Routemaster

相変わらず残暑が厳しい中、私は先週、夏風邪でダウン。熱帯夜の上、38度以上の高熱にうなされて完全に戦意喪失の1週間だった。日本領海も騒がしくうだる暑さのように不快な事ばかり。尖閣に対する日本外交の戦略のなさは「この国にサムライはいないのか」でも記事にした。韓国の方はもうあきれてコメントするのもバカバカしいが、個人的にはサッカーが好きなので、特にオリンピックを政治的に利用した彼らには憤りを感じざるを得ない。私もサッカー男子の日韓戦は事実上の“代理戦争”だとコメントしたが、それくらいの気概を試合で見せろといったに過ぎない。試合が終わればノーサイド、それがスポーツだ。試合は韓国の圧勝だった。この勝負は日本の完敗で終わりと思っていたのに、彼らの行為がこの試合、そしてオリンピックに泥を塗った。さて、そのロンドンオリンピックの余韻もまだ残るこの時期に、オリンピック特集でも紹介した絵本には必ず登場していた赤い二階建てバス、“ルートマスター(Routemaster)”について今日は勉強したいと思う。

馬車バス
馬車バス[7]

ルートマスターを理解するには、ロンドンの二階建てバス、ダブルデッカーの歴史を紐解く必要がある。ロンドンバスの起源はもちろん馬車。1829年にPaddington~City間で馬車による旅客運送が始まったのが起源とされるが、Thomas Tillingが馬車バスの運行サービスを開始したのが1850年、ロンドンの独立系馬車バス会社をまとめるために設立されたLondon General Omnibus Company(以下LGOC社)による運行サービスが開始されたのが1855年、日本でいえば幕末の頃である。二階建ては既にこの馬車バスの頃に登場している。人気を博した馬車バスであったが、輸送力不足のために当時の市民はバスの天井にまで乗っていたそうで、やむなく二階建車両が登場したのだそうだ[1][2]。

最初の二階建て自動車バス
Thomas Tillingによる最初の自動車バス[1]

ロンドンで初めての自動車によるバスの運行サービスが始まったのが1904年。Thomas Tillingの会社がガソリンエンジンで走る3台のMilnes-Daimler社製24馬力(18kW)の自動車バスを導入し、Peckham~Oxford Circus間のルートを運行させた。運転席は「ルートマスター」のようにエンジンの横に配置され、オープントップ(屋根なし)のダブルデッカーは、キャビン内に16名、トップデッキに18名の乗客を乗せることができた。信頼性の低い車両だったが、自動車が将来のバス輸送の主流になることを示した。結果的に10年後の1914年には馬車バスの運行サービスが終了した[3][4]。

Xタイプバス
Xタイプバス[4]

LGOC社もWalthamstowというところで車両製造を始め-Walthamstowのバス製造事業は、その後ルートマスターを製造することになるAssociated Equipment Company(以下AEC社)の前身である-、1909年に完成する。これはXタイプバスと言われ、エンジンの後方に運転席を持つ一般的なスタイルとなった。車体形状は馬車バスの名残があるものの、縦方向に長い座席が配置された。わずか1年のモデルだったが60台が製造された[4]。

Bタイプバス
Bタイプバス[7]

1910年にはより軽量で頑丈なBタイプバスがLGOC社から登場する。これは最初の信頼できる大量生産によるバスだった。このモデルは大成功し、3,000台以上が生産された。Bタイプは木製フレーム、スチールの車輪で、ウォームギアの駆動装置とチェーン式変速機を搭載。これらの特徴は次の20年間の商用バスのシャシーの先例となった。最高速度は当時の法定速度時速12mile(時速19km)を超える時速16mile(時速26km)だった。乗員は34名、キャビン内に16名、トップデッキに18名の乗客を乗せることができた。トップデッキには雨天用キャンバス・カバーが取り付けられた。電気照明は1912年から、ヘッドライトは1913年から導入された。また、第1次大戦では多くのBタイプが軍用車両に改造された[4][7]。

Kタイプバス
Kタイプバス[7]

