化石のたのしみ

化石のたのしみ

先日帰宅すると、息子が「パパ、パパ、ちいじいが化石!」と訳のわからないことを叫びながらすっ飛んできた。何事が起こったのかと部屋に入ると、床に大小様々な石が広げられていた。それらはちいじい(義父)が子供たちに譲るために実家から持ってきた化石や鉱物の数々だった。義父が昔ドイツに駐在していた頃、買い集めたもので、引っ越し(今春、沼津から横須賀に越してくることになった)を機に、孫たちにくれたのだ。化石がよく採れるドイツ(世界遺産にもなっている化石産出の地域なんかもある!)では、蚤の市などでも化石がよく売買されているのだそうだ。進研ゼミのご褒美で小さな化石を幾つかもらっていた愚息はこのサプライズに大喜び。資源開発工学科OBの私もその昔“石“の勉強をしたはずなのだが、「これはなんていう石?」と聞かれてオドオド。それでも”石“と聞くとワクワクするのは、昔取った杵柄と無関係ではあるまい。


アンモナイトや三葉虫、草木や魚貝類など王道の化石が多く、なかなか状態も良い。ほほうと思わず私も笑みがこぼれる。しかしラベルの残っていない標本や、残っていても剥がれていてどの標本のものかわからなかったり、ラベルに書かれた学名やドイツ語もちんぷんかんぷん。本好きの私はさっそく図書館で化石の図鑑を借りてきたり、さらにネットで検索すると面白そうな化石の読み物が見つかった。小学生向けから大人向けまで古本を何冊か購入して、今回いただいた化石の身元を洗ってみることにした。

小学館入門シリーズ89 化石入門 たのしい化石採集

家にあったものもあるが、参考にした本は以下のとおり。
・小学館入門シリーズ89 化石入門、浜田隆士・著、小学館、1980年…小学生向け
・たのしい化石採集、井尻正二・石井良治・共著、築地書館、1986年…小学生高学年~中学生向け
・化石、井尻正二・著、岩波新書、1968年
・原色学習ワイド図鑑12 岩石・鉱物、尾崎 博・監修、学研、1972年
・化石のたのしみ、若一光司・著、山本一身・画、河出書房新社、1987年
・[示準化石ビジュアルガイドブック]化石図鑑~地球の歴史をかたる古生物たち~、中島 礼・利光誠一・共著、誠文堂新光社、2011年

まずテキスト情報の残っている標本については、文明の利器、WEBで謎の文字を解読していった。こういった類の情報量、検索の速さはさすがインターネットである。化石とは地質時代、地球の岩石ができてからの長い時代(今から約1万年から30数億年前の間)においての生物の栄枯盛衰を語ってくれるエビデンス(証拠)である。太古の生物が死んで腐敗する前に地層や岩石の中に埋まると、次第に石のように固くなる。石のように硬くなるには数百万年の時間経過が必要なので、現在採取される化石は少なくとも今から数百万年以上も前に生存していた生物が石化したものである。よく知られるアンモナイトや三葉虫などは、ある特定の時代幅にだけ生息していたので、このような化石は「示準化石」と呼ばれ、見つかった地層の地質時代を特定することに役立つ。その地質時代が実に細かな時代幅で区別されていることはおぼろげな記憶があったが、今回改めて調べてよくわかった。

地質時代区分
地質時代区分[1]

地質時代を古い順に大きく分けると次のようになる[2]。(上図参照)
■先カンブリア時代(Precambrian、46億年-5.42億年前):バクテリアといった微生物や藻類の化石が見られる。
■古生代(Paleozoic era、5.42億年-2.51億年前):三葉虫やアンモナイト(アンモノイド類)の化石が代表的。
■中生代(Mesozoic era、2.51億年-6550万年前):恐竜で有名なジュラ紀や白亜紀はこの時代。
■新生代(Cenozoic era、6550万年前-現代):恐竜が絶滅し、哺乳類や鳥類が台頭してくる時代。

