Watch It Work!-The Car

前回はメカニズムの入門書のことを書いたが、今回のクルマ絵本は自動車のメカニズムをわかりやすく学ぶことのできるポップアップ絵本“Watch It Work!ーThe Car”(Ray Marshall・作、John Bradley・絵、Sadie Fields Productions・企画・文)を紹介する。

本書には表紙カバー裏側に、表紙の写真の簡単に組み立て可能なクルマの立体紙模型がおまけで付いていたようなのだが、私が本書を古本で手に入れた際には欠落していた。残念!この模型と本書の中のメカニズムについては、特に生産車をモデルに描いた訳ではないと書かれているものの、FFの小型セダンと記されているし、カタチからみてもルノー・5(サンク)を参考にしていると思われる。角ばっているのでペーパークラフトにもしやすいしね。

キャブレターとデスビのしかけ絵
キャブレターとデスビのしかけ絵(“Watch It Work!ーThe Car”より)

初版が1984年なので、燃料供給装置が現在主流のインジェクター(燃料噴射装置)ではなくて、キャブレター(carburetor:気化器)なのはご愛嬌。ディストリビューター(distributor)、略してデスビのしかけ絵なんかもある。ディストリビューターとは、4サイクルエンジンでいえば「燃焼(爆発)」工程のタイミングで点火プラグに通電して点火させるための装置。上右図の円(筒)の部分がその装置で、エンジンの回転と同期したデスビシャフトを回転中心にデスビローターがくるくると回る。円筒(デスビキャップ)の内壁には気筒数分、この図では4気筒なので等間隔に4か所の電極があり、各気筒の点火プラグにつながっている。ローターの先端部にも電極を持ち、イグニッションコイルから高電圧電流が供給されている。したがってローターの電極と円筒内壁の電極が接触した際に点火プラグが点火する仕組みになっている[1]。4サイクルではクランクシャフトが2回転する間に1回点火するので、クランクシャフトの半分の速度でデスビローターが回転すれば点火のタイミングに合うことになる。これらのしくみまでは本書では表現しきれていないが、児童書にデスビの解説があるところが渋すぎる。

しかけ絵でエンジンの仕組みを学ぶ
しかけ絵でエンジンの仕組みを学ぶ

定番の4ストロークエンジン(日本的な4“サイクル”エンジンではなく、洋書なのでやはりfour-stroke engineと書かれている)における4行程(stage)の遷移や、各気筒が1/2周期(180°)ずつ位相がずれて動いている4気筒エンジンのメカニズムも、しかけ絵でわかりやすく説明されている。ちなみに日本語の吸入→圧縮→燃焼→排気行程は、英語表記でintake→compression→power→exhaust。色遣いがレゴのようにカラフルなので見ているだけで楽しい。

ラック&ピニオンのしかけ絵
ラック&ピニオンのしかけ絵(“Watch It Work!ーThe Car”より)

そして前回の「レゴのしくみで遊ぶ本」にも解説のあったステアリング機構(ラック&ピニオン機構)や、歯車がいっぱい登場して、なかなかわかりずらい変速機のしくみについては他のメカニズムに比べてかなり紙面を割いている。

変速の基本の考え方は、「レゴのしくみで遊ぶ本」でも実験をとおして説明されるギアの基本原理、
・小さいギアで大きいギアを回すと、スピードはダウンするが、パワー(トルク)はアップする。
・大きいギアで小さいギアを回すと、スピードはアップするが、パワー(トルク)はダウンする。
に基づく。これを式で表せば、
・スピードの倍率=入力側のギア歯数/出力側のギア歯数・・・(1)
・パワーの倍率=出力側のギア歯数/入力側のギア歯数・・・(2)
となる[2]。余談だが(2)式は一般にギア比と呼ばれるものだ。そこで(1)(2)式は次のようにも書き換えられる。
・出力側の回転数/入力側の回転数=1/ギア比・・・(1)‘
・出力側のトルク/入力側のトルク=ギア比・・・(2)‘
したがって、
・出力側の回転数=入力側の回転数/ギア比・・・(3)
・出力側のトルク=入力側のトルク×ギア比・・・(4)
で計算される。

