日野レインボー 二つ目

いやいやバスの3ばんくん』で角ばった丸目二灯のバスは、日野自動車の中型バス「レインボー」の初代RJ系の特徴に似ていると書いた。1977年に日野自動車が、戦後長らく国産バスの主流であった「モノコック」構造に変わる「スケルトン」構造のバスを発表した。中型バス初のスケルトン構造となったのが、1980年に登場したこの日野レインボーの初代RJ系(写真)だった。「モノコック」だの「スケルトン」だのバスに様々な構造があることは、初代RJ系を調べるまでほとんど知らなかったのだが、本日はこのレインボーRJ系を絡めてバスの車体構造の変遷を少し勉強してみたいと思う。

私はこれまでバスのカタチは、最近昭和レトロ回帰で人気のボンネットバスか、一般的な箱型バスしかないと思っていた。しかし、バスの変遷、特に戦後のバスの歴史を調べてみると、終戦直後にはトレーラートラックをベースとした牽引式の大型バス、トレーラーバスと、運転席の前方にエンジンを設けた2ボックスタイプのバス、ボンネットバスが隆盛を極めた。

スクエアなカタチのバスには、上記のボンネットバスを改造して、運転席をエンジンの上方に配置したキャブオーバータイプのバスもあるが、1950年代以降になると絵本『ろせんばす』でも登場した屋根が“かまぼこ”形状のバスが主流となる。これらは四角い車体のリアやセンターアンダーフロアにエンジンを配置したモノコック構造のバスと分類される、私が幼少の頃の典型的バスのカタチである。そして1977年に日野が発表したスケルトン構造のバスが、現在に至る最新のバスのカタチである。正確ではないかもしれないが、戦後のバスのカタチには大きく、トレーラーバス、ボンネットバス、モノコックバス、スケルトンバスの4種類があると理解をした。それぞれについてもう少し解説する。

トレーラーバスT11B/T25型
トレーラーバスT11B/T25型[9]

トレーラーバスのベースであるトレーラートラック(牽引式トラック)は、運転席(トラクター)と荷台(トレーラー)が分離されたトラックである(『トラトラトラクター』参照)。輸送インフラもズタズタにされた終戦直後の混乱期においては、一度に多くの人を効率的に運べる大量輸送手段が求められた。その中で登場したのがこのトレーラーバスである。日野がトレーラートラックT10/T20型をベースとして荷台を客車に変えて1947年に開発したトレーラーバスT11B/T25型は、全長13.9m、車両重量14tで、最大乗車定員96名の大型バスであった。トラクターの長さだけでも5.5m、10.9ℓ、最大出力115PS(kW)のディーゼルエンジンを搭載した[2]。

このトレーラーバスの末路については我が住処、横須賀が関係している。1950年4月に横須賀市林交差点付近の県道鎌倉三崎線(現・国道134号)で、走行中の京浜急行電鉄(現・京浜急行バス)が運行するトレーラーバスの客車が全焼する事故が発生。焼死者16名、重軽傷者31名を出す大惨事となった(当時の神奈川新聞より)。直接の火災原因は乗客の持ち込んだガソリンへの引火のようだが、運転席と客席が分離されていた構造から運転士が火災に気付くのが遅れたことが、被害を拡大させた主要因と言われている。この事故によりトレーラーバスに対する安全性への疑問が生じたことと、更に単体式大型バスの量産が本格化した結果、以降トレーラーバスが使われることはなくなった[2][3][4]。

いすゞBX95型(?)ボンネットバスのがたぴしくん
いすゞBX95型(?)ボンネットバスのがたぴしくん(『がたぴしくん』より)

そのトレーラーバスにとって代わったのがボンネットバスである。古くから存在するタイプのバスだが、大型化が進むとその機動性の高さから50年代のバスの主流となった。ボンネットバスをモデルにした絵本も数多い。『がたぴしくん』(たしろちさと)、『ボンちゃんバス』(ひらのてつお)、『ツトムとまほうのバス』(にしかわおさむ)、外国ものでは『でっかいあかいバスがきた(原題“THE BIG RED BUS”)』(ジュディ・ハインドリー、ウィリアム・ベネディクト)などがある。戦後は燃料供給が容易で、経済性の高いディーゼルボンネットバスが発達する。「昭和ノスタルジー」でも紹介したいすゞのトラックTX系をベースにしたBX系のボンネットバスは非常に有名で、1949年に発表されたBX95型は、最大乗員62名と大型化が要求された当時のベストセラーとなる。“バスはいすゞ”の名前はこのバスの登場で定着した。前出の『がたぴしくん』のモデルはこのBX95型であろう。

