ハンドルコントローラー

ロジクール社製「GT FORCE Pro」

以前「ドライビングシート」の記事で素晴らしい白木のハンドルおもちゃを紹介した。愚息が小さい頃であれば購入を検討していたかもしれないが、小学3年生にもなるとよりリアルなものに興味が向く。リアルなハンドルおもちゃといえばバーチャルゲームの世界、リアルシミュレーションゲームソフトの雄、プレイステーション用グランツーリスモ(GT)の対応機器であるステアリングコントローラーなんかがその代表だろう。

我が家のゲーム機といえばDSのみ(当然2D)、Wiiもなければもちろんプレステもないし、今後買うつもりもない。私自身がデジタルのゲームにほとんど関心がないからだ。でもステアリングコントローラーについてはちょっと興味があって、ネットサーフィンをしていると嗅覚の優れる息子がまたまた目聡く察知してしまった。

おかげで年明け早々の彼の誕生日にステアリングコントローラーが欲しいと言い出す始末。しかしプレステがないのだからステアリングコントローラーを買っても無用の長物となる。だから極端な話、ドンガラでも良いわけだ。オークションを覗いても、完動品の中古ともなれば1万円以上で確実に落札される。そんな高い買い物はできない。であればジャンク品を狙えばよいと、ヤフオクのウォッチを続けるもののこれがなかなか出てこない。確かにゲーマーにとっては動作しないものを買ってもしょうがないのだが、子供のドライビング“ごっご”用に壊れたステアリングコントローラーを流用するといったニーズはないのだろうか。

疑似運転に興じる息子
疑似運転に興じる息子

誕生日プレゼントを数か月ウェイティングさせて落札したのが、ロジクール社製「GT FORCE Pro」のジャンク品だ。ハードOFFなんかでも怪しいジャンク品は見つけたのだが、これがかっこ良かった。ジャンクといっても見た目はきれいだし、シフトノブだけでなく、ABぺダルもちゃんと付く本格派。自動車業界の要請で生まれたといわれるハイブリット(ディンプル)レザーが貼られたステアリンググリップがリアリティを増長させ、高級感とスポーティさを醸し出す。ロック・トゥ・ロックも2.5回転(900度)と実車(スポーツカー)並みに再現。カタログによればハンドル入力に対して振動や反力が返ってくるフォースフィードバック機能も搭載されるとのことだが、動作確認できないのでこれは体感できない。ハードを手にすると本当のゲームをしたくなるのは世の常だが、息子には欲しかったら自分で小遣い貯めて買いなさいと言っている。とりあえず、Youtubeで見つけた車窓動画(これが結構いろいろあります。国道走行場面やらサーキット走行場面やら。)をフロントに、疑似ドライビングに興じている。

トヨタ ドライビングシミュレーター1 トヨタ ドライビングシミュレータ2
自動車会社の所有する最新のドライビングシミュレーター(トヨタ)[6]

ところでシミュレーターゲームによる臨場感は、実際の運転にどれくらい近いのだろうか。実車を操る人間(ドライバー)は、視覚情報やハンドル、ペダルからの入力情報だけでなく、シートや車体から伝わる振動、エンジンやスキール音といったサウンド情報、3軸方向(上下・前後・左右)の変位や加速度、3軸周り(ヨー、ロール、ピッチ)の変位や加速度といった車両挙動、さらに天候や路面状況のような環境情報などを五感や運動感覚でセンシングしながら、リアルワールドの場に存在している[1]。複雑に絡み合うこれら大量の情報を逐次フィードバックしながら、学習しながら我々は運転をしているが、シミュレーターを用いてこれら全ての情報を100%再現するのはとてつもなく不可能に近い。それは自動車会社が保有する最先端のドライビングシミュレーターとて同じことである。仮に全ての物理量が100%再現できたとしても、完璧なリアリティを再現することは今の技術では不可能だろう。それは人がシミュレーターの前に座った時点で、現実と非現実とに心理的な境界線を引いているからである。プレイヤーは最初から虚構の世界だとわかって楽しんでいる。だからゲーム上の擬似ドライビングには死に対する恐怖心が伴わない(これはリアリティを追及する上で致命的な欠陥だ)。衝突場面でリアルな衝撃Gを与えればよいのかもしれないが、本当に怪我をしたり死んでしまってはシミュレーター本来の役割を果たさない。ただSF映画「トータル・リコール」でも登場した装置のように脳(夢)に直接介入できれば完全なる錯覚は実現できるかもしれないが。


