ(「ブルドーザーのガンバ」より)

ハイキングに来た人たちの声にふと目が覚めると、団地は既に出来上がり、彼らはガンバを睨んでいた。「いつの間にか団地ができている。」「木や花がない。」「このブルのせいだ。」

社長の言いつけどおり頑張って働いた。なのに現場に置き去りにされ、悪口まで言われる非情な仕打ちに悔しさをこらえるガンバ。おまけに雨まで降ってくる最悪の状況。と、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。ガンバの傍を通り過ぎていった救急車がまたすぐに戻ってきた。病気の子供を助けに山奥の村へ行く途中、がけ崩れで道が塞がっているという。ガンバが使えるのではないかと戻ってきた訳だ。

幸いにガソリンも残っている。エンジンがかかると、子供を助けなければとガンバは夢中で泥土の山へぶつかって行った。最後の力を振り絞り、大きな倒木を崖の下へ落とすことができた。しかし、そのはずみでガンバも下へ落ちてしまった。「すまん。急いでいるんだ。」 ガソリンも無くなり、横倒しになったガンバをそのままに救急車は走り去って行った。(よかった。これで子供は助かる…。)

何日か経ち、崖を降りてきた一人の男の子がガンバの体にさわって言った。「ありがとう。おかげで病気が治りました。」と。でも、もうガンバには何もわからない。何も聞こえない。

「ブルドーザーのガンバ」その4

非常にシュールな結末で悲しいストーリーのクルマ絵本。感動的なこの絵本に多くのファンもおられるようで、様々なブログでも肯定的に紹介されている。正直、私はこの絵本の評価に悩んだ。一所懸命頑張った結果、努力が報いられ、多くの人から賛辞を受けた山中教授のような方がいる反面、このガンバのようにどんなに努力をしても褒められず、評価されず、挙句の果てにクビを切られるといった不条理な世界が存在するのも事実だ。現実はそんなに生易しいものではない。リアリティのある高橋氏の挿絵がさらに読者を厳しい現実の世界へと引きずり込む。しかし、児童たちに実社会をネガティブに印象づけることが絵本の役割として適切なのかと考えてしまった。

ちなみにうちの愚息に読ませた感想は「悲しい話だね」とポツリ。深くは突っ込まなかったが、好印象という感じではなかった。少なくとも元気が湧き出るような絵本でないことは確かだ。この絵本を読んだ後、しばらくして息子は発作で倒れた。小児性後頭葉てんかんを患っていた息子は1年ほど前に完治と診断され薬も止めていたのだが、どうやら再発したらしい。その後は普通に元気で過ごしている。病気は不可抗力なところがあるものの、ローマ字を覚えて検索も一人で出来るようになったパソコン操作や、短い時間ではあるが楽しみの一つであったDSのゲームやDVD「ナイトライダー」の視聴など視覚的刺激が生じるものはしばらく制限。毎日の薬の服用もまた始まった。病気に打ち勝つためには彼なりに日常生活の不便・不都合を我慢し、頑張らなければならない。そんな息子も含め、何かに頑張っている子供たちにとって、努力したご褒美が「ありがとう」の一言だけで納得するだろうか。その一言とて、直接本人には届かないのだ。

もちろん、大人の日本人の中には、このガンバの自己犠牲の姿に共感される方も多いだろう。ガンバは何かの見返りを望んで頑張っていたのではなく、この小さな感謝の言葉で十分に救われたのだという感想もあるだろう。しかし私はこの日本人好みの感傷的なストーリー、ストイックさを美徳とする日本的美意識、それらが児童向け絵本に強く表現されていることに少し違和感を覚えるのだ。

ちょうどこの絵本を紹介しようと考えたときに偶然[1]の記事に目が留まった。渡米したごく普通の2人の日本人女性が、現地で努力工夫して仕事を続けた結果、認められキャリアアップしていったというお話。筆者によれば、米国社会は「頑張っている人を引き立てサポートする」という規範に基づき、日本社会は「頑張っても将来報われない」というペシミズムに根差している。そのことが政治や経済、教育や福祉等々、私も含めた多くの日本人が社会に不安を持ち、自信を喪失している所以であり、今こそ日本にはこの「頑張れば報われる」社会規範が求められていると解く。やはり努力に対しては、具体的な対価として何かインセンティブを提供することが、頑張るモチベーションには欠かせない。特に日本の将来を担う若い世代や子供たちに対して「希望」の持てる価値観や環境を与えてあげることが我々大人の責務であろう。

私はこれまでクルマノエホンで取り上げた絵本に対しては、極力ネガティブな紹介はしないようにしてきたつもりだが、本書については、子供たちに読ませる絵本としてあまりお勧めはしない。もちろん児童書らしくない物語展開は、文学作品の一つとして興味深い。ありきたりの絵本のつくりに飽きた方、人生の機微に触れてきた大人が読む絵本である。但し、あらゆることに疲弊し、悲観論に走りがちな現代日本の大人たちにはリアルすぎて重苦しい読後感を与えると思う。

作者の鶴見正夫氏は昭和後期~平成時代の童謡詩人、児童文学作家。1926年(大正15年)新潟生まれ。早稲田大学政経学部卒業。在学中より詩・童謡を、後に児童文学・小説も書き始める。’63年阪田寛夫らと童謡の創作運動の会「6の会」を結成する。’76年「あめふりくまのこ」で日本童謡賞。’91年サトウハチロー賞。’95年死去。ほかに詩集「日本海の詩(うた)」、少年小説「鮭のくる川」などの作品がある。作画の高橋透氏については「きゅうきゅうしゃびぴぽくん」を参照されたい。

CAT D4D
キャタピラー三菱製第一号ブルドーザーCAT D4D[3]

最後にクルマノエホン的な考察を一つ。ガンバのモデルのブルドーザーが何であるかは特定できなかったが、本書の初版は1982年。この時点でガンバは既に老兵だったわけだから、1970年代に活躍したブルドーザーがモデルではないかと予想した。本書の見開きにはガンバの構造図が描かれている。ここで注目したいのは無限軌道(条)、“キャタピラー”と言った方がわかると思うが、本書ではこのキャタピラーの用語を用いている。“キャタピラー”は米国キャタピラー社の商標登録、したがって他社製品では“キャタピラー”と表記しないはず。他社製の表現としては履帯とかクローラー、トラックベルトなどと呼ぶ[2]。ゆえにガンバは、コマツや日立のブルドーザーではなくキャタピラー社のブルドーザーがモデルではないかという結論だ。’63年に三菱重工業との合併会社キャタピラー三菱(現キャタピラー・ジャパン)を設立、’65年には国産化第一号機であるCAT D4D(上図)が完成している[3]。出目金ガンバはD4Dに少し似ているので、このモデルもしくはその後継機ではないかと想定した。

[参考・引用]
[1]“トトロ”でアメリカンドリームを掴んだ日本人教師 頑張っても報われない世の中で自らを売り込む心得 ― 処方箋⑩「ポジティブ評判」の形成は将来への投資と考えよ、渡部 幹、DIAMONDonline、2012年10月17日、
http://diamond.jp/articles/-/26409
[2]無限軌道、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E9%99%90%E8%BB%8C%E9%81%93
[3]会社概要、キャタピラー・ジャパンホームページ、
http://nippon.cat.com/cda/layout?m=220582&x=1
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Posted on 2012/10/28 Sun. 21:23 [edit]

category: picture books about automobile/クルマノエホン

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