今回いただいた化石は身元がわかった範囲でも「古生代カンブリア紀中期」から「新生代新第三紀中新生」までと実に幅広い。約5億年前から数百万年前の気の遠くなるような古代の生命の足あとを刻んだものだった。そんなものを身近に手で触れられるなんてちょっと不思議な感覚を覚えた。

以下に手に入れた標本を古い時代順にいくつか紹介しよう。
まずは、その5億年前の生物が生きた証。三葉虫類(Trilobite)のエルラシア・キンギィ種(Elrathia kingi Meek)。アメリカで最もポピュラーな三葉虫類で、この標本もユタ州産のもの。保存されにくい頭部の両側「自由頬(きょう)」はきれいに残っていて、その美しさに思わず見とれてしまう。時代は古生代カンブリア紀中期(シリーズ3、Middle Cambrian)で約5.21億年前-約4.99億年前のもの。

エルラシア・キンギィの化石 三葉虫のからだ
(左)三葉虫類エルラシア・キンギィの化石(右)三葉虫のからだ[6]

次に古いのはサンゴ類(Corals)のコロニー化石(coral colony)。時代はシルル紀(Silrian)ウェンロック世(Wenlockian)で約4.28億年前-4.23億年前のもの。スウェーデンのゴットランド(Gotland)島産。ゴットランド島は全島がシルル紀の化石サンゴ礁から構成されていることから昔はシルル紀をゴットランド紀とも呼んでいたそうだ[3]。余談だが、ゴットランド島は宮崎駿監督の映画『魔女の宅急便』のロケ地の一つだそうだ[7]。

サンゴ類のコロニー化石 ゴットランド島
(左)Gotland産サンゴ類のコロニー化石(右)Gotland島の中心都市、美しいVisby

次は再び三葉虫類のファコプス・ラナ種(Phacops rana)。生息時代は古生代デボン紀(Devonian)で約4.16億年-3.59億年前のもの。先のエルラシア・キンギィと違って、一部が欠損した不完全標本であるが、全身が盛り上がった力強いフォルムに複眼が見事に観察できる。産地は不明だがたぶんアメリカ産。

ファコプス・ラナの化石
三葉虫類ファコプス・ラナの化石

中生代のジュラ紀前期リアス(Lower Jurassic=Lias)プリンスバッキアン世(Pliensbachian)の化石は、この時代の代表化石アンモナイト(アンモノイド類、Ammonoids)のアマルテウス種(Amaltheus margaritatus)で、約1.90億年-1.83億年前のものである。ドイツのシュツットガルト産。表面が艶やかで非常に美しい。

アマルテウスの化石
アンモノイド類アマルテウスの化石

少し時代は進んで同じジュラ紀前期リアス、トアルシアン世(Toarcian)のアンモノイド類の化石。ダクティリオセラス種(Dactylioceras)のアンモナイトで約1.83億年-1.76億年前に生息した。英国のヨークシャー州産。面白いのはこの化石が上部半分ずつに分かれ、貝殻の凸凹がきれいに噛み合わさって一つの石になっていること。開いたときの化石の表面は光沢があり隔壁の幾何学的文様が美しい。観賞用としても価値のある標本。

ダクティリオセラスの化石
アンモノイド類ダクティリオセラスの化石

もう一つ、アンモノイド類の標本がある。ハーポセラス種(Harpoceras Lythense)の化石で時代はジュラ紀前期リアス(約1.99億年-1.76億年前)のもの。石は約25cm四方、厚さ約2cmのずっしりと重いもので、アンモナイトの直径も約15cmの完全標本である。化石が多産することで世界的に有名なドイツのホルツマーデン(Holzmaden)周辺の地層「ポシドニア頁岩(けつがん)」(Posidonien-Ölschiefer)[4]」産である。

ハーポセラスの化石
アンモノイド類ハーポセラスの化石

別の大きな標本で唯一高等生物である翼竜の全身化石があったのだが、残念ながらレプリカだった(Reproduktion, nach dem “ORIGINAL”.さすがにこのドイツ語は理解できた)。でも興味深いその複製品のモデルは、ジュラ紀後期に存在した翼竜の一種、ランフォリンクス(Ramphorynchus gemmingi)。体長は40cmから50cmほどで、体の大きさに対してかなり長い尻尾が特徴的。本物だったらけっこうお宝だったりして。

