Aston Martin V8 Series3

12月末に発売されたトヨタの小型ハイブリット車「アクア」の国内月間受注台数が10万台超えの勢いなのだそうだ[1]。販売好調の要因はもちろん燃費35.4km/Lの環境性能が大きいと思われるが、今回勉強するクルマの燃費は4.6km/L[2]。前回のクルマの絵本“Making a Car”でモデルとなったAston Martin V8である。あのフェラーリでさえもハイブリット車を開発する[3]このエコな時代においては、もはや完全に遺物と化したこの英国の名車について調べてみた。

‘60年代、アストンファンは何年もV型8気筒エンジンを待ち望んでいた。そしてそのパワフルなエンジンを載せられるように、アストンマーチン・ラゴンダ社は巨大な2ドアサルーンを設計したが、エンジン開発が間に合わず、’67年にDB6の直列6気筒エンジンを搭載したDBSを先行リリースする。それから遅れること2年、これを最後にアストンを退社した主任技師Tadek Marek設計によるV8エンジンは完成、DBS V8が万を期して登場する[4]。「アストンマーチンDBS」でも紹介したようにこれが往年のTVドラマ「ダンディ2華麗な冒険」で英国貴族シンクレア卿が乗り回す粋なクルマのモデルである。

Aston Martin DBS V8
Aston Martin DBS V8

実はこのDBS V8が、シリーズ5まで続いた本日の主人公“Aston Martin V8”の初代(シリーズ1:1969-72)とされ、405台が生産された[5]。1972年の経営破綻により経営権がオーナーDavid Brown(DB)の手から離れたのを機に、DBシリーズの冠が外れシンプルにV8と呼ばれた。フロントデザインも4灯のDBSから2灯へと一新される。このフロントマスクとV8エンジンを収めるロングノーズのスタイリングは、一見するとフォード・マスタングにも似たちょっとお下品な雰囲気を醸し出している。多分にアメリカのマーケットを意識していたものと思われるが、これが古き良きアストン倒産後のどん底時代のシリーズ2(1972-73)である。技術はDBSを継承しているので「最後のアストンマーチン」と言われているらしい[6]。

Aston Martin V8 Series2
Aston Martin V8 Series2

その後ほぼ同じスペック、外観でシリーズ3(1973-78、冒頭写真)、シリーズ4(1978-86)とマイナーチェンジされ、シリーズ5(1986-89)までを“Aston Martin V8”と定義しているが、細かく言うとこの標準モデルをV8サルーン(スタンダード・クーペ)と呼び、これをベースとした派生車種をV8ヴァンテージ(ハイファフォーマンス・クーペ)、ヴォランテ(スタンダード・オープン)、ヴァンテージ・ヴォランテ(ハイパフォーマンス・オープン)として区別している[7]。しかしこの間、経営陣は目まぐるしく変わっているので[8]、ある意味V8は「悲劇のアストンマーチン」と言えるかもしれない。生産台数はバンテージ、ヴォランテ含めて20年間で4,021台[4]というからさすがに希少価値は高い。

Aston Martin V8(1973)その1 Aston Martin V8(1973)その2
Aston Martin V8(1973)

Ford Mustang Grande
Ford Mustang Grande

エンジンは、名前が示すとおり5,340ccの水冷V型8気筒エンジンを搭載。V8エンジンにDOHCという当時としてはかなり贅沢な設計であった。重量は1.8トンを越えるも最高出力はロールス-ロイスと同様公表していないが280 bhp(209kW)~340 bhp(254kW)といわれ、最高速度は160 mph (257 km/h)と泣く子も黙るモンスターマシンであった。現代のクルマのようなストイックさの欠片もない。トランスミッションはZF製の5速マニュアルが標準であったが、ほとんどすべてのV8はクライスラー製3速ATがオーダーされた[2]。

Aston Martin V8 Series4
Aston Martin V8 Series4

燃料制御はシリーズ1、2が燃料噴射式(フューエルインジェクション)だったのに対し、シリーズ3、4では時代に逆行して気化器式(キャブレター)になるのだが、シリーズ5で再び燃料噴射式に戻っている。キャブレターへの変更は、ボッシュ製燃料噴射装置の排気浄化性能とメンテナンス性の悪さによるものだったようだが[5]、安定しない経営環境の影響も大きかったのだろう。燃料噴射式に戻ったのは、'87年にアストンがフォード傘下となった時期である。この燃料制御装置の変遷は、外観の差にも表れている。シリーズ3ではこの4基のウェーバー製キャブレターと巨大なエアクリーナーの干渉をクリアするために、ボンネットのパワーバルジ(※1)が開口部のある大きなものに拡大された。シリーズ4では塞がれて縮小されたが、バンパーにオーバーライダー(※2)が付けられた[5]。

