ろせんばす

今年はバスの絵本にも少し目を向けようと思う。私の手元にある「バスの缶詰」という本を編集した“日本バス友の会”という熱い愛好家団体があるくらいだから、バスだけで一つの世界が語れそうだが、その手始めに、クルマノエホンではお馴染み、忠敬画伯の「ろせんばす」(山本忠敬・作、年少版・こどものとも、通巻30号、福音館書店)を紹介する。

主人公は団地と駅前を行き来する「ろせんばす」。団地前から駅前へバスが向かう道すがら、ごみの収集や工事現場、救急車のサイレン、踏切や商店街など日常のありふれた景色と擦れ違うクルマの数々。クルマの絵本としてはよくあるパターンなのだが、山本画伯のイラストは写実的に関わらず線の書き込みは必要にして最低限、無駄がない。ポップな色使いと合わせて自動車が実にうまく図案化されている。いつ見てもその表現力は見事としかいいようがない。

ろせんばす その1

40年以上前、私も幼少の頃、団地族だったので、本書の親子のように“おめかし”して駅前のデパートに出かけるのに路線バスをよく使った(当時デパートに買い物に行くのは一大イベントだった)。まだ商業施設に立体駐車場などのパーキング施設が充実していない時代だ。長椅子に座って、靴を脱いで、窓側を向いて正座しながら外の景色を眺める。ちょうどこの絵本のような風景を見ていたのだろう。

ろせんばす その2
ろせんばすと京成”赤電”?(「ろせんばす」より)
京成赤電モハ3004
京成赤電モハ3004[3]

絵本の舞台にモデルはあるのだろうか。踏切のシーンで登場する準急列車は、京成電鉄の通称“赤電”、上部モーンアイボリー・下部ファイアーオレンジにミスティラベンダー帯を配した初代モハ3000形ではないだろうか。正面上部中央に白熱タイプの前照灯1灯が配置されているのが特徴的[3]。とするとバスは京成バスか?主人公のバスのモデルは、日野やいすゞ、日産ディーゼル、三菱製などいろいろ考えられるけど、どれも似たり寄ったりで区別がつかぬ。バス会社によっては独自の車体も作っているようなので、まさに百花繚乱。京成バスについては京成ボディーの面白さと謎?という記事があったのでそちらをご参照[4]。

京急路線バス
京急路線バス

さて、拙宅の近所の路線バスといえば、京急(京浜急行)バスだ。ごくたまに使う路線はJR田浦駅行き。本書の駅前に比べれば実にしょぼい場末の駅だ。通勤も含め、移動手段は基本クルマか電車なので路線バスを使うことはほとんどないし、バスをよく利用していたのはずいぶん昔のこととなった。

大学時代も下宿と学校の往復は徒歩。私の住んでいたのはこの4月で政令指定都市に移行する熊本市内だったけど、たまに中心街に出る場合もチャリンコで十分な小さな街だった。ただ福岡の実家に帰るときは、高速バスをよく利用していた。その際の起点終点は日本一のバスターミナルと言われる「熊本交通センター」。前出の「バスの缶詰」によれば規模が日本最大。もちろん高速バスだけでなく、路線バスも乗り入れている。4つのプラットフォームに36のバース(※)を持ち総面積は2万km2弱[1]。発着便数も約5,700便で九州一。乗降客数は1日当たり4万人[2]。確かに巨大なターミナルだった。

西鉄路線バス 神奈川中央交通路線バス
(左)西鉄路線バス(右)神奈中路線バス

路線バスを通学に使っていたのは高校生時代。ちょうど本書の初版が出た頃(昭和50年代前半)だ。自宅の最寄のバス停から福岡の西新というところにある母校まで通っていた。福岡市内の路線バスは西鉄(西日本鉄道)バスであるが、このバス会社は、バスの保有台数日本一なのだそうだ(3,000台以上)。西鉄は本書のバスと同じ赤と白のカラーリングなので、懐かしさを感じたのはこのせいかもしれない。ちなみに第2位は現在私が住む神奈川県の神奈川中央交通[1]。通称「神奈中(かなちゅう)」と呼ばれ、勤務先周辺の路線バスはこれだ。

さて話はその当時に遡る。今まさに受験シーズンであるが、私の志望校は地元福岡の由緒正しき名門校SY館高校だった。福岡ではこのSY館から同じ地元の九州大学に進学できると「親孝行ばしたねー」と言われる。しかし私はこのSY館にも九大にもすべってしまい“親不孝者”となった(笑)。私の母校はあろうことかその不合格となった高校の当時はすぐ裏手にあった西南学院というミッションスクールだった。この学校は県立高校の滑り止めといったポジションで、SY館も含め15の春に地元の県立志望校を落ちた、心に深い傷を負ったものばかりが集う。おまけに、男子校(現在は男女共学)という悲しき現実も追い打ちをかける。

六光星セーラー服
“六光星”はエリートの証

通学バスの中には、当然SY館の生徒たちも一緒に乗り込む。男子は詰襟で外観上の差はよくわからないが(顔は明らかにSY生の方が賢そう)、女子はセーラー服の後ろ襟の両側に博多の人なら誰もが知るSY館の校章、ダビデの星型“六光星”が刺繍されている。これが実に目立ち、我々西南生にはまばゆいばかりの光を放っていた。この六光星を普通に見られるまでにずいぶん時間を費やしたと記憶している。

最寄りのバス停はこれまた「SY館高校前」。バス停を降りた多数の高校生たちがそこで二手に分かれる。当時は「奥の院の方が本校だ」と笑うに笑えないギャグを飛ばしていたが、特にSY館を落ちた西南生はコンプレックスを抱きながら3年間通っていたのだ。神様は罪なことをする。

つまらぬことをカミングアウトしてしまったが、このように路線バスというと、私の中では高校時代の屈折した青春が思い浮かんでくる。でも決して後悔している訳ではない。毎日チャペルで行われていた礼拝(先日BSで放送されていた”「100年への響き」~福岡で育む一粒の麦”という番組でOBのミュージカル俳優、井上芳雄さんが懐かしいチャペルを紹介していたのを見た)、聖書講読に讃美歌の斉唱も当時は訳のわからない行事の一つであったものの、(現在も信者ではないが)グローバル基準では一般的な宗教を通じた人間教育が、少なからず私の人格形成にプラスの影響を与えたのだろうと思って感謝している。

たまには路線バスにでも揺られて、のんびり人生のことを振り返ってみてもよいのかもしれない。

西南学院の赤煉瓦チャペル(現西南学院大学博物館)
西南学院の赤煉瓦チャペル(現西南学院大学博物館)

(※)バース:バス・タクシーの発着場

[参考・引用]
[1]バスの缶詰、日本バス友の会・編、トラベルジャーナル
[2]熊本交通センター、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%8A%E6%9C%AC%E4%BA%A4%E9%80%9A%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC
[3]京成初代3000形(赤電)、京成電鉄を探るWEB、
http://hinofukin.net/KDK3050/index.htm
[4] 京成ボディーの面白さと謎?、BUS & RAIL、
http://homepage3.nifty.com/qhayashi/khfile54.htm

バスの缶詰バスの缶詰
(1996/07)
日本バス友の会

商品詳細を見る
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事