変速に応じたギアの働き
変速に応じたギアの働き(“Watch It Work!ーThe Car”より)

さて、本書の解説によれば1速(ロー:黄)では入力側の歯数が最小で、出力側の歯数が最大のパターンとなる。(1)式に当てはめればスピードの倍率は最小で、(2)式に当てはめればパワーの倍率が最大になるので、最もパワー(トルク)が必要なスタート時のゆっくりとした発進に適している。2速(セコンド:青)では1速に比べて入力側と出力側のギア比は小さくなるので、スピードの倍率はやや増加し、パワーの倍率はやや減少することになる。3速(サード:赤)ではさらにギア比が小さくなるので、さらにスピードの倍率は増加、パワーの倍率は減少する。このパターンはゆるやかな坂道や市街地走行時に適している。4速(トップ:緑)では入力側と出力側の歯数は同じである。したがって、スピードとパワーの倍率は1、すなわち変わらない。これは一定速度での巡航走行時に適したパターンである。5速(橙)以上になると、3速までとは逆の入力側歯数>出力側歯数となる。つまりエンジンの回転数よりもスピードが速く、パワーは落ちるということになる。リバース(バック:紫)の場合は、入力側と出力側のギアの間にアイドラー(idler)と呼ばれる別のギアを挟み込み、入力側→アイドラー→出力側と動力が伝達されることで、出力側の回転方向が逆転するしくみである。

FR用5速MTの一般的な内部構造図 2速における駆動力の伝達経路
図1.FR用5速MTの一般的な内部構造図[3]、図2.2速における駆動力の伝達経路[3]

これらのギアの組み合わせパターンをシフト操作で切り換えるしくみがマニュアル変速機(MT)である。図1は後輪駆動車(FR)用5速MTの一般的な内部構造図(ニュートラル)である。インプット(Input shaft)、カウンター(Layshaft)、アウトプット(Output shaft)と3つのシャフトから構成されていて、インプットシャフトとアウトプットシャフトは同一直線上に配置されるが、ニュートラルの状態では連結されていない。インプットシャフトとカウンターシャフトは図1左端に配置された歯数が同じギアの噛み合い(緑)によって等速、等パワー(トルク)で動力が伝達される。カウンターシャフトには変速段数に応じた数のギアが付いている。インプットシャフトが回転すればそれに連れてカウンターシャフトが回転し、さらにアウトプットシャフトに付いている各前進ギアも回転する。しかし、カウンターシャフト上のギアは軸受を介してアウトプットシャフトに付いているので、ニュートラル状態では空転している。この空転するギアとアウトプットシャフトを連結するのがシンクロメッシュ(Synchro mesh)機構というもので、スリーブ(sleeve)と呼ばれるシンクロ歯を、シフト操作でアウトプットシャフト上にスライドさせることで、各変速ギア側のドグ(dog)と呼ばれるクラッチ歯に噛み合わせてロックさせアウトプットシャフトに動力を伝達するしくみである[3]。図2は2速での動力伝達経路を示しているが、スリーブが2速ギアに噛み合い(青)、インプット→カウンター→アウトプットシャフトの順に伝達される(破線部)。

前輪駆動車(FF)用4速MTの一般的な内部構造図
図3.前輪駆動車(FF)用4速MTの一般的な内部構造図(“Watch It Work!ーThe Car”より)

本書のしかけ絵では前輪駆動車(FF)用4速MTのしくみを表している(図3)。FRと異なってシャフトはインプットとアウトプット(またはカウンター)の2つのみ。インプットは変速機の全長を貫いており、FRにあるようなカウンターシャフトを直接回転させる独立したギアは存在しない。2番目のシャフト(カウンターまたはアウトプット)の出力端(図3の左側)に変速ギアとは別のギアがあり、そのギアを介して車輪(アクスルシャフト)に動力が伝達される。