キャブオーバーバス(1948年トヨタBM型)
キャブオーバーバス(1948年トヨタBM型)[10]

40年代後半に大型ディーゼルボンネットバスが全盛期となるが、輸送能力がさらに求められる中で、改良が進み始めたリアエンジンやセンターアンダーフロアエンジンの箱型の方が有利となった。過渡的にはボンネットバスベースにキャブオーバータイプの箱型バスが登場するが短命に終わり、50年代前半から我々世代がよく知るモノコックバスに車体構造が標準化されていった。モノコック構造とは外板と骨格をリベットで結合して(※)荷重をボディ全体で支える「応力外皮構造」を持つもので、現在のバスより窓が小さく、“かまぼこ”型の屋根が特徴的である[2]。そして室内を広く取るためにボンネットバスではフロントだったエンジンがセンターアンダーフロア、リアと移行し、最終的にリアエンジンが主流となってくる。

(※)乗用車に使用されているフレームレス「モノコック」構造とは区別される。

いすゞBU04
日野RE100三菱MR410
モノコックバスのロングセラーモデル
(上)いすゞBU04[11](下左)日野RE100[12](下右)三菱MR410[13](右下)
私にはどれも同じに見えるのですが、バスマニアの方にとってはそうではないんでしょうね。

リベット打ちのボディにかまぼこ屋根のリアエンジン「モノコックバス」は、昭和50~60年代に「スケルトンバス」が登場するまでバスの主役だった。昭和35年頃にこのスタイルが確立されたので、我々世代(50歳前後)にとって、ノスタルジーを感じさせるバスといえばボンネットではなくこのモノコックバスだ。バスマニア必須の雑誌『バスマガジン』ではボンネットバスほどクラシックではないという意味で「ネオクラシックバス」と呼んでいる[5]。昭和35年(1960年)以降のロングセラーモデル(路線バス)としては、いすゞのBU系、日産ディーゼルの4R・6R系、日野のRE・RC系、三菱のMR系などがある[2]。

日野RS120P型 スケルトン構造
(左)日野RS120P型(右)スケルトン構造(日野ガーラ)[15]

そして1977年に日野が発表した大型観光バスRS120P型「スケルトンバス」の登場によってバスの主役が入れ変わることになった。前述のようにモノコック構造はボディ全体に応力分担させる方法で、軽量化もできて強度・剛性上合理的ではあるが、窓を大きくできない欠点があった。一方、スケルトン構造は、骨格が全ての応力を分担する構造である。したがってモノコック構造よりも骨格を強固にすることが必要であり、重量増につながる懸念もあるが、角形チューブの採用によって軽量化を図っている。骨格と外板は単に溶接のみで張り合わせ、外板が応力の分担をしないので、開口部を大きくすることができるし、騒音や振動も少なく、リベットを使用しないのでデザインもすっきりするといった利点がある。これらのメリットは観光バスのニーズにぴたりとマッチした[2][6]。

初代RJのフロントフェース
二つ目と左右非対称のフロントガラスが特徴的な初代RJ

大型観光バスに続いて中型バスをスケルトン化したのが、1980年登場の日野レインボーRJ系である。路線バスとしては初めてのスケルトンバスであった。直線的なボディラインと左右非対称のフロントガラス、丸目二灯(通称”二つ目”)の採用は従来のバスのイメージを払しょくする斬新なデザインだったようである。RJ系には全長9mのK-RJ172AA型と全長8.1mのK-RJ170AAの2種類、路線向けに標準平床と低床の2種類、観光向けに標準段上げ床と高床の2種類と非常に多くのバリエーションを持った。希少ではあるが、富士重工業と西日本車体が架装した非純正ボディも存在する[2][7]。富士重ボディは丸目二灯がRJ系であることを物語っているが、フロントガラスは左右非対称ではない(ここのブログで日野ボディと比較してみよう)。そういえば『いやいやバスの3ばんくん』はフロントガラスが非対称ではない。そうするとこのモデルはRJ系の富士重ボディという非常にマニアックなバスだったのだろうか。