ランフォリンクスの化石のレプリカ ランフォリンクスの想像図
(左)翼竜ランフォリンクスの化石のレプリカ(右)ランフォリンクスの想像図

時代はさらに進み新生代へ。ウニ類(Encops Califorunicus)の幼生化石は、約5580万年-3390万年前の古第三紀(Paleogene)始新生(Eocene)のものでメキシコ産。

ウニ類の幼生化石
ウニ類の幼生化石

淡水に生息したニシン科の仲間ナイティア種(Knightia eocenica)は、もっともポピュラーな魚化石の一種で、古第三紀始新世(約5000万年前)のもの。米国のワイオミング州から大量に発見されることで知られているが、この標本もワイオミング産。

ナイティアの化石
ニシンの仲間ナイティアの化石

同じく第三紀始新世ルテシアン世(Lutetian)時代(4860万年前-4040万年前)の化石として、ネズミザメ目の歯(Odontaspis macrota)もあった。ドイツのニーダーザクセン州(Niedersachsen)産。

ネズミザメ目の歯
ネズミザメ目の歯の化石
Odontaspis macrota
Odontaspis macrota

新第三紀(Neogene)中新世(Miocene)の化石としては、同じサメ科のイタチザメ目(Galeocerdo)の歯もあった。時代は2303万年前-533万年前のものでベルギー産。

イタチザメ目の歯の化石
イタチザメ目の歯の化石

他にも時代は特定できなかったが、ツリテラ(Turritella Badensis)と呼ばれる巻貝類の一種や、ローデシア産の木目が美しい珪化木(petrified wood)、シダ類なのか海藻類かもわからない植物化石などここでは紹介しきれない。

ツリテラの化石 珪化木 植物化石
(左)巻貝類ツリテラの化石(中)珪化木(右)植物化石

メノウ(瑪瑙)やオーケン石、水晶にアメジストなどの鉱物もいただいた。そういえば私の実家にも確か黄鉄鉱や石炭石、石灰岩などの王道の鉱石が眠っていたはずだし、道路公団OBの父が携わったトンネル建設工事の際に出た記念の石などもあった。今度九州に帰省した際には、これらも教材としていただくことにしよう。

週末にホームセンターで仕切り版のあるツールボックスを購入し、息子と二人でこれらの石を整理・大事に保管した。別に高価なお宝はないと思うけど、地震があっても大丈夫なように、しっかりと緩衝材で包む。だいたい全体概要をつかんだところで、先に入手した関連書籍をじっくり読み始めようと思う。そしてたまに石を取り出して眺めるもよし。夜な夜な“石”を酒のつまみになんて怪しすぎるか。ハンマー片手に化石採集なんかも面白そうだ。愚息もこの非日常的な石との出会いをきかっけに、科学へ興味をもってもらいたいと思う。何十億年もの間、連綿と生き続ける母なる大地の息吹きが聞こえるのか、その地球の一部である石を眺めたり、触ったりしていると実に心が落ち着く。東日本大地震から1年。化石という新しい楽しみが増えたと同時に、生きている地球に対する畏敬の念を改めて感じざるを得ない。

[参考・引用]
[1]示準化石と示相化石、出雲の地質、
http://homepage2.nifty.com/izumonotisitu/kaseki02.htm
[2][示準化石ビジュアルガイドブック]化石図鑑~地球の歴史をかたる古生物たち~、中島 礼・利光誠一・共著、誠文堂新光社、2011年
[3]ゴットランド島、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%B3%B6
[4]恐竜が生きた時代の痕跡、
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/7273/Posidonien/germ2.html
[5]Ramphorynchus、KidsDinos.com、
http://www.kidsdinos.com/dinosaurs-for-children.php?dinosaur=Rhamphorhynchus
[6]原色学習ワイド図鑑12 岩石・鉱物、尾崎 博・監修、p97、学研、1972年
[7]ゴットランド島、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%B3%B6
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[ 2012/03/12 23:26 ] bookshelves/本棚 | TB(0) | CM(0)

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