FF1速における駆動力伝達経路 FF2速における駆動力伝達経路
図4.駆動力伝達経路(FF1速)、図5.駆動力伝達経路(FF2速)
FF3速における駆動力伝達経路 FF4速における駆動力伝達経路
図6.駆動力伝達経路(FF3速)、図7.駆動力伝達経路(FF4速)
(以上“Watch It Work!ーThe Car”より)

1速では1・2速用スリーブ(ギアセレクター)が左側にスライドして1速ギアを選択(3・4速用スリーブはニュートラル位置)、インプットシャフト上の一番小さいギアからアウトプットシャフト上の1番大きいギアに動力が伝達される(図4の黄)。2速ではスリーブが右側にスライドして2速ギアを選択(図5の青)。3速では3・4速用スリーブが左側にスライドして(1・2速用スリーブはニュートラル位置)3速ギアを選択(図6赤)。4速ではスリーブが右側にスライドして4速ギアを選択(図7の緑)することでインプットシャフトからアウトプットシャフトにギア比に応じた動力が伝達される(破線部)。

古い絵本なのでトルコンと遊星歯車から構成されるさらに複雑なATのしくみについては詳しく説明されていないが、今までちゃんと理解していなかったMTのメカニズムの基本も、このように動きのあるわかりやすい絵を見て文章に書き下してみることでより理解が深まった。でもしかけ絵やテキストで説明されるよりもレゴのような実際のモノベースで説明された方が子供たちにはもっとわかりやすいだろう。ポップアップ絵本で自動車のメカニズムをわかりやすく理解させようとした試みは賞賛に値するが(日本ではこのような絵本がなかなか見つからない)、書物の限界を感じた1冊でもあった。最近ではアニメーション動画という手もあるが、MT車が死滅している日本なのでそのような手法を使ってMTのしくみをわかりやすく説明する日本語サイトも見つけることはできなかった。

Ray Marshall
Ray Marshall

このポップアップ絵本のしかけを作ったRay Marshallは、紙工作のキャリアを1979年に彼の母国、英国でスタートさせる。この年に彼の友人でイラストレーターのKorky Paulとともに“The Crocodile and The Dumpertruck”というポップアップ絵本を手掛けた。1979年のフランクフルト書籍フェアで出版者Sheri Safranの目にとまり、Sheriは“The Crocodile…”の版権を手に入れて“The Car”の出版社でもあるSadie Fields Productionsから世界中に販売した。彼はロンドンの広告代理店のアートディレクターとしての職を捨て、ポップアップ絵本を自宅でデザインすることにした。この後、Korky Paulと一緒に様々なポップアップ絵本を出版する。1985年に英国の児童文学賞であるSmarties賞の第1回受賞作品を本書“The Car”が受賞する。“The Car”はWatch It Work!(はたらきを見てみよう)シリーズの第1作目であり、他に“The Train”と“The Plane”がある。彼は1980年から90年の間にポップアップ絵本を24作品デザインする。1986年にはサンフランシスコに移り住み、宣伝のためにポップアップ絵本の専門会社Paper Creationsを設立。1991年にRay Marshall Designを設立、グラフィックアート業に専念してポップアップ絵本から約20年間遠ざかる。家族の勧めもあって2008年に25作目となるポップアップ絵本“The Castaway Pirates”を上梓、この本で初めて文章も手掛けた。現在、彼は妻と2人の娘とともにサンフランシスコベイエリアに在住[4][5]。

[参考・引用]
[1]ディストリビューター、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC
[2]レゴのしくみで遊ぶ本、五十川芳仁、ソフトバンク パブリッシング、1999
[3]マニュアルトランスミッション、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
[4]BIOGRAPHY、Ray Marshall Making Pop-Ups、
http://raymarshall.com/about/
[5]Ray Marshall、Amazon.com、
http://www.amazon.com/Ray-Marshall/e/B001HP41SE/ref=ntt_dp_epwbk_0
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