次のLGOC社バスは1919年に導入されたKタイプである。この頃に最初のバス停が導入されている。それまでは乗客の要求に応じて停車していた。Kタイプは1921年までに1,050台が製造された。乗員は46名、キャビン内に22名、トップデッキに24名を乗せることができた。運転席はエンジンの後ろではなく、再び横に配置された[4][7]。動力性能では30馬力(22kW)の4.4L 4気筒エンジンと3速のチェーン式変速機を搭載[6]。

Sタイプバス
Sタイプバス[7]

1920年までには、この頃バスの製造事業では中核をなしていたAEC社によるSタイプが、ロンドン市内に54台導入された。これはKタイプより大型の56席の座席をもつ車両で、冬の間はトラムのようにトップデッキにカバーが施された[4][7]。

NSタイプバス
NSタイプバス(屋根付き)[7]

AEC社によって製造された新しいNSタイプは、1923年に導入され、1937年までに2,400台以上が生産された。より豪華となり、KタイプやSタイプのような木製の座席ではなく、家具のようなクッション入り布張りの座席が取り付けられた。さらに低床のシャシーは乗降を容易にし、バスの重心が低くなったことでトップデッキを(重い屋根で)覆うことを可能にした。1925年までに二階建てバスは、トップデッキが屋根で覆われるようになった。また、二階なしのバスにはすべて空気タイヤが導入されたが、1928年からは、すべてのバスに空気タイヤが使用された。これらの革新によってバス旅行も非常に改善された。1930年までに、運転席は囲まれたキャビンによって保護されるようになった。動力性能では35馬力(26kW)の5.1L 4気筒エンジンと3速のチェーン式変速機を搭載。新しいNSタイプは、多くのルートで旧式のBタイプから置き換えられた。そして1927年にはAEC社はLGOC社とパートナーシップを結ぶことになった[4][7][12]。

銀座パレードの2階建て赤バス
銀座パレードの2階建て赤バス

LOGC社は1960年代までバスを製造するが、バス製造はAEC社の中核事業となっていった。AEC社の基本設計や仕様は、数社あったバスメーカーの事実上のスタンダードとなり、ロンドンバス路線のほとんどがAEC社の赤色バスになった。そして1924年には、それまでバス事業者兼メーカーにより異なっていた配色が、赤色に統一され現在に至る[1][2]。余談であるが、先日のオリンピックメダリストの銀座パレードに使われた赤い屋根なしダブルデッカー、わざわざロンドンから輸入でもしたのかと思っていたら、もともと東京観光用に実際に運行しているスカイバスというものらしい。それにしても東京の観光バスを赤い二階建てバスにするなんて、なぜロンドンのマネをするのだろう?

STLタイプバス
現在のロンドンバススタイルの原型、STLタイプバス[7]

1932年には、AEC社によって製造されたディーゼル機関を動力源とするSTLタイプが、大量生産された。座席数は当初は60席だったが、すぐに56席に削減された。このデザインは、我々がよく知る「現代的な」ロンドン・バスの原型と考えられ、その後のダブルデッカーのスタンダードとなり、2,650台が製造された[4][7]。LGOC社を含むバス運行会社はその後、地下鉄会社とともに現在ロンドンの公共交通機関を管理運用しているロンドン交通局(TfL、Transport for London)の前身、ロンドン旅客輸送委員会(LPTB、London Passenger Transport Board)に統合され、1933年にはLPTBの管理下に置かれることになった。これ以降、地下鉄も含めロンドンの公共交通機関は通称の"LT(London Transport)"と呼ばれるようになる[4][8]。1935年にはLTがバス停留所を整備し始め、20世紀末までに、ロンドンには約17,000のバス停留所が設置された[4]。

RTタイプバス
ルートマスターの原型、RTタイプバス(写真はRTW)[7]

第2次大戦の勃発した1939年には「ルートマスター」の原型となるRTタイプが登場する。これはAEC社とLTによって製造された。車体はフレーム構造を持ち、8.8Lエンジンを搭載した最初のモデルは、戦時下でもあったため試験的に150台作られたのみだった。戦後の1946年にはマイナーチェンジが行われ、より大型の9.6Lエンジンが搭載された。RTモデルには、Leyland Titan社製の別のシャシーで作られたロングボディのRTLタイプと、標準全幅7ft6in(8.38 m)から8ft(2.447m)に拡幅したワイドボディのRTWタイプがある[4][7]。これらのモデルは6,956台生産され(RT:4,825台、RTL:1,631台、RTW:500台)、英国の別の地域や外国にまで供給された[9]。