ところで、先月末に関越道で痛ましい観光バス事故が起こってしまった。被害者の方のご冥福と一日も早い回復をお祈り申し上げます。スケルトン構造とて100%安全なものではないということを示した事故(20年以上前の古いモデルとは聞いているが)だが、防音壁に面で接触、衝突していればもう少し被害は軽減できたかもしれない。本質的な原因はドライバーの過酷な労働条件、その背景には長距離ツアーバスの低料金化を支える無理なコスト削減が考えられる。しかし、技術的にも事故は防げなかったのだろうか。京都で通学途中の児童・妊産婦らに乗用車が突っ込むという悲惨な事故もあったばかりだが、これらの事故に共通するのは居眠りによる車線逸脱。自動車各社が商品化している技術にレーンキーピングアシストシステム(車線維持支援システム)というものがある。カメラで車線を認識して車線の逸脱が判断された場合、警報と自車を中央に戻そうとする操舵反力を運転者に加えるという装置だ。まだ高速道路や自動車専用道路の速度域で、カーブは非常に緩やか曲率までという使用制限はあるものの、すでに我々は購入することができる[8]。もしこの高速バスに搭載されていれば、尊い命は救えたかもしれないのだ。乗用車とバスという違いはあるが、高級乗用車以外に搭載するための最大のネックはやはりコストであろう。安かろう悪かろうではないが、価格が極端に安い場合は何かが犠牲になっていると思っていて間違いない。ユーザーもそのリスクを考えて今は自己防衛するしかない。メーカー側も最近の度重なる重大事故を目の当たりにして、このような技術の適用範囲拡大、コスト削減に一層力を注いでいかなくてはならない。

格安ツアーバスは安全か?
格安ツアーバスは安全か?[16]

前述したトレーラーバスの事故で法改正やバスのカタチや構造が変わっていったように、今回の事故を契機にツアーバスや高速バス業態の在り方や、新しいバスの構造・安全性能技術についての議論が活発になるであろう。

[参考・引用]
[1]日野・レインボー、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E9%87%8E%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%BC
[2]日本のバス年代記、鈴木文彦、グランプリ出版、2000
[3]トレーラーバス、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B9
[4]満員のトレーラーバス火だるま 一瞬焦熱地獄に、三浦半島・20世紀の事件簿、三浦半島へ行こう!、
http://miurahanto.net/20th/19500415.html
[5]永久保存版 昭和と走ったモノコックバス、バスマガジンspecial、三推社・講談社、2008
[6]バス(交通機関)、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%B9_(%E4%BA%A4%E9%80%9A%E6%A9%9F%E9%96%A2)#.E8.BB.8A.E4.BD.93.E6.A7.8B.E9.80.A0
[7]特集 日野レインボー・オールガイド、バスマガジン、Vol.22、三推社・講談社、2007
[8]LKAS、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/LKAS
[9]トレーラヒストリック・カー・アルバム、日野自動車ホームページ、
http://www.hino-global.com/j/link/autoplaza/historiccar/index.html
[10]トヨタ博物館に戦後間もなく作られたバスが来る、トヨタ博物館ブログ、2007年3月20日、
http://gazoo.com/G-Blog/tam/11095/Article.aspx
[11]いすゞ・BU、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%81%99%E3%82%9E%E3%83%BBBU
[12]日野・ブルーリボン、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E9%87%8E%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%9C%E3%83%B3
[13]三菱ふそう・エアロスター、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%8F%B1%E3%81%B5%E3%81%9D%E3%81%86%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC
[14]日野・セレガ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E9%87%8E%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AC
[15]バスマニアの基礎知識、津島孝、谷川一巳・共著、第6章バスのメカニズムに詳しくなる、p128、以下ロス出版、1998
[16]高速ツアーバス「安さには代えられない」、香川ニュース、四国新聞社、2012年5月2日、
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/social/20120502000142
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