グランツーリスモ5のCG画像

とはいえ、最新のCGや制御工学など仮想現実の技術を駆使すれば、かなり現実に近い世界を再現できるようになったのも事実だ。グランツーリスモのCG画像のリアリティは驚愕に値する。フォースフィードバックの性能はゲームを体験したことがないのでわからないが、そのような現実に限りなく近づいたバーチャルな環境下で身に付けた運転の実力は、リアルワールドでも通用するのだろうか?という疑問に対する一つの答えがある。

「GTアカデミー」チャンピオン、ルーカス・オルドネス
「GTアカデミー」チャンピオン、ルーカス・オルドネス[7]

2005年、一人の英国日産社員があるアイデアを思いつく。彼はプロモーションイベントで40人のゲーマーをサーキットに招待し、フェアレディZなどを運転させた際、実際レースに出てもおかしくない運転スキルを持つゲーマーの存在に気付く。彼らの埋もれた才能を発掘できたら・・・。数年後、そのアイデアが現実のものとなる。欧州日産に異動したそのマーケティングマネージャー、ダレン・コックス氏は、プレステに挑戦的なドライバー養成プロジェクト「GTアカデミー」の構想を持ちかける。日産GT-Rと同じ時期に発表されたプレイステーション3「グランツーリスモ5(GT5)プロローグ」のバーチャル対戦を通じ、最後まで勝ち残った2人に、本物の24時間レース参戦の権利を与えるというものだ。欧州日産と欧州SONYのコラボにより2008年に第1回の選考会が開かれ、欧州各国から2万5000人のゲーマーたちが参戦した。そして勝利を収めたスペイン人の大学生とドイツ人のタクシードライバーが、厳しい実車での訓練を経て2009年のドバイ24時間レースに出場したのである。結果は「GTアカデミー」1期生、スペイン人学生のルーカス・オルドネスをチームメンバーに擁したレース車両がクラス9位で完走を果たした[2][3]。彼はその後、2011年ル・マン24時間レースの檜舞台で、LMP2クラスの表彰台(2位)に立つことになる[4]。

TVゲームの実力は本物のレースでも通用した。もちろん実車による過酷なトレーニングの成果によるところが大きいと思うが、「ルーカスが出した結果を、意外なこととは思っていない。実際のクルマの運転は、確かにゲームよりも複雑だが、速く走るために何をしなければならないのか、何をしてはいけないのか、そのあたりを学べるようにGT5は作られている。そのことをルーカスは証明してくれた」とグランツーリスモシリーズプロデューサーの山内一典氏は語る[3]。

「GTアカデミー」は2010年以降開催されていないようだが[5]、日本を代表する企業から生まれたこのプロジェクトの対象がヨーロッパのみで、本家の日本が対象とならなかったことは残念だが、モータースポーツ文化がこの国ではまだ醸成されていないということなのだろう。プロドライバーの育成方法としては極めて日本的で面白いと思うのだが。

プロドライバーにさせる気もないし、本人も全くその気はないであろう愚息も、運転免許を取る年頃になれば、プレステと新品のハンドルコントローラーを買って、GTソフトで運転の模擬練習をするのも良いかもしれない。10年後の自動車教習所の教材には、ドライビングシミュレーションゲームが当たり前になっていたりして。

[参考・引用]
[1]人工現実感の展開、藤本英雄・編著、コロナ社、1994
[2]GT academy、 日産モータースポーツホームページ、
http://www.nissan-motorsports.com/JPN/RACE/2009/GTACADEMY/index.html
[3]優秀ゲーマーが、リアルレーサーに!?欧州日産「GTアカデミー」ドバイ24時間レース参戦記(1)、クールエ・ジャポン、2009年3月24日、
http://xbrand.yahoo.co.jp/category/vehicle/2810/1.html
[4] GTアカデミーGTアカデミーのウィナー、ル・マンの表彰台に、gran-turismo.com、2011年6月16日、
http://www.gran-turismo.com/jp/news/d13224.html
[5]欧州日産、GTアカデミー出身者の今季活動を発表、AUTO SPORTS WEB、2012年1月30日、
http://as-web.jp/news/info.php?c_id=9&no=38792
[6]ドライビングシミュレーター、トヨタ自動車ホームページ、
http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/safety/concept/driving_simulator.html
[7]GTアカデミーチャンピオンの栄光を求める 24 ドバイの時間、Gamer、
http://www.elgamer.es/los-campeones-de-gt-academy-buscaran-la-gloria-en-las-24-horas-de-dubai/?lang=ja
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[ 2012/05/30 23:56 ] toys/おもちゃ | TB(0) | CM(0)

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