RMタイプバス(「ブンブンどらいぶ」より)
RMタイプバス(「ブンブンどらいぶ」より

さていよいよ今回の主役、AEC社製バスで最も有名なRMタイプ、すなわち「ルートマスター」の登場である。ロンドンの顔ともいえるルートマスターは1954年にプロトタイプ車が登場、1959年に生産を開始し、1962年からはロンドン市内のトロリーバスに置き換えられていった。軽量化を目的にアルミ合金車体によるモノコック構造を採用、RTタイプの56席から、1階に28席、2階に36席の計64席に座席を増加させることが可能となった。その他、エンジンを前方に置き後輪を駆動するFRレイアウトを採用したため、後部に出入口を置くワンステップ構造を実現、パワーステアリングや前輪独立懸架、4速の完全自動変速機、油圧制御ブレーキなど当時としては先進的な装備の数々が施された。エンジンは115馬力(86kW)のAEC社製9.6LとLayland社製9.8Lの6気筒ディーゼルエンジンのいずれかが搭載された。全長7ft6in(8.38 m)、全幅8ft(2.447m)、全高14ft4 1⁄2in (4.38m)の標準モデルに対し、全長30ft(9.14 m)で72座席のロングボディRMLタイプ、長距離クルージング用の高速仕様RMCタイプなどの別バージョンも存在した[4][7][10][11]。

ロンドンのバス輸送は、1950年をピーク(1日に約800万人を輸送)に、ジリ貧になり始めていた。’60年代の高度経済成長期には、多くの人々が、ファミリーカーを所有するようになり、テレビの普及など人々のレジャー習慣の変化も、乗客数をさらに低下させた[4]。このようなモータリゼーションの変革期に登場したルートマスターは、旧いタイプの公共バスの最後の名車にふさわしい。ルートマスターは1968年までに2,876台が製造され、2000年代になると老朽化に加え、排ガス規制、バリアフリー、安全性などの課題に対応できなくなり、2005年12月8日に惜しまれつつ第一線を退いた[10][11]。

ルートマスター2012年モデル
ルートマスター2012年モデル[13]

しかし、ロンドンオリンピックの中継でもまだあの愛嬌のあるフロントマスクをご覧になったかと思う。路線バスからは引退したものの、同じ2005年からは観光用として2系統の「遺産ルート」で日中運行されている。まだ乗車したことがない私でも乗るチャンスはある訳だ。また、環境問題の深刻化とともに公共交通手段も再び見直されるようになり、2012年2月には新生ロードマスターが導入され、新たなロンドンの顔として活躍し始めている[11]。

ルートマスターをはじめ、ダブルデッカーが主人公で登場する絵本はたくさんあると思っていた。しかし、探してみるとこれが結構見つからない。真っ赤な車体色といい、ファニーフェースといい、絵本のモチーフとしては格好の題材だと思うのだが。気の利いた二階建てバス絵本の情報をお持ちの方は、是非教えて下さい。

[参考・引用]
[1]ロンドンバス、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%B9
[2]Buses in London、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Buses_in_London
[3]Thomas Tilling、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Tilling
[4]Buses、London Transport Museum、
http://www.ltmcollection.org/resources/index.html?IXglossary=Buses
[5]LGOC X-type、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/LGOC_X-type
[6]AEC K-type、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/AEC_K-type
[7]Models、The History Of And Information About The Double Decker Bus、
http://www.doubledecker-bus.com/models/
[8]London Transport、Wikipedia、
http://en.wikpedia.org/wiki/London_Transport_(brand)
[9]AEC Regent III RT、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/AEC_Regent_III_RT
[10]ルートマスター、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC
[11]Routemanter、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Routemaster
[12]1923 AEC NS bus – NS174、London Bus Museum、
http://www.londonbusmuseum.com/museum-exhibits/double-deck-buses/aec-ns-ns-174/
[13]The new London Routemaster launched、Engineering and Technology Magazine、2012年8月20日、
http://eandt.theiet.org/magazine/2012/08/replacing-an-icon.cfm
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