巨大なパワーバルジ
巨大なパワーバルジの付いたボンネットを磨いているところ(”Making a Car”より)

前回のクルマの絵本“Making a Car”の初版は1974年なので、モデルはシリーズ2か3ということになるが、巨大なパワーバルジが確認されることからシリーズ3と思われる。スーパーレジェッラ工法(※3)による細い鋼管にアルミパネルを手作業で溶接した超軽量ボディは、22層もの塗装が施されていた[9]。やはり塗装にかける手間暇は半端ではない。

Bond Car_Aston Martin v8 Vantage
Bond Car_Aston Martin V8 Vantage

DBS V8が前出「ダンディ2華麗な冒険」で使われているが、V8ヴァンテージやヴォランテがティモシー・ダルトン主演の「007/リヴィング・デイライツ」でボンドカーとして登場する。「ゴールドフィンガー」「サンダーボール作戦」でのDB5、「女王陛下の007」でのDBS、「ダイ・アナザー・デイ」でのV12ヴァンキッシュ、そして「カジノ・ロワイヤル」でのDBS2007年モデルなど、アストンマーチンはジェームズ・ボンドに欠かせないアイテムとなっている[11]。

(※1)パワーバルジ
エンジン部品がボンネットに干渉するのを防ぐためのボンネット上の膨らみのこと
(※2)オーバーライダー
縦列駐車の時に、前や後ろの車に多少当たっても問題ないようにするバンパーの緩衝部分
(※3)スーパーレジェッラ工法
レジェッラとはイタリア語で軽量の意味で、ミラノの老舗カロッツェリアであるツーリングが得意とし、特許を持っていた車体工法。鋼板溶接組み立てのプラットホームの上に、ボディー形状をかたどった小径鋼管のマルチチューブラーフレームを建て、それに板金加工したアルミ薄板の外板を被せ、アルミリベットで固定する構造。車体表面のリベットや継ぎ目はパテで埋められる。鉄とアルミのイオン化傾向の違いにより発生する電位差による電食を防ぐため、フレームと外板の間には絶縁紙をはさみこんでいた[10]。


[参考・引用]
[1]トヨタの小型HV「アクア」、1か月で10万台、読売新聞、2012年1月21日、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120121-00000532-yom-bus_all
[2]ASTON MARTIN V8、世界の名車、クウェンティン・ウィルソン、デイヴィッド・セルビー共著、いのうえこーいち監修・訳、講談社、1996
[3]【2010ジュネーブショー】 フェラーリ、ハイブリッドカー「HY-KERS」を開発 F1技術を活用したハイブリッド実験車、田中真一郎、Car Watch、2010年 3月 5日、
http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/2010Geneve/20100305_352736.html
[4]Aston Martin V8、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Aston_Martin_V8
[5]自動車アーカイヴ Vol.7 70年代のイギリス車篇、p108-112、二玄社、2000年
[6]ご当地中華の悲哀、走ってナンボ、2009年8月2日、
http://ig510190.blog83.fc2.com/blog-entry-639.html
[7]ASTON MARTIN・V8 VANTAGE VOLANTE、  
http://homepage.mac.com/caesar5/caesar/OTHER/89ASTONV8VO/89ASTONV8VO.htm
[8]アストン・マーティン、JOLLYBOYの図書室へようこそ!、2006年11月26日、
http://www.ne.jp/asahi/happy/jollyboy2/car72.htm
[9]アストンマーチンV8、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%BBV8
[10]フレーム形式(自動車)、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%BD%A2%E5%BC%8F_(%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A)#.E3.82.B9.E3.83.BC.E3.83.91.E3.83.BC.E3.83.AC.E3.82.B8.E3.82.A7.E3.83.83.E3.83.A9
[11]ボンドカー、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%BC
[12]1973 Aston Martin V8、Auto Car World、
http://autocarworld.com/1973-aston-martin-v8-autocarworld.html
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